疑問



とある日の第二土曜日の昼……。


「ふああ……。」
大あくびをしながらソファーに座っているコナン。
彼は、小学校が第二土曜日で休校なので、阿笠博士の研究所に来ていたのだ。
目的は勿論、APTX4869の解毒剤の状況を知る為である。
「あらあら、退屈そうね、工藤君。」
「まーな。」
「やっぱし事件が無いと、生活に今一つ張りが出て来ない様ね。」
「ほっといてくれ。で、そーゆーお前はどーなんだ、灰原?」
「相変わらずよ。解毒剤への道のりはまだまだ遠いわね。」
「だろーなー。」
「けど、下手に焦って、不完全な物作るよりも、地道に着々と最終目的に近付いた方が遥かに絶大な効果を生むんじゃなくて?」
「まあ、確かにな。」
「いわゆる『急がば回れ』っちゅーやっちゃな。」
「そーそー。『急がば回れ』って……い゛い゛っ!?はっ、服部!?」
「まあ、服部君!?」
「よー、こんちは、お二人さん。」
なんとコナンの隣に、いつのまにやら平次が!
「オメー、何しに来たんだ、一体?」
「決まっとるやんか。お前に会いに来たんや。」
「俺は別にテメーに会いたいとは思ってねーけどな。」
「まあ、そないな風に言うこたないやんか。」
「けど、どうしてここに工藤君がいるってわかったの?」
「さっき和葉と毛利探偵事務所に来た時、蘭姉ちゃんが言うてたんや。『コナン君なら阿笠博士の所に行った。』ってな。」
「で、和葉さんはどうしたんだ、オメー?」
「アイツなら蘭姉ちゃんと色々べちゃくちゃと話しまくっとんねん。」
「さては二人に相手にされないから、ここに来たって訳ね。」
「まあ、それもあるわな。」
「ハハハ、気の毒な奴。」
「まあ、そないな事よりも……。」
と、平次は改めてソファーに座りなおした。
「オレ、ちょっと疑問に思うとる事があってな、それで二人に聞きたいんや。」
「疑問?俺達に?」
「まあ、何かしら?」
「それはな、何で工藤が蘭姉ちゃんに自分の正体を隠すかっちゅー事や。」
「え?」
(ドキッ!)
ごく一瞬驚く哀。
「決まってるじゃねーか。もしオレの正体が蘭にバレたら、その時点でアイツは黒づくめの連中のターゲットの一人になっちまう。それだけは何としても避けねーと。」
「工藤君の言う通りよ。奴等は自分達の秘密を守る為だったら、当事者は勿論の事、その関係者を抹殺する事を是としてるのよ。それはあのピスコの事件を見ればわかるでしょ。
(コミックス第24巻FILE7〜11と、アニメ『黒の組織との再会』を
参照の事。)」
「そう。だからこそ、あの帝丹高校の学園祭で大芝居を打って、蘭の中にあった『新一=コナン』の考えをリセットさせたんだ。でもそれで、えれー苦労したけどな。」
「ああ、そうやったな。」
と、当時を思い出す平次。
「だから今は、蘭さんに秘密を明かすわけにはいかないのよ。少なくとも組織を消滅させるまでは。」
「なるほど…………。けど、ホンマに隠したままでええんやろか?」
「え?」
「な、何をいうの、服部君?」
「だって考えてもみいや。その黒の組織が追っとるんは、あくまでも『工藤新一』であって『江戸川コナン』とちゃうやろ?」
「あ、そう言えば……。」
「……。」
やや緊張を増してきた哀。
「しかも工藤はあほトキシンなんとか……。」
「APTX4869だ。」
「そうそう。その毒薬で死んだっつー事になっとると灰原の姉ちゃんが言ってたって、お前オレに言うてたやんか。」
「工藤君、そんな事まで教えたの!?」
と、突然コナンに詰め寄る哀。
「わわっ、な、何だよ、灰原!?」
「まーまー、落ち着きいや、姉ちゃん。」
と哀を宥める平次。
「ハア……、全く工藤君たら……。」
「いや、済まねえ、灰原。でもこいつ、これでも割と信用がおける奴なんだぜ。」
「そうやで、姉ちゃん。オレは工藤と違うて、口はかなり堅い方やからな。」
「おい……。」
「なるほどね。でも、工藤君みたいになんか迂闊な所がありそうだけど。」
「あ、あのな……。」
「なっ、なんつー事言うねや、姉ちゃん!?オレは工藤の様な迂闊モンやなーい!!」
「は?誰が迂闊モンだって、誰が!?」
「お前以外誰がおんねや?」
「おい……。あっ、そうだ、わき道はそれくらいにして、本題に戻らねーと。」
「あっ、そうやったな。で、『工藤新一』は毒薬で死んだ事になっとって、今この世にはおらんっちゅー事になっとるんやな。」
「ああ、そうだけど?」
「つー事は、オレ等がおるこの世界、この空間、そしてこの時の流れの中にも『工藤新一』はおらんわけや。」
「……何が言いたい、服部?」
「だからや、『工藤新一』はホンマに現実にはおらんのやから、別に蘭姉ちゃんに秘密バラ……。」
「やめて!」
と、激しい口調で平次の言葉を遮る哀。
「は、灰原!?」
「ね、姉ちゃん!?」
「あなたは連中を甘く見すぎているのよ、服部君。あいつ等は考えられる限りのあらゆる手を使ってでも自分達の秘密を守ろうとする連中なのよ。その為に私は一番大切なものを失って……。」
「灰原……。」
「姉ちゃん……。」
コナンはそれが、哀の姉・明美を指している事に気付いた。
一方の平次は、その雰囲気から、彼女が自分にとって最も大切な人を失った事を察知した。
「だから服部君…………私、工藤君には私と同じ様な目にあってほしくないから……ね?」
と、平次に訴えかける様に見つめる哀。
「灰原……。」
「…………確かに姉ちゃんの言う通りやわ。すまんかったな、ホンマ。」
と、哀に謝る平次。
「ホント、そう言われて見ればそうだよな。だったらこっちも、考えられる限りの手段使ってでも蘭を守ってやんねーと。だからアイツにはまだ俺の秘密は打ち明けらんねーな。」
「……ありがとう、工藤君、服部君。それに気付いてくれて嬉しいわ……。」
「いやいや、それほどでも……。」
「おい……。」
と、照れる平次を見て呆れるコナン。
と、そこへ、

ピンポーン。

「おっ、誰か来た様やな。」
「俺が出よう。はーい。」
と、小学生口調で玄関に応対に出向くコナン。
「……あいつホンマに演技派やな。」
「やはり血は争えないのかしら。」
「かもしれへんな。」

ガチャッ。

「こんにちは、コナン君、哀ちゃん。」
「あっ、蘭姉ちゃん。」
「こんにちは、蘭さん。」
「アタシもおるでー。」
「かっ、和葉!?」
蘭と一緒にやって来た和葉に驚く平次。
「なっ、何しに来たんや、和葉!?」
「決まっとるやん。アンタとコナン君を迎えに来たんや。」
「は?オレを?」
「私達ね、これからお台場に行こうと思ってるの。それでコナン君や服部君も一緒にどうかって。」
「うん、いいよ。」
「そんならオレもええで。」
「じゃあ、今日はこれでお別れね、江戸川君。」
(むむっ、灰原の姉ちゃん、工藤と一緒で、結構切り替わりが早いやんか。)
と、哀の演技に舌を巻く平次。
「ねえ、哀ちゃんも一緒にどう?」
「えっ、いや、私は……。」
「蘭ちゃん、この娘は?」
「コナン君と同じクラスの子で灰原哀ちゃんって言うの。」
「へー、そうなんか。アタシ、遠山和葉ゆーねん。よろしくね。」
「私、灰原哀。よろしくね。」
と、握手を交わす哀と和葉。
「なあ、哀ちゃん。蘭ちゃんもああ言ってる事やし、アタシ達と一緒にどや?」
「オレは別にかまへんで。なあ、ボウズ。」
「うん、僕もいいよ。」
「……そう、じゃあ、江戸川君がそう言うなら……。」
「これで決まりやね、蘭ちゃん。」
「そうね。それじゃあ行きましょうか。」
と、一行はお台場へと向かって行った。


  ☆☆☆


東京都港区お台場……。


「なあ、灰原の姉ちゃん。」
「言わなくてもわかるわ。何故私が服部君を止めたかと言う事でしょ?」
「そうや。」
と、海を見ながら話をする哀と平次。
コナンと蘭、和葉は、それぞれ買い物に出かけていて、二人は言わばお留守番と言った所だった。
「私ね、服部君が思ってる通り、例え工藤君が蘭さんに真相を話したとしても、まず他に漏れる心配なんて無いって思ってるの。大体常識的に考えて見ても、工藤新一と江戸川コナンが同一人物だって事信じる人なんて、まずいないし。」
「そらそやな。」
「でももし、蘭さんが真相を知ったら、あの人の事だから、絶対に自分から危険に飛び込む事はまず間違い無いわ。工藤君を守る為にそれこそ命懸けで。」
「ああ、そら大いにありうるわな。」
「もしそうなったら、工藤君も蘭さんを守る事に集中して、それこそ私の事なんて…………。」
と言ったきり、言葉を詰まらす哀。
「……姉ちゃん?」
と、哀に語り掛ける平次。が、
「ハッ!?」
彼は、哀が何処と無く辛そうな表情をしている事に気がついた。
(そっか……、姉ちゃんひょっとして工藤の事……、だから……。)
平次は、彼女の心の内の秘めたる思いを感じ取った。
「……すまんかったな、姉ちゃん。」
「え……?」
「オレ、姉ちゃんの譲れない願いを危うく踏み躙るトコやったわ。」
「服部君……?」
「オレ今まで、蘭姉ちゃんを待たせっぱなしにするんは良くない思うて、思い切って真相を話したらどやと工藤にハッパかける気でおったんやが、もう一つの裏事情知ってから、どーもそんな気が無くなってもうてな……。」
「……。」
「まあオレも蘭姉ちゃんとの付き合い上、あんまり姉ちゃんの応援はでけへんけど、頑張るんやで……。」
「……有り難う、服部君……。」
と、優しい目で平次を見上げる哀。
「ドキッ!そっ、そないな目で見んといてえな、姉ちゃん!」
「クスッ、服部君たら……。」
ドキドキしている平次を見て思わずくすくすと笑う哀。
と、そこへ、
「おーい、灰原ーっ、こっち来いよーっ。」
「平次ーっ、早よ来いやー。」
「あっ、チョイ待ちいや!」
「今行くわよーっ。」
コナン達の呼びかけに、駆け出す平次と哀。




空は透き通るくらいに晴れ渡っていた……。



FIN…….





会長の後書き

このお話は、さるお方の誕生日プレゼントとして私が送ったまま忘れていた物を、私がメール整理をしていた際に発掘してUPした物にございます。
この平次の疑問は、彼に限らず、私を含めたコナンファンの方なら一度は疑問に思った事なのですが、それに対する哀ちゃんの本音も織り込んでみましたが、その結果、平哀モノの駄文になってしまいました。(爆)


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