おすそ分け



By東海帝皇 



とある秋の土曜日……。


「ふあ〜っ。」

と下校途中に大あくびをする新一。

「新一、あんたまた徹夜で推理小説読んでたでしょ?」
「やっぱわかるか?」

と新一は眠い目をこすりながら蘭に答える。

「当たり前でしょ?いい、今日は家に着いたら少し昼寝しなさい。そうすれば少しはリフレッシュできるから。」
「ああ、そうするよ。但し、蘭の膝枕の上でな。」
「な゛っ、何言ってんのよ、あんたは!?」

と顔を赤らめる蘭。

「だって蘭の膝枕の上なら安心して寝れそーだからよ。」
「もーっ、新一ったらあ。(//////)」

と更に顔を赤らめる蘭。


とまあ、そうこうしている内に二人が工藤邸に着いた時、

「あらお帰りなさい、工藤君、蘭さん。」

と志保が門前で二人を出迎えた。
「あっ、宮野。」

「あら、志保さん。」
「ねえ、工藤君。」
「ん?」
「あなたにお届け物が来てるわよ。」
「お届け物?」
「そ。あなたん家留守だったから、博士の所で預かってるのよ。よかったら引き取りに来てくれないかしら?」
「ああ、いいけど。」

と三人は阿笠博士の家に向かった。


  ☆☆☆


「さあ、これが工藤君へのお届け物よ。」
「「…………。」」

と、志保が指し示した新一への届け物をみて呆気に取られる新一と蘭。
何故ならその届け物と言うのが、縦20cm、横30cm、奥行き50cmのダンボールの箱に入った韓国産マツタケが15箱分と言う代物だったからだ。

「しかし、こんなにマツタケが送られて来るとはのう。なあ、新一。君は商社マンの知り合いでもおるのか?」
「商社マン?」
「輸入物のマツタケをまず取り扱うのは商社じゃからな。」
「そう言えばこの箱、角紅物産って書いてあるわね。」
「角紅物産!?」
「おや、何か心当たりでもあるのか?」
「ああ。以前そこの社長の命が狙われた事件があってな、俺と服部が犯人を見つけ出して、社長に凄く感謝された事があったんだ。」
「で、そのお礼がこれってワケね。」

と志保は再びマツタケの箱を見た。

「けど、こんなにいっぱいすぐには食べきれないわね。」
「つーか、早い内に片付けねーと腐っちまうぞ。」
「ああ、そうだな……って、なっ、か、快斗!?」
「よー、こんちわー★」
「こんにちわー♪」
「まあ、青子ちゃん。」

と、何時の間にやら快斗と青子の姿が。

「オメー、何でここにいんだ?」
「いやな、青子が蘭ちゃんトコに遊びに行くっつーから、俺もついて来たのさ。」
「オメーは余計だって……。」
「けど、私達がここにいるってよくわかったわね?」
「だって蘭ちゃん、土曜の昼は何の用もない限り、新一君の家に必ず遊びに行くって、以前青子に言ってたでしょ?」
「んで、オメーん家に行ったら留守だったから、もしかしたらと思ってここに来たんだ。」
「あっそ……。」

とジト目の新一。

「けど……。」

と青子もマツタケの箱を見た。

「こんなにいっぱいのマツタケの箱、どーしよーか?」
「決まってんじゃねーか。よっと。」

と快斗は箱に手を載せ、

「まず一つは俺が処分してやるぜ。」

とマツタケ入りの箱を抱えた。

「……オメー随分ふてぶてしいんだな……。」

と呆れる新一。

「まあ、いーじゃねーか別に。全部食べ終わらない内に腐っちまうよかずっと良いだろ?」
「まあ、確かにそーだけどな……。」
「じゃあそれなら、青子ちゃんにも一箱あげたら?」
「えっ、いいの?」
「良いでしょ、新一?」
「ああ、構わないよ。」
「やったあ!」

大喜びの青子。

「おいおい、俺ん時とは随分態度が違うな。」
「当たりめーだ。青子ちゃんはオメーと違って図々しくはねーからな。」
「ほっといてくれ。」

「あ、そうだ。よかったら志保さんや博士にもおすそ分けしたら?」
「ああ、そうだな。」
「えっ、いいのか、新一。」
「だって快斗や青子ちゃんにもあげてるのに、博士にあげないなんて不公平だろ?」
「いやあ、すまんなあ、新一。」
「ありがとう、工藤君、蘭さん。」
「いえいえ。」

「で、まずは3つ片付いて、残りは12箱か。」
「俺んトコが一つもらって、あと11箱。」
「蘭ちゃんトコは?」
「あっ、そうだ。なあ、蘭。よかったら2箱持ってってくんねーか?」
「えっ、いいの、そんなに?」
「ああ、一つはオッちゃんに、もう一つはおばさんにな。」
「うん、ありがとう、新一♪」

喜ぶ蘭。

「で、残りは9箱か。」
「あと誰にあげようか、新一君?」
「そーだなー、まずは歩美ちゃんと元太と光彦んトコだろ?」
「これで3箱消えたわね。」
「んで、服部んトコと和葉ちゃんトコにも送んねーとな。」
「ここでさらに2箱消えて後4箱ね。」
「園子ちゃんトコは?」
「アイツんトコは国産のマツタケが来るから、別にいいんじゃないかな。」
「あっ、そっか。」
「白馬んトコも国産のが来る筈だし、しかもアイツ今ロンドンに行ってるから、別にいーだろ。」
「そうだな。」
「なら紅子ちゃんや恵子には?」
「ああ、あいつ等んトコにも送ってもいいかもな。どうだ、新一?」
「俺は別に構わないぜ。」
「これで後2箱ね。」
「それと後、新出先生のトコは?」
「あの人今、青森にいるから、そこで地元産のが手に入るから、別にいいんじゃねーかな?」
「あ、それもそうね。」
「そうそう。(つったく、誰があのヤローになんかやれるかよ!)」

と心の中で毒づく新一。

「あっ、そうそう。ねえ、目暮警部や高木刑事達には?」
「あ、そうだ。肝心なのを忘れてたな。」
「おいおい。」
「じゃあ、あと2箱は捜査一課に差し入れよう。で、悪ぃけど博士、これ本庁に持ってくんで、ワーゲンで連れてってくんねーか。」
「おお、良いぞ。せっかくマツタケを貰ったんじゃから、これくらいの事はせんとのう。」
「じゃあ歩美ちゃんと元太君の所は私が行くわ。」
「円谷君の所は私が。」
「紅子んトコは俺が行こう。」
「青子は恵子んトコへ。」
「じゃあ早速決まった所で届けに行こうか。」
「「「「「OK!」」」」」

と、新一達はマツタケのおすそ分けに出向いて行った。



  ☆☆☆



それから7分後、小嶋酒店にて……。


「え゛っ、ホ、ホントーにいーのか、こんなにマツタケ貰っちゃって!?」

食いしん坊の元太も、蘭から箱いっぱいに入ったマツタケを貰って、驚きを隠せないようだ。

「ええ、いいのよ。」
「うっわー、サンキュー♪」

と大喜びの元太。
蘭もその様子に満足そうだ。

「さてと、次は歩美ちゃんね。」

と蘭は次の目的地へと自転車を走らせた。



  ☆☆☆



その頃、志保は……。


「ほ、ほ、本当に良いんですか、志保さん……!?」

と志保からマツタケの箱を受け取って、身体を震わす光彦。

「ええ。」
「うっわー、やったあ!!」

と、こちらも大喜びの光彦。
もっとも彼の場合、マツタケ云々よりも志保から物を受け取った事自体を喜んでいるようだ。
純情と言うか、年の割にはマセていると言うか。

「じゃあ、これで失礼するわね。」

と志保が去ろうとした時、

「あっ、あの……。」

と光彦が彼女を引き止めた。

「何、円谷君?」
「もし良かったら、いずれあなたが作ったマツタケ料理を食べさせてくれませんか?」

と、大胆なお願いをする光彦。
これに対して、

「ええ、いいわよ。但し、あまり期待はしないでね。」

と志保は笑顔で確約した。

「や、やったあ……。(プシューー。)」

と光彦は、嬉しさのあまり思考がショートしてしまった。
これを見て志保は、

「くすっ、円谷君たら♪」

と思わず微笑んだ。
志保も意外と罪な女(?)である。



  ☆☆☆



同じ頃、青子は……。



「うっわー、ホント済まないわね、青子★」
「いやいや、礼なら新一君に言ってよ。」

と思わず照れる青子。

「うんうん、わかってるわよ。んで、このマツタケ、アンタも貰ったのよね。」
「うん。」
「という事は、快斗君に青子手製のマツタケ料理を振舞ってあげるのかな〜?」
「え゛っ、そ、そ、そんな事は……。(//////)」

と青子は恵子に突っ込まれ、顔がトマトみたいになってしまった。
これを見た恵子は呆れたような顔つきで思わず呟いた。

「……ホントに大丈夫なのかしらねえ、この二人……。」



  ☆☆☆



更にこの後、蘭は……。



「え゛っ、新一さんがこれを私に!?」

と先の二人と同様驚く歩美。

「ええ。新一一人じゃとても食べきれないから、歩美ちゃんにも是非、だって。」
「あ、ありがとう、蘭お姉さん!」

と礼をする歩美。
そして、

「ああ、新一さんが私にマツタケをくれるなんて、とっても幸せ……♪」

と嬉しさのあまり悦に入ってしまった。
これを見て蘭はジト目でポツリと一言。

「……何か複雑な気持ち……。」



  ☆☆☆



そして快斗は……。



「あら、黒羽君が私に物をくれるなんて、とうとう私のモノになる気になったのね。」
「オメー、そう言う下らねー事ゆーんなら、これやんねーぞ。」
「うふっ、冗談よ、冗談。」
「オメーがゆーと何か冗談に聞こえねーんだよな……。」
「ま、随分失礼な事を言うのね。」
「オメーも人の事言えねーだろ?」

とジト目で反論する快斗。

「はいはい。まあ、それはそれとして、工藤君に宜しく言っといてね。」
「ああ、ちゃんと伝えとくよ。じゃあな。」

と快斗は紅子の屋敷を後にした。

「……。」

黙って快斗を見送った紅子はポツリと一言。

「本当にありがとう、工藤君、そして快斗……。」



  ☆☆☆



更に同じ頃、警視庁刑事部捜査一課では……。



「え゛っ、ホントにいいのかい、工藤君!?」

新一から捜査一課へのマツタケの差し入れを受けて驚いた高木刑事は信じられないといった顔で新一に聞き返した。

「ええ、いいですよ。どうせ俺だけじゃとても食い切れないし。」
「いやあ、本当にありがとう、工藤君!」
「すまんなあ、工藤君。」

と高木刑事と目暮警部は心から新一に感謝した。
その時、

(ああ、マツタケか……。もしできる事なら……。)

と高木刑事は頭の中で何かを妄想しだした。




「はい、お待たせ、あなた♪」

と高木刑事にマツタケご飯をよそうエプロン姿の佐藤刑事。

「うわあ、旨そうだなあ。では、頂きまーす★」

と、箸をつける高木刑事。

「ねえ、どうかしら?」
「うん、とってもおいしいよ♪」
「まあ、よかった!喜んでもらえて★」
「いやあ、君の作る料理は全ておいしいよ。」
「まあ、どうもありがとう♪ちゅっ★」

と嬉しさのあまり佐藤刑事は高木刑事のほっぺにキスをした。




「でへ、でへへへへ……。」

と自らの妄想ににやける高木刑事。

「……何考えてんですかね、高木さん……。」
「さあ……。」

とジト目で呆れる千葉刑事と目暮警部。

「でも大体想像はつきますけどね……。」

と新一も呆れていた。


因みにこの後、佐藤警部補に配られた分のマツタケは、高木刑事が渡した。
だがその時に、またもや妄想でにやけた為に、佐藤刑事から変な目で見られたそうな。



  ☆☆☆



夕方、阿笠博士の研究所にて……。


「ふーっ、これで服部や和葉ちゃんに送る分を除いては全部配り終わったな。」
「おつかれさん、新一。」
「ご苦労様、工藤君。」

と寛いでいたその時、

ピンポーン。

「あら、誰かお客さんかしら?」

と志保が玄関へと向かった。

「はーっ、疲れた……。」
とため息をつく快斗。
「ま、快斗ったら結構だらしが無いわね。」
「ほっといてくれ。でも、人の手伝いをするのってホントーに気分いいよなあ。」
「もう、快斗ったら調子がいいんだから。」
「「「「ハハハハ……。」」」」

と大笑いする新一達。
するとそこへ、

「ねえ、工藤君。あなたに服部君からのお届け物が来てるわよ。」
「え、服部から?」
「そ。今隣は誰もいないでしょ?だからこっちに運んでもらうよう頼んでもいいかしら?」
「ああ、いいぜ。でも服部が俺に届け物とはな……。」

と新一は少し疑問に思った。



  ☆☆☆



「ハ、ハハハハハ……。」

と、阿笠博士の研究所に運び込まれた平次からの届け物に添えられた手紙を読んで笑いが引きつる新一。
そこには、


拝啓工藤新一様。

こないだ助けた角紅物産の社長さんから、お礼として栗を貰ったんや。
けど、俺等だけじゃ処理し切れんので、知り合いにもおすそ分けしたんやけど、それでもまだ余ったんで、よかったらこれ全部お前にやるわ。
もし一人で処理しきれんのやったら、蘭ねーちゃん達にも分けてくれや。
ほな宜しゅう。

服部平次


と書かれていた。
そして彼の前には、平次から送られた、縦20cm、横30cm、奥行き50cmのダンボールの箱に入った栗が10箱分積まれていた。

「はあ……。」

それを見て思わずため息をつく新一。

「どーしようか、新一?」
「決まってんだろ?こんだけの栗、とても食い切れる訳ねーから、明日もういっぺんおすそ分けに行かねーとな。とほほ……。」

と嘆く新一であった。

「なあ、新一。よかったら、この栗も持ってっていいか?」
「ああ、好きにしてくれ……。」
「「ラッキー★」」

と大喜びの快斗と青子。

「ただし、オメー明日もこれを紅子さんの所に届けろよ。」
「んげっ、そりゃねーだろ、オメー。こんな重いモンをあいつんトコまで届けんのか?」
「まあ、そう言う事だ。」
「ハア……、何かやだなあ……。」
「あっそ。じゃあ、これはテメーにはやんねー。」
「だーっ、わかったよ。やりゃあいいんだろ、やりゃあ!?」
「「「フフフ……♪」」」



翌日、みんなは再び栗を知り合い達におすそ分けに行ったそうな。

ホントーにご苦労様★


FIN…….



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