少女と聖なる矢



美國島――――。

そこは、福井県の若狭湾沖に浮かぶ小さな島。
若狭国に古くから伝わる人魚と八百比丘尼の伝説を色濃く伝えている所である。

その島にある美國神社で年に一度行われるのが、「儒艮祭り」。神社の命様より、有資格者に不老不死の力が秘められた「儒艮の矢」が与えられるという祭りである。
が、その祭りに於いて、悲劇が起こった。
そして悲しき結末。

この忌まわしき事件から一夜が明けて―――。


   ☆☆☆


「ふわあ〜っ。」
「あっ、和葉ちゃん。」
「ん……、蘭ちゃん……?」
「よく眠れた?」
「う、うん……。」
「和葉姉ちゃん、凄く大変だったんだね。平次兄ちゃんから話聞いたよ。」
「あっ、コナン君。」
「全く、ホンマに大変やったんやで。和葉の重い身体を引き上げんのに、えろう苦労したんや。なあ、お前少しはダイエットせえ。」
「何言うてんねや、平次!アタシの余分な体重はこことここの為のモンや!それ減らしたら、一発でアウトになってまうやんか!」
と言いながら和葉は、自分の胸と腰を軽く叩いた。
「……お前、まだ夢見とんかいな……。」

ガシッ!!

「今何か変な事言うてへんかったか……?」
「ぐ、ぐ、ぐるじ〜〜っ!」
和葉、平次を一気に締め上げる。

「どうやら大丈夫のようね、コナン君。」
「ハハハ……、そのようだね……。」
見るからにあきれ返ったような表情で平次と和葉を見る二人であった……。


   ☆☆☆


「しかし、随分荒れとるねえ、日本海。」
「本当ねえ……。」

和葉と蘭は、美國島の砂浜にいた。帰りの船が荒波で出港出来ない為、ここで時間つぶしをしに来たのである。

「……なあ、蘭ちゃん。」
「ん?」
「こんな事言うのも何やけどな、やっぱ人って、限りある人生を目いっぱい有意義に生きるんがいっちゃんええんやろな。」
「和葉ちゃん……。」
「アタシ、今度の事件でそれがハッキリ解ったんや。不老不死なんて、所詮は幻。その幻に人生を狂わされる事程バカバカしい事はあらへんからなあ。」
「うん、そうだね……。」

二人はじっと日本海の荒波を見つめていた。互いに言葉を交わさず、ただひたすら……。

と、その時、

「ん?」
突然、和葉が何かに気付いた。
「どうしたの、和葉ちゃん?」
「あれ……。」
「え?」
「そんな……、まさか……!?」
と言うや和葉は、波打ち際へと駆け出した。
「ちょ、ちょっと、和葉ちゃん!?」
蘭も慌てて後を追う。

「これ、どうして……。」
和葉は、波打ち際で拾った棒のような物をじっと見つめていた。
「何なの、それは?」
「儒艮の矢……。」
「え?」
「間違いあらへん!これ、あん時海に落ちた儒艮の矢や!」
「な……!?でも、どうして和葉ちゃんのだと?」
「ほら、これ見て。すっごく新しいモンやで。しかも、矢じりのトコに血が。」
「あっ、ホントだ。」
儒艮の矢を見て思わず目を見開いた蘭。
「けど、何でこの矢がアタシん手元に戻ったんやろ……?」
さすがの和葉も、疑問を感じざるを得ないようだ。
「やはり、人魚の思し召しかな。」
「え?」
「和葉ちゃん、自分の命を捨ててまで服部君を助けようとしたでしょ?その心に感じ入った人魚が和葉ちゃんに真の儒艮の矢を与えたんだと私は思うけどな。」
「真の儒艮の矢……。」
和葉は、手に持っている矢をじっと見つめた。
「……そやな。きっとそうに違いあらへん。有難う、人魚さ……。」
と和葉が日本海の方を向いた時、

バシャアッ……。

「「え?」」

ドボォーン……。

「……何や、今の……。」
「さあ……。」
二人は何かが海からジャンプしたのを見た。
「……もしかして、人魚かな……。」
「……そんな事別にどうだってええんとちゃうかな。謎は謎のままの方がええっちゅう話もあるし。」
「……そうだね。」

と、そこへ、
「蘭姉ちゃーん。」
「あっ、コナン君。」
「おーい、和葉ーっ、船が出るから早よ来ーい。」
「ああ、わかったでーっ。さあ、行こか、蘭ちゃん。」
「うん!」
二人はコナンと平次の許へと駆け出した。


恋人達に人魚の祝福があらん事を……。


Fin……。


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