ソフトクリームパフェ



「う゛〜っ、暑い〜っ。」

とある夏の日の杯戸町を自転車で行く少女、鈴木園子。

「つったく、何が悲しゅーてこの暑い中、買い物に行かなきゃなんないのよ〜っ。」

彼女は姉の綾子に頼まれて、杯戸町の超巨大外資系スーパー、ガブリエルマートに行く途中なのだ。
園子は最初断ったのだが、姉の綾子の泣き落とし(笑)に屈し、炎天下の中、買い物に行かされるハメになったのだ。
ああ、無常。

「く〜っ、これで傍らに男でもいれば、全然違ったのにな〜。」

京極真さんと言う、園子には超もったいない程の彼氏がいながら、この女は……。

「あ゛〜っ、はよ着かないかしらね〜。そーすればスーパーの中でクールダウンできるのに……。」
と、園子がややヘロヘロになって来た時、

ドンッッ!!

「きゃっ!」
「うわっっ!!」

ドサッッ!!

何と、園子の自転車が別の方向から来た自転車とぶつかってしまった。
園子はその衝撃で自転車から投げ出され、尻餅をついてしまう。

「いたた……。」
「だ、大丈夫ですか!?」
と、相手が園子のトコに駆け寄ってきた時、
「何が大丈夫ですかよっっ!!?アンタ何処見てチャリ運転してんのよっっ!!?」
怒った園子は、相手に対して怒鳴りまくった。
「……あれ、そ、園子さん?」
「あっ、ま、真さん……?」


  ☆☆☆


「ホントーに申し訳ありません、園子さん!」
と、血相変えて園子に詫びまくる真。
「いやいや、そんな別に気にしなくていーのよ、真さん。私の方こそちょっとよそ見してたから。」
「でも……。」
自転車に再び乗りつつ、必死に詫びまくる真に対し、園子はそっと彼を宥めていた。
さっきの態度とはえらい変わり様である。

「ねえ、それよりも真さん。」
「はい?」
「一体何処へ行くつもりだったの?」
「いえ、ちょっとガブリエルマートに買い物に……。」
「まあ、偶然ね。実は私もそこに行く所だったの。」
「えっ、そうだったんですか。いやあ、本当に奇遇ですねえ。」


  ☆☆☆


杯戸町のガブリエルマート内……。


「はい、どうぞ、真さん。」
「有り難うございます、園子さん。」

真がいるテーブルに巨大なソフトクリームパフェを置く園子。
ガブリエルマートでの買い物を済ませた二人は、そこのカフェテリアラウンジで休息
を取っていた。

「しかし、このソフトクリーム、かなりデカイですねえ……。」
と、全高20センチはあろうかと思われる巨大なソフトクリーム部分をじっと見つめる真。
「それがここの売りなのよ。」
「ほお……。」
「ささ、早速頂きましょ。」
と、園子が金属製のスプーンでソフトクリームを食べようとした時、
「あっ、ちょっと待って下さい。」
「え?」
「金属製のスプーンはちょっとまずいですよ。」
「えっ、どうしてなの?」
「金属製のスプーンは人体熱をソフトクリームにじかに伝えてしまうから、すぐに溶けてしまうんですよ。」
「え゛っ!そうなの!?」
「はい。固いアイスクリームの場合はそれでいいんですけどね。それにスプーンだと、力がソフトクリームの片側だけに加わって、これほどのサイズになると、下手すると片側に倒れ落ちてしまう事も……。」
「うーん……、なるほどねえ……。ソフトクリームだけだったら、口でじかに食べてしまえはいいけど、パフェじゃねえ……。」
と、悩む園子。が、
「ちょっと待って下さい。」
と言うや真は、カフェテリア内の食器置き場へと向かった。
「?」


「お待たせしました。ささ、これをどうぞ。」
と、真は園子に、食器置き場から持って来たある物を提示した。
「へ?」
その物を見た園子は目が一瞬点になる。
「……あの……真さん……。」
「はい?」
「これ、何?」
ジト目で真が提示した物を指さす園子。
「見ての通りの割り箸ですが。」
「……あのね、真さん。」
「はい?」
「一体何処の世界に割り箸でソフトクリームを食べる人なんているの!?」
「それなんですけどね、園子さん。昨日私、テレビのニュースで、実際に多くの人が割り箸で、このソフトパフェよりも大きなソフトクリームを食べている映像を見たんですよ。」
「え゛っ!?う、嘘でしょ!?」
と、信じられない様な顔で真に尋ねる園子。
「いえ、本当ですって。花巻市での実話なんです。」
「花巻市って、岩手県の花巻市?」
「はい。」
「う〜ん……、真さんが言うなら、まず実話には間違い無いけど、でも……。」
「まあ一度、騙されたと思って、やってみてくださいよ、私の様に。」
と言うや真は、割り箸を手に取り、パフェの頂点のサクランボもろとも、箸で挟みとって、そのまま口に運んだ。
「うわっ、ホントにやってる!」
「ささ、園子さんも。」
「う、うん……。」
と、真に勧められるまま園子も割り箸を取り、パフェを挟み取って、口の中に運んだ。
「…………あら、これって結構いけるかも。」
「そうでしょ、園子さん。木の割り箸だと、両方から力が加わりますから、パフェがどっちかに倒れる様な心配をせずにすむでしょ。」
「うむ、成る程。」
と、箸でパフェを食べながら相槌を打つ園子。
「しかもこれ、木で出来てますから、人体熱がソフトクリーム部分に伝わらないですし。」
「うんうん、確かにそうよね。」
と言いつつ、真と園子は箸でパフェを次々とついばんでいった。


パフェを食いながら園子は、
(真さん、私の為にすっごく有用なネタを教えてくれたのね。ホントに有り難う、真さん……。)
と、心の中で真に深く感謝した。
で、真は真で、
(園子さん、私の話にきっちりと耳を傾け、そして聞き入れてくれた。ああ、よかっ
たなあ〜。)
と、パフェを食べながら、心の中で感動していた。


巨大パフェを箸でついばむ二人は、とても幸せそうな顔であった……。






その後、割り箸で巨大パフェを食べる行為は瞬く間にガブリエルマートの買い物客の間に広まり、それを最初に広めたカップルの話が伝説として、日本中のガブリエルマートに実しやかに伝えられたそうな……。


Fin…….


 
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