Special White Day



とある3月14日の昼下がり……。



「う〜ん、どうしよう……。」

と何事か悩みながら、昼下がりの米花町界隈を歩く一人の色黒の青年。
彼の名は京極真。
『蹴撃の貴公子』の異名をとる杯土高校の生徒である。

彼は2月に一度日本に戻ってきて、再び留学先のアメリカに行ったのだが、あの2月の雪の日の事件の後に(コミックス第33巻FILE3〜6とアニメ「バレンタインの真実」を参照の事。)、ホワイトデーに再び園子と会う約束を交わした為、また日本に戻ってきたのだ。
しかし……、


「今日はホワイトデーだと言うのに、園子さんへのお返しがなんにも準備できてない……ハア……。」

と嘆かわしそうにため息をつく真。

「……園子さんは私に会えた事が何よりのお返しだと言ってくれたけど、それでは私の気持ちが……フウ……。」

と真はブルーな気持ちで更に歩き続ける。
どうやら彼の売りである誠実さがここに来て裏目に出ているようだ。
ああ、無常。

と、その時、

ドンッ!

「おっと。」
「うわあっ!」

真は足元に何か子供がぶつかって来たような感じを受けた。

「だっ、大丈夫ですか!?」

と足もとを見る真。

「……あれ、君は……?」
「きょ、京極さん……?」

真がぶつかった相手はなんとコナンであった。

「大丈夫でしたか、コナン君。」

コナンと同行してきた光彦が心配そうに近づく。

「ま、まあな。」
「つったく、ちゃんと前を見て歩かなきゃダメだろうか!」
「ハ、ハハハ……。」

と元太に怒られて、思わず苦笑いするコナン。
そこへ真が、

「……あの、コナン君。」
「ん、何?」
「そこにいるのはコナン君のお友達ですか?」

と尋ねた。

「うん、そうだよ。」
「おい、コナン。」
「ん?」
「この人、コナン君の知り合いですか?」
「ああ、そうだけど。」
「どうも初めまして。私、京極真と言います。」

と、年下の者に対しても礼儀正しく挨拶する真。

「えっ!?京極真さんだって!?」
「じゃあ、この人が園子さんを追いかけて、わざわざ猛吹雪の雪山を歩いていった人ですか!?」
「んでもって、殺人犯をたった一撃でやっつけたんだろ!?」
「ええ、まあ……。」

と、ややテレ気味に答える真。

「あっ、あの、僕、円谷光彦と言います。今後とも宜しくお願いします。」
「俺、小嶋元太って言うんだ。よろしくな。」
「こちらこそ宜しく。」
と挨拶を交わす三人。

「あっ、そうだ。君達もう学校は終わったんですか?」
「ええ。それでその帰りに、今からお菓子教室に行く所なんですよ。」
「お菓子教室?」
「うん。ホワイトデー用の手作りクッキー講習会があるんだよ。」

と、ポケットからパンフレットを出すコナン。

「ほら。」
「ほう、どれ、ちょっと見せてもらえませんか?」
「うん、いいよ。」

とコナンが提示したパンフレットを受け取る真。

「ほう、……ふむふむ……。」

と、真がパンフレットに一通り目を通した瞬間、

(ハッ!そうだ、これだっ!!!)

と、頭の中で何かが閃いた。

「どしたの、京極さん?」
「あの、コナン君。君達に一つお願いがあるんですけど、いいですか?」
「「「?」」」


  ☆☆☆


「へえ、京極さん戻ってきてるんだ。」
「そーなのよ、蘭。あのバレンタインデーの時の約束を守って、わざわざ私に会いに来てくれたのよ〜★」

と上機嫌の園子と共に米花公園のベンチに座っている蘭。
彼女達は気分転換にと、下校途中にここに立ち寄っていたのだ。

「ねえ、園子。」
「ん?」
「今日は確かホワイトデーだったわよね。」
「ええ、そうだけど?」
「京極さん、園子にどんなバレンタインデーのお返しするのかしら?」
「こらこら、蘭。アンタは別にそんな事を想像しなくてもいーの。私には、真さんが約束を守って会いに来てくれただけで、十分なお返しになってんだから、これ以上の事なんかとても望めないわ。」
「クスッ、確かにね。」

と微笑む蘭。
するとそこへ、

「蘭姉ちゃーん。」

と蘭を呼ぶ声が聞こえたので、彼女はその声のした方を向いた。

「あっ、コナン君。」
「こんにちわ、蘭さん、園子さん。」
「こんちわー。」
「よー、こんにちわ、ガキんちょの諸君。」
(ハハハ、悪かったな、ガキんちょで……。)

とピクつくコナン。

「ところでコナン君、あれもう終わったの?」
「うん。」
「あら、あれって何の事かしら?」
「僕達、手作りクッキーの講習会に行ってたんですよ。」

と答える光彦。

「講習会?」
「そうよ、園子。コナン君達ね、ホワイトデー用のクッキー作りに一日料理教室に行ってたの。」
「ほーっ。すると三人が手に持ってる紙袋の中身がそうなのね?」
「ああそうさ。こん中に俺達が作ったクッキーが入ってるんだ。」
「ふーん、なるほどね。まあ、手作りクッキーだなんて、昨今のガキんちょは随分粋な事すんじゃない。」
「ま、まあね……。(オメーにだけは言われたかねーよ、園子。)」

と心の中で更にピクつくコナン。


「あっ、そうだ。」
「ん、どうした、光彦?」
「僕ここで失礼させてもらいますよ。灰原さんや歩美ちゃんにもこのクッキーを早くプレゼントしたいですから。」
「あっ、そうだったな。俺もこれ渡してやらねーと。」
「それじゃあコナン君、また明日!」
「じゃあな、コナン!」
「おう、じゃーなー。」
「またねー。」

と言ってコナンと蘭は光彦と元太を見送った。

「んで、そのクッキーをあげる相手はやっぱり蘭なのかしら?」
「え゛っ、そっ、それはその、あの……。」

と園子に突っ込まれて、しどろもどろになるコナン。

「ちょ、ちょっと園子ったらあ。」
「まあ、いいじゃないの別に。」
(ちっともよくねーっつーの……、ハハハ……。)

とますますピクつくコナン。
と、そこへ、

「園子さん!」
「ん?」

と彼女は、自分を呼ぶ声が聞こえた方を向いた。

「こ、こんにちわ、園子さん。」
「まっ、真さん!?」
「今帰りですか?」
「ええ、そうよ。で、真さんは?」
「私はついさっきまで、そこにいますコナン君達と一緒にホワイトデー用の手作りクッキー講習会に行ってまして……。」
「えっ、真さんもそれに参加してたの!?」
「ハイ、私も園子さんに習って、手作りクッキーでお返しをとチャレンジしてみたんですけど、これ、よかったら受け取ってもらえませんか?」

と、園子に紙袋を差し出す真。

「これ、つい今しがた、私が作ったクッキーなんですが、果たして気に入ってもらえるかどうか……。」

とやや自信無さげな真。
それに対して園子は、

「あら、そんな事無いわよ。真さんが頑張って作ったものなら、きっとおいしいと思うわ。だから一つ食べてもいい?」
「ほ、本当にいいんですか?」
「うん。」
「じゃあこちらを。」

と、園子にクッキー入りの袋を渡す真。

「どれどれ……。」

園子は袋からクッキーを一枚取り出して、食べ始めた。

「…………。」

その様子を固唾を呑んで見守る真。
さすがに不安を隠せないでいるようだ。
そんな二人をコナンと蘭もじっと見守っていた。

そして……、

「…………おいしい!」
「えっ、ホントですか、園子さん!?」
「うんうん、これすっごくおいしいわ!」

と、真の手作りクッキーの味に驚嘆する園子。

「ああ、よかった。もしおいしくないって言われたら、私どうしようかと思ったんですが……。」
「ううん、そんな事ないわ。このクッキー、真さんの心がこめられているのがはっきりとわかるもの。」
「そ、そうですか……、それは光栄です……。」

と真は、嬉しさの余り顔がトマトのように真っ赤になっていた。
その様子を見た園子は、

「……真さん、本当に素敵なお返しをありがとう。今日は私にとって最高のホワイトデーだわ……。」
「園子さん……。」

と、互いをじっと見つめ合う真と園子。



「よかったね、蘭姉ちゃん。」
「そうね、コナン君。」

と、ラブラブな二人にご満悦のコナンと蘭。

「それじゃ、私達もそろそろ行きましょ。これ以上二人の邪魔しちゃ悪いし。」
「うん、そうだね。」

と、蘭はコナンの手を引いてその場を立ち去った。




「ねえ、真さん。」
「はっ、はい、何でしょう?」
「私、こんな素敵なクッキーを作ってくれた真さんにちょっとしたお礼をしたいんだけど、いいかしら?」
「えっ、そ、そんな、お礼なんて別にいいですって!そもそもこのクッキーはバレンタインのお礼として作ったんですから……。」
「まあ、いいからいいから。ちょっとだけ目をつぶって。」
「こ、こうですか……。」

と園子に言われた通り、目をつぶる真。
すると、

CHU…….

「!!!!!!?(……そっ、そっ、園子さん……!!!?)」

真は園子にいきなりキスをされて、面を食らった表情になった。
が、

「あ…………ありがとう、園子さん!」

ガバッッ!!!

(な゛な゛っ、まっ、真さん!!!!?)

真は感激の余り、園子を強く抱きしめた。
それに驚いて今度は園子が面食らったような顔になってしまった。
だか、すぐに園子も真を強く抱きしめた。
左手にクッキーの袋を持ちながら……。

「……真さん……。」
「園子さん……。」

二人は時が流れるのを忘れたかのようにずっと抱きしめあった……。




今日のこの日は、二人にとって、あのバレンタインデーと同様、決して忘れえぬ日となった。
そう、心に永久(とわ)に残るSpecial White Dayとして……。



Fin…….




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