WINTER SONG
―本庁の刑事恋物語 Christmas Edition―



By 東海帝皇


12月23日、警視庁……。


「ふわあ……。」
警視庁のラウンジで大あくびをする刑事部捜査一課の佐藤美和子警部補。
彼女はつい今しがたまで、強行3班の任務を張り詰めた緊迫感の中でこなしていた為、俗に言う所の仕事の後の軽い虚脱感に襲われていたのだ。
「明日はクリスマスイブか…………。果たして私に幸せを運んでくれるサンタさんはいるのかしら…………なんて、私如き女には、とんとカンケー無い事よねえ、ふう……。」
とため息をつく美和子。
警視庁の華として全男性警官の畏敬を一身に集めている彼女だが、あいも変わらずその自覚が絶無の様だ。
だが、
「……あっ、そうだ!彼なら……。」
と、突然何かの思いを巡らせ始めたその時、
「ねーえ、美和子ォ!」
「わわっ、なっ、何よ、由美!?」
美和子は、親友である交通部の宮本由美巡査に突然眼の前で話しかけられて、ドびっくり。
「なにボケーッとしてんのよ、アンタらしく無いわねえ。」
「ほっといてちょうだい。で、何の話なの?」
「あのね、私達交通部の面々で明日のイブの夜、クリスマスパーティーをする事にしたのよ。」
「クリスマスパーティー?」
「うん。それでね、もしイブ当日に高木君との用が無かったら、アンタと彼を一緒に誘おうと思うんだけど、どうかな?」
「なっ、何でそこで高木君が出てくるのよ!?」
「だって高木君、美和子専属でしょ。だからアンタにきっちりと断りを入れておかないとね。」
「専属ってね、アンタ……。」
「で、どうなの?」
「まあ、取り立ててこれといった用は……。」
「ふーん……、じゃあ、これで決まりね。」
「え゛っ!?そ、そんないきなり……。」
「あら、アンタ今高木君との用は無いって言ったばかりじゃない。」
「う゛……。(し、しまったあ〜〜〜っっ!!)」
と内心慌てふためく美和子。
そんな彼女の心の内を見透かしたかのように由美は、
「それじゃ後でしっかりと繋ぎ取らなきゃ。じゃねー♪」
と、交通部へと戻って行った。
「あっ、待ってよ、由美!?」
「るんるる〜ん★」
「…………。」
軽い足取りで交通部に向かう由美をただただ見送るだけの美和子。
「…………ふう。」
と、再びラウンジのソファーに腰を落とす。
そして……、

「…………あ゛ーーっっ、私のバカバカバカ〜〜〜っっ!!!何で『高木君と二人きりでパーティーをしようかと思ってる。』って堂々と言えないのよ〜〜〜〜っっっ!!!!」
と、己の勇気の無さを嘆く美和子だが、所詮は後の祭りである。
と、その時、
「あの……、佐藤刑事……?」
「ハッ!?」
と、突然誰かに呼ばれたのに気づいて振り向く彼女。
すると、
「な゛っ……、く、工藤君……!?」
「こ、こんにちわ……。」
そこには何故か新一の姿が。
「な、何故あなたがここに!?」
「いやあ、いま目暮警部からの依頼が済んだんで、帰る途中で……。」
「そ、そうなの……?」
「はい。で、それより今、高木刑事と二人きりで……。」
「ハッ!?(い、今の話……聞かれた!!!?)」
と、顔面蒼白の美和子。
「……あ、あの……。」

ポンッ。

「えっ?」
突然新一の肩に手を置く美和子。
「……工藤君。」
「はっ、はい!?」
「今の話……聞かなかった事にしてくれないかしら……?」
「ぎくっ!!?」
新一は美和子のただならぬ気配を瞬時に感じ取った。
「どうなの……?」
と美和子は、何やら生気が失せた様な声で再び新一に尋ねた。
「え、ええ、いいですよ。勿論誰にも口外しませんから。」
身の危険を感じ取った新一には、こうするより他に答えようが無かった。
「そう、じゃあお願いね★」
と美和子は、にこやかな笑顔で新一に言い、その場を後にした。
が、
「大丈夫かなあ、佐藤刑事。何か怪しげな歩き方してるぞ。」
と心配する新一。そして、
「おっと、俺もこうしちゃいられねえ!蘭と明日の打ち合わせしねえと!」
と、彼も急ぎ足でその場を後にした。


  ☆☆☆


一方その頃……。


「ふーっ、やっぱ冬は寒いなあ……。」
と、両手でビニールの手提げ袋を持ちながら杯土町界隈を歩く高木ワタル刑事。
「しかし一課のみんなも人使いが荒いなあ。米花警察署への用の帰りに杯土町のガブリエルマート特製のどら焼き買って来てくれだなんて……。」
そうぼやく彼の両手のビニールの手提げ袋には、どら焼きが満載されていた。
本来であれば、覆面パトカーに乗って米花警察署に行き、その帰りにガブリエルマートに立ち寄る所なのだが、複数の事件により、覆面パトカーが全車出払った為、電車と歩きで米花町と杯土町へいく羽目になったのだ。
ああ、無情。

「そういえば明日はクリスマスイブだっけ……。佐藤さんの事だから、いろんな方面からパーティーへの誘いが来てるんだろうなあ、きっと……。」
と、こちらも相変わらずの自信の無さを露呈していた。
しかし、
「ん?」
と、ふとある店の前で立ち止まるワタル。
「なんかこれ、すっごく綺麗だなあ……。」
ワタルは、ショーウィンドウ内に飾られている宝石を見て驚嘆していた。
そう、彼が立ち止まったのは、宝石店の前だったのだ。
「これ、佐藤さんにプレゼントしたら、きっと大喜びする事間違いないだろうな……。」
と、妄想するワタル。
「けど、値段が200万円か……。とても僕の収入じゃ……。」
とワタルは、己の懐の貧しさを嘆いた。
が、しかし、
「ハッ、待てよ!?もしかしたら、僕の予算でも買える物が何かあるかもしれない。よし、行って見るか!」
と、思い直して、意気揚々と宝石店に入って行った。
……両手にどら焼きの袋を持ちながら……。


  ☆☆☆


30分後……。


「へへっ、いい物見つけちゃった。」
と、明るい表情で宝石店から出てきたワタル。
「まあ、予算5万円なら、これくらいが相場かな。」
彼は左手に持っている、誰が見てもクリスマスプレゼントとわかる包装をした物をじっと見た。
「けど、問題は中身じゃない。心だ!心がきっちりとこもってさえいれば、5万円の物も、100万円の価値が出てくる物だ。」
と、力強く自らに言い聞かせた。
そして、
「さあ、頑張るぞーっ!!」
と、ワタルは意気揚々と警視庁へと戻って行った。


  ☆☆☆


それから2時間後……。


「ただいまー。」
「あっ、お帰りなさい、高木さん。」
「あー、疲れた……。」
と、さっきの元気は何処へやら。
やはりこの寒い中、電車での移動はかなり堪えたようだ。
「いやあ、ご苦労だったね、高木君。」
「はい、この寒い中、覆面パト無しで米花署とガブリエルマートの梯子すんのはもう大変でしたよ。」
「こらこら、いい若い者が何を情けない事を言っとるんだね、高木君……。」
「まあいいじゃないですか、別に。」
と、目暮警部を制する白鳥警部。
「所で高木さん、例の物は?」
「これか?」
と、千葉刑事にどら焼き入りの袋を差し出すワタル。
「あっ、ありがとうございます。」
と、千葉刑事はワタルから袋を受け取った。
「このガブリエルマート特製のどら焼き、すっごくうまいんですよね。」
と言いながら袋からどら焼きを取り出す千葉刑事。
「そーそー。僕もこれ大好きでね。」
白鳥警部もまた、袋からどら焼きを取り出した。
「ほう、良家の出の君が随分珍しい事を言うもんだね、白鳥君。」
「おいしい物を食べるのに良家とかは関係ありませんよ、目暮警部。」
と言いながらうまそうにどら焼きを食べる白鳥警部。
「このどら焼き、良質の材料を使ってる割には値段が安いから、とても人気がありましてね。」
「ほう、なるほど。」
と言いながら目暮警部もどら焼きを食べる。
「私も。」
「俺も。」
と、その場に居た捜査一課の面々は、袋から次々とどら焼きを取っていった。

「ふわあ……。」
ワタルはさすがに疲れたせいか、どら焼きには目もくれず、自分のデスクについていた。
「明日はいよいよクリスマスイブか……。」
と彼は、両手で頬杖をつきながらポツリと呟いた。
「そういえばそうですね、高木さん。」
「そこへ行くと、僕らはそーゆーのとは全然縁が無いよな……。」
「全くですねえ……ハア……。」
と己を嘆くワタルと千葉刑事。
その時、
「だったら私達のパーティーに出ない?」
「おわあっ!?」
「ゆ、由美さん!?」
突然現れた由美にドびっくりのワタルと千葉刑事。
「あのね、明日私達交通部の面々でクリスマスパーティーをやろうかと思ってるんだけど、どう、出席しない?」
「「クリスマスパーティー?」」
「そっ。」
「パーティーか……。」
「いいですね、それ。」
「でしょでしょ?で、高木君はどうなの?」
「…………。」
「あの……、高木君?」
「……えっ、あっ、いや、あの、その……い、いいんじゃないですか、それ。別にこれといった予定はないですし……。」
と、しどろもどろな返答をするワタル。
「高木君、アンタ何かへんな想像してたでしょ?」
「い、いや、べ、べ、別にそんな事は……。」
「ふーん……。」
と意味ありげな目つきでワタルを見る由美。
「よし、これで決まりね。で、白鳥君もどうかしら?」
「僕は明日の晩は鈴木財閥の会長からパーティーへのご招待を受けてまして。」
「なるほど。」
「おやおや、みんな明日のイブの話で盛り上がってるようだね。」
「あっ、目暮警部。」
「目暮警部は明日の晩はどうするんですか?」
と何気に尋ねる由美。
「ワシかね?ワシは明日の夜はうちの家内と家で慎ましやかにパーティーをするつもりだ。」
と軽やかに語る目暮警部。
その目が笑っていた事は言うまでも無い。
「はいはい、ごちそうさま……。」
とやや呆れ顔のワタル達。
そこへ、
「あら、何の話かしら?」
「あっ、佐藤さん。」
射撃訓練から戻った美和子が話の輪に入ってきた。
「あっ、美和子。今ね、高木君達に明日のパーティーの話しをしてたのよ。」
「あっ、そう言えば……。」
美和子は先ほど由美が話していた事を思い出した。
「でね、高木君達はパーティーに参加する事が決まったけど、美和子はどうするの?」
「あっ、それなんだけどね……。」
「ふんふん。」
美和子はワタルの方をチラッと見た。
これに対してワタルは固唾を呑んで美和子を見守る。
「……悪いけど私、今年はお母さんとクリスマスをする事にしたわ。だからパーティーには……。」
「そ、そうなんですか、佐藤さん。」
「え、ええ。」
「ふーん、そうなの。じゃあ、しょうがないわね。」
「悪いわね、由美。わざわざ誘いをかけてくれたのに。」
「いやあ、別に気にしないで下さい、佐藤さん。」
「そーそー。アンタいつも親に心配ばかりかけてんだから、たまには親孝行しなきゃね。」
「ちょっとどー言う意味よ、由美。」
「だってホントの事じゃない。」
「まーまー、二人とも。」
と、一見丸く収まったかのように見えたが、その実、
(ハア、佐藤さんは欠席か……。せっかくプレゼント買ったのに……。)
(あ〜〜〜っ、私のバカバカバカァ〜〜〜〜っっっ!!!!どーしていつも肝心な時になるとこーなのよ〜〜〜〜っっっ!!!!)
と、心の奥底で嘆く二人だった……。


  ☆☆☆


翌日の12月24日、クリスマスイブ当日……。


「それじゃ、お先に失礼します。」
「うむ、ご苦労。」
と、ワタルと千葉刑事は目暮警部に挨拶して一課を去った。

「高木さん。」
「ん?」
「今日のパーティー会場は確かお台場でしたよね。」
「ああ。由美さんや交通部の人達が色々と準備を整えてくれてるみたいだからね。」
「なんだか楽しみですねえ。」
「ああ、そうだな……。」
とワタルは、少し元気が無い返答をした。
やはり美和子が出席を辞退した事が気になる様だ。
「まあ、元気を出してくださいよ。こう言う時こそパーティーで気分をスカッとさせませんとね。」
「うん、ありがとう。」
千葉刑事の激励に、ワタルは少し元気を取り戻したようだ。
「でも……。」
とワタルはスーツの右ポケットに手を突っ込んだ。
(結局渡せなかったな、佐藤さんへのプレゼント……。)
彼はポケットの中にある小さな包みをきゅっと握りながら、心の中で呟いた。


  ☆☆☆


PM7:30、横浜市のみなとみらい21地区……。


「今日はとっても楽しかったわね、新一。」
「そうだな、蘭。」
と、楽しそうに夜のみなとみらい界隈を歩く新一と蘭。
彼等は今まで、ランドマークタワーでのクリスマスディナーを二人きりで楽しんでいたのだ。
「けど新一って太っ腹ねー。ディナーの費用、全て貴方持ちだったんでしょ?」
「まあな。何たって、去年のクリスマスは蘭に少しばかし寂しい思いをさせたから、今年はその埋め合わせにと。」
「あら、そんな事ないわよ。去年はコナン君の姿で私に素敵なプレゼントをしてくれたじゃない。」
(↑コミックス第5巻File6〜9、アニメ「カラオケボックス殺人事件」を参照の事。)
「ハハハ、そうだったな。」
「ウフッ★」
相も変わらずアツアツな二人である。
と、その時、
「ん!?ねえ、新一。」
「どした、蘭?」
「あれ、佐藤刑事じゃない?」
「えっ?」
と新一は蘭が指差す方向を見た。
「あっ、ホントだ。でも確か今日は高木刑事とパーティー云々とか言ってたような気がしたけど、違ってたのかな?」
「うーん……。でも何で佐藤さん、みなとみらいにいるのかな……。」
「さあな。けど何か気になるな。」
「そうね。ねえ、ちょっと後をつけて見ない?」
「ああ、そうだな……。」
と、二人は気づかれない様に美和子の後をつけた。


  ☆☆☆


ちょうどその頃、お台場では……。



「うおーーっ、いいぞぉーーっっ!!」
「凄いぜ、由美ちゃん!」
「由美やるぅ!!」
「へへへ、どーもありがとー★」

クリスマスパーティーで大いに盛り上がる交通部の面々。
しかし、それとは無縁な者が一人……。

「あれ、高木さん飲まないんですか?」
「うん、今日はちょっと飲む気が……。」
ワタルは、パーティーに参加したものの、やはり美和子の事がとても気になって、今ひとつ盛り上がれないのだ。
と、そんなワタルの気持ちを察した由美が、
「ねえ、千葉君。」
「何ですか、由美さん。」
「ちょっとそっとしておいてあげましょうよ。」
「……ええ、それがいいですね。」
と、千葉刑事はワタルを心配そうに見ながら、由美に同意した。
「……ハア。(それにしても美和子ったら、こんなに純真な青年をほっぽっといてよく平気で居られるものね……。)」
と由美もまたため息をつきながら、心の中で美和子に対し舌を打ちながらワタルを見守っていた。


  ☆☆☆


また同じ頃、みなとみらいのよこはまコスモワールドにて……。


「ふう……。」
美和子は時折ため息をつきながら、今自分が居るブラートストリートゾーンの対岸にある巨大観覧車・コスモクロック21を眺めていた。

「ねえ新一。佐藤さん、さっきからずーっとあのまんまね。」
「ああ、一体何があったんだろ?」
「うーん……、何か気になるわね……。」
「…………よし!ここは一つ、さり気なく佐藤さんと接触して、軽く事情を聞きだしてみるか。」
「ええ、それがいいかも。」
と言うや新一と蘭は美和子の元へと近づいた。

「佐藤さん!」
「えっ?」
美和子は自分を呼ぶ声に気づき、その方向へ振り向いた。
「こんばんわ、佐藤さん。」
「まあ、工藤君に蘭さん。何故貴方達がここに?」
「いやあ、今さっきまであそこでクリスマスディナーを楽しんでまして……。」
と、親指で背後にあるランドマークタワーを指差す新一。
「その帰りに散歩がてらここへ寄ったら、偶然にも佐藤さんと……。」
と、ホントはランドマークタワーから出た直後から美和子の後をつけて来たのに、口裏を合わせて、さも偶然に遇ったかのように装う新一と蘭。
正に『阿吽の呼吸』とは、この二人の為にある言葉だ。
「まあ、そうなの。と言う事は、さっきまで二人ともラブラブだった訳ね。」
「え゛っ!い、いや、その、あの……。」
「そ、そ、それほどでも……。」
と突然美和子に切り返されてしどろもどろの二人。
「ウフフ…………けどいいわね、二人とも。」
「え?」
「だって工藤君も蘭さんも常に自分自身に正直でいられるんだから……。」
「佐藤さん……?」
「それに比べて私なんか………………。」
と、言いかけて俯く美和子。
「…………あ、あら、ごめんなさいね、二人のムードに水を差すような事言っちゃって……。」
「あ、いえ、そんな、別に気にしないで下さい。」
「蘭の言うとおりですよ。」
「……有り難う、二人とも……。」
と語る美和子の顔には寂しさがありありと映し出されていた。
「……じゃあ、俺達はこれで失礼します。」
「佐藤さんもお気をつけて……。」
「ええ、貴方達もね……。」
と二人に対して軽く会釈した美和子は再びコスモクロック21の方を向いた。



「佐藤さん、重症ね。」
「ああ。まさかあれほどとはなあ……。」
美和子から離れた二人は、建物の影から、尚も佇む彼女を見ていた。
「佐藤さん、きっと自分の心の中の正直な気持ちを表に出すのが怖いんじゃないのかしら。あの人、そー言う方面はかなり奥手な人だから……。」
「そーなんだよな……。けどこのままじゃなんかかわいそうだよな。佐藤さんも高木さんも……。」
「そうね……。」
と神妙な面持ちの新一と蘭。
と、その時、
「あっ、そうだ!」
「ん、どした、蘭?」
「あのね、新一……。」
蘭は新一の耳元で何かを語った。
「……ふんふん……なるほど……。よし、一つやってみるか!」
と新一はケータイを取り出した。


  ☆☆☆


ピロロロロ……。

「あら、電話よ、高木君。」
「あっ、ホントだ、誰だろ。ちょっと失礼しますね。」
と言いながらワタルはその場を離れ、廊下へと出て行った。

ピッ!

「はい、もしもし…………えっ、あ、君は…………えっ!?……でも…………うん…………なるほど…………よし、わかったよ。今からそっちへ行くから…………うん、じゃあね。」

ピッ!

「さてと……。」
ケータイを切ったワタルは、廊下の窓に映った夜のベイエリアを見ながらはっきりと決心を固めた。
「……待ってて下さい、佐藤さん!」
その表情は、正に覚悟を決めた男の顔つきだった。
と、その時、
「ねえ、高木君。」
「えっ、わあっ!?ゆ、由美さん!?」
目の前に突然現れた由美を見て驚くワタル。
「今から美和子の所に行くんでしょ?」
「え゛っ!?どーしてわかったんですか!?」
「なんとなくね。だからハイ、これ。」
と言いながら由美は、両手に持ったワタルのジャンバーと、大きな紙袋を彼に渡した。
「あっ、どうもすいません。」
「ねえ、高木君。」
「なんですか?」
「今度こそ美和子の事をがっちりと捕まえてあげるのよ。いいわね?」
「はい、勿論ですよ!」
「よろしい。じゃあ頑張ってね。」
「ありがとう、由美さん!」
そう言いながらワタルは一目散に駆け出して行った。

「……ふう。」
ワタルを見送った由美は、廊下の窓に映る夜景を見ながら呟いた。
「……頑張ってね、高木君、そして美和子……。」


  ☆☆☆


同じ頃……。


「ふーっ、さすがに今の季節、夜は寒いわねえ。」
「ああ、そうだな。」
屋外でずっと美和子のことを見守っている新一と蘭だが、如何に重装備をしているとはいえ、さすがにこの寒さの中を長時間居るのは堪えるようだ。
「なあ、蘭。」
「ん?」
「ここは俺一人に任せて、オメーはあそこで暖を取ってろ。」
と新一は、ハイテクアミューズ・コスモファンタジアを指差した。
「ううん、私も新一と一緒にいる。」
「でも……。」
「だって私、新一と一緒なら寒さだってへいきだもん。それに伊達に空手で自分の身体を鍛えてはいないしね。」
「ふっ、そっか。なら……。」
「えっ、あっ、はわわ!?」
何と新一は、コートの前を空けて、そのまま蘭をすっぽりと包み込んだ。
「ちょ、ちょっと新一!」
「いーからいーから。ホラ、こーすれば二人ともあったかいだろ?」
と、蘭をコートに包んだまま、後ろからギュッと抱きしめる新一。
「……うん……。」
新一にすっぽりと包まれた蘭は、寒さを忘れるほどの心地よさを感じていた。
また新一も同様に、蘭の温もりをじっくりと感じ取っていた。


  ☆☆☆


そして午後9時半……。


「ふう……、もう帰ろうかな……。こんな寒い所に何時までも居たってしょうがないし……。」
と美和子がコスモワールドを離れようとした時、
「佐藤さーーん!!」
「えっ!?」
と彼女は、自分を呼ぶ声の方を向いた。
「佐藤さん!」
「な……、た、高木君!?」
美和子は、ワタルが自分の方へと駆け込んでくるのを見て、驚きの表情を見せた。
「ハア、ハア、やっと見つけましたよ、佐藤さん……。」
ワタルは空気が冷たい中を大急ぎで走ってきたせいか、大きな息を吐いていた。
「ど、どうしてあなたがここに!?由美達とパーティーしてたんじゃなかったの!?」
「いやあ、佐藤さんがこのみなとみらいにいる事を知りまして、それで……。」
「え゛っ!?ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ!?私誰にもここにいる事なんか一言も言って……ハッ!?」
と美和子はふと思い当たった。
(……そっか……、さっき会った工藤君と蘭さんが……。)
「……さ、佐藤さん……?」
「……クスッ。ホントありがと、高木君。」
「いやいや……。」
と照れるワタル。
「……あっ、そうだ。」
「ん?」
「佐藤さん、今までずっと寒い海風に当たっていたでしょ?だったらこれを着て少しは身体を暖めて下さい。」
と言いながらワタルは手に持った袋の中からある物を取り出した。
「はい、どうぞ。」
ワタルが取り出した物、それは赤と白の所謂サンタクロースカラーのコートと帽子だった。
「まあ、どうしたの、このコート!?」
「これさっき、パーティーのくじ引きで当てた物なんですが、どうします?」
「あ、ありがとう、高木君。早速着させてもらうわ。」
と美和子は、ワタルからコートと帽子を受け取り、それを身に着けた。

「どう、高木君?」
「うわあ……。」
と、息を呑んで美和子を見つめるワタル。
コートと帽子を着けた彼女の姿は、まさしく華麗なるレディ・サンタそのものだった。
「いやあ、ホント綺麗ですよ。」
「クスッ、ありがと★それにこれ、とっても温かいわ。」
「そうですか、それは良かった。あっ、そうだ。」
と言いながらワタルは、コートの下のスーツの左ポケットから、ある物を取り出した。
「高木君、それは?」
「これ、佐藤さんへのクリスマスプレゼントです。」
「え゛っ!?わ、私に!?」
「ええ、もし宜しければ……。」
「うわあ、ホントに有難う!ねえ、これ開けてもいい?」
「はい、勿論いいですよ。」
「何かしら、一体……。」
と美和子は、ワタルから貰ったプレゼントの包みと、その中に入っていた小さな箱の蓋を開けた。
「!た、高木君、これって……。」
その小さな箱に入っていた物、それは中心に小さなサファイアをあつらった金の指輪だった。
「こ……、こんなに素敵な物を私に!?」
「ええ。ただ、僕の実入りに合わせて購入したんで、そんなに高級のものじゃ……。」
と、正直に告白するワタル。
相変わらず素直な男である。
「ううん、そんなの関係ないわ。私にはその高木君の気持ちが嬉しいの。」
「え゛っ!?そ、そうなんですか!?」
「ええ、そうよ。本当に有り難う、高木君。」
「えっ、いやあ、その、あの……。」
とワタルは、美和子に心から感謝されて、顔がトマトの様に真っ赤になっていた。
と、その時、
「あっ!!」
「どっ、どうしました、佐藤さん!?」
「……ごめんなさい……。」
「え?」
「……私……、貴方へのクリスマスプレゼント、何も用意して無かったわ。」
「プレゼント?」
「うん……。私ってホントダメな女よね……。こんなに素敵なプレゼントを2つも貰っておいて、何一つお返しが出来ないんだから……。」
と、自己嫌悪で落ち込む美和子。
これに対しワタルは、
「いえ、そんな事別に気にしないで下さい。」
「え……?」
「貴女は僕からのプレゼントを喜んで受け取ってくれましたよね。その時の笑顔が、僕にとっては貴女からの何よりのプレゼントなんですから……。」
「高木君……。」
と、じっとワタルの瞳を見つめる美和子。
その時、
「ねえ……。」
「はい?」
「貴方へのクリスマスプレゼント……、私じゃダメ?」
「え?」
「この私自身を貴方へのプレゼントとしてあげたいの。ねえ、いいでしょ?」
「い゛い゛っっ!?な゛っ、な゛っ、な゛っ、なんて事を!?」
と、さっきのお台場での決意は何処へやら、事態を飲み込んだワタルは顔を更に真っ赤にしながらうろたえる。
「そっ、そっ、そっ、そんな、佐藤さん!ぼっ、ぼっ、僕みたいな男がさっ、さっ、佐藤さんとは釣り合いが……。」
「そんな事無い!」
「ハッ!?」
美和子に一喝されてワタルはふと我に返った。
「……私ね、今やっと決心がついたの。もうこれ以上自分に嘘をつくのはやめようって……。」
「え…………?」
「だから私、勇気を出して言うわ………。私………貴方が…………。」
と言うや、美和子はワタルに近づき……、

「好き!」

CHU…….

「!!!!!?(さ、さ、佐藤さん!!!!?)」
美和子の告白のすぐ後の突然のキスにワタルは目を白黒させた。
だが、ワタルの方も既に知らず知らずの内に美和子の身体をギュッと抱きしめていた。
(あ……、ワ、ワタル君……。)
ワタルと口付けを交わす美和子も、このワタルの行動に驚いたものの、すぐに気を取り直し、そのままワタルと熱いキスを重ね続けた。




「うわあ……、やるわねえ、佐藤さんも……。」
「ああ、そうだな……。それに高木刑事も……。」
物陰から二人の様子をずっと見守っていた新一と蘭も、これにはさすがに驚いたようだ。
因みに蘭は、ワタルの姿を確認した事から、新一のコートの中から出ていた。
「しかし、『私自身を貴方へのプレゼントとしてあげたいの。』だなんて、よほど相手の事を好きにならない限り、まず言わないわよねえ、普通。」
「うんうん、全くだぜ。」
と相槌を打つ新一。
「でもオメーは言ったけどな。」
「まっ!そういう新一だって素直に受け取ったくせに。」
「ハハハ、そー言やそうだったけ。けどよ、これであの二人も万事メデタシメデタシになったって訳だな。」
「そーそー。終わり良ければ全て良しって言うしね。」
新一と蘭も二人の結果にご満悦のようだ。
「さあ、新一。お邪魔虫はここいらで引き下がるとしますか。」
「ああ、そうしよ。」
と、新一と蘭がその場を離れようとした時、
「あら。」
「おっ。」
と、二人はふと夜空を見上げた。
「ねえねえ、新一、雪よ。雪が降ってきたわ。」
蘭は夜のみなとみらいに降ってきた雪に驚嘆する。
「フッ、神様もなかなか粋な演出をしてくれるじゃねーか……。」
と、天の配慮に感謝するかのように、気障な笑みを浮かべながら夜空を見上げた。





「雪が降ってきたわね、ワタル君……。」
「ええ……。」
「ホント、これぞホワイトクリスマスって感じ……。」
「そうですね、佐藤さん……。」
「もうっ、佐藤さんなんて言わずに、これからは私の事、美和子って呼んで♪」
「ハッ、ハイ、美和子……さん……。」
「もーっ、意気地無しなんだから★」
「ハハハ……。」
と、ワタルと美和子は互いに肩を寄せ合いながら、幻想的な雪のみなとみらいの夜空を見上げていた……。





夜空の雪は、ワタルと美和子を祝福するかのように、なおも優しく降り続けた……。






Merry Christmas Wataru&Miwako…….







Fin…….






参考曲

No.1 雪のクリスマス
歌:Dreams Come True
作詞:吉田 美和
作曲:吉田 美和・中村 正人

No.2 WINTER SONG
歌:Dreams Come True
作詞:MIWA YOSHIDA/MIKE PELA
作曲:MIWA YOSHIDA/MASATO NAKAMURA






会長の後書き

如何でしたでしょうか、皆様方?
この小説は一応上のドリカムの名曲を題材にしたものだったのですが、何か素材をうまく生かしきってないような気がしますが(←「気がします」じゃ無くて、そのものズバリだろーが!By新一(爆))、ともかく、こんな駄文に最後まで付き合って下さいまして、ホントーに有り難うございました。

皆様方にイエス・キリストの主なる神様の祝福を……。