4.瞳を閉じれば
(エースヘヴン開設10周年記念短編)



byドミ



あなたがいつも隣にいたのが、当たり前だったのに。
今は、当たり前じゃない。

時々掛かってくる電話だけが、あなたとわたしを繋いでる。



   ☆☆☆



わたしの名前は、毛利蘭。
帝丹高校2年生。

幼馴染で同級生の、工藤新一に恋をして。
高校生になって、その想いがハッキリと形になって、切ない想いや甘酸っぱい想いを味わうようになったけれど。

本格的に、恋の苦しさを味わうようになったのは、新一とトロピカルランドで離れてから、だった。


新一は、1週間と開けずに、電話をかけて来てくれる。
携帯電話が贈られて来てからは、メールも届くようになった。

でも、わたしは、声が聞ける電話の方が好き。
好きな人からのメールも良いけど、電話の方が好き。


今日も、新一から電話が掛かって来た。
きっと私の顔は、だらしなく緩んでるだろうなあ。


「あら、新一?何か用なの?」

あああああ。
わたしってば、わたしってば!
どうして、ついつい、憎まれ口になっちゃうのよ!?

案の定、新一からは、憮然とした声が返って来た。

『別に。用がなきゃ、電話掛けちゃいけねえのかよ?』

うううう。
わたしの、バカバカバカ!

「そ、そんな事言ってないじゃない。どうしたの?」
『どうもしねえけどよ。たまにはオメーの間抜け声でも聞かねえと、どうも調子出なくてよ』
「ふふうん。新一、寂しいんでしょ?」
『バ、バカ言うなよ!もう切るぞ、じゃあな』

待って、待って、切らないで!
もう少し、声を聞いていたいの。

新一からの電話が嬉しいのに。
胸がキュンとなって、ホワッと暖かくなれるのに。

どうしてわたし、素直になれないの?

寂しいのは、わたし。
声が聞きたくて、ずっと待っているのは、わたし。
なのに、それを素直に言えない。

「ま、待って!」
『あん?何かあるのかよ?』
「そ、その。元気?」
『ああ。元気だけど?』

新一が呆れたように返事している。
そうだよね。
呼び止められて、何を聞かれるかと思えば「元気?」だもの。
何か……落ち込んで来た。

「新一。ご飯、ちゃんと食べてる?」

これは、とっても気になっていた。
だって新一、事件に夢中になると、寝食を忘れてしまうところがあるのだもの。

『ああ。毎日、美味い飯作ってくれるヤツが、いるからな』
「えっ!?」

わたしは、ショックで頭が白くなった。
今の新一には、ご飯を作ってくれる相手が、いるのだ。
わたしが、心配してあげる必要も、ないんだ……。

毎日、ご飯を作ってくれるって……それって……ただの仲じゃ、ないわよね……。
新一には、今、そういう相手が、いるの……?

すると。
思いがけない程、優しい声が、受話器の向こうから聞こえた。

『……嘘だよ』
「え……?うそ……?」
『ああ。残念ながら、今のオレには、ご飯作ってくれるヤツは、いねえよ』

優しい声に。
わたしの胸は熱くなる。
目を閉じると、新一の、照れたような優しい笑顔が、浮かぶ。

ああ。
だからわたし、電話が好き。
こうして目を閉じれば、まぶたの裏にあなたの顔が浮かぶから。

『さすがに毎日コンビニ弁当とファミレスじゃ、味気ねえよなあ。オメーが作ってくれた飯が、恋しいぜ』
「な、何よ。わたしは、新一のメイドなの?」
『そういう意味じゃねえよ。コナンが、羨ましいぜ。アイツいつも、オメーの手料理、食ってんだろ?』
「し、新一」

意地悪な事ばかり言うかと思えば、突然、優しい。
今みたいに、期待させるような事を言ったりして。
わたしは、振り回されてばかり。

ううん。
本当は、あなたが優しい人だって、ちゃんと知ってる。分かってるよ。

だってあなたはいつも、わたしが本当に辛い時、苦しい時には、それを癒す言葉をくれるもの。
いつも、凄く優しい眼差しで、見詰めてくれたもの。


目を閉じてあなたの声を聞いていると、あなたの顔がまぶたの裏に浮かんで来る。
拗ねた顔、照れた顔、そして優しい笑顔。


だからお願い、もう少しあなたの声を聞いていたいの。


会いたい。
会いたい。
本当は、とっても会いたい。

でも、今、会えないのなら。
声を、聞かせて。
もっと、もっと。

瞳を閉じれば、あなたの笑顔に会えるから。
逢えない切なさに、負けないでいられるから。


電話越しの声で、わたしは待っていられる。
電話越しの声で、わたしは強くなれる。



新一。

好き。
大好き。

胸の内で紡がれる、わたしの言葉。


新一の声がくれた温もりを胸に、わたしは、新一の帰りを待ち続ける。



Fin.



+++++++++++++++++++



「瞳を閉じれば〜蘭のテーマ〜」作詞:及川 眠子  作曲:大野 克夫


名探偵コナンアニメの、バックミュージックとして、非常に多く使われる音楽です。
これが蘭ちゃんのテーマ曲だったとは、知った時は驚きました。

ちょっと切ない感じの歌詞ですが。
原作で、蘭ちゃんの想いがようやく報われる時が来た事を、本当に喜ばしく思っています。
アニメでも、きっともうすぐですね。

まあ、「遠距離恋愛で、声を聞くのは電話越し」な状況は、まだ暫く、変わりませんけども。
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