5.ホシが歩いた道を
(エースヘヴン開設10周年記念短編)



byドミ




昔、オレが読んだ漫画(注)の中で。
「お前の武器は?」と問われた主役の少年が、「あとは……勇気だけだ!」と答えるものが、あった。


では、オレの武器は?

やっぱり、ひとつは、何ものにも屈しない、勇気だな。
あとは……小さくなっても変わらない、この頭脳。
そして……お前を何より大切に想う、この気持ち。

この3つの武器を携えて、オレは行く。

必ず、必ず、ヤツらを倒し、元の姿を取り戻して、お前の元へ帰る。
その為にオレは、その武器を大切に心の底に仕舞っている。


「蘭……」

大切な大切なその名前を、そっと唇に乗せた。

お前は今、どうしてる?
最終決戦を前にして、蘭の傍を離れたオレの……コナンの事を、心配しているだろうか?
それとも、愛の言葉を残しながら帰って来ない薄情者のオレ……新一の事を想って、泣いているだろうか?


灰原が解毒剤を完成させた。
けれど、今オレは敢えて、子どもの姿のまま、組織と対峙する事を選んだ。


「長い間、お世話になりました」
「コナン君……」

蘭が、泣きそうな顔をして、頭を下げるオレを見た。
小五郎のおっちゃんも、寂しそうな顔をしている。

江戸川コナンとしてのオレは、こんなに愛されていたんだと、ありがたくも申し訳なくも、思う。

「そうね、コナン君は、子どもだもの。お母さんと一緒にいるのが、一番だよね」
「僕、蘭姉ちゃんの事、おじさんの事、忘れないよ!また、遊びに来るから!」

嘘と真実を混ぜて、告げる。
二人の事を忘れないのは、本当。
でも、また遊びに来るのは、嘘。

もう、江戸川コナンは、決して、2人の……みんなの前に現れる事は、ない。



   ☆☆☆



決戦を前にして、オレは、仲間と共に、町中に立っていた。
青い月が町を照らす。

灯りの少ない夜の街、ビルのガラスを、青い月が幻想的に照らす。
綺麗だけど、少し不気味な感じだ。

「何だか、不吉な……」

仲間の1人が、月を見上げて呟いた。


月は、地球に近い大きな衛星で、その重力が人間を含む生物に大きな影響を与えている事は、確かな事だけれど。
見た目に不気味だから不吉という感覚は、やや感傷的に過ぎると、オレは思った。


簡単にいかない事は、百も承知。
だけど、こちらも、簡単には終わらない。


オレは、少し時間を貰い、米花町へ行き、長い間世話になった毛利邸を見上げていた。
もう、見納めになるかもしれないから、ではなくて。
また、ここに戻ってくると、決意を新たにする為に、ここに来た。

夜中なのに、蘭の部屋の灯りが、ついている。

窓が少し開いて、そこから、小さな歌声が流れてくる。
これは、恋する男への想いをつづっている、歌。

オレは胸がキュウンとなった。
蘭は今きっと、オレの事を想ってくれている。
感違いかもしれねえけど、構うもんか。


蘭のオレへの想いが、オレの蘭への想いが、一筋の光となってオレを導き、きっと出口へと導いてくれる。
蘭の優しさが、きっと、夜明けの光を導いてくれる。
オレ達は、必ず、勝つ。
明日は必ず、晴れるだろう。



オレは、束の間の休息で、蘭の歌声から勇気を貰って、仲間の元へと戻って行く。


「さあ、行こう」


オレは、仲間達に声をかけた。
3つの武器を手に、きっと、勝利して。
オレは、必ず、ここに帰って来る。



Fin.


+++++++++++++++++++



「ホシが歩いた道を〜名探偵コナン 新メイン・テーマ〜」作詞:阿久 悠  作曲:大野 克夫


昔読んだ漫画(注);「サイボーグ009」でございます。
新一君は、読んだ事などなさそうですが。

これも、歌詞を元にしたと言うより、殆ど「意訳・翻案」ですねえ。
第一、歌詞にも繰り返し出て来る「ホシ」の意味が、いまだに分からないまま、なんですよね。


ただ、この歌の歌詞を最初に読んだ時、「決戦の歌だ」としか、思えませんでした。
ので、こういう話に落ち着きました。



2012年3月19日脱稿
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