8.あなたを感じてる
(エースヘヴン開設10周年記念短編)



byドミ



新一がいなくなって、改めて気付いた。
新一がわたしにとって、どんなに大切な存在だったのか。
傍にいるのが当たり前だったから、それがどんなに幸せでありがたい事なのかも、気付いてなかったよ。


   ☆☆☆


「蘭。新一君から連絡あってる?」
「ここ数日、ないかなあ」
「蘭の方から、連絡しないの?電話番号は教えてもらったんでしょ?」
「向こうから連絡こないのに、何でこっちから連絡しなきゃなんないのよ?」
「蘭。そんな事言ってると、新一君、他の女の子に取られちゃうかもよ」
「その時は、のしつけてくれてやるわよ、あんな男!」

親友の園子の言葉に、ついつい、憎まれ口で返してしまう、わたし。
でも、さすがに、「のしつけてくれてやる」は、冗談でも言い過ぎだったかと、胸が痛んだ。

園子がちょっと溜め息をついてわたしを見た。

「蘭。わたしは蘭の事好きだし、いつでも味方だけどさ。あんまり意地を張ってると、本当に大切なものなくしても、知らないよ?」
「……園子……」
「内田先輩ってさ……あんなに素敵なのに、男性からモテモテで、高嶺の花存在だったのに、それでも、自分からちゃんと新一君に告白したんだよ」
「……!」
「素直になれないのも、わかるけどさあ。少しは、蘭の方から踏み出したらどうなのよ?」

園子は、時にキツい事もズバッと言ってくれる。
それは、本当の友達だから。

確かに、園子の言う通りだと思う。
わたし、自分からは何もしてない。
新一の世話を焼いたりする事はあっても、好意を示すような事は、何一つ、してない。


ずっと、怖かった。
傍にいるのが当たり前の関係が崩れてしまうのが。
だから、告白も出来なかったし、ついつい、憎まれ口を叩いてしまう時が、続いていた。
ずっと、そんな日が続くと、信じていた。


でも。
当たり前に傍にいた新一が、今は、いない。

今は、何もかもが色褪せて見えてしまう。
新一がいない世界は、こんなにも味気ない。

わたし、こんなにも、新一の事が好きだったんだ。
改めて自分自身の気持ちを、思い知る。


不思議だね。
離れてとても寂しいのと同時に。
わたしの気持ちは大きく育って行くみたい。

そして。
何故だか、わたしは、どこかで。
新一もわたしの事を想ってくれているような気がして、ならない。

新一が傍にいた時は、そんな風に感じなかったのに。
逆に、滅多に会えない今の方がずっと、新一の心が傍に寄り添っているように感じる。
2人の心が共鳴しているって、感じる。

それは、わたしの思い込み?
ううん……きっと、きっと、2人の心は繋がっている。



時々……本当に、時々、新一が姿を現す事がある。
いつも、慌ただしく、また、いなくなってしまうけど。

でも、その度に、少しずつ、少しずつ、2人の心の距離は、縮まって来たように、思うの。


「蘭の事くらい……声聞きゃわかるさ」
「いつか必ず戻って来るから、蘭には待ってて欲しいんだ」
「恐らくそれは…オメーがオレに聞きたい事と…全く同じだと思うからさ…」

少しずつ、少しずつ。
気の所為なんかじゃなく、体は離れていても、気持ちは近くに寄り添って来た。


そして。
異国の地で、新一は言ってくれた。

「オメーは厄介な難事件なんだよ!たとえオレがホームズでも無理だろうぜ。好きな女の心を正確に見通すなんて事はな!」


離れている事で、2人の愛は育ったのかな?
お互いに引き合う力は、それだけ大きくなったのかしら?


新一がいなくなってから、わたしの想いがますます募っているように、もしかして新一も、わたしと離れた事で、わたしへの想いを育ててくれたのかな?


新一は、事件が大好きなんだと思っていたけど。
違うのね。
新一が好きなのは、大きな「謎」なのよ。

事件が難しければ難しい程、解けない程、大きな謎にあなたは目を輝かせる。



そして、わたしは、とびきり厄介な難事件。
新一にとって、わたしは一番の「謎」。

あの言葉で、鈍感だって言われるわたしにも、分かっちゃった。
新一が、どんなに、わたしの事を好きだと思ってくれているのか。


でも、わたしの心なんて、単純なのに。
新一が大好き、ただそれだけ、謎なんか、何もないのに。


でも、新一が告げてくれた愛の言葉は、幻じゃない。
今迄ずっと、あなたの存在を感じてた、それは嘘じゃなかったのね。

二人の気持ちは、心は、一緒だった。


この先、たとえどんな事があっても、きっときっと、わたし達は大丈夫。
わたし達の心は、結ばれているんだから。


「蘭が返事しないと、新一君、蘭から振られたと思って、他の女に走っちゃうかもよ?」

園子が、心配げに言って来るけど。
でも、そんな事はない。
わたし達の絆は、そんなに簡単に崩れるものじゃない。


わたし達の愛は、響き合い繋がり合い、強い絆になって行く。



わたし、待ってる。
ここで、ずっと。

新一は、きっと、わたしの所に帰って来てくれるから。
あなたを、信じてる。
あなたの愛を、信じてる。




大好きだよ、新一。




Fin.


+++++++++++++++++++



「あなたを感じてる〜蘭・愛のテーマ〜」作詞:森 由里子  作曲:大野 克夫


これは。
「瞳を閉じれば」と、どうしてもイメージがダブるのが、苦しかったです。
音楽自体のイメージは、違うんですけど。
何しろ、「蘭のテーマ」と、「蘭・愛のテーマ」ですからねえ。

名探偵コナンアニメの中で、バックミュージックとしては、結構多く使われているものですが。
このタイトルと歌詞を知った時は、驚きました。
どちらかと言えば、夜の街に繰り出した小五郎さんのバックでこの音楽が……というイメージがあったので。

歌詞は正直、かなり臆面もないラブソングです。
で、お話の方も、臆面もなく、蘭ちゃんの愛の言葉とノロケが続く事に。


歌自体が作られたのは、コナンアニメが開始された初期の頃ですが、この歌は、ロンドン編後の方がシックリ来ると思いました。
「瞳を閉じれば」を書いた時は、アニメでのロンドン編はまだでしたが、今回は、アニメでのロンドン編も、とっくに終わっています。

11周年が来るまでに、10周年記念全話、書き終わるのだろうか?

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