9.キミがいれば
(エースヘヴン開設10周年記念短編)



byドミ



わたしの名前は、毛利蘭。
わたしには、今は、彼氏と呼んでも良いのかな?幼馴染がいる。

高校生探偵の、工藤新一。

わたしが、新一への「恋心」を自覚したのは、16歳の時、ニューヨークで、だったけれど。

新一の事を「愛しい」と思い、抱き締めたいと感じたのは、中学三年の、最後になった、サッカーの試合の時、だったと思う。


PK戦になって、新一がそれを外して。
寂しげに俯いていた、その後ろ姿が、忘れられない。

あの時、わたしが感じた想いは、どちらかと言えば母性本能に近かったように思う。

恋の自覚はなかったけれど。
でも、わたしだけが、たった1人、新一の味方だって、そういう風に思っていたような気がする。


新一が、華々しく、探偵としてのデビューを果たして。
それから、鮮やかに活躍するのを、いつも、目にして来た。

まだ高校生なのに、いつの間にか、「日本警察の救世主」だの「平成のホームズ」だの、たてまつられるようになって。
新一自身、名前負けしないだけの実力を持ち、努力も重ねて来た事を、わたしは知っている。



「犯人は、あなたです!」

揺るぎない眼差しで、犯人を追いつめる。
その、自信たっぷりな態度に、憧れる人、尊敬する人、そして鼻持ちならないと嫌う人、やっかむ人。


でも。
わたしは、そんな時の新一の後ろ姿に、背中に、あの日の新一と同じ孤独を、見る事がある。


新一のやっている、探偵という仕事は。
たったひとつの真実を見つけ出す、その仕事は。
一歩間違うと、無実の人を罪に落としてしまう、間違う事が許されない、とても重いものなのだ。

いつも、自信たっぷりに見える新一も、針の穴ほどの間違いも本当にないのか、常に自分に問いかけている。


新一は、強い。
誰の助けも借りない。
弱音を吐く事もない。
決して、誰にも、脆い部分を見せる事なく、いつも、たった1人で、戦っている。


私には、何もしてあげられない。
一緒に推理をしてあげる頭も、持ってないし。

でも、気付いて、わたしがここにいる事を。
そして、あなたの背負っている重みを、辛さを、少しでも分かち合って、支えになりたいって……そう思う。





そして。
いつの頃か。


わたしは、まだ幼い筈のコナン君に、新一と同じ「孤独の匂い」を感じるようになった。

そうして、少しずつ、少しずつ。
コナン君の中に、新一の影を見るようになって行った。



わたし、ここにいるよ。
何も出来ないけど、わたしは、コナン君の……新一の、味方だから。
わたしがいる事を、あなたが思い出して、少しでも支えに思ってくれるなら、嬉しい。


コナン君……新一。
あなたなら、きっときっと、大きな「厄介な事件」を、解決出来るわ。


そして、その時は、孤独な背中でなく、空にかかる虹のような、晴れやかな笑顔を、見せてね。




Fin.



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「キミがいれば〜名探偵コナン メイン・テーマ〜」作詞:高柳 恋  作曲:大野 克夫


この曲は、名探偵コナンそのものと言っても良い、映画冒頭で必ず使われるものです。
歌も2回、挿入歌として使われてますね。

このシリーズは、曲からではなく、歌詞からイメージしたお話を書いているのですが。
最初、これ、コナン@新一君の、蘭ちゃんへの想い、という風に、考えていたんですよねえ。
でも、一人称が「私」である事も含め、どうも、そちらのベクトルでは上手く行かない。

で、蘭ちゃん視点のお話で、またもや、新一君へのラブソングです。
まあ、この歌自体が、ラブソングには違いないですし。

そして、何故か、今迄で一番、短っ!
小説というより、殆ど、詩のようですね……。



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