18歳 〜2022工藤新一生誕祭〜



By ドミ



〜毛利邸にて〜

「蘭」
「何よ?お父さん」
「オメーが成人するまで、結婚なんざ許さんからな!」
「……へえ。わたし、高3の間に成人するんだけど。じゃあ、高校卒業と一緒に、結婚、しちゃおっかなあ」
「ぬ、ぬわに〜〜〜!?」

 という会話が、毛利邸で交わされていたのは、一人娘の毛利蘭が高校2年の、冬が終わろうとする頃であった。
 そもそも、何でそんな会話になったのかと言えば、夕食時の毛利邸でたまたま見ていた、ひと昔前のテレビドラマが発端だった。18歳高校生の妻と同じ高校教師の夫という、一見深刻そうな題材だけれど、中身はドタバタコメディである。
 蘭も居候の江戸川コナンも、普通に楽しんで見ていたのだが、娘がリアル高校生である父親の毛利小五郎にとっては、フィクションと割り切って見ることが出来なかったらしい。しかも、蘭は、幼馴染で同級生の工藤新一と付き合い始めたばかりである。小五郎はひょんなことから、娘がすでに交際していることを知ったのだった。

 小五郎と英理は、20歳になり成人してから結婚した。それでも、お互いに学生だったので、色々大変だった。娘も結婚は早そうだと思い、くぎを刺す積りで言ったのだが。民法が改正されて、2022年の4月からは、成人年齢が18歳に引き下げられたことを、小五郎はすっかり失念していたのである。

「高校卒業してすぐに結婚だと?ゆるさーん!」
「成人したら、結婚に親の許可は要らないのよ」

 涼しい顔で言う娘に、ぐぬぬぬとなる小五郎。コナンは……親子のやり取りを見ながら、乾いた笑い声をあげていた。しかし内心では。

(蘭の18歳の誕生日までには、ぜってー、元の姿に戻って蘭と……)
と、バラ色の妄想をたくましくしていたのであった……。


   ☆☆☆


〜side新一〜

 工藤新一が、ようやく元の姿を取り戻し、復学したのは、高校2年が終わり春休みに入る直前。
 新一は、進級のために山ほどの課題をこなさなければならず、春休みは無いに等しかった。加えて、警察からの事件解決の依頼は容赦なく舞い込むし、工藤新一が行くところ新たな事件は起こるしで、目の回るような忙しさ。
 お互い多忙な合間にも、蘭との恋人同士としての甘い時間は何としてでもひねり出すのが、工藤新一。蘭は春休み、お花見イベントスタッフのバイトをしていたので、蘭も忙しく、ある意味、ちょうど良かった。

 とはいえ……夜、一人ベッドに居る時には、昔は感じることのなかった、一人暮らしの侘しさが身に沁みる。

 恋人の蘭とは、まだ夜を一緒に過ごしたことがあるわけではないが、コナンとして毛利邸で居候していた時は、同じ屋根の下に住んでいて、気配を感じ取ることが出来た。

「あー。早く結婚してえ……」

 もちろん、新一は、ただ結婚したいのではなく、相手は蘭限定である。
 昔の、成人年齢が20歳だったころは、親の同意があれば男性18歳女性16歳で結婚できたのだが、今は、男女とも結婚可能年齢は18歳である。親の同意は必要ないけれど、蘭も18歳にならないと、結婚できない。

「蘭が、おっちゃんに言ってた、あれは……本当に高校卒業と一緒に結婚しようって思ってるわけじゃなくて、単に売り言葉に買い言葉なんだろうけど……でも本当に、高校卒業と同時に結婚できねえかなあ」

 新一は探偵をやっているが、現状、それはボランティアであり、必要経費しか受け取っていない。しかし、高校卒業したら、「仕事」として報酬をもらって探偵業を行う予定だ。学生生活との両立は大変だろうが、生活して行けなくはないと思う。
 小五郎も英理も、結婚を簡単に許してくれそうにはないと思うが、彼らも20歳で結婚したのだから、20歳になってからの結婚なら、何とか渋々でもお許しが出そうな気がする。高校卒業時に、最低でも、親公認の婚約者にはなりたい。
 そのためには、まずはプロポーズだ。蘭は、プロポーズには「ノー」とは言わず、受け入れてくれるのではないかという期待はある。まあ、「まだ高校生なのに何を言ってるの??」と呆れられてしまう可能性もあるが。

 ただ……いくら高校生でも、指輪も花束もなくプロポーズでは、格好がつかない。本格的な婚約指輪は先で良いとしても、仮の指輪だって、ある程度のものを贈りたいと、新一は考えた。

 しかし、今の新一には、花束はまだともかく、たとえ仮の指輪だって、買うお金はない。

「バイトするにもなあ……警察にいつ呼ばれるか、わかんねえし……」
 検索をしている中で、新一の目に留まった「バイト募集」があった。

「出前横丁宅配サービス員募集」
 配達した件数ごとの出来高制だから、隙間時間に出来るし、警察からの呼び出しがいつあるか分からない新一には、とても都合の良い仕事だ。配達の仕事は、高校生は自転車のみというところも多いが、出前横丁では原付での配達が可となっており、二輪の免許を持つ新一には、とても都合が良い。


   ☆☆☆


「蘭。ごめん……しばらく忙しくなるから、当面、デートは出来ねえと思う」
と言って蘭に頭を下げた新一に、蘭はため息をついて答えた。

「元から、あんまりデート出来てないじゃない」
「だから、あんまりじゃなくて、全然出来ねえ状況になりそうなんだ」
「……課題と探偵活動以外に、何かあるの?」
「そ、それは……今は言えねえっていうか……」

 新一の言葉に、蘭はぷっと頬を膨らませたが。(そんな表情も可愛いと思ってしまったのは、蘭には内緒だ)
 蘭は、大きくため息をつきながら、頷いてくれた。一応、「良からぬことをしたり浮気したりはしない」と、信用はあるらしい。

「いつ頃まで、そんな状況なの?」
「4月いっぱいかなあ?」
「4月いっぱい?5月頭は、大丈夫?」
「あ、ああ……」
「そ、その……5月頭の3連休は、あけててよね!」
「ああ」
「絶対よ!」
「わーった」

 蘭はきっと、新一が今年も「あの日」を忘れていると思っているだろう。何しろ毎年毎年忘れていたのだから。
 けれど……。

(蘭。オレはもう二度と、あの日は忘れねえよ)

 新一は、心の中で呟いていた。
 毎年忘れていたのに、今年、何故忘れていないのかといえば、節目の年齢であるということもあるけれど。新一が17歳になった瞬間、蘭が決死の覚悟で告げた「ハッピーバースデー、新一」。あの時の蘭の辛い想いを、上書きしたい。この先ずっと、新一の誕生日のたびに、上書きし続けようと決意しているのだ。


   ☆☆☆


〜side蘭〜

 新一と恋人同士になり、でもしばらく新一は不在で。2学年が終わる直前に、ようやく帰って来たと思ったら、進級のための課題だの警察からの呼び出しだので、春休みだというのに、新一は物凄く多忙な日々を過ごしていた。蘭は、新一が帰って来た日、しっかりと唇を奪われ、忙しい中でも時々は甘い時間を過ごしている。
 山ほどの課題もようやく終わり、少し落ち着くかなと思った矢先、新一から言われた。

「蘭。ごめん……しばらく忙しくなるから、当面、デートは出来ねえと思う」

 今までは、多忙な中でも、新一は何とかデートの時間をひねり出していたのだが、おそらくそのわずかな時間もひねり出せなくなるということなのだろう。ワケを聞いても新一は教えてくれなかったが……蘭を裏切るようなことや悪いことのために時間を費やすわけではない、その信頼はあったので、蘭は待つことにした。
 いつまでそのような状況が続くのか問うと、4月いっぱいだという。新一の誕生日には、ひと段落していそうで、蘭はホッとした。けれど、親しい人の誕生日はしっかり覚えているのに、何故か自分の誕生日だけは器用にすぐ忘れてしまう新一のことなので、予定を入れられないように、くぎを刺しておく。
「5月の3連休は、あけててよね!」

 昨年は、死を覚悟しながら、扉を隔てて背中合わせで迎えた、新一の17歳の誕生日。今年は、今年こそは、その日を一緒に迎えたい。
 蘭は、その日に備えて、春休みは、花見イベントスタッフのアルバイトをしていたのだった。新一も多忙だったため、ちょうど良かった。新一にバイトのことは伝えていたが、新一は蘭が何のためにバイトをしていたのかは、知らないだろう。

 バイト代の使途は、新一への誕生日プレゼント。その他に、不要かもしれないと思いながら、蘭の下着も特別なものを買った。いわゆる「勝負下着」である。
 新一とは、今まで、軽いキスを数回、交わした程度。でも、いずれそう遠くない内に、深い関係に踏み込む日が来るかもしれない。
 二人ともまだ高校生だが、新一は今度の誕生日で18歳、成人になる。蘭の誕生日はまだ先だけれど、蘭も、高校卒業前には、成人になっている。

 18歳。
 成人としての自由と権利を得る代わりに、義務も負うことになり、親の同意がなくても、結婚できるようになる。

(本当に、お父さんとお母さんが反対しても、それを押し切って18歳で、って考えているわけじゃないけど……でも、お父さんとお母さんも、20歳で学生結婚したんだから……もし、もし、新一がそう望んでくれるなら、わたしは……)

 ただ。毛利家の茶の間で、テレビドラマを見ながら、小五郎と結婚について話をしていた時、新一――コナンは、「ははは」と乾いた笑いを漏らしていた。(新一がコナンであったことは、新一が帰還した時に聞いた。)新一にとって結婚なんて、まだまだ現実的に考えられないのかも、しれない。

 18歳。
 一応、大人として扱われる年齢になるけれど、新一も蘭も、まだまだ、親に養ってもらっている子ども。けれど、恋人同士になっている二人なのだから、更に先に進んでも良いのではないだろうか?一足先に成人する新一と、将来の約束を交わし、その約束の証として、大人の関係に踏み込むことは、ありなんじゃないかと、蘭は思う。


 ゴールデンウィークに入っても、新一はまだ忙しそうだった。4月29日昭和の日、蘭は園子と一緒に、街を歩いていた。
 たまたま入った店で、蘭の目に入って来たのは、桜色のワンピースだった。桜の花の形をした飾りのついた、共布のリボン型サッシュベルトが付いている。桜は、新一と蘭にとって、出会いの想い出が籠っている花。色もデザインも、蘭と新一のためにあるような気がした。
 蘭がワンピースを見ていると、園子が興奮して言った。

「蘭!蘭!これいいよ!ベルトがリボンになってるから、『プレゼントはわ??た??し??』ってするのに、ピッタリじゃない!」
「わ、わたしがプレゼントって、そんなの……!」

 蘭は赤くなって言いながら、新一の誕生日直前に、このワンピースが目に入ったのも、巡り会わせの一つではないかと思った。


   ☆☆☆


 5月3日。

 蘭は毛利探偵事務所に顔を出し、父親に宣言していた。

「お父さん。わたし、今日は泊まってくる」
「んあ?あの鈴木のお嬢さんのとこにか?」
「ううん。新一の家」
「何だと!?ゆるさ?ん!」

 小五郎が立ち上がって言った。

「お、お前たち、まだ高校生の分際で、不純異性交遊をするとは!」
「不純異性交遊って何?」
「あ、そ、その……男と女が淫らな関係にな……(これって死語だったか?)」
「泊まったからって、別に、淫らな関係になるとは、限らないよ」
「しかし、ヤツは一人暮らしだろうが!ケジメのないことは、するんじゃない!」
「お父さん。わたしと新一は、真面目に付き合ってるの。お父さんが何て言ったって、わたしは今日、新一の家に行くから」
「……泊まったりしたら、もう金輪際、この家の敷居をまたがせねえからな!」
「あ、そ。分かった。じゃあ、わたし今日から、新一の家で暮らす」
「おい、ちょっと待て!」
「新一の家に泊ったら、毛利邸の敷居はまたがせないんでしょ?じゃあ、住む家がなくなるから、仕方がないじゃない」
「お前……その頑固さは、誰に似たんだ……?」
「お父さんとお母さんだよ」

 しれしれと言う蘭に、小五郎は溜息をついた。

「……わーった……もしヤツが手を出したら、俺んとこに挨拶に来る様にヤツに言え」
「分った。じゃあ、行ってきま?す!」

 小五郎は、打ちひしがれた気持ちになっていた。あの年頃の男女が止まらないことは、自分も通ってきた道なのでよく知っている。
 ただ、蘭は優しく素直な娘であるが、こうと決めたことは決して曲げない頑固な面も持っているし、妙に生真面目であるので、親に隠し事や誤魔化しをしようともしない。

「まあ、良くも悪くも、蘭は、オメーと俺の娘だな……」

 小五郎は、別居中の妻を思い浮かべて、独り言ちた。


   ☆☆☆


〜side新一〜

「ふう」

 一方、5月3日の工藤邸では。
 新一は、家の掃除をしていた。といっても、広い工藤邸、全部掃除をするのは無理なので、リビング・ダイニングと新一の私室、水回り位である。必要ないかもしれないが、お風呂も綺麗に掃除し、自分の部屋と客間のベッドシーツを替えた。
 今日と明日は、警察の要請に応じられない旨を伝えている。

 蘭は今日の夕方、家に来てくれることになっている。新一は昼間の内に、準備したお金を持って、ある店に出かけて行った。
 時間には充分余裕があった筈なのだが……悲しいかな、工藤新一は歩けば事件にあたる男、今日もしっかり殺人事件に出会ってしまったのだった。新一の方から「呼び出すな」と言って置きながら、新一から呼ばれることになってしまった目暮警部と高木刑事は、顔に汗を張りつかせていた。
 事件が解決し、予約していたものを購入したら、蘭との約束の時間ギリギリだった。急ぎ帰宅する。

 家に帰り着くと、玄関のドアは鍵が開いていて、蘭の靴が玄関の土間に揃えてあった。

「ごめん、蘭!予定より手間取っちまって!」
「あ、ううん。大丈夫よ、今が約束の時間だから」

 そう言って蘭は時計を指差し、にっこり笑った。

「ねえ、新一。今夜、泊めてね」
「お、おう……」

 新一は、頬が赤くなるのを感じながら、答えた。

 蘭はおそらく、今夜12時になると同時にハッピーバースデーを言ってくれる積りなのだろう。そのための「泊めて」であって、新一に全てを許してくれる積りだと期待してはいけないと、新一は自分を戒める。

 一緒にご飯を作って、一緒に食べて。お風呂の準備を始めてから、食器を洗った。
 先に蘭にお風呂に入らせる。風呂上がりの蘭は、ワンピースを着ていた。唇にリップを塗っているらしく、ツヤツヤしている。風呂上がりなのに今から出かけるのかと思わせるような格好をしていることを、いぶかしく思いながらも、新一は思わず生唾を飲み込んでしまっていた。

「そ、その……スゲー可愛いよ……」

 普段は言わないような言葉が新一の口から飛び出して、蘭は目を丸くした。

「新一がストレートに褒めてくれるなんて、明日は槍でも降るんじゃないの?」
「や、槍はさすがに、ひでえな……でも、何で?今から出かけるのか?」
「ち、違うよ……これはその……」

 蘭が赤くなって目を逸らし、新一は「お誕生日おめでとう」を言うための格好なのかと、理解した。
 それで新一も、風呂上がりに、いつもだったらジャージとか室内着を着るところだが、ワイシャツにスラックスといういで立ちにした。

「新一?何でそんな恰好?」
「いや……オメーに合わせてみた」

 リビングでテレビを見ながら、その時を待つ。二人ともソワソワしていて、正直、テレビ番組も殆ど見聞きしていなかった。

 リビングの時計が、12時を告げる。


「ハッピーバースデー!新一、18歳の誕生日、おめでとう!」

 蘭が言って、新一に包みを差し出した。

「お、おう……あ、ありがとな……」
「今日で成人だから、そろそろ、持ってた方が良いかもと思って……」

 蘭のプレゼントは、シルクの上質なネクタイだった。新一がちょうどワイシャツを着ていたので、実際に着けてみる。

「似合うよ、新一」
「蘭、ありがとう……」

 新一はネクタイをつけたまま、リビングの隅に置いていた紙袋を持って来た。紙袋から取り出したのは、赤い薔薇の花束だった。新一は、蘭に花束を差し出しながら、言った。

「蘭……いや、毛利蘭さん!オレ……ボクと、結婚してください!」
「えっ?」

 蘭は、目を丸くした。新一が真剣な眼差しで蘭を見ている。蘭は、混乱しながら、新一の顔と、花束とを、交互に見た。

「オレは、……実際はまだまだ半人前だけど、今日で一応大人の仲間入りだ。成人したら、蘭にプロポーズしようって……」
「し、新一……」

 蘭は、ようやく理解した。今までいつも自分の誕生日を忘れていた新一だったが、どうやら節目の年齢を迎える今年は、自分の誕生日を覚えていたようだ。

「わたしで、いいの?」
「オメーしか、いない。生涯、伴侶として、傍に居て欲しい!」
「……つつしんで、お受けします……」

 蘭は、泣きそうになるのをこらえて笑顔を作りながら、花束を受け取って、言った。

「蘭!」

 新一は蘭を抱き締め、深く長く口づけた。長い口づけの後、額を触れ合わせながら言った。

「蘭……ありがとう……」

 新一は、蘭の左手を取り、薬指に指輪をはめた。

「オレの今の経済力では、まだ仮の指輪だけど……」

 仮の指輪と言いながら、小さいが確かな輝きを放つダイヤのはまった指輪だった。

「サイズピッタリ……いつの間に?」
「オメーが寝てる時に指に糸を巻いて……」
「え?わたしが寝てる時って、いつ!?」
「オレがコナンだった時だよ」
「ええっ!?」
「元の姿に戻るのが誕生日に間に合ったら、誕生日にプロポーズしようって、ずっと思ってたから……」
「新一……」

 蘭が新一の胸に顔をうずめて抱き着いた。

「ねえ……新一がずっと忙しかったのって、もしかしてバイトでもしてた?」
「あ、ああ……オレは探偵業で報酬もらうの、高校卒業してからって決めてるし……だから配達のバイトを……」
「そっか……ありがとう……」

 新一が、上ずった声で言った。

「……そ、その、さ。そろそろ、寝よっか……」
「えッ!?」

 蘭が顔を上げると、新一は明後日の方を向いていた。

「あ、あの……客間のベッドに、新しいシーツを掛けてあっから……」
「新一……」
「うん?」
「あ、あのね、わたしね……」

 その後の蘭の言葉に、新一は耳まで真っ赤になった。


   ☆☆☆


〜毛利探偵事務所にて〜

 5月4日の夜。
 小五郎は、目の前のソファに、娘とその彼氏が座っているのを、苦虫を噛み潰したような顔で見ていた。

(俺は「もしヤツが手を出したら、俺んとこに挨拶に来る様にヤツに言え」と、言った。確かに、言った。けど、普通はそんなこと、親には誤魔化すもんだろうが……親も薄々分かっていながら、暗黙の了解ってヤツだろうが……けど、こいつらのこの生真面目さは、一体……俺はどうしたらいいんだ???)

「おじさん。高校卒業したら、蘭と……蘭さんと、結婚したいと思っています。どうか、お認めください!」

 そういって新一が頭を下げる。
 少しでも早く結婚したい新一と、簡単には許せない小五郎との攻防戦が、始まろうとしていた。


Fin.


++++++++++++++++++++++++++


〈後書き〉
 原作準拠のお話を書く時、映画の取り扱いをどうするかは、いつも悩むのですが、このお話は、映画第一作「摩天楼」のみ、あったこととしています。
 20年前、2002年、私はコナン二次創作を始めました。初書きは志保さんメインの「幸せな時間」です。次に書いた「Birthday Present」は、新蘭の処女作になります。
 このお話は、「Birthday Present」のリニューアルの積りで書きました。18歳になった新一君には、蘭ちゃんとの将来の約束こそが、最高のプレゼントであろうということが主題となっています。
戻る時はブラウザの「戻る」で。