君に会いたい



byドミ



(7)行ってらっしゃい、きっとこの腕の中にお帰りなさい



「長い間、お世話になりました。本当に、ありがとう」

わたしの目の前で、ふくよかな女性が頭を下げる。
コナン君の母親である、江戸川文代さん。
わたしはそれを、複雑な気持ちで見ていた。

声も、顔も、体型も、何もかも。
目の前のこの女性は、わたしが憧れたあの女性と、全然似ている所がないのに。
やっぱり、この女性は・・・。


「蘭姉ちゃん。お世話になりました」

コナン君が、殊勝気に頭を下げる。
彼のちょっと辛そうな表情は、あながち演技でもないだろうと、わたしは思う。

小さな彼の姿は、きっとこれで見納め。
わたしの目に、涙がにじむ。
でも、泣いちゃいけない。
約束だもの。

わたしは、屈み込んで、コナン君を抱き締めた。

「ら、蘭姉ちゃん?」
「コナン・・・くん・・・」

彼が本来の姿であれば、こういう事も出来ない。
中身が一緒と分かっていても、コナン君が相手だと、自然に出来る事が、不思議。


「蘭姉ちゃん。さよ・・・」
「言わないで!」


コナン君が言いかけた言葉を、わたしは思わず遮っていた。

「蘭姉ちゃん?」
「言わないで、お願い・・・」

わたしは、コナン君を強く抱き締め。
コナン君は戸惑ったように、わたしの背中に小さな手を回した。


言わないで。
その言葉は、言わないで。

だって。
また、会えるから。
絶対また、会えるんだから。

だから、言わないで。


わたしは、彼に見られないよう、そっと涙を拭いて、抱き締めている手を離した。
そして、再び彼と向き合う。


コナン君が心配そうにわたしを見詰める。

わたしはそっと手を伸ばして、彼の眼鏡を取った。


「ら、蘭姉ちゃん!?」

眼鏡越しではない彼の蒼い眼は、本来の彼の眼と同じ。
わたしは、精一杯の笑顔を作った。


「行ってらっしゃい」
「えっ?」
「待ってるから」


コナン君が、目を大きく見開いた。
そして、ふっと笑う。
わたしがよく知る表情。
優しく、わたしを見る眼差し。


「行って来ます」


そう言って、彼は手を振り、わたしに背中を向けて去って行った。
わたしの手に、彼の眼鏡が残る。


次に会う時は、あなたの本来の姿で。


行ってらっしゃい。
そして。
きっと、この腕の中にお帰りなさい。




Fin.



お題提供「as far as I know(わたしのしるかぎりでは)」


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