2004年工藤新一お誕生日記念小説〜4〜

かけがえのない日




byドミ



〜side Shin-ichi〜



俺は道に立って蘭の部屋の窓を見上げた。
まだ、灯がついている。
って事は、蘭は起きてるな。
今日日、夜中の12時にもう寝ているやつなんて少ないと思うけど、そして受験勉強が本格的になって来た今の時期、受験生である蘭がもう寝てるなんて尚更考えられないけど、一応電話をかける前に蘭が起きているのか確認しようと思ったのだ。

時計を確認して、12時になったのと同時に俺は携帯の短縮番号を押した。


『もしもし、新一?』

蘭の透き通った可愛い声がスピーカーから聞こえて来た。

「18歳の誕生日おめでとう、蘭」

俺の声に蘭が息を呑むのが分かる。

『新一・・・覚えててくれたの?』
「ああ。その日が近付くとオメーがいっつもそわそわしてっからよ、探偵の性として気付かねーわけにはいかねーだろ」
『もお!そんな事言うんだったら、プレゼント何にするか、もう考えてんでしょうね!?』

俺は一瞬言葉に詰まる。

こんな時に、何故素直な言葉が出ないのだろうと俺は自分で自分を恨めしく思う。
蘭の誕生日は一度も忘れた事がない、忘れる筈など・・・ない。

勿論、蘭への誕生日プレゼントは準備している。
けれど、蘭が自分の誕生日にくれたものがあまりにも大きな贈り物だったので、それ以上のものは決して贈る事など出来ないとも思う。

蘭は、何を贈ってもきっと喜んでくれだろう事はわかっている。
蘭とは、そういう娘なのだ。


俺が言葉に詰まっていると、電話の向こうからおずおずとした声が聞こえてきた。

『新一?ごめんね、プレゼントなんて言って・・・私は、新一が私の誕生日を忘れずに居てくれただけで嬉しいから・・・だから・・・』

俺・・・何蘭を不安にさせてんだ。
しっかりしろ、工藤新一!

「バーロ。何呆けた事言ってんだよ?」
『だ、だって・・・新一、忙しいし、そんな暇なかったんでしょう?』

俺はガクッと脱力し、慌てて体勢を立て直す。
なんだかなあ、蘭に全く信用ねえな、俺。
ったく、情けねえったらありゃしねえ。
今までの行いが悪い所為と言われりゃ、それまでなんだけどよ。



俺は、生まれてこの方・・・いや流石に2、3歳頃までは無理だと思うが、蘭の誕生日を忘れた事はない。
蘭にだって、わかっている筈・・・あ、いや、そうでもねえか。
俺、ちゃんと覚えてるのに結構忘れた振りしてっからよ。



俺自身の誕生日をいっつも忘れてんのは事実で、毎年蘭に思い出させてもらってる。
けど今年は「最高に嬉しい」プレゼント付だったから、来年以降きっと俺は、5月4日が何の日か思い出す事だろう。
蘭に取ってどうかは分らねえが、俺に取っては、事実上蘭を俺の嫁さんにした日、だからな。

責任取るとか何とか、そんな事じゃなく。
戸籍上の手続きとかそんなのは勿論まだ数年先の事だろうし、一緒に生活もしてねえし、世間に認められた訳でもない。
今時は、殆どの奴が、あの行為と結婚を切り離して考えてるのも勿論分っている。

けれど、俺に取ってあの晩の事は、神聖な2人だけの儀式だった。

そう思うのは俺の自己満足で、ただ欲望を満足させただけだろうと言われればそれまでだけど。

でも、これだけははっきりしている。
俺は、蘭を一生離さない。
決して離すつもりはない。




俺のポケットの中では、ビロード張りの小さな箱が出番を待っていた。











〜side Ran〜



12時になった途端に新一から電話があって、私は正直驚いた。
ついつい素直になれなくて、新一にはあんな事を言っちゃったけど、新一ってば意地悪く知らん振りをしながら、毎年私の誕生日にはちゃんと忘れずにお祝いをしてくれた。
でも、まさか12時になるのを待ち構えてくれてたなんて、嬉し過ぎて何も考えられない。

新一は自分の誕生日は毎年本当に忘れてるくせに、何で私の誕生日は毎年覚えててくれてるんだろうって、私はとても不思議だった。
でも、それを新一に言えば、いっつも新一は、「オメーがそわそわしてっから、俺の探偵としての勘でな」と言って、誤魔化してた。

新一も私の事を好きで居てくれてるって分る前は、新一の言葉を額面通り受け取ってた。
でも今はちゃんと分ってる。
新一は、私の誕生日を大切な日だって思っててくれてたんだって。


新一は、クリスマスやバレンタインデーやホワイトデーなんかの記念日を、本当はすごく大切にしてくれてるんだって事、私が気付いたのはほんの最近の事だ。
だって新一ったら、いつもすごく用意周到に、まるで知らない振りしてたんだもん。

私の前から姿を消していた、高校2年生のあの日々。
新一はやっぱりバレンタインデーも分ってないのかって思ってたけど、実はちゃんと分っててあのチョコを食べちゃったんだと知ったのは、新一が帰って来て随分経った後の事だった。



実は前に新一に訊いてみた事がある。
新一は物凄く物覚えが良いのに、普通だったら誰もが知ってるような事も知らなかったり忘れてたりするのは何でかって。
すると新一は、尊敬するホームズと一緒なんだって笑ってた。
覚えなきゃいけない事が多いので、頭の容量を確保する為に、どうでもいい事は忘れる事にしてるんだって。

その時は、やはり新一に取って色々なイベントの日はどうでも良い事なのかと悲しかったけれど。

実は、イベントの日でも「ちゃんと覚えてて知らない振りしてる」日と、「本当に忘れてる」日があるのに私が気付いたのは、新一と恋人同士になった後の事。
自分でも、本当に鈍かったなあって思うけど。
でも、新一って、本当に上手に忘れた振りしてるんだもん、女優のお母様譲りのすっごい演技力なんだもん!

で、実は新一、私の誕生日とか、クリスマスとかバレンタインデーとかホワイトデーとか、「私に取って大切」と思える日は、ちゃんと全て覚えててくれてたのよね。
大体、男性は女性より「記念日」というのに重きを置かないものだって聞く。
けれど新一に取っては、「私に絡む記念日」がとっても大切だったのらしい。
と言うより、「この日を忘れたら私が悲しむだろう」と新一が判断している記念日は覚えているのだと言う事が、私に分ったのは、ここ最近の事。

今になったら、本当によくわかる。
毎年さり気にプレゼントもちゃんと準備されてたしね。

もう本当に新一ってば・・・私、自惚れでも何でもなく、新一に大切に思われてたんだなあって思うと、すごく幸せだった。



でも、新一自身の誕生日は・・・新一に取って「どうでもいい日」であったらしい。
私に取ってはどうでもいい日なんかじゃないんだけど。
とっても大切な日なんですけど。



新一の誕生日に、私は新一の家に泊まり、初めて・・・新一と肌を重ねた。
他の人が聞いたら、「彼氏の誕生日にバージンをプレゼントしたのね」って言われるだろう。
でも、それは違うの。
大切にしてたバージンを新一にあげた、とか捧げた、とか、そんなんじゃないの。

だって私は、とうの昔に丸ごと新一のものなんだもん。
それに・・・新一が私の事、本当に大切に思ってくれてたんだって分ったから、私の方も新一をどんなに大切に思っているか、新一がこの世に生まれて来てくれたその日に、伝えたかったんだもん。



新一とひとつになれた事がとても幸せ。
この先もしも新一が私の元から去る事があったとしても、私は新一とそうなった事を決して後悔なんかしない。

でも、出来る事なら、ずっとずっと、新一と一緒に歩いて行きたいって思う。



新一、知ってる?
私の誕生日が、私に取って何故大切なのか。

その日私がこの世に生まれてきたから、新一に巡り会えた。
だから、大切な日なのよ。

この日私が生まれて来たから、数日前に生まれた新一と生まれてすぐに巡り会って、幼馴染としてずっと一緒の時間を過ごす事が出来たんだもん。





そして私はその日の夕方、新一から「将来の約束」という大きなものを、贈られる事になる。




Fin.



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(4)「かけがえのない日」後書き


う〜む。
最初は新一くん視点でのみのお話にする予定だったのに、それだと果てしなく暴走しそうになったので無理にぶった切り、蘭ちゃん視点に切り替えました。
おかげでテーマがちょいぼけてしまった様な気がしますが、まあいいか。

いまだに明らかにされてない蘭ちゃんの誕生日ですが、映画の第1作から考えるなら、5月中旬頃かなあ?



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