2004年工藤新一お誕生日記念小説〜5〜

工藤新一の優雅(?)な1日




byドミ



(1)5月4日以前の朝



目覚ましの音が鳴った。

工藤新一は、手を伸ばして目覚し時計を止めると、起き上がる。
時刻は6時半を指していた。

帝丹高校は新一の家から近いので、起きるのがずっと遅くても全く大丈夫なのだが、今朝は読みたい本があったのだ。

コーヒーメーカーをセットし、トースターにパンを入れる。

新一は、一応料理は作れると言っても、流石に朝っぱらからオムレツ作ったりサラダを作ったりしようとは思わない。

「パンとコーヒーだけなんて、良くないよ。朝はもっときちんとしたもの食べなくちゃ」

幼馴染兼恋人の毛利蘭からそう言われた時、新一はついつい、

「いや、朝ごはんをきちんと食べた方が良いというのも最近は別の説が有力になっててな・・・」

と薀蓄をかたむけて、怒らせてしまった事がある。

残念ながら、蘭と朝を一緒に迎えるという関係にはまだなっていないので、弁当や夕御飯ならともかく、朝御飯を作って貰った事はない。



昨夜読んだ推理小説の新刊を、もう1度読み返す。
新一は、推理小説を1冊読むのに夜更かしした事はない。

いや・・・実はコナンだった頃には結構夜更かしして読んでいた。
何故ならば、流石に蘭や小五郎の目の前で小学校1年生には難し過ぎる本を読むのは憚られたので、勢い、小五郎が眠ってから読む羽目になっていたのだ。
けれど今は誰憚る事無く好きな本を読めるので、速読が出来、新刊1冊を読むのに1時間と掛からない新一は、「本を読む為だけに」夜更かしをする必要は全くない。

蘭や級友達からは、推理小説の新刊をその日の内に読んでしまえるだけでも脅威の目で見られる。
夜読んでしまい、朝また読み返すなど、更に信じられないだろう。



「新一、おはよう〜。起きてる〜?」

いつものごとく、蘭が迎えに来てくれた。

以前だったら、門の外で待っていた幼馴染は、今は玄関に入って待つ恋人へと変わっている。
新一は蘭の為に、朝起きたらまず玄関の鍵を開けるのだ。
もっとも、新一の気遣いなどまるで気付いてくれない蘭は、

「また鍵開けっ放し!もう、無用心ね!」

と言いながら入って来るのだが。

「新一〜、まだ身支度出来てないの〜?もう、相変わらずなんだから!」
「っせーな、まだ時間があんだから、構わねえだろ?」

確かに、蘭は凄い。
空手部の朝練がない日は、朝早く起きてある程度家事をこなし朝食の準備をして食べた後に工藤邸に来るのだが、その時点でまだかなり時間の余裕があるのだ。

しかし新一とて、蘭には敵わないものの、普通の男子高校生から見たら信じられない位に、きちんと身の回りの事は出来ている方だ。
御飯は自分で作って食べる事が多い。
新一は1人暮らしも長い分、手馴れているので結構手早く料理を作れる。
もっとも、普段手の込んだ事は出来ないので、簡単なものばかりになってしまうが。
蘭が来た時は作ってくれるが、蘭も部活や自分の家の家事があり、そうそういつもと言うわけにはいかない。
けれど、一応「恋人同士」になってからは、以前より夕御飯を作ってくれる事が多くなった。
新一のもっぱらの目標は、蘭と「朝ご飯を作ってもらうor一緒に作る仲」になる事である。

以前は、時に隣の阿笠博士が御飯を作ってくれた事もあった。
けれど、正直新一が作ってあげていた事の方が多いかも知れない。
阿笠博士は新一より1人暮らし歴が長いが、料理は得意とは言い難いのである。

今は、阿笠博士の元には養女になった阿笠(宮野)志保が居る為、博士と2人で晩御飯という図式はなくなった。
時に志保が作った料理のお裾分けが来たり、蘭が作った料理が阿笠邸に行ったりする事はあるが。


馬鹿でか過ぎる工藤邸は、新一の手には余るので放置されていて近所からは「お化け屋敷」と呼ばれているが、新一が普段使うあたりは結構綺麗に整えられている。
高校生男子ともなれば自分の部屋さえもろくに掃除しない者が多い中で、新一はまだマメな方なのである。



しかし蘭は、幸か不幸か、幼馴染としてでも他の男性と付き合った経験がない為、朝、自力で起きられる男子高校生は意外と少ない事すら知らない。



そして、新一は蘭と一緒に登校する。
クラスメートからは相変わらず「夫婦揃っての登校」とからかわれるが、新一は不機嫌に「んなんじゃねえよ」と返していた。

新一が「早く本当の夫婦になりたい」と思いながら不機嫌になっているとは、流石のクラスメート達も当の蘭も知らない事実であったのだった。








(2)5月4日以降の朝



「蘭、おはよう」

蘭が眠りの淵から出て来た時、新一は既に起きていて蘭を深い色の眼差しで見詰めていた。

「え?新一、今何時!?」

蘭は慌てて身を起こそうとしたが、視界に時計が入り、まだ充分時間がある事を知る。


蘭が時々新一の家に泊まるようになってから、幾度もこんな朝を迎えていた。
新一は大抵いつも蘭より先に目覚めていた。

「新一、私朝ご飯の支度を・・・」

そう言ってベッドから抜け出そうとした蘭だったが、新一に腕を掴まれ、阻まれてしまった。
そして新一は蘭の上に覆い被さって来る。

「ちょちょちょっとっ・・・!新一、朝っぱらから、何するのよっ!」
「朝飯はいらない。蘭が食べたい」
「・・・・・・っ!!」

こういう時、蘭はいつも抵抗を試みるが、最後まで抵抗出来たためしはなかった。




「おはよう、蘭」

蘭が新一と共に登校してくると、早速親友の鈴木園子が声を掛けて来た。

「ああ、園子、おはよう」
「今日はギリギリだったねー、寝坊したの?」
「寝坊したわけじゃないけど」

蘭が溜息混じりにそう言うと、園子の顔ににやりとした笑いが浮かんだ。
付き合いの長い蘭の親友は、時々妙に鋭いのだ。


午前中、蘭のお腹がぐうと鳴った。
聞こえたのは周囲の2、3人位であろうが、恥ずかしさに蘭は真っ赤になる。


そして昼休み。
蘭は屋上で、園子達とご飯を食べていた。
蘭の昼御飯は、いつもは手作りの弁当なのだが、今日は購買で買って来たパンである。

「ら〜ん、昨夜夜更かししたんでしょう?」

園子がニヤニヤしながらそう言った。

「夜更かしなんか、してないもん・・・」

蘭はそれだけ言って俯いた。

正確には、昨夜夜更かししたのかどうか、何時に寝たのかさえわかっていない。

ただ、少なくとも朝寝坊はしていない事は確かなのであるが・・・。

朝、結構早い時間に目が覚めていたのは確かだった。
けれど身支度するのが精一杯で、朝ご飯も弁当も、作る暇がなかったのである。



学校にいる間は左の薬指から外し、ペンダントにして蘭の胸にかけてあるものが、今朝の名残のように熱を持っていた。

『もう!いっつも新一の方が先に目が覚めてるから、逃げられないんだもん・・・』

そう思って蘭は溜息を吐いた。
実は1番困るのは、それを嫌だと思っていない自分自身であったのだが。





どんな時でも高校生探偵・工藤新一の朝は、他の男子高校生よりも早いのであった。




Fin.



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(5)「工藤新一の優雅(?)な1日」後書き


「1日」というタイトルながら、実は朝の風景だけだったり(汗)。
(2)は蛇足ですね、すみません。
裏じゃないっつーのに(爆)、まったく。
でも蘭ちゃんとの甘甘な朝を書きたかったんです〜。

そして最後の一文は、結構自分としては気に入ってます。


「2004年新一(コナン)くん誕生日企画」のお話は、これで全て終わりです。
今後、同じ設定で書く事があるかどうかは、今のところ未定です。

読んで頂いた方、ありがとうございました。



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