チョコより甘いもの ｂｙドミ 「あ……青子のチョコが欲しいんだったら、他の女の子のチョコは、もらわないでくれる？」 玉砕の積りで、言った。 女の子はみんな大好きな快斗が、青子なんかのために、他の女の子たちのチョコを断るなんて、有り得ない。 だって。 去年、あんなに綺麗で男子たちからもてもての紅子ちゃんが、 「私のチョコが欲しければ、ほかのチョコを捨てるのね」 って言ったら、あっさり 「じゃあ…いらねえよっ」 って返したくらいだもの。 青子のこと、いっつもお子様お子様ってバカにするけど、快斗だって、まだ恋も知らないお子様なんじゃない。 ……でも、いつか、快斗も誰かに恋をして。 青子のことなんか、どうでも良くなってしまうのかな……。 卒業式目前のバレンタインデー。 青子は、玉砕覚悟で快斗にチョコを差し出しながら言ったのだ。 「あ……青子のチョコが欲しいんだったら、他の女の子のチョコは、もらわないでくれる？」 きっと、快斗は、去年と同じく 「じゃあいらねえよっ！」 って、あっさり去っていくだろう。 快斗は、じっと青子の方を見ていた。 早くしてよ。 でないと、でないと……青子は……。 下を向いて目をつぶり、涙が零れ落ちるのを必死で我慢する。 お願いだから、早く言って！ 突然、何かが青子の顎をクイッと上げた。 快斗が青子の顎に手を掛け上向かせ、青子の顔を覗き込んでいる。 「青子のチョコ１個と、他の女の子たちの沢山のチョコ？それじゃ、割に合わねーじゃん」 そうよね。 そりゃ、そうよね。 分かってる。 分かってるわ。 だ、だから、早く言って！ 「だから。青子が、チョコより甘いもんをくれるってんなら、考えてやっても良いぜ？」 「ちょ、チョコより、甘いもの……？」 青子は、涙が止まって、目をパチクリさせた。 快斗の蒼い眼差しが真っ直ぐに青子を射抜く。 「チョコより甘いもの。くれるよな？」 「え……？って、一体、何を……？」 突然、快斗の顔が近づいて。 何が何だか分からない内に……。 いつの間にか目を閉じた青子の唇が、何かで塞がれた。 ええっ!? 快斗が、青子に、キスしてる!? 「ムグッ！ン〜ッ！ン〜ッ！」 唇を塞がれた青子は息ができなくて、快斗の胸をドンドンと叩いた。 少し経って、ようやく解放されて、青子は大きく息をした。 「うっしっし。柔らかくて甘かったぜ。青子の唇」 「バ快斗〜ッ！返せ、青子のファーストキス〜〜〜!!」 思わず快斗にモップを振り下ろそうとしたら、また唇が塞がれた。 「こ、こんなの……！青子の方が割に合わない〜〜〜ッ!!」 暴れようとするとまた唇が塞がれるので、5回目で青子も観念して大人しくなった。 「ずるい〜。こんなの、チョコレートの代わりじゃ引き合わない〜〜！」 「まあまあ、アホ子。そん代わり、ホワイトデーには三倍どころか十倍返しくらいしてやっからな」 きょ、去年までは、バレンタインデーのことすらまともに知らなかったクセに！ 何がホワイトデーの１０倍返しよ！ 嫌な予感がして、恐る恐る言った。 「5、5回のキスの１０倍返しで、50回のキスとか……？」 「まさかあ」 笑う快斗から真っ黒いオーラが立ち上っているように見えたのは、気のせい？ 　　　☆☆☆ 一連の出来事は、放課後、教室での出来事だったので。 誰もいないと思っていたのに、見た人がいたらしく。 2月15日の朝、青子と快斗は、クラスメートたちの巨大薬玉の祝福（?）を受けた。 そして、ホワイトデーが明けた３月１５日。 「これでオレ達夫婦だなっ♪」 さわやかに歯をきらめかせながら言ってのけた快斗がそこにいた。 青子は、全身の筋肉痛と下腹部の痛みで、何を言う気力もなかった。 玉砕覚悟でバレンタインデーのチョコを渡そうとした筈が、何でこんな事になってしまったのか？ 快斗は肝心の言葉もちゃんと言ってくれたし、嬉しくて幸せなんだけど。 青子は、何だかうまくハメられたような気がして、割り切れない思いもしていたのだった。 Fin. ＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋ 映画の「あごくい」ネタを目にして、何だか無性に書きたくなって書いたお話です。 キッドから蘭ちゃんへのあごくいは絶対にヤダ！と思って快青にしたものです。 脱稿日を見たらわかるように、昨年10月に書き、支部にアップしていました。 中身はバレンタインデーのお話なので、エースヘヴンでは季節に合わせてアップ。 ちなみに、「チョコより甘いもの」というタイトルは、「THE SALAD DAYs」同人誌版の中で使っています。 そちらの「チョコより甘いもの」も、まじっく快斗の住人たちが中心のお話で、快青編と白紅編があり、どちらもアダルトなお話です。 こっちのお話も、最終的にはアダルトなんですが、ま、朝チュンなんで、表でも大丈夫でしょう。 支部アップの時は敢えて「快青編」とつけましたが、エースヘヴンにアップするに当たり、「快青編」は外しました。 多分、名探偵コナン世界の住人たちのお話では、「チョコより甘いもの」というタイトルにはしないと思います。 このタイトルは、「快斗君が甘いもの好き」ということがベースになっているので。 2018年10月9日脱稿

戻る時はブラウザの「戻る」で。