巡り会える日



by ドミ



俺はあの時、あいつに会うつもりはなかった。

俺は、運命なんて信じない。
けれど、あの時の邂逅は、何かの力が働いていたような気がする。

コナンを探していたあいつが玉龍寺までたどり着き、日本刀を持った手練の奴等の中に何も知らずに飛び込んで来ようとするのを止めない訳にはいかなかったし、その際に顔を見られてしまうのを防ぐ術も無かった。

思い掛けない場所で出会った俺に、あいつは――

詰るでもなく、問い質すでもなく、

「どうしたの、汗びっしょりじゃない」

と、ハンカチを取り出して俺の額の汗を拭ったのだった。

そういうやつだよな、おめーはよ。

おめーのそういった姿を見る度に、俺は、

「絶対に、工藤新一としてお前の元に戻る」

そう・・・思うんだ。


倒れた服部の為に、俺は工藤新一の姿に戻って玉龍寺に向かった。
けど、「風邪症状を引き起こす薬」の上に強い酒である白乾児(パイカル)なんて飲んでるもんだから、思うように体が動かねえ。
でなきゃ――刀を扱うのはそりゃあ敵わないにしてもよ、キック力とフットワークと身のこなしでまだ何とか手はあったに違いねーんだ。

それが、助ける筈の服部に逆に助けられるなんて・・・

はは・・・情けねーよな。


結局服部は病院を抜け出して来てた訳だし、俺、一体何の為に無理して工藤新一の姿に戻ったんだか。

あいつに・・・会える訳でもねーのに。



結局、きちんとした解毒剤で無けりゃあ、ものの役には立たねーって事だよな。
薬が切れてコナンの姿に戻ると同時に体調も元に戻り、色々と服部のサポートも出来た訳だけど、コナンの姿での方が役に立ったなんて、ほんと、情けねー。



あいつとの束の間の出会い――

けど、俺の体は再び変化しようとしている。

俺は、あいつを眠らせるしかなかった。



心臓が大きく脈打ち、骨がきしみ溶ける様な感覚が襲う。
俺は、腕の中で眠るあいつに縋り付く様に、力の限り抱き締めていた。



蘭、蘭、蘭――――!!





   ☆☆☆





あれは、夢じゃなかったのね。

私は、ドーランで黒く染まったハンカチを見て、息を呑んだ。

夢じゃなく、幻でもなく、たった一瞬でもあなたに会えた。
確かにそこに居たって事が、とても嬉しい、とても幸せ。

あなたが戻って来るまで、私は待っている。
待つのは、切ないけど、泣きたくなるけど、でも、嫌いじゃない。



あの時、レストラン「アルセーヌ」で・・・。

私は、

「何が『待っててくれ』よ、私、あんたのお母さんじゃないんだからね!」

って悪態をついたけど、でもね、本当はね、私――、

「待ってて欲しいんだ」

って言葉、すっごく嬉しかったんだよ。


私は待ってて良いんだよね?
あなたがそう言ってくれたって事は、間違いなく私の所に戻って来てくれるんだよね?



ずっとずっと、当たり前のように傍に居たのに、何も言わずに、ある日突然居なくなってしまった。
それがどんなに辛かったかなんて、とても言葉では言い表せない。

でも、その分、思いがけずに会えた時には、どんなに嬉しかったかわからない。

いつもすぐにまた行っちゃうから、それはそれで悲しいんだけど・・・でも、ちょっとの間でも、会えないよりは、ずっとずっと幸せだもの。



ねえ、今回は、服部くんの危機に駆け付けて来たんだよね?
ちょっとだけ、妬けるかな。
でも、私が危険な目に遭って助けが必要な時にだって、きっときっと、来てくれるよね。



私、待つのは嫌いじゃないよ。

いつの日か、約束を果たしてあなたが本当に戻って来てくれた時、私、きっともの凄く幸せだろうな。
多分、涙は止められないと思うけど、飛び切りの笑顔を作ってあなたに言いたい。


「新一、お帰りなさい!」


って。





   ☆☆☆





今年も桜の季節が巡って来る。
京都の外れ――数年前に廃寺となった玉龍寺に、佇む男女が居た。

「大丈夫か、こんなとこまで登って来て。大体、本当は旅行も控えた方が良いんだろ?今日は大阪で大人しくしてた方が良かったんじゃねーか?」

男は手を引いている相手を心配そうに振り返る。

「ふふ、心配性ね。大丈夫よ、ちゃんとお医者様とも相談しながら無理しないようにしてるんだから」

女が柔らかな微笑を男に返す。

「どうしても桜の時期に、ここにもう一度来てみたかったんだ。多分来年以降は暫らくそんな余裕ないだろうしね」

そう言って微笑む女を、男はちょっとだけ切なそうな瞳で見詰めた。



廃寺となって荒れ果てている建物を、2人は懐かしそうに振り仰ぐ。

「あれから、6年か・・・服部と和葉ちゃんも、今頃あの時の事思い返してるかも知れねーな」
「ふふ・・・きっとそうね。和葉ちゃんも初恋が実って明日いよいよ・・・本当に良かった。でも、服部くんの初恋って、和葉ちゃんじゃなかったんだよね?」
「ああ、それは・・・1494年後に服部の口から明らかにされるんじゃねーのか?」
「何よそれ?」
「さあな・・・おい!お願いだから蹴り技だけは止めろ、そんな事したら・・・!」
「もう・・・!馬鹿!その位わかってますよーだ!」

大きな石に腰掛けて休憩している女の、かなり膨らんだお腹を撫でて、男が言った。

「待ち遠しいな、会えるのが」
「うん。でも私、待つのは嫌いじゃないよ。待った分、会えた時は嬉しいもん」


この2人が、まだ見ぬ愛しい相手と巡り会える日は、そう遠い事ではない。



Fin.



+++++++++++++++++++++++++++


今年の映画は、新蘭的には不満と言われる方が多かったようですが、私にとってはそれなりに満足いくものでした。

映画をネタに何か書きたい・・・と思ったものの、それぞれの心情を私なりに綴ってみただけで、なんら独自のお話にはなっていません。(最後の部分は、一応そうでしょうけど、蛇足のような気もするし)

おまけに代名詞ばかりで訳のわからぬお話になってしまいました(汗)意味がわからないという方が居られたら、ごめんなさい。

戻る時はブラウザの「戻る」で。