逆鱗



byドミ



〜side Ran〜


「ごめんなさいっ!」

ある日の昼休み。

帝丹高校体育館裏にて頭を下げているのは、この帝丹高校でも1、2を争う美少女・毛利蘭である。
その向かい側で困ったような顔をして立っているのは、同じ帝丹高校の男子生徒。
ルックスは並以上で女生徒に結構もてるであろうと思われる。
やや幼い顔立ちは、まだ高校1年生位であろうか。


「気持ちは嬉しいけど、あなたとは付き合えないわ」

蘭の言葉にその男子生徒は言った。

「毛利先輩、やっぱり工藤先輩と正式に付き合い出したっていう噂、本当なんですか?」
「ええ。だから・・・ごめんなさい」
「工藤先輩なんか、どこが良いんですか!?」
「え・・・?」
「毛利先輩、人が良いにも程がありますよ。ずっと工藤先輩に引っ付かれてて、他の男が見えなくなってるのかも知れないけど、もっと広く目を向けた方が良いですよ」
「・・・・・・」
「日本警察の救世主だか何だか知りませんが、ちょっと天狗になり過ぎてないかなあ。傍にも居なかったくせに毛利先輩を縛り付けて、横暴ですよ。俺だったら、ずっと毛利先輩のそばに居るのに」

男子生徒は忌々しそうにそう言った。

それまで黙って聞いていた蘭が顔を上げる。
その表情は滅多に見られない怒りに満ちたものだった。

「・・・言いたい事はそれだけ?」
「は?」
「ずっと私の傍に引っ付いているだけの男の、どこが良いの?」
「え!?」

「新一はね、誰にも真似できない仕事をやってるの。まだ高校生なのに、警察にも頼られるような立派な仕事をしてるんだよ。そりゃあ、寂しいと思う時もあるけど、私、そんな凄い人の彼女になれたんだって事、とっても誇りに思ってるよ」
「だけど、工藤先輩はこの前復学するまで数ヶ月間も、毛利先輩の事ほったらかしてたじゃないですか!」
「ほったらかしなんかじゃなかった。ちゃんと連絡はくれてたし。それにね、新一が巻き込まれた事件は、生易しいものじゃなかったの。新一が関わらなかったら、この先もきっと解決されないような大きな事件。新一が居たからこそ、解決されたのよ」
「毛利先輩・・・」
「私は新一が好き。新一以外の人は絶対好きにならない。それに、たとえ・・・新一が私を選んでくれなかったとしても、間違ってもあなたを好きになる事だけはないと思う。それじゃ」

そう言って蘭は去り、後に残された男子生徒は、放心したように立ち尽くしていた。



  ☆☆☆



〜side Shin-ichi〜


「わりぃ。俺、彼女居るから。君とは付き合えねーよ」

ある日の昼休み。

帝丹高校中庭にて、そうあっさりと言い放ったのは、帝丹高校の誇る高校生名探偵の工藤新一である。
天は2物を与えずというが、この男、何故かルックスの良さや運動神経も併せ持っている。

その新一と向かい合っているのは帝丹高校の女生徒である。
客観的に見ればかなりの美人で、帝丹高校にはコンテストはないが、もしあれば蘭と張り合って結構良いところまで行けるのではないかと思われる。

「工藤先輩ってぇ、やっぱりぃ、毛利先輩と付き合ってるんですかぁ?」
「ああ、そうだよ」
「毛利先輩ってぇ、一体どこが良いんですかぁ?」
「何っ!?」
「だってぇ、見た目は可愛いかも知れないけどぉ、空手とかしてて本当はとっても強いじゃないですかぁ。なのにぃ、男の人の前では、丸っきり態度が違うんですねぇ。み〜んなあの人の上辺の姿にぃ、騙されてるんだからぁ」
「言いたい事はそれだけか!?」

新一の低い声に、流石にその女生徒はおびえて後退る。

「本当の事言っただけなのにぃ、何で怒るんですかぁ?」

女生徒は目に涙を溜めて言った。
しかし、新一は全くそれに動じる事無く、いつものフェミニストの仮面をかなぐり捨てて冷たい声で言った。

「オメーなんかに何がわかるよ?あいつはな、人の事でも自分の事のように思って泣いちまうお人好しなんだ。あいつの優しさは、ずっと傍で見て来た俺が1番よく知っている。俺はな、あいつの上辺だけに惚れてるんじゃねえんだ。俺には過ぎた女だと思ってる、あいつが俺を選んでくれて、嬉しいのはこっちの方なんだよ!」
「・・・・・・」
「俺は蘭しか愛せない。それに、どう間違っても、あんたを選ぶ事だけは金輪際有り得ねえよ。じゃあな」

そう言って新一は去り、後に残された女生徒は、放心したように立ち尽くしていた。



   ☆☆☆



帝丹高校2年B組の、ある日の昼休み。
蘭と新一はいつもの如く2人連れ立って屋上に弁当を食べに行っていた。

蘭の親友である鈴木園子は、今日は2人の邪魔はせずに、他のクラスメートと弁当を食べていた。

「ねえねえ園子。最近蘭に振られた空手部の1年男子と、工藤くんに振られた1年女子が、魂が抜かれたように燃え尽きて灰になってるって話、知ってる?」

2年B組のクラスメート女子の1人が言い、別の女子がそれに返す。

「あの2人にちょっかい出すなんて、恐いもの知らずねえ。でも、振られるのはいつ
もの事じゃない。灰になるなんて、何かあったの?」
「ああ。あの2人は、蘭と新一くんの逆鱗に触れたからねえ」

何故か一部始終を見ていた園子は、すました顔でそう言って、ストローを口に咥え牛乳を飲んだ。



Fin.



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<後書き>

蘭ちゃんオンリーの前後のイベントや通販で、ペーパー(サークル情報)と共に無料配布したショートショートです。
新一くんは勿論、普段は優しい蘭ちゃんも、これを言われたら流石に怒るんじゃないかと想像して書きました。

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