反省はしても後悔はしない



byドミ



「オレは、自分の迂闊さでコナンになったこと、反省はしても後悔はしねえよ」

 突然、蘭の隣にいた新一が、言った。

 工藤新一が自分本来の姿を取り戻して、蘭のもとに戻った後、全てを告白した。蘭は、泣きながら新一を詰ったが、最終的には許してくれた。(ただし、お風呂に一緒に入っていた件については、許してもらえないままである)

 色々忙しい中で、ようやく2人でゆっくりデートをして。東都タワー展望台から、蘭が望遠鏡を覗いているときに、唐突に新一が言ったのだった。
 蘭は驚いたように、新一の方を見た。新一は、真剣な眼差しで蘭を見ていた。

「……まあ、いつも前向きな新一らしい言葉だよね。どんな経験だって無駄じゃないって思うんでしょ?」
「……それだけのことじゃねえけどな……ま、そういうことにしておくか」
「何よ一体!?」

 蘭がプッと頬を膨らませた。頬を膨らませた顔も可愛いと、新一は思う。どんな表情の蘭も可愛い。けれど、新一を虜にした笑顔が、やっぱり一番だ。口に出して言いはしないけれど。

 もしも新一がコナンになっていなかったら。その時、あの事件は一体どうなっただろうかと、時々頭をかすめることがある。
 新一のままであれば、すんなりとかかわらせてもらえ、スムーズに解決できた事件も多かったかもしれないが。コナンになってしまったがために、蘭を巻き込んでしまった事件も多々あった。けれど、コナンになっていたがために同行が許され、蘭や園子を守ることが出来たケースも、あった。

 たらればは、言っても仕方がないことだ。コナンにならなければどうだったのか、それは時を巻き戻すことでしか検証できない。であれば、クヨクヨ考えても、仕方のないことだ。

 けれど、コナンになろうがなるまいが確実に起きたであろう事件の中で、コナンだったからこそ蘭を守り得たと思えるものが、一つある。東都タワーに来た今日この日は、11月7日。1年前、東都タワーと帝丹高校に爆弾が仕掛けられていた日だ。
 もし、新一がコナンになっていなかったら、あの日、蘭と共に帝丹高校で模試を受けていただろう。帝丹高校に仕掛けられた爆発を誰も止めることが出来ず、新一も蘭も、無事で済まなかった可能性が高いのだ。
 コナンだった新一は、東都タワーの爆弾を解体し、暗号も解読し、大勢の命を……この世で一番大切な蘭を、守ることが出来たのだった。

「去年の今日、オレがコナンだったことだけは……天に感謝しているぜ……」

 そう言って、新一は蘭をギュッと抱きしめたのだった。

Fin.
 


 
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