Happy Birthday 2006 コ蘭編



byドミ



工藤新一が、数ヶ月の不在から、戻って来て。
新一とは幼馴染だった毛利蘭は、新一から告白を受け、晴れて恋仲になった。


昨年の5月4日、新一の17歳の誕生日。
新一は、長の不在中だったが、蘭が強引に新一と、オールナイトの映画を見る約束を取り付けた。

しかし、映画館のある米花シティビルに爆弾が仕掛けられ、新一は傍まで来ていながら重い鉄の扉に阻まれ、お互い顔を見る事が出来ず、声だけの逢瀬だった。

蘭は鉄の扉を隔て、死を覚悟しての「ハッピーバースデイ」を、新一に告げた。


そして季節は廻り、再び新一の誕生日を迎えた。
今は、帰って来た新一に、面と向かってハッピーバースデイと告げられる。
それはとても幸せな事なのに。

蘭の胸の奥が、ツキンと痛む。
暫く蘭の家に居候していた、江戸川コナンという子供の事を思い出して。


   ☆☆☆


蘭の親友鈴木園子は、鈴木財閥のお嬢様である。
ある日、鈴木家倉庫にロマノフ王朝の財宝のひとつ「インペリアルイースターエッグ」があった事が分かり。

怪盗キッドがエッグを狙ったり、暗殺者が現れたり、色々とあったわけなのだが。

結局エッグは、その正当な持ち主と思われる、エッグ作成者のひ孫である香坂夏美の手に戻り、一件落着した。


エッグを廻る騒動の最中、関係者一行が鈴木家所有の船で、大阪から東京へエッグを持っての船旅中に。
蘭と園子は、夏美や、中国女性の浦思(ほし)青蘭(せいらん)と仲良くなり、色々とお喋りをしていたのだが。

誕生日の話になり、夏美が5月3日生まれ、青蘭が5月5日生まれで、2日違いだと分かった。

その時、コナンが、

「じゃあ2人ともボクとは1日違いだね」

と言ったのである。


という事は、コナンの誕生日は5月4日で、新一と同じ。

何度も蘭の頭をかすめた「コナンは新一ではないか」という疑問が、再び湧き上がって来たのである。


コナンは知識も豊富で、目の付け所も鋭く、咄嗟の時の行動力もあり、とても、たった7歳の子供とは思えない事が多かった。
不在になった新一と入れ替わるようにして現れたコナンが、本当は新一ではないかという疑念は、否定しても否定しても、何度も蘭の胸に湧き上がった。

事件が解決した夜。
蘭は、涙を流しながら、コナンに詰め寄ってしまった。


「でも、別人なんでしょ?」
「そうなんだよね」
「コナン君・・・」

コナンは、困ったような切なそうな表情で、蘭を見上げていた。


けれど、その場に工藤新一が現れ。
蘭の疑念は氷解した。

ずっと後になって新一帰還後に、その時の新一は怪盗キッドが変装していた姿だったと、新一から聞いたが。
とにかくその場では、目の前に新一が現れた事で蘭の疑念はすっかり吹き飛んでしまったのだった。

そして、雨でびしょ濡れの新一の為に、蘭が慌ててタオルや着替えを取りに行っている間に。
「新一」は行ってしまった。


「どうして引き留めてくれなかったのよ!」

蘭は、思わずコナンを責めていた。
コナンは、蘭の様子に呆れたような困ったような顔をしていた。


しかし、少し経って落ち着いて我に返った時。
蘭は、新一への気持ちでいっぱいいっぱいになった挙句、幼いコナンに詰め寄ったり八つ当たりした自分が、情けなくなった。

そして、扉を隔てて新一に切ない思いで「ハッピーバースデイ」と告げたあの日。
コナンも、誕生日だったというのに。
蘭も、蘭の父親の毛利小五郎も、誰もその日はコナンの誕生日であると知らなくて。
コナンの両親からも音沙汰がなくて。
誰もコナンの7歳の誕生日を祝ってあげていなかったのだと、今更ながらに気がついてしまったのだ。



「コナン君、ごめんね!」

蘭は思わずコナンを強く抱き締めて、謝っていた。
コナンに、誰にも祝福されない寂しい誕生日を過ごさせてしまった悔恨で、涙が溢れてくる。

「ら、蘭姉ちゃん?どうしたの!?」

蘭は、コナンを抱き締めながら、暫く涙を流し続けた。


そして、蘭はある決意をコナンに告げた。



「コナン君。今年は、何のお祝いも出来なかったけど。私、来年からは毎年ずっと、必ずコナン君の誕生日をお祝いしてあげるからね」

コナンは、一瞬目を丸くして蘭を見詰め、それから満面の笑顔を見せた。

「うん、ありがとう、蘭姉ちゃん。楽しみにしてるね」

「2人の約束よ、コナン君」
「うん、ボクと蘭姉ちゃんの約束だね」

そう言って蘭が小指を出すと、コナンも小指を出してきた。
蘭はコナンの小指に自分の小指を絡ませ、げんまんをする。
蘭は更に念を押して言った。

「きっとだからね」

そしてコナンが答えた。

「うん、わかった。約束だよ、蘭姉ちゃん」


   ☆☆☆


けれど。
来年の誕生日の今。

コナンはいない。いなくなってしまった。


蘭はもう2度とコナンに会う事はなく。
蘭がコナンの誕生日をお祝い出来る日は、決して来る事がないのだ。


あの時コナンは、「約束」と言いながらも、その約束が果たせない未来をこそ待ち望んでいたのだろうと、今、蘭は思う。
来年も再来年も、江戸川コナンとしての誕生日を迎える訳には行かなかったのだ。

それでも、果たせなかった約束が、蘭の胸を締め付ける。
コナンが仮初の姿であった事も、何もかも、今は分かっていて。
それでも、蘭にとってコナンは、新一とは別の大切な存在だったから。


今、新一に晴れて「恋人として」ハッピーバースデイと告げながら。
蘭は思わず涙していた。


「ら、蘭!?どうしたんだ?」

新一が慌てたようにそう言った。

新一がどれ程に蘭を大切に思ってくれているのか、蘭の涙にどれ程動揺してしまうのか、それを蘭は、新一と恋人同士になってから知った。
だから蘭は、新一には通じないだろうと思いながらも、誤魔化しの言葉を述べる。

「何でもないわ・・・。ただ、新一の誕生日をこうして祝えるのが、幸せ過ぎて・・・」

その言葉だって、決して嘘ではない。
けれどきっと新一には、蘭の涙の訳は分かっているのだろうと、蘭は思った。

新一が帰って来たという事、ここに居るという事は。
蘭がもう2度とコナンには会う事が叶わないという事なのだ。


コナンはもう、どこにもいない。
けれど、蘭の心の中に、確かに存在している。
今も、そしてこれからも、ずっと。

蘭はそっと、胸の中のコナンに告げた。


「ハッピーバースデイ、コナン君」



Fin.


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<後書き>

新一君コナン君お誕生日記念の、コ蘭話。

このお話は、スパコミで漫画として描いたお話を、小説に書き直したものです。
改めて、漫画と小説では表現方法がかなり違うものだなとつくづく感じました。
自分の漫画を自分でノベライズするのに、結構難しかったです(爆)。

私がコ蘭を滅多に書かない、その訳は。
どうしたって、切なくなってしまうからです。
それに、コ蘭は原作で充分堪能してますし。

これは、映画の第1作と第3作を下敷きにしたお話ですが。
今回改めて、「世紀末の魔術師」を見返していて。

蘭ちゃん、そりゃないだろう。
コナン君が新一君と別存在なら、コナン君に対して酷い仕打ちだろう、それは。
と、内心で思わず突っ込んでしまいました。

で、その続きを妄想したのが、この話。


新一君コナン君のお誕生日話で映画を絡めるのは、今回がラストです。
今後書くとしたら、「原作だけをベースに」書く事になると思います。
と言うのも、映画は原作をベースにしているけれど、原作と直接リンクするものじゃないという事が、私の中でハッキリ整理出来たので。

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