警告!このお話は「劇場版名探偵コナン 紺碧の棺(ジョリー・ロジャー)」のネタバレが含まれています。












一本の傘



byドミ



オレの通う帝丹高校2年B組には、マドンナとも言うべき、可愛い子が居る。

その子の名前は、毛利蘭。
目が大きくて、笑顔が優しく、長い黒髪がとても綺麗だ。
すらりと姿勢が良く、細身だけど、制服でも分かる位、胸が豊かなんだよな。
高目の声も、とても綺麗だし。
面倒見が良くて優しいし。
あのたおやかな外見で、空手が得意と言うのは、ぶったまげたが、そのギャップがまた、とても魅力的だ。

そんな彼女だから、当然、モテモテの、筈なのに。
誰も、コナかけようとする者は居ないんだよな。

と言うのも、彼女の傍にはいっつも、お邪魔虫がひっついているからなんだ。


その、お邪魔虫は、工藤新一。

こ奴、ちょっとばかり、頭はいい。何しろ、高校生探偵なんてものを、やってるし。
面も、まあまあ。母親は、とっくに引退してるが、有名な女優だったって話だし。
運動も、そこそこ。今は止めてしまっているが、サッカーの腕前は、プロからも引きがあったという、超高校級。

・・・・・・。

ああ、よく分かってるさ!
オレなんかが逆立ちしても叶わない、2拍子も3拍子も揃った、出来過ぎた男だって事はな!

そんな男が、毛利さんの周りをうろちょろして、他の男が近づけないようにしてるんだ。


いや、オレだって、工藤新一が毛利さんと正式にお付き合いしているってんなら、涙を呑んで諦めもするさ。
けどヤツは、「ただの幼馴染」と言い張っている。
半信半疑だったが、本当に2人は、お付き合いはしていないものらしい。

あの、素敵な毛利さんを、独り占めして他の男を寄せ付けないクセに、恋人にもしようとせず、「ただの幼馴染」と言い張るとは、けしからん野郎だ!

なのに、2年B組のメンバーは、工藤と毛利を応援し、毛利に誰もコナかけないように、守っているフシもある。
お前ら、目を覚ませよ!
工藤に惑わされて、騙されて、都合のいいように使われてんだよ!


その工藤新一だが。
最近、姿を見ない。どうやら、長期にわたって休学しているらしい。

これは、天が与えたチャンスじゃないのか?
2年B組の連中は、いまだに、毛利に手を出さない出させないルールを、律儀に守っているようだが。
ここに居ない男に、何の遠慮をする必要がある!?



ある日。
委員会が終わったオレが、下駄箱に向かっていると。
雨が降り出した。

今朝は天気が良かったが、天気予報を見て、傘を準備しておいて良かった。
そう思いながら、鞄から折りたたみの傘を出していると。

「やっぱり、笠持って来れば良かったなあ」
と呟く声が聞こえた。

この、涼やかな声は、間違いない!
ドキドキしながらそちらを見ると、下駄箱の先で毛利さんが、困ったように空を見上げていた。
その横顔の美しさと、なびく髪に、思わず見とれてしまう。

オレは、この千載一遇のチャンスを生かさない手はないと、傘を手に、近付いて行った。

「毛利さん」

心臓をバクバクさせながら声をかけると、毛利さんが振り向いた。
目を丸くしてちょっと首をかしげる、その仕草が・・・。

す、すげえ・・・可愛い・・・。

「何か?」

その、涼やかな声に、うっとりと聞き惚れる。

「あ、あの!毛利さん、傘がないんだよね!?オレ、傘持って来てるからさ、良かったら・・・」
「ありがとう。嬉しいけど、でも・・・きっと、迎えが来ると思うから」

毛利さんは、にっこり笑ってそう言った。
その笑顔に見とれながら、迎えが来るって?と、疑問に思った時。


「蘭姉ちゃん!」

声がした方を見ると、小学低学年と思われる、眼鏡の子供が、そこに立っていた。

「コナン君!」
「雨が降って来たから、迎えに来たよ。蘭姉ちゃん、今朝、傘持って出なかったでしょ」
「ありがと。キッとコナン君が来てくれるって、思ってたわ」

毛利さんがコナン君と呼んだ子供は、気のせいか、オレの方に一瞬鋭い眼差しを向けたかと思うと、毛利さんに向かって満面の笑顔を見せた。
こいつの、裏表のありそうな態度は、一体何なんだ!?

「あのお兄ちゃん、蘭姉ちゃんのお友達?」

子供が、無遠慮な言葉を毛利さんに向かって投げかけた。

「ううん。でも、雨が降って来たから、親切に傘を貸そうと、声をかけてくれたの」

あ、あの。
オレは傘を貸そうと思ったんではなく、一緒に傘に入って帰ろうと思ったんですけど・・・。

「そう言えば、蘭姉ちゃん。前に、新一兄ちゃんが、一本しかない傘を蘭姉ちゃんに貸してくれた事が、あったんだよね?」
「うん、そうそう!新一ったら、もう1本傘がある振りして、わたしに傘を貸してくれたのよね」
「蘭姉ちゃんに傘を貸す為に、やせ我慢してずぶ濡れで帰って、風邪引いちゃったって・・・ホント、新一兄ちゃん、馬鹿だよねえ」
「あら。それは、コナン君だって、一緒じゃない」
「そ、そう?」
「うん!新一もコナン君も、本当に・・・そういうとこ、不器用で馬鹿で・・・でも・・・」
「でも?」
「ううん、何でもない!」

毛利さんが、子供に見せた笑顔は、先ほどオレに見せてくれたものとは全く違ったものだった。

これって・・・何なんだ?
毛利さんは、決して、好きだとも、嬉しかったとも、優しかったとも、何とも言ってないんだけど。
だけど、ものすごいノロケを聞かされた気がして、仕方がない、これって一体、何なんだ?

オレは、妙な敗北感を覚えて、立ち尽くしていた。
傘を持っていない毛利さんを見かけたとき、オレは。
あわよくば、相合傘で帰り、毛利さんを身近に感じ、更に感謝される事を夢想したのだが。

工藤新一は、1本しかない傘を毛利さんに渡して、自分はずぶ濡れで帰ったって言うのか?


何故、誰も、工藤を差し置いて毛利さんにコナかけられないのか。
何故、2年B組の連中が、2人を夫婦扱いにして、2人の関係を守ろうとしているのか。

オレは、分かったような気がした。

毛利さんは、子供から傘を受け取り、仲良く並んで帰り始めた。
子供が、振り返ってオレを見た瞬間。
オレは、別の意味で戦慄した。

子供は確かに、オレを見て、一瞬だが、勝ち誇った笑いを浮かべたのだ。
その時、オレは悟った。
この子供は、オレに聞かせる為に、わざとその話をしたんだと。


今はこの子供が、工藤新一の代わりに、毛利さんに近付く男からガードを張っている。

オレは、呆けたように立ち尽くしたまま、小さくなって雨脚に隠れてしまった2人の姿を、いつまでも見送っていた。



Fin.


+++++++++++


<後書き>

2007年コナン映画を見て、突発的に書いた、オリキャラ視点のコ(新)蘭。
ネタばれは、あるにはあるけど、大した事では・・・。

オリキャラ君、名前もつけないままで、ごめんなさい。

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