今、君の元に



by ドミ



東京都米花市の繁華街。
東京では冬は晴れる事が多く、しかも最近は地球温暖化の影響で、12月頃降るのは雪ではなく雨の事が多い。
しかしその日は珍しく、積もる程ではないけれど、雪がちらついていた。



「う〜〜〜っ、さぶっ!ったく、何でイエス様はこんな寒い時期に生まれたりした訳!?」

若い女性が1人、マフラーを巻きつけ直しながら理不尽な悪態をついていた。



今夜はクリスマスイブ。
右を向いても左を向いても、1人で歩いている人は殆どいない。
寒さを感じていないであろう寄り添って幸せそうなカップルばかりである。



その中を1人急ぎ足で歩くのは、肩の上で切り揃えたストレートの茶髪をカチューシャで留めて額を出し、勝気そうな目をした女性。
顔もスタイルも悪くないのに、こんな日に1人で過ごさなければならない不幸を嘆いているその女性は、鈴木園子という。



「ああ・・・蘭は今頃新一くんと甘い夜を過ごしてんだろうなあ・・・」


園子の親友である毛利蘭には、幼馴染の恋する相手が居た。
工藤新一という名のその男は、眉目秀麗で、サッカーの名手で、しかも「日本警察の救世主」などいくつもの異名を持つ、有名で有能な高校生探偵である。
その男が、昨年暫らくの間行方不明になっていたかと思ったら、帰って来るとすぐさま蘭と引っ付いて熱々の恋人同士になった。
今頃は、初めての「恋人同士としてのクリスマスイブ」を過ごしている筈である。



「良かったね、蘭」

園子は首に巻いたマフラーを指で弄びながら呟いた。
そのマフラーは、蘭がクリスマスプレゼントとしてくれた手編みのもの。
家庭的で何でも器用にこなす蘭が編んでくれたそれは、目がきっちりと揃っていて、それでいてふわりと柔らかく、巻きつけると首元は本当に温かい。

園子は、心優しい親友が今幸せな時間を過ごしているであろう事を、心の底から祝福していた。



けれどそれはそれとして、ただ1人町をさ迷う園子は、むなしい思いとしんしんと染み渡る寒さに、涙が溢れかけていた。
蘭の心のこもった手編みのマフラーを巻き着けても、高価で上等なコートを身に纏っても、体中に寒さが染み渡るその訳は、園子にはよく解っていた。



「真さんの馬鹿〜〜っ!!こんな夜に私を1人でほおっておいたら、浮気しちゃうんだから〜〜〜っ!」

園子がそう空に向かって叫ぶと、

「それは困ります」

と応えがあった。

「え・・・?」

たった今園子が悪態をついた相手の男が、すぐ目の前に立っていた。











時は少しばかり遡る。

園子の彼氏である京極真は、中国奥地に居た。



真は一目惚れの相手である園子と、昨年の夏、伊豆にある実家の旅館で偶然出会い、園子の危機を救った。
紆余曲折の末に恋人同士になれたのであるが、空手選手である真は、強くなりたいという自分の夢を捨てきれず、修行の為に園子を残して海外へと旅立った。

真は、強い相手を求め、広い中国を巡り、香港、台湾にも行った。
また逆に、民間人でも銃を持ち、世界中から様々な人が集まるアメリカ合衆国で修行した事もある。


そして現在は、大陸の奥地深くに拳法の達人が居ると聞いてやって来ていた。
中国古式拳法の担い手である老師は、老年の域に達しているにも関わらず、真がどう足掻いても敵う相手ではなかった。
山奥の寺に篭り、日々まるで忍者か何かのような修行を繰り返しながら、真は老師に挑み続けた。



「どうあってもあの方には敵わない・・・!」

今日も幾度目かの挑戦に敗れた。
真は夜宿坊を抜け出して岩の上に座り満天の星を見詰めていた。
口惜しい訳ではない。
負けてなお清々しい気持ちになれる程に、尊敬できる素晴らしい相手である。


見上げる星々の中に、園子の笑顔が浮かぶ。
こんな時真が懐かしく思うのは、故郷の海や山でもなく、父母や友でもなく、どこまでも明るく元気な真の恋人。
彼女との出会いがどれだけ自分の人生に潤いを与えてくれただろう。
けれど真は園子を日本に置いて強くなる為の修行に出た。
強くなるまで帰らない、そう誓って。


しかし最近、不安になる事がある。
強さを求め続ければ、それは際限がない。
このままでは永遠に園子の元へ帰れないのではないか・・・そう縁起でもない事を考えて、真は首を横に振った。

「園子さん、私は・・・!」





「眠れないのかの?」

ふいに背後から声がかかった。
真にさえ気配を気取らせずひっそりと近付いた人物。
その声に聞き覚えがあるし、何よりもそんな事の出来る人物に心当たりは1人しか居なかったので、真は驚きはしなかった。

「ええ、まあ。星が綺麗なので」

真はまだ自分が1度も勝った事のない相手をあえて見ようとはせず、星を見上げたままに答えた。

「大方、日本に居る誰ぞの事でも考えていたのじゃろう」

そう言って老師はフォッフォッと笑った。
真は顔を赤らめながら、黙っていた。
この老師相手に誤魔化したり意地を張ったりするのは無駄だとわかっているのだ。

「帰らないのかね?」
「強くなるまでは帰らないと誓ったのです」
「それでは永久に帰れんじゃろう」

老師の言葉に、真はギョッとして振り返った。
自分が先程感じていた不安を、はっきりと告げられてしまったから。



「ろ、老師!」
「まあ考えてみなさい。お主はどこまで強くなれば満足出来るのかな?ワシを倒せば、気が済むと思うかね?」
「それは・・・!」
「どれだけ強くなっても、決してこれで終わり、満足と言える時は来るまい」
「そ、それは・・・」

真は段々力なくうな垂れて行く。
老師は優しい目で真を見遣って言った。

「真。ただ強くなる事がお主の本当の目的なのかね?何の為に、誰の為に、強くなりたいのか、考えてみる事だ」
「何の為に・・・?誰の為に・・・」

老師の言葉を繰り返して、真は考え込む。

「まあ人生、どの道を選んでも必ず後悔はするに決まっておる。けれど、目的は見失わない事じゃよ。強くなる事だけが人生の目的になってしもうたら、ホレ、ワシのように世人と離れて仙人まがいの生活をするしかなくなってしまうからのう」

そう言って老師は再びフォッフォッと笑った。

「まあ、人生に後悔はつきものと言うても、自分を待っていた筈の恋人が居らんようになってしまう事ほど空しく辛いものはない。まだ若いお主にそんな思いをさせたくはないのう」

老師の言葉は飄々としていて、そこにいささかの感傷も混じってはおらず、老師の顔も目もすっ呆けた表情のままである。
しかし、サラリと聞き流せそうな口調の言葉は、真の心を深く抉った。
あまりに長い事待たせていると園子は真に見切りをつけて他の男を選ぶかも知れない。
けれどその事よりも、真は不意に園子が泣いているのではないかと思い、それが重く心に圧し掛かったのである。





「真。7日後お主と最後の試合を行おうと思う」
「老師?ですが・・・」
「なに、ワシも年だから、もう限界なのじゃよ。それにの、お主にも野心があろうが、ワシにも自負心という物があっての、負けて後輩の礎になるよりは、勝ち続けたまま終わりたいのじゃよ」

老師は冗談めかした口調で言った。
今の真には老師の真意がどこにあるのか、到底窺い知る事は出来なかったのである。



  ☆☆☆



真は時々手頃な岩を見つけては岩割りに挑戦していた。
如何に空手の達人と言えど、力任せに岩に拳を叩き付けると、自分の手の方が砕けるのが落ちである。
石や岩には力を与えると砕け易い部分があって、そこをあやまたず正確に打てば、大岩でも砕く事が可能なのだ。


いよいよ老師と最後の試合を行う日の朝、真は修行の為にいつものように山道を走っていた。
開けた場所に出ると、そこに大岩があった。
それは長身の真よりも更に高さがある位だったが、何故だか、きっと割れるという予感がした。


息を詰めてじっと岩を見詰める。
何故だかそこに園子の顔が浮かび上がり、真は驚く。



意思がない筈の岩――しかしその岩は、真に出会うのを待っていた、真に割られるのを待っていた。


真は息を詰め、気合と共に拳を叩き込んだ。
狙いあやまたず、拳が入った所からひびが走り、その大岩は崩れ落ちた。


割れた面からキラリと何かが陽光を反射した。
良く見ると、何かの原石だろうか、美しく透明な黄色の石が、割れた岩の面からのぞいていた。
その美しい黄色は、何故だか園子の色だと言う気がした。



真は突然、園子の元に帰ろうと思った。
自分はきっと生涯空手を極めて行こうとするだろう。
時々は海外に修行に行く事もあるかも知れない。
けれど、今は外国での修行をひと段落させて、園子の元に戻り、ずっと傍に居ようと決心した。



  ☆☆☆



老師との最後の試合に、真は結局勝つ事が出来なかった。
けれど真はもはや、それを心残りとは思わなかった。

「では老師、お元気で。再見(ツァイチェン)!」

中国の言葉で真は別れの挨拶をする。

「再見(ツァイチェン)」とは、英語の「See you again」と同じで、直訳すれば「また会おう」となるが、別れの時の定型語であり深い意味がある訳ではない。

しかし、老師は首を横に振って言った。

「いや。お主とはもう会う事もあるまいよ。ワシはもう既に先達としての役目を終えた」
「老師・・・」
「ワシの命がある内に、現役を終えて昔を懐かしんで旧交を暖めに来るには、お主はまだ若過ぎるぞ。時に立ち止まって後ろを見ても良いが、決して後戻りしようなどと思うな」
「お言葉、肝に銘じます」



そして真は老師の元を去った。
真がまず向かったのは、日本ではなく、タイである。









「マコト、これは?」
「私が割った岩の中から出て来たものです。シトリン(黄水晶)か何かかと思うのですが・・・」
「いや・・・水晶ではなさそうだ。この母岩(宝石の原石を含んでいる岩の事)、それに輝きから考えると・・・暫らく時間をくれ。他ならぬマコトの為だ、きっちり鑑定して信頼出来る職人に最高のカットをさせるから」


京極真が、宝石の加工・研磨が盛んなタイで、岩の中から見つけた石を持ち込んだのは、世界中修行の旅をしている内に出会った、信頼出来る宝石鑑定家の所だった。

「お世話かけます」
「なに、君にはいつも助けられてばかりだったからね。今回は俺の方が役に立てそうで本当に嬉しいよ。遠慮などいるものか、ド〜ンと任せてくれ」


京極真という男は、基本的に真っ直ぐな性格の持ち主で、疑り深い目で人様を見ている訳ではない。
しかし、武道家として鍛え抜かれた感覚で人の嘘や上辺だけの取り繕いはすぐに見抜ける。
そして、彼の強さと人柄に惚れ込み、採算度外視で協力してくれる人が国の内外を問わず大勢居るのだった。





真が中国奥地を出たのはまだ秋の内だったが、タイを後にして日本へ向かったのは、12月も半ばを過ぎた頃であった。












そして、クリスマスイブ。

町はクリスマスのイルミネーションで、寒さの中でも華やかに彩られている。
現在の東京では珍しい12月の雪がちらつく中、京極真は町を歩いていた。
先程園子に連絡を取ろうとしたら、携帯が繋がらなかったのである。
自宅に電話をしてみると、使用人らしき人からすげなく今外出中である旨告げられてしまった。
園子が鈴木家のクリスマスパーティーに出席するでもなく、どこかに出かけるとすれば、普通は親友の毛利蘭と一緒である事が多い。
けれど、その親友は、今年は恋人とのクリスマスを過ごしている筈である。

ならば園子は・・・。



米花市の繁華街。

真は、園子がきっと賑やかな通りをぶらついているに違いないと思っていた。
そして、どんな人込みの中からでも、真は園子を見つけ出す自信があった。





そして、真は見つけた。
寒さに皆が縮こまっているこの町で、彼の太陽を、彼のただひとつの光を。



園子は例えるならば日の光。
真夏の強い日差しではなく、陽だまりの暖かさというのでもなく、冬の空を突き破って届く透き通った太陽の光。

ああ、やっぱりあの黄色は園子さんの色だ、と真は思った。


しかし、園子自身は気付いていないようだが、1人で歩いている園子に遠巻きに狙いを定めて近付こうとしている男は、そこにもここにも居た。
真はそれらの男に無言でガンを飛ばす。
睨まれた男は皆ビクッとして、慌ててコソコソとその場を逃げ出して行った。



そういった状況には全く気付いていないだろうに、園子がふいに空に向かって叫んだ。

「真さんの馬鹿〜〜っ!!こんな夜に私を1人でほおっておいたら、浮気しちゃうんだから〜〜〜っ!」

そんな事をされては堪らないと、真は慌てて園子の前に出て行った。

「それは困ります」



「え・・・?」

園子が目を丸くして真を見詰めていた。
その目の端に涙の後があり、真は胸が痛むのを感じた。


「園子さん。もしかして、寂しかったのですか?」
「ばっ・・・!寂しい訳ないでしょっ!」

園子が真っ赤になってそう怒鳴り、真はガックリと肩を落とす。

「そうですか・・・」

すると、園子がキッと真を睨み上げて、新たな涙を溢れさせながら言った。

「どうしてそう、人の言葉を額面通り受け取る訳?寂しかったに決まってるでしょ、口で言わないとわからないのっ!?」

真は戸惑いながら答えた。

「ええ、わかりません・・・」

真としては本当に、思っている事と逆の事をわざと言う女性心理が全く理解出来ていない為、そう答えるよりなかった。
園子が泣きながら真の胸に飛び込んできて、真の胸板をポカポカと殴る。
真は戸惑いながら園子を抱きとめた。

「ずっと、待ってた。ずっとずっと・・・寂しかったっ・・・!!」
「・・・私は嬉しいです」

真の言葉に、園子がまた顔を上げて睨みつけてくる。

「なな何が嬉しいって言うのよっ!」
「いえその・・・あなたが寂しいと思って下さってたのが」

園子はハアと溜息をついて脱力し、真の胸にもたれかかった。

「・・・もう良いわ・・・あなたに女心を解れって思う私が馬鹿だった・・・」



町を彩るクリスマスイルミネーション。
真と園子が抱き合っているのは、メインストリートの大きなツリーの前だった。
街中ではあるが、今夜はあちこちでラブラブのカップルがイチャイチャベタベタとしているので、2人の姿はさほど目立たなかった。
ふと園子が顔を上げて言った。

「ねえ、帰って来るならどうして連絡してくれなかったの?私、真さんからの電話待ってたのに」

真が修行していた場所は国際携帯電話も圏外で繋がらず、公衆電話もないような所。
真は長い事、電話で園子に声を聞かせる事さえ出来なかった。

「昨日からあなたに連絡を取ろうとしていたのですが、携帯が繋がらなかったのですよ」

そう言われて園子が自分の携帯を取り出して見ると、常にオンにして持ち歩いていた所為か、しっかり電源切れになっていた。
園子は再び溜息を吐くと、再び真の胸にもたれかかった。



真は園子の耳に口を寄せ、優しい声で囁いた。

「私も、寂しかったですよ。あなたに会えなくて」
「嘘つき」

園子が顔を上げないままに言い、真は苦笑する。

「嘘じゃありません。いつもいつも、あなたの事を想っていました」
「・・・・・・」
「あなたの事を想っているからこそ、この街中でもすぐにあなたを見つけ出す事が出来たのですよ」
「だって・・・長い事帰って来てくれなかったじゃない」
「早く強くなってあなたを迎えに行こう、そう思って毎日の修行に耐えていたのですよ」
「え?じゃあもう、修行は終わったの?」

園子が顔を上げ、真剣な眼差しで真の目を見ながら言った。
その目が期待に輝いている。
女心に疎い真でも、今度は園子が何を言わんとしているかが解った。

「いえ・・・修行には果てがありません。修行が終わってからなどと言っていては、生涯あなたを迎えになど行けない。その事を、私は教わりました」
「じゃあ、また行ってしまうの・・・?」

園子の目が再び不安に揺れる。

「・・・いつか再び修行の旅に出かけるかも知れませんが、それはサラリーマンの出張と同じ、ホームベースが定まった上での事ですよ。全ては、あなたの元に戻る事からしか始められない、そう思ったのです」

今度は園子が真の言葉の意味を図りかねて、首を傾げていた。
真は園子の手を取った。



「えっ!?」

園子は、真が何かをしたのを感じて、左手を上げて目の前にかざした。
薬指に、黄色に煌く宝石が嵌った指輪があるのに気付き、目を見張る。
カボッションにカットされた美しく透明な黄色の石は、中心から6方向に綺麗に光が走っていた。
(カボッションカット=上面をドーム型に磨くカットの方法。不透明・半透明のトルコ石、翡翠、オパール、キャッツアイ効果が出る猫目石などにこのカットを行う)





園子は息を呑む。

「こ、これ・・・」
「私が見つけた石を、知り合いに加工して貰ったのです」
「これ、スターサファイアじゃない・・・!」


真が岩の中から見つけたものは、上質のイエローサファイアだったのだ。
しかも、スターサファイアで、きちんとカットすれば見事に綺麗に星が出ると、真が鑑定とカットを依頼した相手は興奮して言ったものだった。



「私も、それがサファイアだと聞いた時は驚きました。サファイアと言えば青だとばかり思っていたものですから」
「コランダムは、赤い物をルビーと呼ぶ他は、全部サファイアなのよ。青が有名だけどね」
「そういうものなのですか」
「でも私は、青いサファイアよりこの黄色の方が好きだわ。透明度も高くってすごく綺麗。スターもくっきり鮮やかに出てるし。こんなの、探し出して買おうなんて思ったら、物凄く値が張るのは間違いないわよ。ねえ、一体どうやって見つけたの?」
「修行の為に割った岩の中から出て来たのです。一目見て、園子さんの石だと思いました」
「嬉しい。すごく嬉しい。値が張るからとかそんなんじゃなくって、真さんが体を張って見つけ出した石を私の為にって思ってくれたのが、何よりも嬉しい・・・!それに、修行中もずっと私の事考えてくれてたの、本当だったのね」

園子が輝く笑顔で言った。

「だから、嘘なんか言わないと言ったでしょう?」

真は園子の笑顔を眩しそうに見詰めながら少し苦笑して言った。




真は園子の目を見詰めて、大切な事を問うた。

「あの・・・この指輪、受け取って頂けますか?」
「はあ?問答無用で私の指に嵌めておいて、今更何を?」

園子が怪訝そうな顔をして訊き返す。

「あの、そうではなくて・・・その、ずっと傍に居る証として受け取って頂けますか?」

真が緊張しながら言葉を重ねると、園子の目が悪戯っぽいものに変わった。

「それは、エンゲージリングって事?」
「はい」
「どうしよっかなあ」
「そ、園子さん・・・!」

真は焦りまくる。

「もう、馬鹿。冗談よ」

そう言って園子が柔らかな笑顔を真に向けた。
くるくる変わる表情のどれもが愛しいと思い、真はまたボーっとして園子を見詰めた。

「ねえ、約束して?」

園子の言葉に、真は緊張して言う。

「はい、何でしょう」
「もう、私から離れないでね。絶対私を離さないでね」
「園子さん。約束します」

真は園子を固く抱き締め、顎に手を掛け仰向かせると、ここが街中である事も大勢の人前である事も忘れて、唇を重ねた。







クリスマスツリーのイルミネーションが、若い2人を祝福するかのように、一段と華やかに煌いていた。







Fin.



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《後書き》

真園クリスマス小説。
の筈が、中国奥地での真と老師の関係が面白くてついそちらの方が長くなってしまいました。
あれでも、それ以上に長くなりそうなのを何とか抑えたのです。

今回のお話を書くに当たって、中国ではどんな宝石が取れるか、調べました。一応ね。
まだ「中国産サファイア」がそれと明示して日本に入って来た事はないらしいですが、イエローサファイアやスターサファイアが取れるというのは本当です。
ただし、地上に出ている岩を割ったらその中から・・・って事が本当に有り得るかどうかについては、フィクションなので突っ込まないようにお願いします。



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