北田君の悲劇



byドミ



北田は、帝丹高校2年D組に所属している。

彼が、入学そうそう一目惚れした女子生徒は、残念ながら同じクラスになった事はないけれど。
今年、幸運にも、同じ委員になって、たまの会議で顔を合わせるようになった。


委員会が終わった後、いつも一緒に帰る機会を窺っていた彼だったが。

「よ。蘭、今、帰りか?」
「新一?どうしたの、とっくに帰ったと思ってたのに」
「いや、ちょっと調べもんがあったから、図書室で」


いつもタイミング良く現れる彼女の「幼馴染」に、かっ攫われてしまうのだった。


「くっそう!工藤のヤツ、ちょっとばかり有名で頭が良くてツラが良くてスポーツ万能だからっていい気になって、毛利を正式に彼女にもしてないクセに独り占めしやがって」


北田が密かに思う女子生徒は、毛利蘭といって、現在は2年B組に所属している。
この帝丹高校で、毛利蘭は群を抜く容姿の持ち主で、なおかつ家庭的で優しく、本当だったらもっとモテモテの筈なのだが、彼女にコナをかける男子生徒がほぼ皆無なのは、ひとえに、その「幼馴染」である工藤新一が、いつも付きまとっているからだ。


工藤新一は、サッカーの名手だと聞いているが、高校入学後さほど経たない内にサッカーは止めてしまっている。
今は、「平成のホームズ」「日本警察の救世主」など、様々な異名を持つ、全国規模の超有名人である高校生探偵だ。


毛利蘭と工藤新一は、周囲からは夫婦と見なされている幼馴染同士である。


「命が惜しければ、毛利蘭には手を出すな」
「工藤新一は、味方であれば頼もしいが、敵に回すと恐ろしい」
「毛利蘭にちょっかいかけた場合、その安全は保障しない」

これらの言葉が、帝丹高校男子の間で囁き交わされている事実を、北田が知らない訳ではない。
北田目線では、工藤新一という男が理不尽にも、毛利蘭に男が近寄らないよう暗躍しているとしか見えなかった。



しかし。
その工藤新一、数ヶ月前から突然休学し、その姿を見なくなった。


「ヤバイ事件に手を出して地下にもぐっている」
「外国に行っているらしい」
「いや、実は・・・」

様々な噂が入り乱れているのだった。



新一が姿を消してかなり経った後、ある日の委員会で。
北田は、蘭が取り落とした消しゴムを拾った。

委員会が終わった時、それを渡そうとすると、蘭は

「ありがとう」

とニッコリと笑った。
その笑顔の美しさに、北田は胸が躍る。
北田は、蘭が差し出した手を取って、その手の中に消しゴムを握らせた。

「あ、あの・・・」

その時の蘭の照れた様なはにかんだような顔が、眩しくて。

『もしかしたら、毛利の方もオレに気があったのか?』

一気に舞い上がってしまったのである。

「毛利さん、一緒に帰ろうか?」
「え?で、でも・・・」
「いくら毛利さんが空手が出来るって言っても、夜道を1人で歩くのは、危ないよ」
「だけど・・・」

遠慮する蘭を強引に説き伏せて、北田は蘭と肩を並べて歩いた。
蘭のすぐ傍を、歩く。
時に偶然を装って、肩を触れ合わせてみる。

その度に、蘭が身を強張らせる。

『硬くなっちゃって・・・意識してるんだな、可愛いなあ』


「あ、あの、じゃ、ここで」
「え?家まで送るよ」
「あ、あの・・・すぐそこだし、お父さんがそういう事に煩いから・・・」

蘭が困ったような顔で言ったので。
北田も、そこをごり押しするのは拙いだろうと考えた。

「じゃあ、またな、毛利」
「え、ええ・・・」


北田は、ほんのりと幸せを感じながら、家路に着いた。


   ☆☆☆


「蘭?それって、北田のヤツが、ちょっと変だと思うよ」
「そ、そうかな・・・わたしの考え過ぎなのかって、ちょっと気になってたんだ」

蘭は、昨日の委員会後の顛末を、親友である園子に話したのだった。


同じ委員会に所属している北田の事は、名前と顔は知っている。
昨日、会議の最中に、たまたま蘭が落とした消しゴムを拾ってもらったのだが、その時蘭の手を取られ握られるような形で返されて、正直気持ち悪かった。
けれど、北田にとってはきっと何気ない行動なのだろうと、気にしないようにした。

そして。
最近は、部活が終わった園子と共に帰る事が多いのだが、その日はたまたまテニス部が部活動を休んでおり。
蘭が1人で帰ろうとしたところに、北田が声をかけて来た。

せっかく送ってくれると言うものを、「いいえ、1人で帰ります!」と固辞するのも憚られて。
蘭は仕方なく、北田と共に帰ったのだが。

時折肩が触れるのが、嫌で仕方がなかった。
わざととは、思いたくないけれど、偶然にしては当たり過ぎなのではないか?
蘭が少し距離を開けようとしても、いつの間にか引っ付いて来るので、偶然じゃないような気がした。

家が近付いて来た時。

「お父さんが煩いから」
という理由をつけて、北田を振り切って帰った。



「蘭、それ、絶対気の所為じゃないから!・・・ったくもう、アヤツが居ないとこれだから・・・」
「園子?」

親友の溜め息に、蘭が首を傾げた。

「わたしは、新一君なんか居ても居なくてもどうでも良いんだけどさあ。やっぱ、アヤツが居る間は、蘭に近寄る虫も居なかったのよねえ。ったく、どこをほっつき歩いてんだか」
「園子・・・でも、どうしよう?だって、『全然そんな積もりなかったのに、自意識過剰だよ』って言われたら、それまででしょう?」
「う〜ん、とにかく次の委員会では、何か理由をつけて、一緒に帰るのは断るのね」
「そうね、そうする」

蘭は頷いた。
北田がどういう積りであれ、蘭としては一緒にいるのが快い相手ではないので。
とにかく理由をつけて避けようと、思ったのである。

しかし、次の委員会では、北田は蘭と園子の想像を超えた態度に出て来た。
蘭が着席するのとほぼ同時に、さっと隣の席を陣取ったのである。(ちなみに帝丹高校では、委員会の場合の席順はキッチリ決まっている訳ではない)

北田の肘が、蘭の肘に触れて、そのまま動かない。
蘭がさり気なく自分の腕を動かしても、暫くすると北田の肘が追ってくる。

蘭は心底ぞっとした。

委員会が終わると、蘭は即座に席を立ち、逃げるように小走りで帰宅の途についた。


   ☆☆☆


その数日後、蘭は、同居中の子供・江戸川コナンと、園子と共に、紅葉の美しい群馬県の山中に来ていた。
園子が、「冬の紅葉」という人気ドラマのロケ地だったこの場所に、来たがった為である。

そこで偶然出会ったドラマのアシスタントディレクターに、頼まれて。
駅前の赤城旅館を訪れ、ロビーのノートに伝言を書き。

レストランに向かう途中で、蘭はこの前の委員会の顛末について話をした。


「え〜?また北田?それセクハラじゃん!」
「やっぱし?」
「また蘭にちょっかい出して・・・とっちめてやんなくちゃ」

蘭と園子の会話を聞いていたコナンが、2人の話に割って入った。


「北田って、だあれ?」

コナンの不機嫌そうな声に、園子はにやりと笑って言った。

「コナンくうん?新一君に言ってやんなさいよ、アンタが不在の間、蘭には虫がつきまくりだってね!」
「そ、園子!」

コナンの眼鏡が一瞬光ったように見えたのは、気の所為だったのか。


その夜起こった、殺人とそれに続く乱闘・京極真の出現のお陰で、園子と蘭は、コナンに北田の件を話した事をすっかり忘れてしまったのだった。


   ☆☆☆


『ったく・・・オレが目を離してる隙に・・・!』

蘭にちょっかいをかける北田の存在に、コナンはムカムカしていた。


コナンの姿になって、蘭と同居して。
今迄以上に蘭の身辺に目が配れる部分もあるのだが。
逆に学校では、全く目が届かなくなってしまった。

蘭は、放って置けばモテモテであろう事は、よく分かっている。
コナンが新一であった頃は、幼馴染として蘭の隣を確保しながら、蘭に近づく男が居ないよう常に目配りをしていた。

何故だか、新一と蘭の2人と同時に同じクラスになった男子生徒は、新一が牽制をかけるまでもなく蘭にコナかけようとはしないのだが。
上級生下級生他クラスの男子となれば話は別で。
それこそ、蘭にアプローチしようとする男子生徒達を、新一はあの手この手で牽制していたのであった。

そのお陰で帝丹高校男子の間では、新一に関してまことしやかな噂が流れ、新一もそれを知ってはいたが意に介さなかった。


幸か不幸か、蘭はその手の事に鈍感で、アピールされていてもそうと気づかない事も多々あって。
その代わり、新一が蘭に近寄ろうとしている男子達を牽制している事実にもまるで気付いていなかった。


そんな日々の中で、新一は。
男性からの好意にまるきり気付かない風の蘭は、きっとまだ恋愛感情に目覚めていないのだとばかり思っていた。

蘭が思いがけず新一を想っていてくれていたと、新一が知るのは、皮肉にも、新一が本来の姿を失ってしまってからである。



さて、新一の睨みが効かなくなった帝丹高校内で、蘭にコナかける男子生徒が現れるだろう事を予測し恐れていたコナンだが。
正々堂々としたアプローチならまだしも(勿論それだって、心穏やかで居られる筈もないが)、蘭に痴漢紛いの行為を働くとは。

園子ではないが、「とっちめてやる」必要があろう。
ただ、この小学生の体では、とっちめるにも色々と工夫を凝らす必要がある。
さて、どうしてくれよう?


   ☆☆☆


蘭は、今日が委員会の日だと気付き、今まで忘れていた事を思い出して憂鬱になった。
蘭が所属する委員会は、いつもは月1回の会議だが、秋も深まったこの時期は、行事や次年度に向けての準備などの関係で、月2回の開催になっている。

「蘭姉ちゃん、どうしたの?」
「コナン君・・・ううん、何でもないわ」

蘭の様子に目ざとく気付いたらしいコナンに、無理に笑顔を作って見せて、蘭は出掛けて行った。

とにかく、隙を作らないようにしよう。
そして、帰りに北田が追って来たら、ハッキリ断るのだ。

角が立とうが北田が逆切れしようが、構わない。


蘭は、厳しい表情でじっと蘭の後姿を目で追っているコナンに、気付いていなかった。

彼が持ち前の記憶力で、蘭の所属する委員会が今の時期はいつ会議が行われているかを思い起こし、今日が委員会当日である事に気付いているなど。
コナン=新一と知らない蘭には、予測も出来なかったのである。



そして放課後。
蘭は、別のクラスの女子の委員を誘って委員会に出席し、既に着席している別の委員の隣に並んで腰掛け、北田が来た時に蘭の隣の席が空かないようにした。
北田が、何かを言いたそうにチラチラと蘭を見るのには気付いていたが、気付かないフリをする。


そして、帰りもダッシュで外に駆け出そうとしたのだが。
その足が一瞬止まる。

「え?嘘、雨?」

今朝、天気予報を見る余裕もなかった蘭は、傘を持って来ていない。
冬近いこの時期雨に打たれるのは体に毒だが、濡れるのを覚悟で外に出ようとした。
その時、後ろから聞きたくない声がかかった。

「毛利さん?オレ、傘持ってるよ。一緒に・・・」
「いいえ、大丈夫、1人で帰ります」

蘭は振り返り、北田と向かい合って距離を保ちながら冷たい声で返した。
さすがに蘭にも、この手の男には、曖昧な対応ではなくハッキリした拒絶が必要だと、分かって来ていた。

「今更、照れなくても、いいじゃん。毛利さんが濡れないように、ちゃんと守ってあげるからさあ」
「わ、わたし・・・たとえずぶ濡れになったって、北田君と同じ傘に入るなんて、出来ないわ!」

近付く北田に、思わず後退りながら、蘭は言った。
冗談ではない、肩を並べられて帰るのも嫌なのに、相合傘なんて絶対に受けられるものではない。
蘭も今日は絶対、引く気はなかったが。
北田にはどうも、言葉がまともに通じていないような気がする。

その時、蘭の背後、登下校口の外側から、声がした。


「蘭姉ちゃん」
「コナン君!」

振り返るとそこには、コナンが傘を持って立っていた。

蘭がいつも弟のように可愛く思うコナンであるが、その時はまるで大魔神であるかのように頼もしく見えていた。


   ☆☆☆


『な、何なんだ、この子供は?毛利さんの弟か?』

帝丹高校でも何人か、蘭の家に同居している江戸川コナンの存在を知るものはいたが、北田は知らなかった。
蘭がコナンから傘を受け取り・・・そして、コナンは当然のごとく蘭に寄り添って、(身長差はあるが)相合傘になる。

「それじゃ、北田君、さよなら」
「さ、さよなら」

さすがにこの状況で、「一緒に」とも言い出せず、北田は呆然として2人を見送った。
コナンと呼ばれた子供が、振り返って北田を一瞬見たが、その眼差しは眼鏡に隠れてよく分からなかった。



それから数日後。
北田の携帯に、メールが入った。

登録されていないアドレスからのメールに、首を傾げながら開くと。


「今日午後7時 米花公園にて 工藤新一」


「な・・・!?だ、誰かの悪戯だ、こんな・・・!そもそも工藤がオレのアドレスを知る筈が・・・!」

そう言いながら、北田の額には汗が浮かんでいた。
「あの」工藤新一であれば、目指す相手のメルアド位すぐにゲット出来そうな気がしたのだ。


北田には、それなりに友人もいるが、このメールの事で相談出来そうな相手は居ない。
無視をするにも怖くて、結局、午後7時には、米花公園の中に立っていた。


初冬の冷たい風の中、街灯だけが照らす薄暗がりで、人の気配も感じない。
北田はぶるりと身を震わせる。


突然、北田の頬を何かがすごいスピードで掠めて行った。
髪の毛に触れるか触れないかのギリギリのところを通って行ったそれは、もし1ミリでもずれていれば、確実に北田に怪我を負わせていただろう。

北田は思わず振り返って「それ」の行方を見た。
北田のはるか後方で公園の木にまともに当たり、ザックリと抉った後、弾みながら転がった「それ」は、サッカーボールだった。

北田は大きく喘いだ。
身を震わせている理由は、単なる「気温の低下と寒風によるもの」ではなかった。

「く・・・工藤!卑怯だぞ、姿を現せ!」

気を奮い起こして言葉を出すと、紛れもない「工藤新一の声」が聞こえた。

『オレは、ここに居るぞ。逃げも隠れもしていない』

声のした方を振り返っても、そこには誰も居ない。

『どこを見ている?オレはここだ』

今度は別方向から声が響くが、そちらを振り向いてもやはり人影がない。



突然、更に別方向から、女性の笑い声が聞こえた。

『北田って、一体何勘違いしてるのかしらね?蘭が嫌がってるのに気付いていないんだもの』
『そもそも、あんなに綺麗で可愛くてモテモテの毛利蘭と、釣り合うとでも思っているのかしら?』
『身の程知らずとは、北田の事よね』

そしてまた、女生徒達の笑い声。


「な・・・何を・・・!毛利さんはっ!」

蘭のはにかんだような笑顔を思い浮かべて、声だけの女生徒達に北田が反論しかけると。
再び工藤新一の声が響いて来た。

『蘭は、誰にでも優しくてお人好しで、突っぱねるという事が出来ない。そんなアイツにつけ込んで触れようとしたオメーは、ぜってー許せねえよ!』
「く、工藤!それを言うなら、お前だって!毛利さんの幼馴染なのを良い事に、付きまといやがって!」
『蘭は、オレ相手になら、遠慮なく嫌なら嫌と言える。オレ相手になら平気で空手技をかけて来る。怒って拗ねて喧嘩して、それがオレ相手にだったら出来る。それが2人の距離だ。周りから夫婦と見なされるだけのな』
「お前は、現に今、毛利さんの隣に居ないじゃないか!戯言を言うなあああ!」
『たとえ傍に居なくても、オレはいつでも蘭を見守っている。オメーなどに指1本触れさせるものかよ』
「煩い、黙れええええ!」

突然、北田の目の前を、サッカーボールが転がって行った。
北田は思わずそれを追い、その先に居た後姿の人物に掴みかかろうとした。


しかし。

「あれ?北田のお兄さん?」

振り返ったのは、先日、毛利蘭を迎えに来た子供だった。


「工藤は?工藤はどこに行った?」
「新一兄ちゃんは、事件で遠いところに居るよ。北田のお兄さんも知っているでしょ?」
「だ、だが、たった今・・・!」
「あ、そうそう。新一兄ちゃん、言ってたよ。『オレは遠くに居ても、蘭の事ならいつでも何でも分かってる』ってね」

最初は無邪気な笑顔だった子供の表情と口調が、一変し。
とても子供とは思えない射すくめる様な鋭い眼差しで、見上げて来た。

その眼差しを見た途端、北田は戦慄する。

『こ、これは、工藤の・・・!!』


突然風が舞い上がり地面の木の葉を巻き上げ、北田は思わず腕で顔を庇った。
次に目を開けた時には、子供の姿は忽然と消えていた。


   ☆☆☆


それから暫く経ったある日。
放課後、園子が蘭に声をかけた。

「蘭、今日も委員会なの?」
「うん」
「ところで、北田、あれからどう?」
「う〜ん。そう言えば最近、姿を見ないわねえ」
「姿を見ないぃ?」
「うん、だって、本当に委員会で見かけないもの」

そう言えば忘れていたという顔で、蘭は答えていた。

「園子も、今日は部活でしょ?少し待たせるけど、一緒に帰る?」
「・・・やめとくわ。多分今日も、あのガキンチョが迎えに来るんでしょ?」
「うん・・・」
「やっぱ、新一君からあのガキンチョに乗り換えた訳?」
「もう、園子!そんな訳ないでしょ!?」
「ハイハイ。・・・だけど、気をつけなよ、蘭」
「何を?」
「新一君、帰って来たら、嫉妬のあまりあのガキンチョと決闘するかもよ〜」
「ななな何馬鹿な事!第一コナン君は子供じゃない!」
「どーだか。蘭はそう思ってても、あのガキンチョの蘭を見る目、時々子供の目とは思えないからねえ」

園子はそう言って去り、蘭は頬を赤らめながら、「もう!」と悪態をついてそれを見送った。


   ☆☆☆


「ハックション!やべ・・・風邪引きかけかな?」
「あら。誰かが江戸川君の噂しているのかもよ」

阿笠邸にて。
コナンは、阿笠博士・灰原哀と、今後の事について話し合いながら、蘭の委員会が終わるまでの時間を潰していた。

哀とは、お互いにある程度手の内を隠しながら、様子を伺いつつの情報交換である。

コナンは、哀の言葉に目を丸くしていた。

「・・・何よ」
「いや・・・オメーがそういう非科学的な冗談を言うとは予測がつかなかったっつーか」
「悪かったわね。・・・そろそろ出たら?」
「あ?」
「冬場だけど。虫除け作業が大変ね」


コナンは少し肩を竦めて、阿笠邸を出、帝丹高校に向かった。
哀の皮肉っぽい言動の意図がどこにあるのかは掴めなかったが。

とにかく今は、自分の精一杯の力で、蘭を守る以外にない。


「情けねーよなあ。早く元の姿に戻りてえ」

北田に「工藤新一として」告げた、蘭と新一との距離。
それは、新一がコナンとなって過ごす中で改めて気付いた、2人の絆だった。

何としてでも、あの日々を取り戻さなければ。

変声機やキック力増強シューズ・ボール射出ベルトと、あらゆる技術力を駆使して、何とか北田を撃退したコナンであるが。
元の帝丹高校生としての姿を、1日も早く取り戻し、蘭と肩を並べる日を取り戻したいと、決意を新たにしていた。



北田を決定的に打ちのめしたものが、新一のものと同じコナンの眼差しであった事に、当人は今も気付いていなかった。



Fin.


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この話は。
テレビアニメの「園子の赤いハンカチ」の中での、園子ちゃん蘭ちゃんコナン君の会話(テレビオリジナルで本筋とは関係ない)からの妄想です。コ蘭が苦手な私にとっては、久々のコ蘭です。

蘭ちゃんにちょっかいを出す、北田という男が居て。園子ちゃんはそれを「セクハラ」と言う。

コナン君と同じく私も、「北田って誰!?」と思っちゃいましたよ。

コナン君がその存在を知らないらしい事や呼び名などから考えて、「同じクラスになった事がない同学年の男子」に設定しました。
蘭ちゃんは委員会、一体何に入ってるんでしょうねえ?あんなにしょっちゅう、放課後委員会が行われたりするもんでしょうか?
などなど、突っ込みどころは沢山ですねえ。
おまけに、ブログ連載だったんで、視点がコロコロ変っています。

北田が蘭ちゃんにセクハラ行為、っつーのが気が重くて、そこは自分でも書いてて嫌でした。(なら書くなって言われそうですが)
それに、見切り発車だったので、コナン君がどういう風に北田を追い詰めるのか、考えてなくて、苦労しました。

コナンの場合、哀ちゃんの立ち位置にいつも苦労するのですが。(コナン後新一に戻ってからの志保さんの立ち位置は、割と設定しやすい)
今回も、こんな感じで関わらせて良いのかなあと思いつつ、書きました。

コナン君と哀ちゃんって、キツネとタヌキの化かし合いみたいに、腹の探り合いで、信頼関係はあるようなないような、なのですが。
何故かコナン君、哀ちゃんにだけは「蘭ちゃんへの気持ち」を素直に認めている部分があるんですよね。不思議な関係です。


ところで。

「命が惜しければ毛利蘭には手を出すな」

帝丹高好男子の間で囁かれている(笑)この言葉、私、4コマ漫画でも使ったんですが。最近他の新蘭サイト様を巡っている時、ほぼ同じ言葉を見つけて、凹みました。(しかも超有名どころ。今迄気付かなかった私が迂闊としか言いようがない)でもまあ・・・新蘭界ではきっとこれが共通認識なのだろうなあと、開き直る事にしました。

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