恋の種



By ドミ



番外編・男同士の会話



 それは、クリスマス直前のある日。新一は、大阪の服部平次と、電話で話をしていた。お互いの会話は、それぞれで起こった事件のこと。
 話がひと段落した時に、平次が話を振って来た。

『なあ工藤。あん姉ちゃんとは、その後、どないや?』
「ん?蘭のことか?まあ、順調に交際してるよ……」

 キスもまだだが、新一は無難に返事をした。いくら恩人の平次といえども、赤裸々に話をする積りはない。もちろん、平次の方も、そこまで求めているわけではないだろう。

「ところで、服部。オメー、2人で飲んでた時の会話、スマホ使って蘭に聞かせてたな?」
『あ、はは。バレてもうたんか〜。堪忍や工藤』
「ま、そのおかげで今があるから、責める気はねえよ。そもそも、それに気付いてなかったオレにも、反省点はあるしな。ま、感謝してるぜ、服部」
『……なんや、感謝されてる筈やのに、お前の言葉だと背筋が寒うてかなわんわ……』
「っせー!」
『どないして分かった?姉ちゃんが、ゲロったんか?』
「バーロ。蘭が喋るわけねえだろ。蘭が和葉ちゃんと電話してるのが聞えちまって、それで分かった」
『あちゃー、そないか。和葉にも電話の時には自分だけやのうて相手の周りも注意せえ言うとかんとあかんな……』

 新一は溜息をついた。腹立たしい思いもないでもないが、平次が真剣に新一の為を思ってくれたことを考えたら、許すしかないのは分かっている。蘭にも、その時のことをどうこう言う気はない。

『でな、工藤。準備しとかんとあかんで』
「は?」
『避妊や避妊!いつ何時そないな雰囲気になるか、分からへんで?ちゃんとブツを準備せんと、姉ちゃん泣かすことになってまうで』
「ばっ!泣かせるか、バーロ!準備無しでことに及んだり、ぜってーしねえよ!」
『それはそれでかまへんけどな。ブツを準備してへんで、いざ、その雰囲気になって、コンビニに走らなアカン、なんて間抜けなことになってまうかもしれへんで?しらけるし、正気になって、逃げられてまう可能性もあるで』

 平次が和葉と付き合いだしたのは高校生の頃。色々失敗談もあったのだろうなと、新一は思う。
 新一自身、蘭とは、キスもまだではあるが、このまま交際が進んで行けば、いつ何時、その雰囲気になるか分からないことくらいは、弁えている。とっくに避妊具は準備して、装着練習もしていた。
 けれど敢えてそれを平次に言うつもりはない。

「忠告どうも。もう用事がないなら、切るぞ?」
『待てや工藤。こっからが肝心やで?ブツ選びは、大事や……工藤と姉ちゃんに、ラテックスアレルギーはあらへんやろな?』
「……!」

 ラテックス(天然ゴム)は、伸縮性が高い優れた素材だ。避妊具の装着感や使用感も、とても良い。ただし、時々アレルギーがある人がいる。
 避妊具は、皮膚ではなく粘膜に直接触れるのだから、ラテックスアレルギーがある場合は、大変な思いをすることになる。

 新一自身は、今までラテックス性の避妊具で装着練習していても、何ごともなく、アレルギーは無いと思われるが。蘭が台所で作業していた時のことを思い出していた。蘭は確か、ゴム手袋で手が荒れて、ビニール手袋に換えて作業をしていた。

「ああ。確認しておくようにするよ……」

 新一は無難に返した。もしかしたら和葉もラテックスアレルギーがあったのかもしれないと思ったが、それは口にしないでおく。

『でな、でな!水性ポリウレタン素材の、極薄は、最高やで!感触が、ほぼ生や!けど、ゴムほど伸縮性があらへんから、サイズ選びはいっそう大事やで!』
「そ、そうか……参考にしておく……」

 平次がどうして「生の感触」と変わらないと分かっているのか?ウッカリ生で入れてしまったこともあるのかと新一は勘ぐったが、それは口に出さないでおく。


 新一が買い込んでいたラテックス製の避妊具は、全て破棄された。そして、数種類のサイズの「水性ポリウレタン製極薄」避妊具が新たに買い込まれ。
 その中のジャストフィットサイズが、買い足されることになった。


   ☆☆☆


 そうして選ばれた避妊具が、初めて実地に使われたのは、バレンタインデー。
 それからの消費量は物凄く。
 新一の家計簿を着け始めた蘭が、顔を真っ赤にしながら、家計簿のどの項目に入れれば良いのかと頭を悩ませたのは、ここだけの話。


Fin.

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2021年11月6日脱稿


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