恋の種



By ドミ



(13)



「呼ばれたのは、どんな用事なの?」
「ん〜?まあ、前々から『たまには大阪に遊びに来たってや』って言われてたけど、今回、ヤツの彼女から『是非工藤さんとお会いしたい』って言われたとかで……」
「へえ?服部さんって、彼女いらっしゃるんだ……でも何故、彼女さんが新一と会いたがるんだろう?」
「さあな」
「でも、新一。呼ばれたの、新一だけだよね?わたしも一緒に行っても良いの?」
「ああ、まあ、連れは何人居ても良いって言ってたからな……蘭が一緒に行きたい人が居れば、誘っても良いぜ?」

 ということで、蘭は園子にも誘いをかけてみたのだが。

「残念だけど。と〜〜〜っても残念だけど!わたしその連休中、鈴木家の用事があって……」

と断られ。
 蘭は新一とふたりだけで、大阪に行くことになったのだった。



   ☆☆☆



「工藤、遠路はるばる、よう来たなあ」

 出迎えてくれた服部平次は、京極真と同じくらい色黒の、涼しい目元の眉目秀麗な男性だった。

「服部、こっちはオレの……幼馴染で友人の毛利蘭。蘭、こっちはハーバード大に留学に来ている時に知り合った、学生探偵の服部平次だ」
「初めまして、よろしくお願いします」
「初めまして。……こん姉ちゃんが、トレンド入りした『ただの幼馴染で友だち』やな?」

 平次がスケベ目になって言った。新一が憮然として応える。

「ああ!そうだよ!」

 新一が不貞腐れたように言って、蘭は何だか身の置き所がないような感じでモジモジしていた。

「……ところで、肝心のオメーの彼女さんは、どこに居るんだ?」
「それがやな……あいつ、出かける直前に、急用を思い出した言うて……後から合流する言うてたさかい、気にせんといてや」

 そして。
 迎えの車を見て、新一も蘭も、ぎょっとする。

「ぱ、パトカーじゃねえか!」
「せや。パトカーはええで?渋滞でも、車が避けて行きよるからのう」
「そ、そりゃ、そうだろうけどよ!」
「ほな、行くでえ!」

 パトカーが出発した。車の間を縫ってパトカーが走って行く。素晴らしいドライブテクなのだろうが……。

「きゃあっ!」
「蘭!」

 揺れる車で、さすがの運動神経の蘭も、振り回され、新一が蘭の肩を抱き寄せ、もう片方の手で座席に捕まり……。

「あ、ありがとう……」
「いや……」

 車が止まった時。
 自分たちが密着していることに気付き、ぱっと離れた。

「ご、ごめん!」
「う、ううん……」

 真っ赤になる2人。すると……助手席の平次が、スケベ目で2人をじっと見ていた。

「は、服部!わざと車を蛇行させたな!」
「ちゃうちゃう、渋滞の合間を縫ったらこうなっただけや。他意はあらへんで〜」

 一方、蘭は。ドキドキしていたが、新一に抱き寄せられても不快ではなかった自分に気付いていた。むしろ……。

『い、言えない!新一の、意外とたくましい腕とか胸板とかにドキドキしたなんて、絶対言えない!』

 蘭は真っ赤になって顔を押さえていた。


 それから、大阪の様々な場所を観光した。通天閣から大阪の風景を見て、大阪城・天保山の大観覧車などなど、駆け足で観光地を回って行く。

「海遊館とか天王寺動物園もええとこやけど、時間があらへんしなあ……そろそろ飯食いに行こか?」

 ということで。お好み焼き店に来た。注文をし終わったところで、蘭が、そわそわしだした。

「ん?蘭。どうした?」
「な、何だか視線を感じて……」
「そっか。オレは感じへんけど?」
「オレもだ……気のせいじゃねえのか?」
「そ、そっかなあ……」

 新一と平次が2人して否定するのだから、やっぱり気のせいなのかと蘭は思った。

「と、電話や……先に始めとってや」

 そう言って、平次が席を立った。すると。

 ひとりの女性が近付いてきた。蘭たちと同年代と思われる、ポニーテールで、やや釣り目がちの綺麗な女性だ。その女性が、新一と蘭の向かい側……先ほどまで平次が座っていた場所に座る。

「あ、あの、その席は……」

 蘭が言いかけると。

「アンタやろ、工藤って」

 その女性が目を向けたのは、新一ではなく、蘭の方だった。



   ☆☆☆



「え、えっと……?」

 新一も蘭も、呆然としてその女性を見ていた。

「とぼけんかてええ!アンタやろ、アメリカ留学している平次を誘惑して骨抜きにした東京女の工藤は!」

 そう言って、ビシッとその女性は、蘭を指差した。と、そこへ……。

「ご注文のスペシャルモダン焼きで〜す」

 店員が、お好み焼きの材料を持ってきて、鉄板で焼き始めた。店員が去った後、新一はおそるおそる問いかけた。

「もしかして、君が服部の彼女さん……?」
「えっ?」

 蘭が、横から驚いた声を出す。と、そこへ……。

「和葉。ようやっと、合流できたんやな」

 電話から戻って来た平次が、声を掛けて来た。



   ☆☆☆


 そのポニーテイルの女性は、平次の恋人で、遠山和葉という名前だった。

「アホ。言うたやろ。工藤は男やって……」
「せやかて……じゃあ、平次は両刀やったん!?」
「ちゃうちゃう!同性愛を差別する気はあらへんけど、オレにそないな趣味はない!それに、こいつは、工藤は、立派な彼女持ちや!そっちの姉ちゃんが工藤の女や!」
「あ、いや、蘭はオレのタダの幼馴染で友だち……」

 こういう時にも律儀に修正を入れる新一に、蘭は、複雑な気持ちになる。

「ん?工藤……タダの幼馴染で友だち……このフレーズ、どこかで聞いた……アーッ!トレンド入りした、あの工藤新一!」

 和葉が新一を指差して言った。新一も蘭も、顔に汗が張り付いている。
 一応、誤解が解けて、和葉は頭を下げた。

「す、すんまへんなあ……アメリカ留学から帰った平次が、あんまり嬉しそうにいっつも『工藤工藤』言うもんやから、てっきり誘惑されて骨抜きになってもうたんかと……」
「アホウ。オレは浮気なんかせえへんで!」
「せやけど……」

「ねえねえ、お2人は、どうやって知り合ったんですか?」

 蘭が身を乗り出して聞いた。

「まあ、幼馴染やったし……気付いたらこいつがおった、いう感じやなあ……」
「せやね。幼馴染の腐れ縁で……けど、腐れ縁やから平次を好きになったんちゃうよ?」

 和葉の言葉に、平次が頬を染めた。

「……オレが工藤の話ばかりしてたんはな……同年代のオレと渡り合える実力を持つ探偵に会えたんが嬉しうて仕方なかったからや……女に惚れるんとはちゃうで」
「う、うん……」
「すまんの、工藤……お前の女に和葉がいらんこと言うて……」
「だ、だから!蘭はオレの女じゃなくてだな……!」

 必死で言い訳する新一に、蘭はまたもや複雑な気持ちになる。

「和葉が『いつも平次が言うてる工藤さんに会いたいで〜』いうのが、まさかそないな意味やったとは……」
「せやかて、ほんまに平次がいっつも嬉しそうに工藤工藤言うてんやもん。蘭ちゃん、工藤君、ほんま堪忍や」


 その後は、4人で仲良く、更に観光に回ったり、たこ焼きやうどんを食べに行ったりした。
 そして夜。

 新一と平次はふたりで飲みに行き。
 蘭は、和葉に誘われ、遠山邸で宅飲み女子会となった。

 ちなみに、今夜、蘭は遠山邸に、新一は服部邸に、泊まる予定だ。


「なあなあ、蘭ちゃん。工藤君がずっと蘭ちゃんのこと、『ただの幼馴染で友だち』言うてるんは、ホンマ?工藤君の照れなんちゃう?」
「……うーん。今のわたしたちは、付き合ってるわけじゃないんだよね……幼馴染っていっても、新一は中3に上がる時にアメリカに行ってしまって、今年6月か7月だったかな?帰国した後の新一に再会したばかりだから……」
「そっか〜」
「和葉ちゃんたちは?いつからお付き合いを?」
「せやね。高校2年の時やったかな?平次に告白されて付き合いだしたんは……その頃まで平次は、アタシのこと、そないな対象として意識してへんかったらしいわ」
「そ、そう……和葉ちゃんは?」
「アタシは……子どもの頃から、平次のこと、好きやってん……工藤君と蘭ちゃんは……あ、工藤君の方は、分からへんのか……いうても、あのトレンド入りした動画を見たら、工藤君は蘭ちゃんのこと大切に思うてるんやないの?」
「し、新一は……わたしに告白してくれて……でも、わたしは……まだ友だちとしか思えないって返事したんだけど……」
「工藤君が振られたんか〜。せやったら、仕方あらへんで」
「ただ、近頃は、自分の気持ちがよく分からなくなって……」
「……蘭ちゃん。もし、工藤君が蘭ちゃんを抱きしめたりキスしたりしたら、嫌やと思う?」
「え!?ええっ!?」
「ま、女にも性欲はあるから、それだけでは判断つかへんけど、ひとつのバロメーターにはなる思うで?」

 蘭は今日、パトカーの中で新一から抱き寄せられて嫌ではなかったことを思い出した。しかし、それとキスではあまりにもレベルが違い過ぎる。新一と唇を合わせる……?
 蘭は顔を覆って言った。

「無理無理無理無理!考えらんない!」
「嫌やったら、仕方あらへんなあ」
「嫌、とかじゃなくて、想像つかないの!あ……でも……」
「ん?」
「……他の男の人だったら、気持ち悪くて、絶対、イヤ!それだけは、分かる……」
「それ、半分は工藤君のことが好きや言うてるみたいなもんやで?」

 蘭は、自分の唇を押さえた。新一の唇と重ねることを想像してみようとするが、恥ずかし過ぎてダメだった。嫌悪感ではなく恥ずかしさの気持ちが強い時点で、もうほぼ新一に心を持って行かれているのだが、まだ蘭にその自覚はなかった。



(14)に続く


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<後書き>

事件体質の新一君!と言いながら作中で事件が起こらへんのは、ほんますんまへん、ドミの力量不足やねん。

でまあ、コナン二次始めたばかりのパラレルでもやった、原作と似たような「和葉ちゃんが工藤は平次君の女と勘違いする」エピソードを持ってきました。まあ、「工藤工藤」嬉しそうに言う平次君に対して、和葉ちゃんが疑念を持っても仕方がないと思うんですよね……。

新一君と平次君との飲みにゅケーションを書きかけているのですが、それを蘭ちゃんが聞くのは無理があるので、次回冒頭に少し、新一君視点を入れようと思います。


2021年10月3日脱稿
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