恋の種



By ドミ



(19)



 帝丹大学の冬休みは、12月24日〜1月4日までだ。高校までに比べ、冬休みは短い。けれど取り合えず、クリスマス〜お正月にかけては、勉強から離れて休みを満喫できる。

 蘭がアルバイトをしているカフェは、12月24日のクリスマスイブには忙しく休みが取りにくいが、幸いなことに、24日は日中の勤務で、25日は休みを取ることが出来た。24日、カフェのバイトが終わった後、予約してあったレストランで食事をした。
 レストランで、クリスマスプレゼントを贈り合う。「まだ、安もんでわりいけど」と言いながら、新一が贈ってくれたのは、プチダイヤモンドがはまったピンクゴールドの星型ペンダント。蘭が新一に贈ったのは、アルバイト代を貯めて買った懐中時計。ずっと後になって、偶然、双方のプレゼントがほぼ同じ金額だったことを知るのだが、それはまた別の話。

「綺麗……可愛い……とても嬉しい……ありがとう、新一……」

 蘭の首に新一がペンダントをかけた。

「オレこそ、ありがとな。時計はいくつあっても良いから、嬉しいぜ」

 新一は自分で、蘭の贈ってくれた懐中時計を胸ポケットに仕舞った。


 レストランで食事とデザートを堪能した後は、商店街の広場で、寄り添って、イルミネーションを見ながら過ごした。愛する人と2人で見るイルミネーションは、とてもロマンチックで綺麗だと、蘭は思った。

 今日、蘭は、工藤邸に泊まる予定だ。最近の蘭は、時々工藤邸にお泊りしている。しかし、泊まったからと言って何かあるわけではなく、本当にただ泊まるだけ、客間に寝るだけだ。
 さすがに、いきなり新一と体の関係に踏み込みたいわけではないけれど、そろそろキスくらいはと、考えている。しかし、その切っ掛けが掴めないでいた。


 と、突然。広場に悲鳴が響き渡った。新一と蘭は急いで声のした方に駆け付けた。そこには、血を流して倒れている女性がいた。



   ☆☆☆



 屋外なのに、容疑者となり得る人たちを足止めさせたのは、新一の素早い対応がものを言った。間髪を入れず、年末取り締まりに当たっている交通警官たちを動員して、広場にいた人たちは出られなくなったのだ。

 交通課の羽田由美刑事が、ぼやいた。

「ねえ、民間人に手足として使われる警察って、どうなの?」

 それに応えたのは、高木美和子刑事だ。

「文句言わないの、由美。彼の推理で、今まで多くの事件が早期解決してるんだから。この事件も、彼の素早い采配がなかったら、迷宮入りしてしまったかもしれないのよ」
「ま、でもまだ、事件解決はこれからでしょう?お手並み拝見させていただくわ」


 そして。新一の推理によって、広場にいた大勢の人の中から、容疑者は5人にまで絞られ。そしてあっという間に、解決を見た。
 その間、蘭は、ただじっと推理している新一を見ていたわけではなく、倒れている女性の応急処置をし、救急車を呼んで搬送してもらうという大事な仕事を、テキパキと行っていた。

 被害者の女性を刺したのは、被害者の彼氏の元カノで、逆恨みから犯行に及んだとのことであった。新一に犯行を暴かれたその女は、うつろな目をして、手錠を掛けられた。

「……殺人未遂の容疑で、逮捕する!」

 目暮警部のその言葉に、うつろな目をしていた女が、反応した。

「な……殺人、未遂?殺人じゃ、なくて?」
「ああ。たった今、病院から連絡があって、一命をとりとめたそうだ。そちらの蘭君の手柄だよ」

 殺人犯ではなく殺人未遂犯に終わったその女は、わなわなと身を震わせた。
 そしてその女は、手錠をかけられたまま警察を振り切り、隠し持っていたナイフを手にして、蘭めがけて突進した。

「お、お前の、お前の所為で!あの女を殺せなかった!お前の所為でっ!」


 蘭は、咄嗟のことで、体が動かなかった。

「蘭っ!」

 蘭の前に素早く立ちはだかり、我が身にナイフを受けたのは、新一だった。

「しんいち〜〜〜〜っ!」

 蘭は、自分の悲鳴を、どこか遠くの方で聞いていた。蘭の前で、新一が後ろ向きに倒れ、蘭は慌てて抱きとめた。
 警官たちが駆け寄って来て、女の手からナイフを叩き落とし、今度こそ逃げられないように連行して行く。

「あはははは。いい気味……私の復讐を邪魔した罰よ!」

 女は、高笑いしながら、パトカーに乗せられた。

 蘭は、新一を抱きとめて地面に座り込んでいた。

「新一……新一……」
「救急車を呼べ、早く!」

 目暮警部が叫ぶ。すると。

「……ってててて。大丈夫です……」

 新一が身を起こした。そして、胸に突き立っていたナイフを抜く。

「し、新一!そんなことしたら、出血……!」
「だから。大丈夫だって……」

 ナイフの先にも、胸元にも、全く血が付いていなかった。そして、新一が胸ポケットから取り出したのは、壊れた懐中時計だった。ナイフはちょうど、懐中時計に突き刺さったのである。

「せっかく、蘭からもらったのに……ダメになっちまったな……」
「し、新一……!」
「でも。胸ポケットにこれが入ってたから、助かったよ……蘭のお陰だな」

 蘭は涙で新一の姿がぼやけ、無事であることを確かめるように、慌てて、新一の顔に両手を掛ける。

「蘭……良かった、オメーが無事で……」

 多分、新一は微笑んでいるのだろうが、涙でぼやけてよく見えない。蘭は、勢いのまま、衝動のまま、自分の顔を新一の顔に近付け……そして、唇を重ねていた。
 新一は、目を見開いたまま、蘭からの口づけを受け止めていた。

 目暮警部が、赤くなって咳ばらいをし。

「全員、回れ右!」

と号令をかけて。その場にいた警察官と、容疑者だった4人も含めて、回れ右をしたのであった。パトカーに乗せられた犯人だけは、この光景を見て悔しがっていた。 



(20)に続く



2021年10月10日脱稿
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