Midnight surprise
〜2007年青子ちゃんお誕生月間記念話〜




byドミ



猛暑だった今年の夏も、9月の訪れと共に、あっという間に終わってしまった。
空の青さが増し、高く感じる。
入道雲は全く見かけなくなり、澄んだ空を、うろこ雲やすじ雲が覆う。
まだ、昼間は暑い事が多いけど、時折吹く風は爽やかだ。

空を見上げて、ああ、秋だなあって思う。

青子達は、今年受験生だから、夏休みが終わった今、ゆっくり空を見上げる事も、稀だけどね。


あ。
自己紹介が遅れたけど。
青子・・・わたしの名前は、中森青子。
江古田高校3年B組に、所属している。

青春時代の真ん中と言うより、受験時代の真ん中で。
青子はもうすぐ、18歳になる。



「ねえねえ、恵子。明日の夜・・・」
「あ、ごめえん、青子。わたし今から予備校の秋期講習なんだ」

放課後、親友の恵子に声をかけると、何だかよそよそしい反応で、そそくさと去って行ってしまった。

「ねえ、今日子、麻巳子・・・藤江君・・・」

クラスメートに声をかけると、皆、別の方を向き、返事もしないで去って行く。
最初は聞こえなかったのかって思ったけど、何人か続くと、皆、分かってて知らん振りをしているような気がして来る。

気の所為かな?
昨日位から、恵子だけじゃなくて、何だかクラスのみんなが、青子を避けてる?

「あ。快斗!」

とぼとぼと下駄箱に向かった青子は、幼馴染の黒羽快斗を見つけて、声をかけた。

「一緒に帰ろ?」

快斗は、青子の方を見た。
絶対、見た。
青子が声をかけたのは、分かった筈。
なのに・・・ふいと向こうを向いて、去って行ってしまった。

「な、何で?青子、何かした?」

胸締め付けられる思いで、立ち尽くす。

何で、何で、何で?

ここ最近の青子の言動を思い返してみるけど、何かを仕出かしたって心当たりはない。
でも、もしかしたら、青子も気付いていない内に、何かやっちゃったのかも。
もしそうなら。誰か、教えてよ。
青子が何を仕出かしたのか、そして、どうしたら良いのか。


とぼとぼと、1人、下校する。
いつも一緒に帰る、快斗はいない。
恵子も、いない。

青子は、独りぼっち。


考え過ぎなのかも、知れない。
たまたま、皆ぼんやりしていただけとか、気付かなかっただけとか、そういう事なのかも、知れない。
でも、どんなに自分にそう言い聞かせても。

寂しい。


携帯が震えたので、見てみると、お父さんからのメールだった。
今夜はキッドの予告があったので、張り込みをするから、帰れないとの事。

ええ?キッドが狙いそうなものって、何かあったっけ?
快斗も何も言わなかったし。

あ、でも、もしかしたら。
さっき快斗が、青子を無視したのは、今夜の事を考えていて上の空だったのかも、知れないよね。
うん、きっとそうだって、青子は自分に言い聞かせる。



怪盗キッドの正体が、幼馴染の黒羽快斗だって事は、最近、知った。

その時は、驚きとか怒りとか悲しみとか、色々な感情がごっちゃになったんだけど。
快斗が何で、怪盗キッドになったのか、その訳を聞いてからは、怒りも何も無くなった。
亡くなった小父様の遺志を継いで、仇を取る為に頑張っているんだって分かってからは、応援するしかなかった。

ただ、どうか無事でいて欲しいって、祈るばかりだ。
お父さんには悪いけど、絶対に捕まらないでって、祈るばかりだ。
6月生まれの快斗は、もう18歳になっているから、捕まったら名前も出るし、普通の刑法も適用されてしまう。
小父様の仇を打って、怪盗キッドを止めるその日まで、どうか、無事でいて欲しい。



青子は、快斗の事が好きなんだけど、快斗は・・・いっつも青子の事、お子様お子様ってバカにするから、そんな対象じゃないんだろうって思う。
青子と快斗は、親しい幼馴染に過ぎない。

「バ快斗・・・青子は・・・明日、18歳になるのに・・・」

『18にもなって、胸も腰も、全然成長してねえな』

快斗の声が聞こえたような気がして、青子はムカムカして来る。
青子の思い込み・・・だけど、バ快斗だったら、絶対そんな風に言いそうだもん。

去年も・・・。


去年の事を思い返していたら、何だか落ち込んで来た。
去年は、まだ高校2年で、受験が遠かったって事もあったけど、皆が青子の家に来て、パーティをしてくれた。
お父さんは、キッドを追いかけて、青子の誕生日なんかスッカリ忘れていたけれど。

そして、快斗は。
青子の誕生日が終わるギリギリに、ビルの灯りと花火とで、祝ってくれた。

ずっと後になって知ったけど、あの時快斗は、キッドとしてのお仕事が長引いてしまって、間に合うように帰って来られなかったんだ。


どういう形であっても、祝ってくれたのは嬉しいけど・・・でも、今年は出来れば、青子の傍できちんとお祝いして欲しいな。



青子が帰宅すると、家の中はがらんとしていた。
そりゃまあ、いつだってそうなんだけどね。
お父さんは仕事で、いつも青子より帰宅は遅いし。

青子は溜息をついて、自室に上がって行った。
お父さんも居ないんだから、今夜の晩ご飯は、簡単に済ませちゃおう。


そそくさとご飯を済ませ、自分の部屋に入り・・・一応受験生だから、参考書と問題集を広げ、勉強を始める。
青子はまだ、将来の目標もきちんと定まっていない。
先生達は、成績がとても良いから、東都大学を受けろって勧めるんだけど、青子はどうも乗り気になれない。


快斗は、高校卒業後は、マジシャン修行にアメリカに行くって言ってた。
快斗のもうひとつの顔である、怪盗キッドは、パンドラを探すには海外に出た方が良いって、考えてるらしい。

青子も、アメリカに行きたい。
でも・・・快斗と青子は、ただの幼馴染だから。
そんな事、口に出せない。

快斗は、マジック修行と一緒にパンドラを探して、世界中を回るから。
日本にも多分しょっちゅう帰って来るから。
全く会えなくなってしまう訳じゃないけど。
・・・寂しい。


「快斗・・・今年も、青子の誕生日なんか、忘れちゃってるのかな・・・?」

机にうつ伏せた青子は、いつの間にか眠ってしまったらしい。


何だか、変な夢を見ていた。
ざわざわと、いくつもの声が聞こえる。


『青子は、うまい具合に眠ってるよ』
『そうか、じゃあ今の内に・・・』
『みんな、用意は良い?』

何だか、どっかで聞いた事がある声。
これは夢だって思いながらも、青子は首を傾げていた。


   ☆☆☆


突然、窓が明るくなった。
うたた寝していた青子は、ハッと目が覚めた。

部屋の中は真っ暗で、時計の針はもうすぐ12時になろうとしていて。
今がまだ真夜中である事が、分かる。

この明るさは、窓の外から強烈なライトが照らしている為だった。
ライトの中に浮かび上がる影に、青子は目を細めた。


そして、ベランダの窓が開き、白いマント・白いシルクハットの人物が入って来る。


「・・・怪盗キッド。青子に一体、何の用よ?」

快斗だって分かっていても、窓からこんな風に入って来られて、青子は何だか面白くなかった。
今日の昼間、快斗が青子を無視した事を思い出して、ムカムカした。

それに、今日はお父さん、キッドの予告状の所為で泊まり込みだった筈。
その、当のキッドが、こんな所で、何をしているんだか。

「アホ子。今日のオレは、怪盗キッドの扮装をした、マジックが大好きな、平凡な1高校生、黒羽快斗だぜ」

人を食ったような顔で、快斗はそう言った。
あ〜、今は「格好は怪盗キッドだけど、黒羽快斗」だって事ね。ややこしい。
確かに、今日の表情や口調は、気障な怪盗ではなく、悪戯好きの少年快斗だなって、思うけど。

「バ快斗の、どこが平凡よ、どこが!」

青子が快斗を睨み付けて言うと、快斗はそっと青子の唇に、人差し指を当てる。

「シッ!静かに。もうすぐ、時が訪れる・・・それは・・・テーッ!!アホ子、何しやがる!?」

快斗の気障っちい台詞にむず痒くなって、青子は目の前にあった人差し指に、思わず噛み付いてしまったのだった。

「ったく!乱暴な女だな、オメー!」
「乱暴で悪かったわね、バ快斗!」

その時、突然大きな音がして、うちの庭から数発の花火が打ち上がった。
そして、ちょうど窓の前に立っていた青子の頭上でクス玉が割れ、紙吹雪。

「おい、アホ子!おかげで、タイミング外しちまったじゃねえか!12時回っちまったぜ!」
「え?12時が、どうかしたの?」
「・・・ハッピーバースデイ、青子。18歳の誕生日、おめでとう」

快斗の手に薔薇の花が現れ、青子に手渡される。
その薔薇は、いつもの赤い花じゃなくて、いわゆる「青薔薇」と言われているヤツだった。

青子は思わず、目をまん丸に見開いた。
意味が分かるまで、しばらくかかった。

見上げると、クス玉から垂れ下がった垂れ幕には、「青子!ハッピーバースデイ!」と書かれている。

「あ・・・ありがとう・・・」

青子は、快斗から薔薇を受け取ってお礼を言った。

「いえいえ、どういたしまして」

快斗は丁寧にお辞儀をするが、その声と態度はどう見ても不貞腐れている。

「あの。もしかして快斗。サプライズを狙ってたの?」
「・・・ああ!そうだよっ!」

快斗が自棄になった様子で言った。

「ご、ごめんね・・・」
「ま、良いけどよ。クラスの皆も、このサプライズに参加したがってたんだけど、オレ達まだ高校生だから。オレが代表って事で、みんなのプレゼントも預かって来てるぜ」
「え?みんなも?」
「恵子なんかは、12時のサプライズは止めて、夕方学校が引けてからパーティしようって言ってたんだけどさ。やっぱ、日付が変わったと同時に祝う方が良いだろうって声が多くて」

快斗が右手を上げ、指をパチンと鳴らすと、部屋の灯りがついて、沢山のプレゼントの箱がその場に現れた。

ああ。
そうか、そうだったんだね。
みんなで、青子の誕生日サプライズ企画をしてくれて。
だから、皆、昨日から青子を避けて知らん振りしてたんだ。

ど、どうしよう。
すっごく嬉しい。

「って!何で泣くんだよ!?」
「っ!!だ、だってだって!昨日からみんな、青子を無視するから!青子、きっと、皆を怒らせるような事、何かしたんだって思って、すっごく悩んでたんだもん!」
「あ〜・・・えっと・・・その・・・オメーに喜んでもらう為のサプライズで、泣かす筈じゃなかったんだけど・・・ごめんな・・・」
「ううん。青子こそごめんね。早とちりで勝手にいじけて」
「青子・・・」
「すっごく嬉しい。ありがとう。快斗にも、みんなにも」

目を上げると、快斗の困ったような顔があった。
青子は、快斗の手を握り、さっき噛み付いてしまった指を見た。
噛みついた痕が、少し赤くなってる。

「快斗・・・さっきは痛かったよね・・・ごめんね?」

青子は、少しでも痛みを和らげようと、思わず快斗の指を口に含んで舐めていた。

「ちょ・・・あ・・・青子・・・」

快斗の顔が・・・夜目でハッキリしないけど、少し赤くなったようで。
切なそうに歪められた。

「快斗・・・?」

快斗の手が、青子の顎を捉え。
そして、快斗の顔が近付いて来る。

「青子。煽ったオメーが、悪いんだからな・・・」

快斗の眼差しが、いつもの悪戯っぽいものじゃなくて、妙に真剣で。
吸い込まれそうな蒼い色をしている。

少しずつ、快斗の顔が、至近距離まで近付いて来た。


え?
ええ?
ええええっ!?


ま、まさかまさか!
快斗〜〜〜〜〜〜っ!?

快斗の吐息が青子の顔にかかり、唇同士が触れそうになった時。
青子は思わず目を瞑っていた。


その時。



「ちょおおおっと、待ったあああああ!」
「黒羽!3年B組を代表してサプライズプレゼントをしろとは言ったが!」
「中森さんの唇を奪えとは、誰も言ってないぞ!」

窓の外から、何人もの怒号が聞こえて来た。
この声は、クラスメートの男子達?
その声に、快斗と青子は、慌ててパッと離れた。


「あ〜ん、せっかくイイとこだったのにぃ!何で邪魔すんのよ、男子達!」
「そうよそうよ、せっかく世紀の一瞬を、画像に収めようと待ってたのにさ!」

今度は、何人もの女子達の、ガックリ来たような声が聞こえて来た。

慌てて外を見ると、青子んちの庭は、クラスメート達で埋まっていた。
って言うか、みんないつの間に、うちに来てたの!?


「中森さんは、オレの・・・いや、みんなのアイドルだあ!独占は許さ〜ん!」
「冗談じゃねえ、こちとらチョンガーなんだ、黒羽にだけイイ思いをさせて、たまるかあ!」
「もう!せっかく、生のキスシーン拝めるかって、ワクワクしてたのに!」
「邪魔しなくたって良いじゃない、ねえ!」


男子達と女子達がガアガアと言い合っていて。
青子は、何が何だか訳が分からず、目を白黒させていた。
隣を見ると、快斗も呆然としていた。


「あのさ。オメーら。門限があっから、0時のサプライズは無理だって、言ってなかったか?」

快斗が、おそるおそるといった風に、切り出すと。
皆、ふふんと鼻で笑っていた。

「オレは男だから、最初っから門限なんかねえも〜ん」
「黒羽1人だったら、中森さんの貞操の危機だから、見張ってたんだよ!」
「第一、中森さんの誕生日なのに、黒羽が中森さんの唇奪うんじゃ、逆じゃんか」
「・・・君も、1人だけイイ思いをしようなんて、さもしい事を考えてるから、こうなるんですよ」

男子達の中には、たまたま帰国中の白馬君までいて、薄笑いを浮かべて快斗を見ていた。

・・・青子にはよく分かんないけど。
男子達は、快斗と青子が・・・そ、そ、その・・・キス・・・するのを、止めようとした・・・らしい・・・。
でも、さっき、快斗は本当に、その・・・そんな事、考えてたのかな?

「やーねー、もてないからって僻んじゃってさ」
「せっかく、クラスぐるみの行事だからって、親を説得して来たってのに」
「わたしは、悪さをしていないって証拠に、携帯で実況中継する事を条件で、親に許して貰ったのよね〜」

そう言って、携帯を掲げて見せたのは、恵子だった。

「い!?お、おい、恵子・・・それってまさか!」

快斗がさすがに青くなって言った。

「うん、今も、実況中継中だよ?」

快斗と青子の・・・キス・・・未遂は、恵子の親まで見てたのかって思うと、青子は、穴があったら入りたい心境になって来た。

女子は、ロマンスに期待するお年頃だから。
生の・・・シーンを見るのを、期待してたらしいけど。
青子と快斗のそんなの見て、面白いのかな?


あ。
青子は、ちょっとガッカリもしてるけど、どこかでホッとしてる。
だって。
快斗と青子は、幼馴染だもん。
なんかつい、そういう雰囲気になってしまっただけで。
快斗は、青子の事なんか、そんな風には思ってないんだもんね。


見ると、女子の中には紅子ちゃんまで居て。
ふっと艶やかに笑って言った。


「黒羽君。きちんと告白もせずに、青子さんの唇を掻っ攫おうなんて、そうは行きません事よ」
「で、ですよね、紅子様!」

さっき、「中森さんはみんなのアイドル」なんてふざけた事を言ってた男子が、紅子ちゃんに鼻の下を伸ばして言った。
ほうらね。
青子が本気でもてる筈なんか、ないんだから。
男子達は、ただ単に、快斗に「イイ思い」させたくなかっただけなのよね。

ただ、青子とのキスが「イイ思い」なのかどうか、そこが若干疑問なんだけど。


「さ!ご馳走も準備してあるんだ!パーっと、行きましょうよ!」

恵子がそう言って、皆、青子んちのリビングにわらわらと入って来た。

3のB全員じゃないみたいだけど、かなりの人数が来ていて、我が家のリビングはごった返す。
いつの間にか部屋は飾り付けされてて、「Happy Birthday AOKO」の横断幕まであり。
女子達が作ってくれたご馳走とケーキがあって。

「もう、みんな、受験生なのに。こんな夜中に、人んちで、何やってんのよ?」

思わず悪態をつきながら、青子は嬉し涙を流していた。


「それでは、ワインでと行きたいところですが、我々は未成年。ここは、シャンメリーで、乾杯と行きましょうか」

白馬君が持って来たシャンメリーが皆にふるまわれる。
さすがに白馬君、ノンアルコールのシャンメリーと言えども、ブランド物だ。

「じゃあ、青子の18歳の誕生日を祝って!乾杯!」

恵子がいつの間にか、音頭を取っていた。


「黒羽君。いい加減、その扮装を解いたらどうですか?」

白馬君が、皮肉気に言って(どうも白馬君って、キッドの正体に気付いていそうなんだよね・・・)。
男子達がそれに追随する。

けれど女子は。

「イイじゃない、本物の怪盗キッドみたいで、カッコいいよ!」
「うんうん、その格好でマジック披露してよ、黒羽君!」

声援に応え、快斗は数々のマジックを披露して、その場を盛り上げる。


不思議だよね。
怪盗キッドと黒羽快斗は、同一人物なのに、今の快斗って、「怪盗キッドの扮装をした一男子高校生」に見えるんだもん。


「まったく。黒羽君も、意気地なしです事」

紅子ちゃんが、小さな声で言った。

「紅子ちゃん?」
「・・・クラスの皆がせっかく、青子さんの誕生日に2人を正式に引っ付けようって、お膳立てしてたって言うのに。まあ、いざとなったら、男子達にも造反者が出たようだけどね」
「え!?えええっ!?」

青子は驚く。
ひ、引っ付けるって、引っ付けるって。

「あはは〜、でもそんなの無理だよ〜、快斗は青子の事、単なる幼馴染でお子様としか思ってないし〜」

青子が、心の寂しさを抑えて笑うと。
恵子が青子の肩に手を置き、溜息をついて言った。

「青子。あんた、分かってないわね〜」
「へっ?恵子、何を?」
「快斗君って、女好きだけど、青子は別格だって思うよ」
「だからそれは、青子の事、女と思ってないから〜」

青子が笑ってそう言うと、女子達は一斉に溜息をついた。

「それもこれも、快斗君が意気地なしだからよ!」

恵子が妙にエキサイトして、周りの女子がうんうんと頷く。
?????
よく分からないけど、まあイイや。
みんなが、青子の為に本当に一所懸命考えてくれてたって、伝わったから。

「みんな。今日は本当に、ありがとう・・・」

嬉しくて、感動のあまり、涙が零れ落ちてしまった。


   ☆☆☆


次の日・・・と言うか、その日の朝。
皆、寝不足のまま登校して、授業中一斉に居眠りをやらかして、先生達からはコッテリと絞られた。

お父さんは、怪盗キッドの予告がガセだったと、機嫌が悪いし。
近所からは、夜中の花火や大騒ぎの事で、苦情が出るしで。

ま、色々と散々な事もあったんだけど。
それもこれも含めて、青子は幸せだなって感じていた。


「青子」

快斗が昼休み時間に青子に手渡して来たものは、分厚くて大きな封筒だった。

「へ?何これ?」
「昨夜、渡そうと思ってたんだけどよ、渡しそびれて」
「もしかして、誕生日プレゼント?」
「・・・になるかどうか、微妙」

???
何だろ?

快斗は青子に封筒を押し付けると、さっさとその場を去った。

青子は、封筒を開けてみた。
中に入っていたのは、アメリカ・ニューヨークでの、留学に関する説明書や申込書なんかの書類だった。

周りにいた女子達から、歓声が上がった。

「キャー!青子、青子、凄いプレゼントじゃない!」

女子達が口々に興奮したように喚くけど、青子はよく分からず、首を傾げた。

「快斗・・・青子がアメリカに留学したいって考えてるの、どうして分かったんだろ?」

青子がボソリと呟くと、何故か、周りにいた女子達が一斉にずっこけた。

「バカね、青子!これはきっと、青子に一緒にアメリカに来いっていう、快斗君の意思表示に決まってるじゃない!」

恵子が興奮した様子で言った。
皆がうんうんと頷く。

「そっかあ。快斗も、1人で渡米するの、心細いのかな?それか、マジックの助手が欲しいとか・・・。あれ、みんな、どうしたの?」


見ると、女子達が皆ひっくり返っている。


「ははは・・・本当に分かってないんだから」
「まあ、青子らしいよね・・・」
「意外と、黒羽君も苦労するかも」

ひとりだけ、引っ繰り返っていない紅子ちゃんが、優雅にお茶を飲みながら、綺麗な発音で言った。

「I wish you were here.」
「え?」
「ご存じでしょ、この意味」
「そ、そりゃ、意味位は、分かるけど・・・」
「だから。黒羽君の言いたい事」

?????

I wish you were here.
あなたに、ここに居て欲しい。

言葉の意味は分かるけど、それが快斗の行動とどう繋がるのか、青子は分からなくて首を傾げた。
周りの女子達も首を傾げていたけど、それは青子と違って単に「英語の意味が分からない」らしい。

「それもこれも、黒羽君が意気地なしを返上すれば良い事ですわ。まあ彼には、頑張って貰いましょう」

女子達が皆、苦笑いをしながら頷いた。
みんなが分かっている風なのに、青子だけが意味が分からず、頭の中に沢山クエスチョンマークが飛び交っていた。



この時の、快斗の行動の本当の意味とか。
恵子や紅子ちゃんや皆が言っていたのが、どういう意味だったのかとか。


そういった事を青子が理解したのは、それから何ヶ月も経ってからの事だった。



Fin.


+++++++++++++++++


<後書き>

青子ちゃんお誕生日記念のお話を書くのは、数年ぶりです。
愛はある積りだけど、ネタと時間が・・・(汗)で、いつもスルーしちゃうんですよね。
今年は、素敵企画の発動があったので、頑張って書きました。

初の、青子ちゃん一人称。
青子ちゃんだったらやっぱり、「わたしは」じゃなくて「青子は」だろうな、と思いながら。
三人称と区別して書くの、意外と難しかった。


乱入するクラスメート達は、書いてて本当に楽しかったです。
私が考える、快青をめぐるクラスメート達って、あんな風。

基本的には、皆で2人の仲を応援してるんだけど。
青子ちゃんは密かに男子に人気だと思うし、いざとなったら「黒羽1人にイイ思いをさせてたまるかあ!」ってヤツが、絶対いると思うのね。

結局、今回、チュウは寸止め(笑)。
でも、決して「快斗君を苛める」のが本意ではありませんし(ホントか?)、青子ちゃんには幸せになって欲しいので。
当初、ほのぼの幼馴染のまま締めようかと思ってたんですが、蛇足かと思いつつ、未来を暗示するラストを付け加えてみました。
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