味方



byドミ



最近の喫茶ポアロは、若い女性客が多くなった。
その多くが、毛利探偵の弟子・安室透目当てである。

安室は、人当たりよく、女性の対応は非常に紳士的だ。

『こいつのこの態度が、表面的だなんて知っているヤツは、オレ位だよな……』

中身高校2年生・見た目小学1年生の江戸川コナンは、ジト目で安室透を見遣っていた。

安室透の正体は、警察庁警備局警備企画課所属の捜査官、降谷零。
黒の組織に潜入し、そこでは、バーボンというコードネームを持つまでになっている。

他者を見下すような態度を取ることがあり、また、状況によっては容赦ない冷たい面を持つ。
けれど……。

『けど、あながち演技ってワケでもなく……多分、この優しい面も、こいつの本質の一部ではあるんだろうな』

コナンは、安室の冷たい容赦ない面を、知っている。
けれど同時に、潜入捜査のためという大義名分を超えて、表面上の人当たりの良さだけではない優しい面も、見たことがある。


そして今。
店内には、女子高生3人が居た。
珍しく、安室狙いではない女の子たちだ。

「ねえねえ、蘭。その後、旦那から連絡あった?」
「そ、そりゃまあ……メールなら……」
「ええ?メールだけ?甘〜い声で電話かけてくんじゃないの?」
「た、たまには……」
「あー!そうなんだ、やっぱりー!って、もう、蘭ってば!最近、素直過ぎて、からかいがいがなーい!」
「へ?そうなんだ?蘭君、前はどうだったの?」
「新一君に告られる前は、旦那って言われたら必死で否定してたんだよね〜」
「もう、園子!」

その場にいるのは、コナンの本来の姿・工藤新一の幼馴染で同級生で先ごろ彼女になったばかりの毛利蘭。
そしてやはり、新一の幼馴染で同級生の鈴木園子。
3人目は、新一と同じクラスに転校してきて、新一の姿では修学旅行でしか直に会ったことがない、世良真純。

同じテーブルで、コナンは居心地悪そうにしていた。
けれど、真純が意味ありげにコナンの方を見遣るので、素知らぬ顔を作る。

その時、ケーキを運んできた安室から声が掛かった。

「蘭さんの彼氏の新一君って、工藤新一君のことかな?」
「そうそう!もう、保育園の時から夫婦してたのにさ、やっと正式に付き合いだしたんだよねー!」

コナンは焦る。
安室透が公安警察の捜査官であり、一応、正義の味方で、黒の組織に潜入しそれなりの地位を得ているのはあくまで組織を倒すためであり、自分たちの敵ではないと知っているが、工藤新一の情報を知られるのは、あまり得策ではないと思っていた。

「そ、園子姉ちゃん、新一兄ちゃんのこと、あんまり喋らない方が良いと思うよ」
「は?ガキンチョ、何でよ?」
「コナン君は、その工藤新一君とは、どういう関係?」
「あ、あの……」
「コナン君は、新一の遠い親戚……だよね?」
「あ、う、うん、まあ……」
「確か……コナン君のひいおじいちゃんのお兄さんの娘のいとこの叔父の孫にあたるとか……」
「へえ、そうなんだ……っていうか、そこまで遠いと、親戚と言っていいのかどうか……」

苦笑いする安室。
一方でコナンは、有希子がほぼ出まかせで蘭に告げたコナンとの血縁関係を、蘭が正確に覚えていたことに、驚いていた。

「でもホント、このガキンチョ、憎らしいくらい、新一君によく似てるよね〜」
「そうそう、推理好きなとこもサッカーが上手いところも、顔立ちも……」
「へえ?そうなの?じゃあ、コナン君を10歳くらい大人にしたら、工藤新一君になる感じなんだね?」

安室がじっとコナンを見つめる。
その眼差しの真剣さに、コナンは、正体バレしたのではないかと、背中に冷や汗が流れるのを感じた。



   ☆☆☆



次の日。
蘭が部活でご飯を作れないというので、コナンが1人でポアロに食事に行くと、安室が特製のサンドイッチをテーブルに届けた後、そっと耳打ちしてきた。

「コナン君は、工藤新一君……」
「え?あ、ボク、新一お兄ちゃんには色々教えてもらってるんだ!」
「で、女の好みも、同じになっちゃったんだ?」
「へっ?」

コナンは、安室が何を言っているのか分からず、目が点になった。

「僕は、よく知らない工藤新一君より、コナン君の味方だよ」
「えっと……?」
「大丈夫。世の中には、10歳以上歳が離れている夫婦なんていくらでもいるし、男の方が年下なのも、ありだと思う」
「あのー?」
「傍に居もしない男より、いつも傍で守ってくれている君の方に目を向けてくれる可能性は、十分あると思うね」
『へっ!?そっち!?』

そこでようやく、コナンは、安室が言わんとしていることに気が付いた。
工藤新一と毛利蘭の件で、コナンを真剣に見つめていたのは、正体バレしたからでも何でもなく……。

「あ、安室さん……ボクは、蘭姉ちゃんが大好きな新一兄ちゃんと付き合うなら、それで良いと思ってるんだけど……」
「いや!絶対に、君の方が、彼女を幸せにできる。応援してるよ。頑張って」

昨日の安室の真剣な眼差しの意味を悟り、思わず乾いた笑いを漏らすコナンであった。



Fin.



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<後書きという名のこぼれ話あるいは言い訳>

本当は漫画で描きたかった。
でも、安室っちが描けなくて挫折しました。

映画から発想したけれど、映画のネタバレ……というほどのことはない(多分)。
安室っちが「コナン=工藤新一」と知らないのは公式設定のようなので、ふと思いついた小ネタ話です。

江戸川コナン=工藤新一と知らないままに、コナン君の本質を見抜いたのは、長野県警の大和警部と安室っち。
この2人に共通しているのは、「工藤新一」との面識がないこと。
2人にとって、高校生探偵と持ち上げられていても実際に会ったことも会話したこともない工藤新一君などより、実際に一緒に過ごしてよく知っているコナン君の方がよく理解できる。
コナン君の正体がどうたらと勘ぐるより、その存在そのものを認めているのでしょうなあ。


2018年5月1日脱稿、5月7日部分的に改稿
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