幼馴染の糸の色

(お題提供:「恋したくなるお題」「幼馴染の恋物語」03.「幼馴染の糸の色」)



byドミ



毛利蘭は、考えていた。
幼馴染の工藤新一、彼との間に、蘭が望むような絆は存在しているのだろうか?


   ☆☆☆


「じゃあ、お父さん。行って来ます」
「ああ。遅くならんようにな」

今日は、新年を迎えた日。
年末年始も、蘭の母親である英理は、この家に帰って来る事はなかったが。

蘭が晴れ着を着るつもりがあるのなら、用意している着物を着付けてあげると、言ってくれたのである。


「お母さん、明けましておめでとうございます」
「おめでとう、蘭」

英理が少し眼を細めて、娘の姿を見た。
英理は、今1人暮らしをしているマンションの和室に、蘭を連れて行った。
そこには、赤い矢絣模様の着物がかかっていた。

「どう?私が若い頃に着たヤツだけど」
「素敵。わたし、赤が好きなの」
「そうだろうと思ったわ。着物も様々な色があるけれど、洋服と違ってパステルカラーより、ハッキリした色の方が良いと思うのよ」
「ふうん、そんなもんなんだ」
「きっと、初詣では着物姿も多く見ると思うから、見てみると良いわ」
「うん!」
「振り袖は、成人式の時に、揃えてあげるわね。あれはさすがに、私も着付けてあげる事は出来ないし。こういった、普段着の着物は、コツさえ覚えれば蘭1人でも着付けられるようになるから」

英理は、話をしながらも、手際よく蘭に着物を着付けて行った。
軽く化粧を施し、簡単に結い上げた髪に、和風の飾りをつけた。

姿見を覗き込んで、蘭は感嘆の声を上げる。
吊るしてある着物を見た時想像したよりも、ずっと素敵だと感じた。

「お母さん、ありがとう・・・」
「歩く時は気をつけてね。あんまり無理はしないのよ」
「うん!」
「それにしても、今年は着物を着たいなんて、どういう風の吹き回しなの?」
「そ、それは・・・たまたまよ、たまたま」
「そう?誰か、見せたい人が居るのじゃなくて?」
「そ、そんな事!わたしはただ、もう高校生なんだし、たまには着物姿も良いなあって思っただけで!」
「・・・まあ、そういう事にして置きましょう。でも、言って置くけど、幼馴染と探偵は、駄目よ」
「な、何でっ!?」
「あら。蘭の好きな相手は、幼馴染で探偵なの?」
「違うよ!わたしは、新一の事なんて!」

蘭は墓穴を掘ってしまった事を悟り、口を押さえた。
英理は、苦笑する。

「やっぱり、ねえ。新一君か。マスコミで見る限りではかなり違う印象だけど・・・あれは表の顔で、あてにならないしねえ。子供の頃は腕白で、蘭は女の子なのに連れ回して。今は、さすがに蘭を危ない目に遭わせては居ないと思うけれど、まだ高校生なのに探偵気取り。私は、賛成出来ないわね」
「だからっ!そんなんじゃないって、言ってるじゃない!」

蘭は、俯いて唇を噛み締めた。
新一には、片想いで、付き合っている訳でもないのに。
蘭が誰よりも大好きな新一の事が、父親と母親から、悪いように言われてしまうのは、辛いものがあった。

英理は家を出てから長い事、新一に直接会っては居ない。
幼い頃の印象そのままだから、あんまり良く思っていないのは理解出来なくもないが、蘭は悲しかった。

『確かに新一は、いつもわたしを連れ歩いて冒険していたけれど。でもでも、幼い時でもいつも、わたしを庇ってくれていたのに』


蘭の脳裏に、ふいに鮮やかに浮かび上がった情景があった。
夕陽に染まって、燃えるように赤かった、百合の花。

『ああ、そうだ。わたしあの時から、赤が大好きな色になったんだわ』


   ☆☆☆


新一からは昨日の内に、初詣のお誘いがあったので。

「うん、行く!」

蘭は二つ返事でOKしていた。
新一が迎えに来てくれると言ったのだが、蘭は断り、12時に工藤邸での待ち合わせをしていた。

「・・・良いけどさ。来る前に、連絡入れろよ」

新一が言ったのは、多分、事件の呼び出しの可能性を考えての事だろう。
蘭は、英理のマンションを出る際に新一に電話を入れた。
幸い新一は、呼び出される事もなく家に居た。

一応、新年の挨拶を電話で交わしてから、用件を伝える。

「お母さんのところから来るから、ちょっと時間かかるかも」
『小母さんとこから?ああ、わーった』

英理のマンションから、新一の家まで、そう遠くはない。
けれど。


「これは、ちょっと・・・きついかも・・・」

慣れない着物と草履で歩くのは、結構時間と体力を消耗する。

「時代劇の女優さん達って、すごいなあ」

蘭は、妙なところで感心していた。
もうとっくに引退してしまっているが、蘭が好きな女優でもある新一の母親・藤峰有希子は、着物姿もなかなかのものだったし、その格好でスタントなしの立ち回りも演じていた。

「・・・着物を着こなすってのは、形ばかりじゃないよね。せめて、普通に歩けるようにならなきゃ」

足を速めようとした蘭だったが、歩道のちょっとした段差につまずいて、つんのめった。

「あっ!」

蘭は、慣れない着物姿の上に、手に持っているものに気を取られ、危うく転びそうになる。
それを、抱き止めてくれた腕があった。

『え・・・?』

抱き止めた男性の腕に、違和感も嫌悪感も覚えない事に戸惑いながら顔を上げると、そこに居たのは。

「新一!?」

「そ、その・・・小母さんちから来てるにしては、随分時間かかってんなあと思ってよ」

ああ、迎えに来てくれたんだと思い、蘭の胸は温かくなる。
ぶっきら棒な言葉ながら、新一がいつも気遣ってくれる事を、蘭は感じ取っているのだ。

次いで、今、新一に抱き締められている格好なのに気付いて、頬に血が上った。

新一は、しっかりと蘭を支えて立たせると、蘭の手に下げられていた荷物を持った。
新一の冷静な動きに、蘭は、ドギマギしたのは自分だけなのかと少し悲しくなる。

新一が蘭を大切にしてくれている事は、しばしば感じているけれども、蘭がどんなにドギマギしようとも、全く動じる事が無さそうなのだ。
それこそ、新一にとって蘭は「ただの幼馴染」なのだろうと思う。


「初詣に行くんだろ?この荷物、どうすんだ?」
「あ、そ、それは・・・新一の家に・・・」
「ん?」
「その・・・まだあんまり上手く出来てないかも知れないけど・・・」
「もしかして、お節料理か?」
「う、うん・・・」
「・・・あ、そ、その・・・ありがとな・・・」

新一が、照れたような表情で、頬をかいていたので。
蘭は、新一に本当に喜んでもらえたのだと、嬉しくなった。


「・・・けど、どうしよっか・・・」
「え・・・?」
「いや、初詣。今年は明治神宮か鶴岡八幡宮に行こうかって、思ったんだけど・・・」

蘭は小首をかしげた。
新一が一体、何を逡巡しているのか、分からなかったのである。

「やっぱ、米花神社にしよう」

そう言って、新一が歩き出す。
蘭は、行き先に不満な訳ではなかったが、気になった事があったので声を掛けた。

「あ、新一!でもその前に、その料理、新一の家まで持って行かないと・・・」
「・・・米花駅のコインロッカー、多分満杯になってねえと思うから、そこに預けて行こうぜ」
「え・・・?」
「冬場だから、コインロッカーに入れても、食べ物がいたむ事はねえだろう」

蘭は頷いたが、頭の中で疑問符が渦巻いていた。
新一の行動基準が、分からなかったからだ。



新一の首には、蘭がクリスマスに贈ったマフラーが巻かれていて。
蘭は少し嬉しくなる。

蘭の方は、着物姿だから、新一からもらったマフラーを巻いてくる訳にも行かなかった。

『新一・・・わたしの着物姿を見ても、何にも思わなかったのかな・・・』

新一が、女性の格好を褒めるような男でない事位、分かっている。
特に、蘭に対しては、まずそういう事はしないだろう。

でも、嘘でも、何か言って欲しい。
蘭は、新一に望むのは無理だと思いながらも、期待せずには居られなかった。



米花駅のコインロッカーにお節料理を入れると、新一と蘭は、米花神社に向かって行った。

新一と一緒に歩きながら、蘭は少しばかり違和感を覚える。
何かが、いつもと違う?

少し経って、その理由に気付く。
新一が、いつもよりかなりゆっくり歩いているのだ。


いつもは、人気(ひとけ)もなく閑静な神社だが、さすがに元旦ともなると、参道も既に人で賑わっていた。

「ホラ」

新一が手を差し出してきたので、蘭は戸惑う。

「はぐれっといけねーから。オメー、携帯も持ってねえだろ?」
「うん・・・」

手の意味を了解し、蘭がおずおずと自分の手を出すと、新一がグッと蘭の手を握り締めた。
新一と手を繋いで歩く事は、たまにある。(園子などからは、それで付き合ってないと言い張る方がどうかしていると言われるのだが)
けれど、今日は何だか少し違うように感じて、蘭はドキドキした。

蘭が少しつまずきそうになると、新一が手にグッと力を入れて支えてくれる。


『新一・・・何も言ってくれないけれど・・・もしかして、わたしが着物姿だから、気を使ってくれている?』


初詣は明治神宮か鶴岡八幡宮にと考えていたのを、あっさり近所の米花神社に変えたのも。
一旦工藤邸に荷物を置きに帰ろうとせず、米花駅のコインロッカーに入れたのも。
今、手を繋いでくれているのも。

全ては、慣れない着物姿の蘭を長時間歩かせない為と、人込みに苦労させない為なのだろう。


新一には、そういう風に、口では何も言わないけれど、妙に細やかに気を使ってくれるところがあった。

『もしも、新一が誰かとお付き合いしたら。きっと、その子はこうやって、新一からさり気ない優しさをいっぱい貰うんだろうなあ』

新一に、今、好きな女性も付き合っている女性も居ない事だけは確かだけれど。
いずれ、そういう事になる可能性は、高い。
その時、蘭はどうなるのだろう?


『ねえ、新一。新一のこういったさり気ない優しさに気付いてあげられるのって、新一の本当の良さに気付いてあげられるのって、きっと、わたし位だよ。だから・・・』

蘭を、見て欲しい。
ただの幼馴染ではなく、1人の女性として、見て欲しい。

言葉に出せない切ない想いが、胸に溢れる。


突然、新一の歩みが止まり、蘭の方を振り返った。


「蘭?どうした?」
「えっ!?」
「疲れたか?」
「大丈夫よ。何で?」
「いや、オメーが何も言わねえからさ。んなカッコしてるから、足が痛えんじゃねえのか?」
「だ、大丈夫だってば!大体、何も言わないのは、新一の方もじゃない!いつもだったら、ホームズの話か事件の話を、聞きもしないのにベラベラ喋り捲ってるじゃない!」
「あ・・・そ、そうだっけ?」
「そうよ!」

新一が少し困ったような顔をして、視線を逸らした。
蘭は、新一の気遣いには感謝しつつも、「んなカッコ」と言われてしまった事が、少し悲しい。
せっかく気遣ってもらっているのに、つい、強い口調で言い返してしまう。
新一はちょっと苦笑して、言った。

「まあオメーも、それだけ元気なら、大丈夫だな。ホラ、もうすぐだから」


いつの間にか、本殿に至る石段が、すぐ目の前にあった。


参拝の前に、水で手を清めるのだが。
蘭が着ているのは振り袖ではないけれど、袖がうまくたくし上げられず、四苦八苦していた。

「ホラ、貸せよ」

見かねてか、新一が横から柄杓を取った。
そして、蘭に手を出させ、柄杓から水をかける。

蘭が口と手を清めると、新一も自分の口と手を清め。
そして、再び新一が蘭の手を握り、本殿に向かった。


『素っ気無いけど、優しい・・・』

言葉はぶっきら棒だけど、蘭が着物を着ている事で、ずっと気を配ってくれる新一の気遣いが、嬉しい。


参拝する時の、蘭の願い事は決まっていた。

ずっと、新一の隣に居られますように。
新一の「ただ1人の女性」になれますように。


ふと隣を見ると、新一も神妙な顔をして、熱心に拝んでいるようだった。


その場を離れた時、蘭は思わず笑い出していた。

「んだよ?」
「だって。新一ったら、神様なんて信じてない風なのに、真剣にお参りしてるんだもの、おかしくって」
「それ言うなら、オメーも一緒だろ?つか、日本人の殆どがそうじゃねえか?つい数日前には、皆で異教の神様の誕生日を祝ってたんだからよ」
「まあ、そうなんだけどねえ。新一って何か、無神論者って感じがあるし」
「・・・オレは別に、人智を超えた存在と言うものを、否定してる訳じゃねえぜ」

新一が真面目な顔で言ったので、蘭は笑いをおさめる。
新一とは、ずっと近くに居たのに。
いまだに分かっていない事は多い。

「新一・・・」
「さあ、帰ろうぜ。腹減った」
「もう!その前に、おみくじ引いて、今年のお守り授からなきゃ」

おみくじを引くと、蘭は中吉、新一は・・・。

「凶?マジかよ・・・」
「新一、信じるんだ?」
「っせーな。たとえ信じてなくたって、凶と出て嬉しいヤツなんか居る訳ねえだろう?」

蘭は、素早く2人のおみくじの「恋愛」部分に目を走らせる。

蘭のおみくじには。

<今は辛抱の時。だがいずれ、道が開ける。>
『今年は駄目なのかなあ?いずれ道が開けるって・・・いつかは新一が振り向いてくれるって事?』

当たるも八卦、当たらぬも八卦と思いながらも、気になってしまう。

そして、新一のおみくじには。

<想い人とは相思相愛の仲。しかし暫くは障害があり成就せず。時を待つべし。>
『想い人と相思相愛?新一には、誰か、好きな人が居る・・・の・・・?』

蘭は思わず目の前が暗くなりそうになったが。

『おみくじはね、該当しない部分は見ても意味がないから』

昔、そう聞いた事を思い出して、心を鎮める。
おみくじには、出産とか病気平癒とか、自分が該当しなければ意味がない部分があるものだから。
新一に、今、好きな女性が居ないのなら、恋愛運の部分は、気にしなくて良い事だ。

蘭が見る限り、新一には今、好きな女性は居ないだろうと思う。
さすがに、他に好きな女性が居るのに、蘭と2人でクリスマスを過ごしたり初詣に来たりはしないだろう。

そう思いながらも、蘭の脳裏に悪い想像(と言うより妄想劇場)が展開する。



『いけないわ、探偵さん。私は人妻・・・』
『ご主人を殺した犯人は、きっと僕が見つけて敵を討ちます。だから・・・』
『ああ、あなた。あなたを失った悲しみを、この探偵さんの腕の中で癒してもらう、弱い私を、許して・・・』


『いけないわ、私は公僕の身。まだ高校生の君とこんな・・・』
『警察官としての使命に一生懸命な姿に、惹かれました。僕が高校を卒業したら・・・』
『もう。いけない子ね。・・・あと2年とちょっと、私達の関係は、誰にも秘密よ・・・』



「・・・ん・・・おい、蘭!」

蘭は、新一の呼びかけに我に返った。
新一が心配そうに間近で覗き込んでいるので、心臓が跳ね上がる。

「どうした、大丈夫か?目眩がしたのか、寒いのか?」
「だだだ、大丈夫よ!」
「熱は?なさそうだな・・・」

新一が自分の額を蘭の額にこつんと当てて来た。
それは、幼い頃から、「熱がないかどうかみる為に」何度も自然に繰り返されて来た行動なのに。
今の蘭にとっては、心臓に悪い。
新一が間近で心配そうに覗き込む瞳が、吸い込まれそうな蒼さで、余計に心臓に悪い。

「大丈夫だってば!」

新一が心配してくれたのが嬉しかったのだが、あまりにも心臓がバクバクなりそうな状況に、蘭はつい、邪険な物言いになってしまった。


蘭は誤魔化すように、おみくじを持って枝に結び付けようとした。

「本来、凶運をお祓いする為に、枝に結ぶんだろ?蘭は良いんじゃねえか?」
「良いの!ホラ、新一も」

蘭は、何のかんの言ってもやはり「凶」を引いてしまった新一の事が心配だったので。
新一がブツブツ言いながらおみくじを枝に結びつけるのを、じっと見詰めていた。

「新一、凶運を祓う為にも、お守りを分けて貰おうよ」
「去年のヤツは、持って来てるか?」
「うん!」

古神札納所で、昨年の正月に授かった受験祈願のお守りを納め、神札授与所に向かう。

そこには破魔矢や、様々なお守りが並べられていて。
蘭は迷った。

「何か、いっぱいあるよねー、お洒落なのとか、キャラクターものまで」
「・・・これ、蘭のおふくろさんにどうだ?」
「え〜、何これ、かわいい〜!」

新一が指差したのは、肉球をかたどった「ペットお守り」である。
そう言えば、英理が飼っている猫のゴロは、かなり高齢だった筈だ。

「やだ!お母さん、去年厄年だったんだ!」
「んなら、今年は後厄か?じゃ、厄除けもだよな。この天然石お守り根付なんか、携帯のストラップ代わりにもなるし、良いんじゃねえか?」

英理にはペットお守りと厄除けのお守りを、そして、仕事が暇でいつもお酒を飲んでいる小五郎には商売繁盛と無病息災のお守りを、それぞれに授かる。

「新一のご両親には?」
「・・・よく考えたら、母さんはオメーのおふくろさん達と同い年なんだよな。じゃあ、この厄除けと・・・父さんには仕事のお守りで良いか」


蘭は、新一が何より先に蘭の両親の事を考えてくれた事が嬉しくて。
その両親から、新一があまりよく思われていないらしい事に、悲しくなった。


「オレ達の分は、今年は受験もねえし。無病息災家内安全のお守りで良いよな?」
「う、うん・・・」

縁結びと恋愛成就のお守りを横目で見ながら、蘭は曖昧に返事する。

「蘭の分も、オレが買ってやるよ」
「もう!失礼な言い方しないで!お守りは『買う』んじゃなくて、『分けていただく』か『授かる』って言うの!」
「ハイハイ、わーったわーった。ホラ、選べよ」

蘭は迷った挙句、結局、オーソドックスな赤い布袋のお守りを選んだ。
それは、「開運」のお守りだった。
開運と言えば、全てを含むような気がしたので。
蘭にとって、新一との縁が結ばれる事が、開運だという気がしたので。


「オメー、赤が好きだよなあ」
「・・・新一も、でしょ?」
「オレは・・・まあ、いいや。オレも同じもので」

新一は、赤い「開運」お守りを2つ授かり、1つを蘭に渡した。

そう、蘭は赤が好きだ。
多分、幼い頃から好きだったのだろうと思う。

そしてまだ小学生になるかならないかの頃、崖に咲いている赤い百合の花を、新一が取ってくれたその時から、蘭はもっと赤が好きになった。

そして、年頃になった最近では。


『結ばれる運命の相手とは、小指と小指が赤い糸で繋がっているんだって』

運命の赤い糸伝説のお陰で、蘭はますます、赤が大切な色だと思い、好きになったのだった。


そして今、新一が、赤いお守り札を蘭の為に分けて貰って、蘭に渡してくれたのが、すごく嬉しい。


今のところ、蘭と新一は「ただの」幼馴染だけれど。
2人の間を繋ぐ糸は、赤い色に染まっていると、信じたい。


「・・・ありがと」
「どう致しまして。蘭、お神酒の甘酒、頂くか?」
「うん!」

米花神社では、お神酒として甘酒が振舞われる。
以前は日本酒だけだったのだが、昨今は「飲酒運転」「未成年飲酒」の問題から、甘酒も振舞われるようになったのだ。

甘酒を頂いた後、新一と蘭は帰り道に、参道にある茶店で一息ついた。

「冷えただろ、ちょっとあったまって行こうぜ」

新一の言葉に、素直に甘える事にしたのである。
着物は意外と暖かいのだが、少し座りたかったのは事実であった。

『今日はこの格好の所為か、新一、随分気を使ってくれてるよね』

蘭は、いつもなら紅茶を頼むのだが、今日はココアにしていた。
何故なら、紅茶には利尿作用があるから。
この格好でトイレに行くのは、不可能ではないがきついものがある。


「そ、その・・・蘭、結構、行けてると思うぜ・・・」

新一が、蘭の向かい側でコーヒーを飲みながら、少し目を逸らしてぶっきら棒に言ったのに、蘭は戸惑った。

「え・・・?」
「いや、その格好・・・似合ってんじゃん」
「新一・・・」

新一の言葉が嬉しくて、蘭は思わず頬が染まった。
しかし。

「いや、オメーでも、んなカッコしてっと、女に見えるもんなんだなあ」

その言葉に蘭はピキッと額に青筋を立て、思わず拳を突き出していた。

「わっ!あぶねっ!」

新一は反射神経が鋭くて、いつも蘭の攻撃位軽くかわすのだが。
蘭もそれを承知の上で、空手技をかけるのだが。
蘭は一瞬自分の格好を忘れていた為、袖がテーブルの上のカップをなぎ倒しそうになり。
新一が素早く蘭の袖を押さえてそれを防いだのであった。

そして代わりに。

「あ・・・!新一、ご、ごめ・・・!」

新一の顔面に、蘭の拳が見事ヒットしてしまったのであった。


   ☆☆☆


その後勿論、蘭は新一に、平謝りに謝って。
さほど怒ってもいない新一は、すぐに許してくれ。

新一の家で打ち身の手当てをした後、2人で仲良くお節料理を頂いたのであるが。


翌日には新一の左目周囲に、しっかりと青丹が出来てしまい、新学期になってもそれは残っていた。
お陰で、新学期の学内では「新一が蘭に手を出そうとして空手チョップを受けた」と噂になってしまい。
2人がいつにも増して、クラスメイト達にからかわれる羽目になった事は、言うまでもない。



Fin.


+++++++++++++++++++++++++++


<後書き>

今回、ブログ連載の分に、若干手を入れています。

タイトルから、誰もが「赤い糸の伝説」を思い浮かべますよね?
私も、そうだったので、それに絡めてと思ったのですが。どうも上手い具合に絡みませんでした。

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