初めて聞いた声音
(お題提供:「恋したくなるお題」「幼馴染みの恋物語」09. 初めて聞いた声音)



byドミ



(3)



「オレは、知っているんだ。お前が絶対、人を殺すような女ではないって真実をな!」

言葉が、出なかった。
新一に、そういう風に言って貰えるなんて。


以前、新一に、もし身近な人が犯人だったらどうするのか、聞いた事がある。
あの時、新一は「いうよ!面と向かってはっきりと、『あなたが犯人だ!』ってな!」・・・と、言ったけれど。

本当はあの時、
「もしも、犯人がわたしだったら、新一はどうする?」
って、聞きたかったんだ。

でも、聞けなかった、怖くて。


だけどその答を、はからずも今、聞いてしまった。
新一はわたしを、「何があっても人を殺すような女じゃない」って思ってくれている。
それって、どれだけすごい事なんだろう。

わたしは、新一に深く愛されていて。
同時に、深く信頼されているんだ。

人を愛する事と、人を信頼する事とは、異なることだ。
でも、新一は、愛と信頼の双方を、わたしに向けてくれている。
そしてわたしも・・・新一を深く愛し、同時に新一を心から信頼している。


新一は、きっとすぐに、真実を突き止めてくれる。
竹山さんを殺した犯人を、見つけ出してくれる。



   ☆☆☆



「事務所の表口は昨夜事務所が閉まってからはずっと鍵が掛かったままで、開けられた形跡はありません。裏口の方は、昨夜最後に開いたのが夜の8時。その後、今朝、所長の竹山弁護士のIDカードで開いたのが、朝の8時。そして・・・蘭さんの持っているIDカードでドアが開いたのは、8時30分。蘭さんの携帯から110番通報があったのは、8時35分。鑑識によると、被害者の死亡推定時刻は、7時30分から8時30分という事です」
「じゃあ、やっぱり、梅男さんを殺したのは、この女しかいないじゃない!」

高木美和子刑事の言葉に、竹山さんの婚約者だという洋子さんが、わたしを指さして言った。
・・・何だろう?洋子さんは、わたしを敵視している?
わたしのこと、婚約者を殺した女だと思い込んでいるから?
・・・それとも、竹山さんがわたしにちょっかい掛けようとしていたから?

親が決めた婚約者であったとしても、洋子さんが竹山さんの事を何とも思っていなかったって事はないだろうと、わたしは思う。

「待って下さい。あくまで、ドアの開閉とIDカードとの関係がハッキリしただけで、人の出入りが確認された訳ではありません。指紋認証ではないのだから、IDカードでの出入りは、誰でもできますし」
「まあ、確かにそうですわね。でしたら、この事務所には防犯カメラが設置されておりますから、そちらの画像を確認なさっては如何かしら?」

新一の言葉に、洋子さんがふっと笑って言った。
その勝ち誇ったような表情に、違和感を覚える。

「大至急、調べさせます!」

美和子刑事が言って、捜査員に指示を出した。
けれど・・・結果的に、防犯カメラの映像は、無意味だった。
何故なら、カメラの表面には、ベットリと塗料が塗られていたからだ。

「どういう事だ?カメラの映像がまともに映らなくなった場合、セキュリティ会社がすぐに対応するものじゃないのかね?」
「それが・・・この事務所の防犯カメラは、セキュリティ会社と契約している訳ではなく、竹山弁護士が個人的に購入して取り付けたもので、その映像は全て、事務所のパソコンに送られるようになっていたようです」

アルバイトの身である私は、事務所のセキュリティシステムについて全く知らなかったので、防犯カメラがついていたのは気付いていたけど、それがセキュリティ会社と契約した防犯システムではなかったと知って少し驚いた。
でも、何となく、竹山さんらしい話だと感じた。
多分、あまり信頼していないセキュリティ会社に多額のお金を払うより、自分で・・・と考えたのだろう。

「何と!」
「念のために今、画像データを確認させていますが・・・」

事務所のパソコンに残っている画像データを捜査員がチェックしたけれど、結局、3日ほど前にカメラに何か塗られたという事しかわからなかったそうだ。

「カメラに仕掛けをした人物は映っていなかったのですか?」
「もちろん、映っていたけれど、背格好も何もわからないように変装していたから・・・」
「なるほど。ということは、計画的犯行とみて、間違いなさそうですね」
「だから!この女が、捜査をかく乱するために、カメラに仕掛けをしたんですわ!」

洋子さんがわたしを睨みつけて、言った。
すると、思いがけずに矢野さんが口を挟んだ。

「毛利さんは、わざわざそんな事しないと思うー。IDカードを使って入るのに、わざわざカメラをいじるなんて事したら、自分に不利になるだけだしぃ。毛利さんには、竹山先生を殺しても、何もメリットないしぃ。毛利さんが竹山先生に言い寄られて辟易していたのは事実だから、発作的に殺す事ならあるかもしれないけどぉ、計画的殺人を犯すなんてバカな事はぁ、しないと思うなあ」

最初はわたしに「あなたが殺したの!?」と迫った矢野さんだけど、段々冷静になって来たらしい。

「勘違いなさらないで!梅男さんにとってこの女は、あくまで遊びだったんですのよ!」

洋子さんが今度は、矢野さんに噛み付く。

やっぱり、洋子さんは、わたしが竹山さんから言い寄られていた事実を知っていて・・・それが面白くなかったんだ。
洋子さんは「恋愛感情なんて持っていない」と言っていたけれど、だからって「どうでも良い相手」ではなかった筈だ。

新一がじっと何かを考え込んでいて。
美和子刑事に何か耳打ちする。

美和子刑事は大きく頷いて、出て行った。


   ☆☆☆


それから数時間。
わたしは、事務所に留め置かれた。
わたしだけでなく、矢野さんも洋子さんもだ。


矢野さんはブツブツ言っていたけど、竹山さんが死んでしまって、どっちみち今日は研修どころではないし、仕方がないと諦めたようだ。
洋子さんは、「何故わたくしが留め置かれなければなりませんの?」と、憤慨していた。

わたしは昨夜と今朝の事を一所懸命思い出していた。

昨日は色々と仕事があって、わたしが事務所を出たのは定時をかなり回った7時過ぎの事だった。

「心配しなくても、ちゃんと残業代は出すからね」
と言った竹山さんの言葉が、どこまで本気かわかったもんじゃないと思いながら。

矢野さんは外での仕事で直帰だったし。
わたしが出た時、竹山さんはまだ事務所に残っていて。

そして・・・そう言えば面会室にはまだ、灯りがついていたような気がする。
もしかして、竹山さん以外の誰かが事務所にいた?




暫く待った後、目暮警部・高木美和子刑事、そして新一が、部屋に入って来た。
そして、新一が口を開く。

「この事務所裏口から道路を隔てて、マンションが建っています。その裏口の防犯カメラの1台が、この弁護士事務所の裏口方面に向いていました。マンションのセキュリティ会社に連絡を入れ、その映像を見せてもらいました」

「ひっ!」

思わず声をあげ、顔色を変えたのは、洋子さんだった。
それだけで、洋子さんに不利な映像が映っていたのだと解る。

「今時のセキュリティ映像はかなり克明に映っていましてね。拡大すると、個人特定も可能です。それによると・・・竹山弁護士は昨夜、裏口から出て来ていないのです。夜8時過ぎに弁護士事務所から出て行ったある人物が、朝8時に事務所の裏口を開けていました。それは、竹山弁護士のIDカードでドアが開けられた時間と一致します。その人物とは・・・」
「も、勿体ぶった言い方をなさらなくても、この松野洋子だって仰ればよろしいでしょう!」

新一の言葉を遮り、ヒステリックに叫んだのは、洋子さんだった。
わたし達は驚いて、洋子さんを見る。
わたしの心の内には、まさかという思いと、そうだったのかという思いが交錯していた。

「でも、探偵さん?わたくしが朝、梅男さんのIDカードを使って事務所に入った事は立証できても、それ以上のことについては、証明できませんでしょ?」

その挑戦的な笑みに。
わたしは・・・洋子さんが竹山さんを殺したのだと、確信した。
けれど、心証だけでは罪に問われる事はない。
洋子さんには、「物証がない」という自信があるのだろう。

「梅男さんは昨夜、『今夜は徹夜になりそうだ』と、こぼしていましたわ。そこでわたくし、梅男さんのIDカードをお預かりして、今朝の差し入れをお約束して帰ったのです」

ああ、そうか。
竹山さんは、昨夜ずっとこの事務所にいたんだ。
わたしより先に事務所に来ていた姿なんて見たことなかったし、その点が少し引っ掛かっていたのよね。

でも、竹山さんは、徹夜でしなければならない仕事なんて抱えていなかったと思う。
それに、食事も入浴も着替えもせず事務所にこもりっぱなしなんて、考えられない。

「わたくしが今朝事務所を訪れた時、梅男さんはデスクに座ったままの姿で、眠っていました。わたくしは起こそうとしましたけど、目覚めてくれなかったのです。どうしたものかと思っていると、ドアが開いたので、わたくしは驚いて・・・入って来たのは、そちらの・・・毛利さんでしたかしら?で、わたくしはドアが閉まる前に外に出ました」
「カメラの映像は、それを裏付けています。こちらの毛利蘭さんがドアを開けて部屋に入り、ドアが閉まり切る前に、松野洋子さん、あなたが外に出て行きました」

わたしは、思いがけない話に驚いていた。
わたしが中に入るのとすれ違いで出て行った人がいたなんて、全く気付きもしなかったから。

「毛利さん」
「はは、はい!」

新一に「毛利さん」と呼ばれ、わたしは思わず裏返った声で返事をしていた。

「あなたは、あなたが入って来た時に出て行った松野さんに、気付きましたか?」
「い、いえ・・・全く気が付きませんでした」
「そりゃあ、そうでしょうよ。毛利さんは何だか思い詰めた様子で真っ直ぐ中に入って行きましたから」
「で?松野さんは、毛利さんが入って来たからと言って、何故わざわざ、毛利さんに気付かれないように出て行ったのですか?」
「そ、それは・・・何だか毛利さんの様子が怖くて、関わりたくなかったので・・・」
「それが本当なら、毛利さんと竹山弁護士を2人にしたら、竹山弁護士が危ないとか思わなかったのですか?」
「仕方ないじゃありませんの!だってわたくしは、親が決めた婚約者である梅男さんをお慕いしていた訳では、ないのですもの!」

洋子さんは、ふてくされた様子で言った。

「その女が、わたしが出て行った後に、梅男さんを殺したに間違いありませんわ!」
「彼女は、この事務所も入ってから、一歩も出ていない。表口は内側から開けられますが、シャッターが閉まったままだったのは、別角度のカメラで確認済みです。そして、毛利さんの服にも体にも、返り血のあとはなかった」
「それはきっと、何かでカバーして・・・!」
「この事務所の中は、細かいところまで徹底的に鑑識に調べ上げられています。返り血を浴びて脱いだ上着だの、凶器だの、どこにも隠された形跡は見つかっていません。毛利さんに犯行は不可能です」
「だ、だからって・・・わたくしがやったという証拠でも、あるんですの?だったら、見せていただきたいわ!」

洋子さんがヒステリックに叫ぶ。
心証としては誰もが黒だと思っているだろうし、かなり分が悪いけど、決定的な証拠を突きつけないことには、彼女の犯行を立証できない。

「ところで。あなたのスカートの裾には、染みがついているようですね。コーヒーでも零したのですか?」
「えっ!?・・・いつの間に・・・でも、コーヒーくらい、どこにでもありますわよね?それとも、今の鑑識さんは、コーヒーの産地まで当てる事ができるのかしら?」
「いえ。さすがにそれはできませんが、コーヒーに混ぜてある睡眠薬の成分を調べることなら、可能です」
「!」

洋子さんは追い詰められた顔をした。

「竹山さんの血液からは、トリアゾラムとフルラゼパムが検出されました。そして、中にコーヒーが残っていたカップは洗ったようですが、絨毯に残っていたコーヒーの染みからも、同剤が検出されています。今の日本では、この薬を医師の処方なしに手に入れることはできない。松野洋子さん、あなたは掛かりつけの医師から時々処方してもらっていますね?」
「わ、わたくしじゃない!きっと誰かがわたくしを陥れようとして・・・!」
「その染み、調べさせていただけますね?」


洋子さんは、観念したようにガックリと膝をついた。



   ☆☆☆



昨夜、洋子さんは竹山さんに、睡眠薬入りのコーヒーを飲ませた。
睡眠薬を常用していない竹山さんはひとたまりもなく、深く眠り込んでしまった。
新一の話では、トリアゾラムというお薬は即効性で、フルラゼパムというお薬は長時間作用するため、すぐに眠り込んで、その後、朝まで目覚める事がなかったのだろうという事だ。

その後、ドアの裏に張り付いて待ち、わたしがドアを開けて中に入ると、ドアが閉まる前に押さえて、異変に気付いた私が竹山さんに駆け寄っている間に、外に出た。
凶器のナイフや、返り血を浴びないように上に羽織った防水性のレインコート・手袋・コーヒーのついたカップなどはひとまとめにしてバッグに入れ、重しを入れたバッグごと川に捨てたということで・・・後日、彼女の供述通りの場所から、それらの証拠品は見つかった。

洋子さんは、コーヒーカップが落ちたのには気付いていたけど、そこから跳ねたコーヒーが自分のスカートの裾に染みを作った事までは、気付いていなかったようだ。


そして・・・心が痛い事だけれど、洋子さんが竹山さんを殺そうとした動機は、わたしに関わりがあったみたい。
竹山さんがわたしにちょっかいを掛けようとしていたのが、洋子さんにはどうしても許せなかったんだそうだ。
だから洋子さんは、わたしに罪を着せようと最初から考えていて、その為に、わたしが訪れる少し前の時刻を選んで、犯行に及んだ。

ただ、わたしにはよく解らない。
洋子さんが竹山さんの事を好きだったというのなら、まだ、わたしにも解る気がするけれど、洋子さんは最後まで、竹山さんの事は好きじゃないと言い張っていた。

別に恋愛感情がある訳じゃなし、お互いに結婚前は遊んでも良いという取り決めになっていたそうだ。
遊びの女は許せたと、洋子さんは言っていた。

「でも、梅男さんがもう2年以上、その女を追いかけていると知って・・・わたくしのプライドはズタズタにされてしまったのですわ」

洋子さんは憎しみに燃える目でわたしを睨みつけて言った。
そこへ。

「プライド?いや、あなたのそれは、プライドなんかではありませんよ。そういうのは、虚栄心というのです」

新一が、穏やかそうな、けれど冷たい声で言った。
わたしには分る。
この声・・・新一、相当、怒ってるんだ。

「あなたが竹山氏から愛を勝ち得ようと思うのなら、あなたが自分の安っぽいプライドを捨て、真摯に竹山氏と向き合えば良かった。親の声掛かりで婚約者となっただけの相手に対して、何の努力もしないのに、女として一番に見てもらえなかったからと言って、計画的に殺人を犯すなど、絶対許せることではありません。まして、その罪を他の人に着せようとするなど・・・竹山氏があなたを愛さなかったのも道理ですよ。中身が薄っぺらですからね」
「……!」

洋子さんは唇を震わせ、真っ青になって立ち尽くしていた。
美和子刑事が進み出て、洋子さんの手に手錠を掛けた。


やっぱり洋子さんは竹山さんのこと、好きだったんじゃないかって気がする。
でも、親が決めた結婚だからと、自分に言い聞かせていたんだろう。
竹山さんから愛されることのない惨めさを、自分で認めたくなかったのかもしれない。

竹山さんは、確かにわたしに固執していた。
でも、それは決して、竹山さんが本気だったという訳じゃない。
わたしが落ちなかったから、だ。

竹山さんは、洋子さんのこともわたしのことも、他の誰のことも、愛していなかった。
愛のない男性だから、弁護士という仕事をしていても、洋子さんが隠し持っていた激情に気付かなかったんだろう。


何だか悲しい。
わたし、やっぱり、別のアルバイトを探せば良かったのかな。

そこへ。

「蘭。オメーの所為じゃない」

新一が、真剣な眼差しでわたしを見て、言った。

「新一?」
「お前がいなかったら、殺人が起こらなかったとか、そういう問題じゃねえ。竹山氏が他の女を愛そうとちょっかい掛けようと、殺して良い理由にはならない」
「・・・うん、そうだね」
「それに、親が決めた婚約だとしても、今の時代、最終的に結婚する決断をしたのは自分自身だし、婚約者と向き合い、愛と信頼を育むことを怠っていたのは、お互い様だ」


わたしは、真剣な表情の新一を、まじまじと見た。

新一が、天才肌のようでいて、実はかなりの努力家だってこと、わたしは知っている。
サッカーでも、推理でも、そうだ。
毎日の基礎運動を欠かすことはなかったし、常に情報を集め、様々な知識を得ていたし。

もしかしたら・・・わたしに対しても、そうだったのかもしれないと思う。
アピールって姑息な手段ではなく、わたしに選んでもらえるような男に成長しようって、努力していた部分はあったのかも。



「あー。工藤君はどの道、事情聴取に立ち会う気はないのだろう?今日の未明からずっと働き詰めだったのだし、もう帰っても構わんよ」
「目暮警部・・・」
「蘭君も疲れているだろう。佐藤刑事・・・いや、高木刑事に、君たち二人を送ってもらおう」

美和子さんが高木刑事と結婚して、もう3年近く経つのに、目暮警部はいまだに、美和子さんのことを佐藤刑事と呼びそうになっている。

「ところで」

目暮警部が、顔を赤くして、咳払いした。

「仲が良いのは結構な事だが、道路でイチャイチャするのは、控えた方が良いんじゃないかね?」

一瞬、何を言われているのか、分らなかったけれど。
そう言えば、昨夜、新一に迎えに来てもらった時、事務所の裏口前で人目がないからって、抱き合ってキスしていたのを、思い出した。
会うのが3日ぶりだったもので、つい・・・。

警察の人達と新一とでチェックをした、裏のマンションの防犯カメラには、その場面もバッチリ映ってたんだ。
穴を自分で掘って入りたい位に、恥ずかしかった。


「今後、気を付けます!」

新一が神妙な顔をして言って、わたしを促して歩き出す。
美和子刑事は、笑いをこらえているようだった。


外に出ると、眩しく暑い夏の日差しに、クラクラとなりそうだった。
向かい側のマンションを改めて見ると、防犯カメラの1台が、バッチリこちらを向いていた。


「やだ、もう!」
「あのさ、蘭」
「何?」
「外でイチャイチャしねえで済むように、早く結婚して一緒に暮らそう」


軽くさらっと、幾度目かのプロポーズをされて。
わたしは一瞬、息を呑んだ。

新一の目を見ると・・・どうも、今回もあんまり期待はしていない様子だった。
答も聞かずに、歩き出す。
まあ、今迄散々、「わたしがちゃんと仕事に着いてから」って、答えてたんだものね。
きっと今回も、同じ答だと思っているんだろう。



わたしは・・・自分の目標を持って自立しなければ、新一の妻になる資格はないって思ってた。
でも、それって、逆にものすごい思い上がりだったって、気付いた。

必要なのは、愛と信頼を育む努力をする事で。
新一は随分昔から、わたしに対してその努力をして来ていたのだ。

今度は、わたしから一歩、踏み出してみよう。
でも、今は美和子刑事も傍にいるし、家に帰って落ち着いてからね。


・・・結局、新一は家に帰った途端に、バタンキューで。
わたしが新一に返事を告げたのは、それから3日後のことだった。


Fin.


+++++++++++++++++++++++


このお話。
まあ、タイトルの部分は、第2話で出て来たし。
核心となる部分は、第3話(今回のお話)の最後の方に出て来るんですけれども。

何に苦労したかと言えば、事件のトリック(という程大層なものではない)と辻褄合わせですね。
いっそ、そこら辺をすっ飛ばして「犯人はあなたです!」とやらせようかとも思ったんですが、それはあんまり過ぎかと思いまして。

あと・・・すみません、防犯カメラにうつっていた某シーンは、ネタを思いついてからどうしてもどこかで書きたくて仕方がなくて、ここで書いちゃいました。


このお話は、シリーズ第19話として番号を振り直し、第18話は、ラブ天掲載のお話しとなります。

次が第20話、いよいよ、シリーズ最終話となります。
今月中にはお届けする予定。

ただ、エピローグ的な内容で「19話直後のお話」ではないので、肩透かしを食らったような感じになるかも、しれません。


2013年9月15日脱稿

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