幼馴染みの恋物語

もう幼馴染には戻れない
(お題提供:「恋したくなるお題」「幼馴染みの恋物語」08. もう幼馴染には戻れない)



byドミ



ロンドンから帰国して。
蘭は何度も携帯を開いては、溜め息をついていた。

電話をかけたい。かけられない。
メールをしたい。文字が打てない。

その勇気が、出ない。

「な、何を話せばいいのか、わかんない」

以前は気軽に、他愛のない話も、出来たのに。
今は、胸が詰まって、とても出来ない。
胸が苦しい。

胸が詰まるのは、胸が苦しいのは、辛いからじゃない。
幸せだから。
胸がキュンとなってしまうのだ。

けれど。
数日経つ内に、蘭の心に不安の陰が落ちて来始めた。

『あ、あれは・・・、夢じゃなかったんだよね?新一』

蘭を真っ直ぐに見て、「好きな女」と言ってくれた。
なのに。

以前は、3日と空けずに電話やメールをして来ていた新一が、あれ以来、全く音沙汰なかったのだ。

『気紛れだったとか、言い間違いだったとか、あの場を誤魔化す為だったとか、そんな事、ないよね、新一?』

蘭の頭には、新一も蘭と同じで、何と言ったら良いのか分からず戸惑っている、なんて発想は浮かばない。

携帯画面を見詰めては、小さく「新一」と呟く。
蘭のその姿を、小さな陰が見ていた事を、蘭は知らない。


蘭の携帯が鳴った。
画面には「新一」の文字。

蘭は、慌てて電話に出る。

「し、新一!」
『よお、蘭』
「な、何よ!連絡くれないから、わたしがどれだけ!」

ホッとしたあまり、ついきつい口調になってしまった蘭は、そこで言葉を飲み込んだ。

『蘭?』
「ご、ごめんなさい。忙しかったんだよね?」
『って言うか。何をしゃべったら良いのか、分かんなかったからさ』
「えっ?」
『オメーの声は、すっげ―聞きたかったんだけどよ。その。ドキドキしちまって。携帯開いては、何もせず閉じるってのを、繰り返してた』
「新一も、なの?」
『へ?じゃあ、蘭、オメーも?』
「わたしは、別に!」
『何だ。じゃあ、オレだけか。悶々としてたの』
「えっ?」

新一のガッカリしたような声に、蘭は嬉しく、同時に申し訳なくなってくる。

『オレの片思いかよ』
「ち、違っ!・・・違うもん!わたしは・・・」
『同じ想いだって、思ってていいのか?』
「う・・・うん・・・」

蘭は小さく返事をした。
そう言えば、ロクに返事もしていなかったような気もする。
これでは、新一の方は不安だっただろうと、ようやく蘭は思い至った。

「ねえ、新一」
『あん?』
「・・・もう、わたし達、ただの幼馴染みじゃ、ないんだよね?」
『ああ。・・・不満か?』
「ううん。嬉しい」

その後おりる沈黙。
気まずいのではなく、2人とも照れまくっているからだ。


『オレに取っちゃオメーは、物心ついた時からすでに、幼馴染なんかじゃなかったけどな』

受話器の向こうでは、幼い姿の新一が、内心で呟いていたが。
蘭はそれを知らない。


長年秘めていた想いを告げた後の2人の関係は、恋人同士。
もう、幼馴染には戻れない。




Fin.



(2010年10月20日脱稿)

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<後書き>

「幼馴染の恋物語」お題の中にある、この「もう幼馴染みには戻れない」。
さて、どこでどう言う風に使えば良いのか、ずっと迷っていました。

今回、待望の原作ロンドン編を受けて。
その後に来る話として、書きました。

彼は今、子供の姿ですが、これは誰が何と言おうと、コ蘭ではなく新蘭です。(と言っても、私が書くコ蘭は、イコール新蘭なんですけどね。それでも、今回は、敢えて「新蘭」です)

あの後、蘭ちゃんが何と言ったのかが、結局描かれていないので、「返事はしないまま」と解釈して、このお話を書いていますが。
実際のところ、どうだったのでしょう?

案外、お互い無言のままで、新一君が蘭ちゃんをホテルの前に送って来て、「じゃあ」って別れた、って感じなのかなと、思っているんですけど。
でもそれじゃ、恋人同士としての成立は有り得ないですよね。

うーむ。

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