別腹の愛
byドミ
「はい、パパ。あげる♪」
「お、ありがとうな、由梨」
4歳になる娘・由梨が、今年、初めて、オレにチョコレートをくれた。
今年は、ホワイトデーのお返しをしなきゃな。
昨年は、バレンタインデーに貰わなかったという理由ではなく。
まだ3歳の娘に、市販のお菓子をあげる事を、妻の蘭から止められていたので、ホワイトデーの贈り物が出来なかったという経緯が、ある。
その日は、蘭の手作り菓子が、子ども達にふるまわれた。
オレは、夜、蘭だけにこっそりと、ホワイトデーのお返しをしたのだった。
バレンタインデーでも、ホワイトデーでも、そもそも年中365日、蘭を美味しくいただく事になるのだが。
それは、それ。
愛娘の成長に目尻を下げていると、玄関の呼び鈴が鳴り。
蘭が玄関まで行きドアを開けると同時に、けたたましい声がリビングまで響いた。
「ら〜ん、こんにちは〜!」
「園子。いらっしゃい」
突然、アポなしで、アイツが現れるのは、いつもの事だが。
蘭の親友で、オレとも昔からの馴染である園子は、まだ1歳の男の子を連れていた。
由梨が嬉々として、言った。
「ママ。実(みのる)君に、チョコあげて良い?」
何?
由梨、まさかお前、まだオシメも取れていないこの餓鬼の事を?
まさか!
「あら、由梨ちゃん、ありがとー!でもね、実はまだ、チョコは食べさせてないの、ごめんねえ」
……園子にしちゃ、気が利くじゃねえか。
オレは、なるだけ笑顔を心掛けながら、出来るだけ穏やかに、言った。
「由梨、一歳児にチョコは、まだ早いぞ」
その途端、蘭の呆れたような視線が突き刺さる。
……いつもニブニブの癖に、何でこんな時だけ鋭いんだ、蘭は?
子ども達は男女に関わらず、どちらも可愛くて仕方がないが。
女の子はやっぱり……他所の男にいつかさらわれると思うと、胸がかきむしられる思いがする。
男の子だと、別に、他所の女の子に取られて……なんて感傷は起こらないんだが。
オレは、妻の蘭を、この世で一番愛している。
こんなに大切な存在は、他に決してあるまいと、思っていたのだが。
子どもというのは、不思議だ。
男女の愛情とは種類が違うが、子ども達は、妻の蘭と変わらない位に、大切で愛しい存在だ。
何かの拍子に、そういう事をポロっとこぼすと。
母親からは
「優作と新ちゃんへの愛情は、別腹なのよん♪」
と、いなされてしまったのだった。
ホワイトデーの贈り物は、何にしようかと考えながら。
いずれ、由梨も、他所の男にバレンタインデーのチョコレートを贈る日が来るのだろうと思うと、ちょっぴりどころではなく寂しさが湧きあがって来たのだった。
Fin.
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