父娘の連鎖
byドミ
「はい、パパ。あげる♪」
「お、ありがとうな、由梨」
まだ四歳の娘が差し出す包みに相好を崩す夫を、わたしは、微笑ましく見詰めていた。
「蘭からは?」
「それは、後で」
わたしから夫の新一へ渡すチョコレートは、夜、子ども達が寝付いてから。
もっとも、たぶん、チョコだけじゃなくわたし自身が、新一に美味しくいただかれる事になっちゃうんだろうけど。
夫の新一は、意外な位、マイホームパパになった。
何が意外かって聞かれても、困るんだけどね。
そりゃ、子どもの頃から、意地悪だけど本当は優しかったし。
愛情深い人であったのも、知ってる。
でも、ここまで子煩悩になったのは、結構、意外だった。
そういう話を、母としていたら、母が
「ホント、そういうところも、新一君って、小五郎に似てるわよね。血も繋がってないのに」
と苦笑したものだった。
え?
えっと……。
わたしは、父の事、大好きだけれど。
新一が父に似ていると言われると、何だか複雑な気分になってしまう。
「女は、父親に似た男性を選ぶものなのよ」
と、溜息をつく母に、
「え?お祖父ちゃんって、お父さんに似てる?」
と、思わず言ってしまったものだ。
「ええ。似てるわよ。顔とか、雰囲気とか、そういう部分じゃないけどね」
と、母はまた、溜息をついた。
わたしが幼い頃の父は、今の新一みたいな感じだったのかしら?
「ら〜ん、こんにちは〜!」
「園子。いらっしゃい」
突然、アポなしで現れた親友を、わたしは歓待する。
園子は、まだ1歳の男の子を連れていた。
「ママ。実(みのる)君に、チョコあげて良い?」
「あら、由梨ちゃん、ありがとー!でもね、実はまだ、チョコは食べさせてないの、ごめんねえ」
園子は、意外と良いママぶりを発揮している。
子どもの口にするものは、かなりシッカリと吟味しているのだ。
ふと、不穏な空気を感じて、わたしは振り返る。
「由梨、一歳児にチョコは、まだ早いぞ」
顔は笑顔だけど、この空気。
一歳児相手に、本気になって怒るんじゃないわよ。
新一は、子どもが出来た今でも、わたしに深い愛情を向けてくれるけれど。
娘に対する父親の感傷は、また別のところにあるみたい。
……やっぱり、新一は、お父さんに似てる、かな?
Fin.
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