ツンデレ魔女


byドミ


「鏡よ鏡よ、鏡さん。この世で一番美しいのは、だあれ?」
「それは、勿論、紅子様。あなた様でございます」
「よろしい。この世の男たちは皆、わたくしの虜、ですわよね」
「はい、たった一人を除いて」

何度、鏡に問いかけただろうか?
鏡を壊しても、魔力を使っても、何をしてもどうしても、ただ一人の男だけは、紅子の虜になってくれないのだった。


意地に、なっていたのかも、しれない。
虜にならない男がいるなど、プライドが許せなかった。

……そして、その男に心奪われるなど、もっと、許せなかった。

なので、その男を自分の虜にしてやろうと、魔力が籠ったチョコレートを食べさせようとしたのだが。


あれから1年。

紅子は、お子様とバカにしていた中森青子の事が好きになり、
自分の虜になってくれない怪盗キッドこと黒羽快斗が、
青子に形無しなのを、微笑ましく見詰められるまでになっていた。

去年は、群がる男達にチョコレートを配りまくったものだけれど。
今年は、そういう気持ちも、起きない。
男達からチヤホヤされる事も、男達を虜にする事も、どうでも良くなってしまっていた。


そんな紅子の心で、いつの間にか、存在が大きくなって来た男性がいる。


少しばかり、頭が切れる。
少しばかり、顔が良い。
少しばかり、背が高い。
少しどころではなく、気障。
他は取り立てて、どうという事もない、特別な能力を持つ訳でもない、ただの人間の男。

紅子に一目惚れしたらしいけど、そんなのは、この地球上の男であれば当たり前。
黒羽快斗以外の男であれば、紅子に「惚れる」なんてのは、当たり前であって、美点でも何でもないのだ。


なのに、何故、いつの間に。


「このワタクシが、誰か男性に心奪われるなど……正当な赤魔術後継者の名にかけて、許される事ではありませんわ!」

そう言って強がっても、目がいつの間にか彼を追い、彼が外国に行っていると聞けば、寂しくなる。


「紅子ちゃん、もしかして、白馬君の事好きなんじゃないの?」
「ワタクシが、男性を好きになる筈ないでしょ、バカバカしい」
「えー?誰かを好きになるって、とっても素敵な事だって、青子は思うけどな」


優しい少女の笑顔に、後押しされるように。
紅子は、一歩を踏み出す。
今度は、普通に、デパートで買ったチョコレート。


「欲しければ、さしあげても良くってよ」

あくまでも、高飛車に、少し斜に構えて。
紅子は白馬探に、チョコレートを差し出した。

探は、驚いた顔をした後、紅子も見とれるような笑顔に変わって、そのチョコレートを受け取った。