某日、工藤邸にて……。



「で、どう言う事なんだ、黒羽?」
「どうしたもこうしたもねえ!今日はパンドラミッションの話し合いに呼ばれたのに、何でここに来たなり、こんなマネされなきゃなんねーんだよ!!」

鬼の様な目つきで快斗を見るコナンに対し、快斗は鎖で縛られた事に対して抗議していた。

「オメー、蘭に手を出しただろうが!」
「はあ?何言ってんだよ?今回ばかりは、身に覚えがねえ!」
「いんや。オメーが蘭を抱き寄せてくちび……これ以上言えねえ!確かに、この目で見たんだ!」

コナンの言葉に、本当に身に覚えが全くない快斗は、必死な様子で訴えた。

「だーかーらー!俺は、覚えがねえって言ってんだろお?そいつは、俺のニセモノだろうぜ、一体どこで、そういう事に!?」
「昨夜。どこか天空の部屋で、月の光を浴びて、キッド姿のオメーと蘭が、キ……けしからぬ事してたんだよ、オレの夢の中で!」

快斗は、一瞬目を点にして、それから怒り心頭といった様子で叫んだ。

「こらあーーーーっっ!テメーが自分勝手に見た夢で、人様を咎めるなんざ、聞いた事ねーぞ!!!」
「バ快斗!アンタったら、人様の夢の中にまで迷惑をかけるなんて!どスケベにも程があるわよ!!」

青子が腕を組んで、快斗を怒る。

「青子……お、オメーまで夢と現実をごっちゃにすんなよ……。」

呆れる快斗。

「だって!バ快斗なら、やりかねないもん!」
「俺は、無実だっちゅーに……とほほ……。」

理不尽な怒りを燃やすコナンに、青子までが同調しているのを見て、快斗は、助けを求めて周りを見回す。

「なあ、蘭ちゃんはいねーのか?一緒に今度の作戦について話し合うんじゃなかったっけ?」
「連れて来るワケねえだろ?オメーに手を出されるかもしんねえからな。」
「だーかーら!夢と現実をごっちゃにすんなって言ってんだろーが!!」

この様子を見た舞が、

「全く、コナン君ったら、蘭ちゃんの事となると、本当に見境が無くなるのね。」

少し呆れ気味になる。

「ま、ちょうど蘭々と園子は、買い物に出てしもうた後やったから。しゃあないなあ。」
「いつもは理性的で冷静なだけに、逆にああいう風になったコナン君は、どうしようもないですよ。」
「そうそう、触らぬ神に祟りなしっていうじゃない?」
「俺は、何も触ってないのに、おおいに祟られてるぞ!……って、何で警察官のアンタ達がここに!?」

快斗は、ミッションの発案者の初音だけでなく、高木警部補や佐藤警部がいる事に驚く。

「そりゃ、今後の作戦に、我々も関わるからに決まってるでしょう。」
「例の、テロリスト集団『赤いシャムネコ』が、殺人バクテリアを盗んだという報道があったでしょ?もしかしたら、シャドウエンパイアと何か関わりがあるかもしれないし、万が一に備えてね。」
「ウチも、小田切のおっさんから、話を受けたで。関わりがあるにしろないにしろ、両方に備えとかなあかんからなあ。」
「成程。……それは良いけど、俺の鎖、解いてくれねえか?これじゃ、まともに話し合いも……。」
「そこは、コナン君の許可が出てからにします。」
「まあ、黒羽君は、泥棒さんだしね。」
「って、今回、まだ何も盗んでないのに〜!」
「まあ、運が悪かったと諦めるんですわね、おほほほ。」

他人事だと思って、ミッション会合参加者の桐華も手を口に当てて笑っている。
コナンの怒りを買ってまで助けようとしてくれる相手は、誰もいないのかと思うと、快斗の目から滂沱の涙が流れ落ちた。

「怪盗キッドは、沢山の罪を重ねて来た。本当だったら、捕まえても良い所なんですが。パンドラ探しに協力するという事で、今回それだけで済ませてるんだから、感謝するんですね。」

涼しい顔をして言ってのける探。

「白馬。てめえまで……。」

本来だったら、唯一味方になってくれる筈の青子まで、コナンの夢に、快斗への怒りを燃やしてしまっている。
誰も助けてくれないのかと、快斗は絶望的になった。

(くっそー……工藤のポーカーフェイスに騙されて、油断したぜ……。しかもあいつは、俺の事を良く知ってっから、俺でも縄抜け出来ないような縛り方されてるしな。)

普通だったら、驚異の運動神経と見事な手さばきを持つ快斗が、縛られる事など有り得ないのだが。
コナンに対して、チームの仲間という油断があった。
しかも、縄だったら絶対に抜けられると見越して、鎖であり、縛り方も一筋縄ではない。

舞が、快斗の傍に来て囁いた。

「蘭ちゃんいなくて、逆に良かったと思うよ、黒羽君。」
「えっ?な、何で?」
「もし、蘭ちゃんが黒羽君に助け舟なんか出したら、その時は……それこそ黒羽君が工藤君に抹殺されると思うしね。」
「……!!」

確かにあり得ると気付いて、快斗はぞっとした。

「ま、与太話もこん位で。はよ、ミッションの話に入ろうやないか。」

と提案する初音。

「あの〜……俺は?」
「別に、口を動かすだけなら、その格好のままで、構へんやろ?」
「そ、そんな〜〜〜!?」

そして。
快斗は鎖で縛りつけられたまま、話し合いは進められたのである。






C-K Generations Alpha to Ωmega



特別編 超天空の難破船団(ロストシップス)



By東海帝皇(製作協力:ドミ)



第1部 The Lost Ship in The Sky




○月×日土曜日。



「ようこそ、エアーウッド1世号へ。天空旅行を十分楽しんで下さいね。」

桐華が、巨大飛行船の乗客達に挨拶をする。

「しかし、見れば見るほど、でっかい飛行船でござるな。」

船内下部のBデッキ室内を見回す風吹。

「この船の内装って、園子のトコの飛行船とそっくり同じだって聞いたけど。」
「ええ。次郎吉おじ様のご好意で、内装だけでなく、この飛行船そのものも、ベル・ツリー1世号の設計をそのまま使ってますの。」

舞の問いに答える桐華。

「まあ、それにしても……。」

探はこのエアーウッド1世号の向こう前を飛んでいるベル・ツリー1世号を見る。

「あの飛行船には、黒羽君が今回のパンドラミッションの為に、すでに乗り込んでるのですね。」
「後、コナン君や蘭ちゃん、園子、そして探偵団のみんなも。」
「毛利探偵も、キッド捕獲の為の助っ人として、乗り込んでるそうですね。」
「阿笠博士も、探偵団の保護者として同行してきたでござるよな。」

舞、武琉、風吹が続く。

「それと、お父さんも部下の人達と一緒に、あそこにいるんだよね。」

青子も心配そうにベル・ツリー1世号を見る。

「やはり気になるでござるか、青子殿?」
「うん。だって……青子は快斗を応援してるけど……お父さんの立場とか気持ちを考えると……。」
「うーん。やっぱり、複雑な気持ちになってしまうわよねえ。」
「だから、青子はあっちに乗るメンバーからは外されたんだけどね……。」

怪盗キッドの正体と目的を知って、同じC−Kジェネレーションズのメンバーになって、青子は怪盗キッドの「協力者」になったけれど。
父親の事を考えると、同じ場にいる事はいたたまれないのだ。

舞が、切ない眼差しでベル・ツリー1世号を見詰める青子を見て、不思議そうに声をかけた。

「ねえ、青子ちゃん。そんなに黒羽君の事が好きなのに……。」
「えっ!?す、好きなんかじゃないからねっ、アイツの事なんか!」
「……うん、まあ、好きじゃなくても良いからさ。何で、ミッション会議の時、青子ちゃんまで、黒羽君が鎖で縛られるのを黙っていたの?」
「だってっ!」
「だって?」
「快斗が、蘭ちゃんの事狙ってるのはホントだって思っちゃうし……。」
「そ、それはないんじゃない?だって、青子ちゃんと黒羽君、恋人同士なんでしょ?」
「うん。一応、ね。でも、快斗が蘭ちゃんの事気に掛けてるなって、時々、感じる事があるの……。青子なんか子供っぽいし、胸ないし……。」
「ええっと……でも、青子ちゃんは黒羽君の幼馴染みで、昔から積み上げた歴史があるでしょ?」
「でも、幼馴染みの歴史があるって、ただそれだけでしかないもん。蘭ちゃんは、とっても素敵で……青子なんか絶対、敵わないもん……。」

湿っぽい雰囲気にいたたまれなくなった舞が、話題を変えようとする。

「あ、そう言えば……。」
「どうしました、舞さん?」
「この飛行船、スタッフがどこにもいないんだけど。」

自分達以外に人気が全くない事を、指摘した。

「言われてみれば、そうでござるな。」
「桐華さん、スタッフの人達がいないのに、どうやってこれを運用してるの?」

との青子の問いに、

「あら、それでしたら心配はございませんわ。」

桐華が答えると。

『宜しければ、こちらをどうぞ。』
「えっ!?」
「そ、それって!?」

青子達は、百鬼夜行桐華組の乙姫が、人数分の氷水を持ってきた事に驚く。

「スタッフは全て、百鬼夜行桐華組を充ててますわ。」

見ると、桐華組の式神妖怪達が、船内で清掃や手入れ等をやっていた。

「ハハハハ、まるでお化け屋敷でござるな……。」

呆れ気味に呟く風吹。

「あっ、でも、この飛行船の操縦だけは、妖怪には無理でしょ?」
「操縦士だけは、専門の人にさせてるのよね?」

との問いに対し、

「いや、それは俺がやってるんだ。」

と声をかけてきた紳士が。

「あっ、あなたは!?」
「虎姫社長!!」

一同は、桐華・武琉姉弟の父で、ミカエルホールディングス社長の虎姫圭も乗ってた事に驚く。

「て言うか、この飛行船を動かすには、特殊な免許がいるんじゃなかったっけ!?」

驚きを隠せない舞に対し、

「ああ、それならこれに。」

圭が書類を示す。

「……これは間違いなく本物ですね。」

書類を見た探が認める。

「私の父は、飛行船だけじゃなく、大型クルーザーの免許も持ってますのよ。」
「……鈴木財閥と並ぶミカエルグループの大首脳は、さすがに豪快でござるな。」

風吹が呆れ気味に話していた時。

「えっ!じゃあ、今この飛行船を動かしてるのは!?」

青子が困惑気味になる。
が、

「ああ、それなら心配無用だよ。この船はあちらのベル・ツリー1世号と同様、オートコントロール操縦も出来るんだ。」
「それでこっちの方に来れたのね。」

圭の説明に納得する一同。
そこへ、

「さあさあ、お腹が空きましたでしょ?宜しかったら、こちらのデザートでもどうぞ。」

と、圭の妻で、桐華・武琉姉弟の母親の虎姫明日奈が、デザートが搭載されたワゴンを押して現れた。

「ご夫人までこちらに乗られてたのですか。」
「ええ。今日はこちらでの厨房を担当する為に。」
「厨房?って事は、何かお料理でも。」
「はい。今日は海の幸を使った会席料理を皆様方に振舞おうかと。」
「おお、それは楽しみでござるな。」

いろいろと話をしながら、デザートを平らげる一同。

「では、夕食までの間、上のスカイデッキにでも行きましょうか。」

桐華は一同と共に、上階へと向かった。



  ☆☆☆



今回のパンドラミッションは、ベル・ツリー1世号に展示されている『天空の貴婦人(レディー・スカイ)』が、パンドラかどうか確かめる事。

その為にベル・ツリー1世号に乗り込んだのは。

江戸川コナンと毛利蘭、鈴木園子。
灰原哀と吉田歩美、小嶋元太、円谷光彦。
そして、怪盗キッドこと黒羽快斗。

ただし、キッドの正体を知らない少年探偵団には、今回のミッションの内容は教えていない。


更に、ベル・ツリー1世号に異変が起きた場合に備えて、その待機要員として、ベル・ツリー1世号の伴走試運転と称して稼動する、ミカエルグループ所有の兄弟機エアーウッド1世号に乗り込んだのは。

江古田組の中森青子、白馬探、雪野風吹。
帝丹組の焔野舞。
ミカエルグループの虎姫桐華、武琉姉弟。

以上である。
その一方で。

桃井恵子や、ネオ・エクリプスのサリーことサリエル・レミィことラミエルのヒューベリオン姉妹は休養中。
小泉紅子はヨーロッパに出張中。
京極真は実家の旅館の手伝い。
世良真純は東京エリアで待機。
風見原陽介は番組収録。
レオン・ライア・レムーティス王太子は、本国に帰還中。
本堂瑛祐・越水葉槻はデートを兼ねて、東京エリアで待機。
THE・天津神の高千穂晴香警視は、九州内での殺人バクテリアへの警戒の為に、福岡県警に待機。
同じく四方津千尋、高天原美空は道場の清掃。

と、それぞれの事情から、今回のミッションには参加していない。

また、終着地の大阪ベル・ツリータワーでは、服部平次、遠山和葉、御剣菫の改方組が待機する予定である。
ちなみに大岡紅葉は、殺人バクテリアを警戒して、自宅待機を余儀なくされている。

そして服部初音警視長は、殺人バクテリアを奪ったテロリスト集団『赤いシャムネコ』やシャドウエンパイアとの連携の可能性への警戒の為に、小田切敏郎警視長の要請で、警視庁で待機している。


以上が、各チームメンバーの動向である。



  ☆☆☆



一方、ベル・ツリー1世号では……。



「あっ、見て見て!あっちにでっかい飛行船が。」
「あれがミカエルグループ所有の兄弟飛行船、エアーウッド1世号ですね。」
「こっちの船とそっくりだなあ!!」

Aデッキから見えるエアーウッド1世号のフォルムに驚嘆する探偵団。


「中森警部、今日、青子ちゃんは、あっちの船に乗ってますよ。」

園子が、中森警部に声をかける。

「ああ。そう言えば、いつの間にか、青子はアンタ達と友達になってたんだったな。にしても、何でこっちじゃなくてあっちに?」
「青子ちゃんは、お父さんのお仕事の邪魔をしたくないらしいです。」
「……そうか。やっぱり、ワシの娘だ。」

ちょっと寂しそうながらも、自慢の娘の公私混同を避けようという行動に、顔がほころぶ中森警部。


一方、少年探偵団の姿を見ながら阿笠博士が哀に声をかけた。

「あの子達には、今回のミッションの事、知らせておらんのかの?」
「当たり前でしょう。だってあの子達には、怪盗キッドの正体も本当の目的も、知らせてないんですもの。」
「……メンバーにしていながら、そこら辺をきちんと話してないのも、どうかと思うのじゃが。」
「だって。それをしたら、場合によっては泥棒も良いんだって、あの子達に肯定してしまう事になっちゃうじゃない。」
「確かに、それは問題かもしれんのう。……じゃが、新一と君の正体まで隠したままというのは、どうなのかの?」
「……それは!何が良いのか、わからないのよ。私も、江戸川君もね。」

哀の苦しげな表情を見ると、博士もそれ以上は何も言えなかった。



   ☆☆☆



一方、蘭は、もう一度『天空の貴婦人』を見ようと、スカイデッキに向かっていた。

「もし、あれがパンドラだったら……私の持つレッドパンドラ『トゥルーソウル』に、反応するんじゃないかしら?」

蘭は、手に持っている「メビウスノルンブローチ」を見ながら、呟いた。
ふと、人の気配を感じて、ブローチを仕舞う。

通りすがりに、ウェイターの恰好をした相手に会釈しようとして、蘭はふと相手の肘に目を止めた。

「……あなた、黒羽君ね?」
「御明察。さすが、名探偵のパートナー、よく分かったな?」
「だって、あなた、最初に船に乗った時、歩美ちゃんを助け起こした整備員でしょ?」
「へえ。俺、自信なくすなあ。完璧に変装してる筈なのに、こんなに簡単に見破られるとは。」
「その、絆創膏よ。それ、私があの時あげたヤツじゃない。」
「へっ?」

ウェイター姿の快斗は、肘を見た。
そこに貼ってある絆創膏には。

「新一vLOVE」

と書かれてある。

快斗がひくひくと引きつった笑いを浮かべた。

「さすが。お熱い事で。」
「……そ、園子が私の絆創膏に、いたずらで落書きしてたのよ!だ、誰があんなヤツ!」
「ははは(園子ちゃんも、悪趣味だなー)。ところで、蘭ちゃんは何でここに?」
「もし、あれがパンドラだったら、私の持つレッドパンドラ『トゥルーソウル』に反応するんじゃないかと思って……。」
「へえ。成程、そういう見分け方もあるのか。だったら、青子を連れてくれば良かったかな?」
「でも、いつも反応するとは限らないみたいだし。それよりは、満月にかざしてみる方が確実かなと思うわよ。」
「……結局、一旦は盗み出さないとダメって事か?」
「しっ!」

蘭が快斗を制したのは、その場に中森警部と部下が現れたからである。

「君達、何をしてるんだ?」
「あ、私、もう一度あの宝石を見たいなと思って。」
「僕も、名高い宝石を見せて貰おうかなあと思って。」
「そうか……あんまりウロウロしてると、キッドの変装かと思っちまうぜ。」
「キッドは、誰に化けるか、わかりませんものね。中森警部だって、いつの間にかすり替わっているかもしれないでしょ?」
「ああ。確かにな。実際、ヤツはワシに化けた事もある。だからこうして、部下と固まって行動してるのだよ。君も、単独行動は止めておいた方が良い。もし、本当にキッドでないのなら、だがな。」
「はい。気をつけます。」

そして、中森警部はすれ違って行った。
蘭は、その背中を見送りながら、中森警部の事が少しばかり気の毒になっていた。

 

  ☆☆☆



エアーウッド1世号スカイデッキにて……。



「それにしても!『赤いシャムネコ』どもは、本当にとんでもない事をしてくれましたわね!!」
「ど、どうしたんですか、桐華さん!?」

突然エキサイトしだした桐華に対し、青子が問う。

「奴等が殺人バクテリアを盗み出したせいで、殿下が安全の為にパララケルス王国に強制帰還させられましたのよ!!この新型の飛行船で、殿下とランデブーを楽しもうと思ってましたのに!!!」
「ハハハハ、それが理由でござるか……。」

呆れる風吹。
これに対して、探が、

「けど、レオン王太子殿下は、パララケルス王国の次期国王になられるお方です。さすがのアストラ王も、気が気ではないのでしょう。」

と宥める。

「それは分かっておりますが……。」

口では分かっていても、心の奥底では納得し切れていない桐華であった。

「ううっ。ワタクシも今回のミッションがなければ、殿下に同行してパララケルス王国に行きましたのに……。」

桐華の嘆きを無視して、他のメンバーは会話を進める。
ちなみに圭は操縦室へ、明日奈は厨房へとそれぞれ戻って行った。

「そう言えば、怪盗キッドの犯行予告時間って、今日の夕方だったわよね。」
「そうです。それに備えて、次郎吉さんがあのベル・ツリー1世号のスカイデッキに色々と仕掛けを施したって言ってましたが。」

舞に説明する武琉。

「まあ、快斗殿にすれば、そんな罠など屁ではござらんかな。」
「確かにね……。」
「しかも、コナン殿を含め、積極的とまでは行かなくても協力者がいるでござるから。」
「……仕方がないんだけど……やっぱりお父さん、可哀想……。」

青子が目を伏せて言い、紅葉もそれ以上は何も言えなくなる。
そこへ、探の携帯が鳴った。

「ん?初音さんから?」

探は携帯に出て、音声をオープンにする。

「もしもし、どうしました?」
『白馬っち、えらいこっちゃ!あのテロリストから連絡があって、ベル・ツリー1世号に、殺人バクテリアをばら蒔いたいう知らせがあったんや!』

『ええええええっ!?』

一同は、思わず叫んでいた。

『まだ、ホンマかどうかは、わからへんけど。その知らせは、もうベル・ツリー1世号にも伝えられて、今、検索中や。』
「そ、そんな……まさか!」
『まさかいう事はあらへんで。あの船はスタッフも相当数乗ってるんや。テロリストの仲間が乗り込む事は、案外簡単なんやで。』
「しかし……一体、何の為に?」
『それは、何とも言えへん。攪乱させる為のガセかもしれへんし。ウチもこれから、そっちに向かう事にするわ。』
「わかりました。では。」


エアーウッド1世号のメンバーが、緊張の面持ちで、初音の到着を待っていると、再び探の携帯が鳴った。

「工藤君からだ。もしもし?」
『白馬。状況は、聞いてるな?』
「ええ。そちらは、どうです?」
『テロリストの言った通りのアンプルが、見つかった。そして……感染者が出た。』
『なっ!?』

固唾を飲んで聞いていた一同が、思わず声を上げる。

『こちらでは、誰が発症するか、予断を許せない。だから……誰もこっちに来ようとは、思うなよ?』
「わかりました。工藤君、充分、気をつけて。」
『また、追って連絡する。』

このやり取りを聞いた青子が、

「快斗!お父さん!」

窓に張り付いて叫んだ。

「青子だけでも、あっちに行く!」

青子が、モルガンのティアラを展開し、

Pandra Force Change,Brue Princess the Dia!!

パンドラ勇者への変身呪文を唱えたが、

「えっ、う、嘘!?」

ブルーパンドラ「蒼穹の星」は、発動しようとしなかった。

「な、何で!?」
「青子さん。パンドラは、マスターの危機に対応する。今、力を発動しないって事は、青子さんがあちらに行くのが危険だと、パンドラも判断したのですよ!」
「そ、そんな!」
「……それだけ、危険だという事なのでござるな……。」
「お願い、白馬君!青子をあちらに連れてって!桐華さん、百鬼夜行桐華組を使ったら、青子だけ連れてく事も、出来るわよね?」
「青子さん、それは絶対ダメです!黒羽君と中森警部から、あなたの事は、重々頼まれているんですから!」
「ワタクシも、それは出来ませんわ。あなたをみすみす、死地に赴かせるなんて事は。」
「なら舞ちゃん!!ドラグファイヤーを!!」
「今しがたコナン君が言ってたでしょ?『誰もこっちに来ようとは、思うなよ?』って。下手をしたら、あなたも感染して、黒羽君や中森警部が悲しむじゃない。だから、私も出せないわ。」
「そ、そんな……快斗、お父さん!」

青子は、その場にへたり込んで、涙を流した。

「……。」

痛々しげに青子を見守る一同。

その時。
ヘリコプターが一機、近付いて来るのに、一同は気付いた。

「警視庁のヘリでござるか?」
「いや、まださっき連絡があってから時間が経っていない筈です。」
「……ベル・ツリー1世号の方に向かってるわ!」

通り過ぎたヘリを見ると、警視庁のものではない事が分かった。

更に。

「んっ?あのヘリ、ベル・ツリー1世号の上でホバリングしてるでござるが。」
「あっ、誰か出て来た!!」

一同が窓からベル・ツリー1世号の方を見ると。

「なっ、何あいつ等!?銃を持ってるわ!!」
「まさかベル・ツリー1世号に進入する気じゃ!?」
「と言う事は……『赤いシャム猫』!?」

血相を変える一同。
直後、

「大変!早く連絡しなきゃ!!」

舞がケータイを取る。

「あ、もしもし、園子!?」
『舞、どうしたの?』
「大変よ!今そっちに侵入者が!!」
『侵入者?』
「そっちに殺人バクテリアをばら撒いた『赤いシャム猫』が侵入したの!!」
『な!!?』
「今すぐみんなにこの事を!!」
『うん、分かっ……。』
「!?園子、どうしたの、園子!?」

舞が必死に呼びかけるがケータイは切れてしまった。

「ちいっ!!」

怒りで舌打ちする舞。

「しかし、あのテロリスト達は、やけにあっさりと飛行船内に入っていったでござるが。」
「服部警視長が仰った通り、既に飛行船内に先に潜入していたメンバーがいたのでしょう。それが手引きしたようです。」

探が説明していたその時。

「んっ?」

ケータイに着信音が鳴り、探はそれを取る。

「もしもし?」
『おう、白馬か。』
「工藤君!」
『今のこっちの状況は分かるよな?』
「ええ。所で今君は?」
『俺は今、奴等が仕掛けた爆弾を探索してる所だ。』

話を聞きながら探が桐華に対して頷くと、桐華は用意したノートパソコンを操作する。
すると。

「おお、これは!」

大型モニターに、飛行船の内部図が映し出され、紅葉達が驚嘆する。

「工藤君、今こちらでエアーウッド1世号の内部図を映し出してます。そちらのベル・ツリー1世号は、こちらの兄弟機で構造も全く同一ですから参考になるはずです。」
『おお、済まねーな、白馬。』

探はエアーウッド1世号の内部図を参照しながら、コナンにアドバイスを送る。

そして。

『とりあえず、爆弾は全部外したよ、探兄ちゃん。』
「ご苦労でしたね、コナン君。」

とりあえずの危機を脱した事に一同ホッとする。

「所で二人共、爆弾を取り外した後に、急に口調や呼び方が変わったけど?」
「恐らく、探偵団のみんながすぐ近くにいるのでしょう。」

舞の疑問に武琉が答える。
が、その時。

『わああっっ!!』
『!』

ケータイから突然探偵団の悲鳴が聞こえ、一同が驚く。

「もしもし、どうしましたコナン君、もしもし!!?」

必死に呼びかける探だが、

「……だめです、切られてしまいました。」
「ま、まさかコナン君や探偵団のみんなもテロリスト達に!?」
「ああ、何て事に……。」

落胆する一同。

「しかし、せっかく爆弾を外したのに、コナン殿と探偵団がつかまってしまうとは……。」
「殺人バクテリアさえなければ、すぐにでも乗り込んで、奴等をボッコボコにしてやるのに!!」

憤る風吹と舞。

「でも、テロリスト達は、何で殺人バクテリアと爆弾の両方を持ち込んだのでしょうか。どっちか一つでも十二分に効果が出るのに。」
「それは僕も気になってましてね。彼等の行動は何やら緻密なようで、穴があるようにも思えるのですが……。」

武琉の問いに、懐疑的に答える探。
その時。

「えっ!!?」
「今なんか飛行船から投げ飛ばされ……あっ、こ、コナン君!?」
「なっ!?」

コナンがテロリストに船外へ放り出されたのを見て、一同が凍りつく。

「コナン君!!」

舞が赤龍の護符を出して、ドラグファイヤーを呼び出そうとした時。

「あっ、あれは!?」
「か、怪盗キッド!」

続けて船外へと飛び出したボーイが、怪盗キッドの姿になって、コナンを助けようとするのを見た。

「いけー、キッドーーっ!!」
「快斗殿、早く!!」
「お願い、快斗!コナン君を助けて!!」

青子が必死に祈る。
すると。

「よしっ、やったでござる!!」

キッドが無事にコナンを捕まえたのを見た一同は。

「いえーい!!」
「ああ、良かったですね。」
「本当にどうなる事かと……。」

安堵の表情を浮かべる。

「でも、コナン君とキッド、下の方に降りちゃったわね。」
「さすがにこっちまで飛ぶ事は出来なかったようですね。」

そう言いながら一同は、眼下の三河湾を見下ろした。

「キッドのハンググライダーには、エンジンまで搭載されてないもんね。どうやってまた空の上に来るつもりかな?」

そう青子が疑問に思うと。

「恐らく私に連絡でもして、ドラグファイヤーを遣せと言うでしょ。それ以外にこっちに来る方法はないんだから。」
「あるいは、ワタクシに連絡を入れて、百鬼夜行桐華組の中で、空を飛べるのを送ってくれと要請するかも知れませんわね。」

その時。

「舞さん、ケータイがなってますよ。」
「……あっ、案の定、コナン君だ。もしもし?」
『焔野、俺だ。』
「どうしたの?」
『悪いけど、オメーのドラグファイヤーで、俺達をそっちの船に運んでくれねーか?』
「やっぱそうくると思ったわ。じゃあ、ちょっと待っててね。」

コナンからの連絡を受けた舞は、

「カモン、ドラグファイヤー!!」

の詠唱と共にそれをデッキの外に飛ばした。

すると、

「グウォォォーーーーーーーーーッッッ!!!」

護符から噴出した炎が、ドラグファイヤーの形へと変化し、そのままコナン達の元へと向かい、そしてほんのしばらく経ってから彼等を乗せ、エアーウッド1世号のスカイデッキへと運んできた。

「ふー、やれやれ。」
「いやー、参ったぜ。」
「快斗!」
「コナン君!!」

快斗とコナンの元に、青子や舞達が駆け寄ってくる。

「大丈夫ですか、コナンさん!?」
「あそこからあなたが放り投げられたのを見た時には、本当にびっくりしましたわ。」

心配する武琉と桐華。

「いや、こっちこそアンタ達に心配かけさせてすまねえ。」

逆に恐縮するコナン。

「所で。俺達は今のところ、大丈夫だと思うけど。オメー達にあんま近寄らない方が良いかもな。」
「大丈夫よ。ドラグファイアーは、危険なバクテリア感染を起こしてるか走査出来るわ。コナン君達は、今のところ感染してない。」
「そっか……。」

舞の説明に安堵するコナン。

「所で、ベル・ツリー1世号の状況はどうなってますの!?」
「お父さんや蘭ちゃん達は!?」

矢継ぎ早に尋ねる桐華と青子。

「今の所は大丈夫だけど、ルポライターの藤岡さんやウェイトレスが感染の疑いで医務室で、日売TVディレクターの水川さんが喫煙室でそれぞれ隔離されてる。」
「そうですか。」
「今のところ、治療法はないバクテリアだから。もしも感染が確認された場合、隔離して、死か自己治癒を待つしか、方法はない。」
「そ、そんな……!」

絶句する武琉。

「俺はまた、あっちに戻る。協力してくれねえか?」
「えっ!?だって、コナン君!?」
「あそこには、蘭や仲間達がいる。ぜってー、守らなきゃ。……ま、黒羽はこっちに残っても良いけどな。」
「……バーロ。この状況で、俺だけ逃げ出す訳には行かねえだろ?あっちには、中森警部もいるんだしよ。」
「快斗……。」
「よく考えたら、そもそも、俺がコナンを助ける必要は、なかったんだよな。」

快斗がぼやく。

「快斗!?何て事言うのよ!?」
「だって、コナンは蘭ちゃんのパートナーだから、危急の際には、コナンを守ろうとしてパンドラパワーが発現するだろ?」
「あ、そう言われれば……。」

一同、ようやく、その事を思い出す。

「ま、でも良いさ。これでひとつ貸しが出来たしな。」
「……はあ?ハッキリ言って、俺はそれを借りとは思わねえぜ?」
「ふふん。だけど、蘭ちゃんはどうかなー?」
「にゃろ。」
「黒羽君ったら、この間の事、まだ根に持ってるのね……。」
「快斗。それをネタに、蘭ちゃんに迫る気なんだ?」
「(ギクッ!)あ、青子!そんなんじゃなくて!」
「ふうん。青子は快斗の事心配してたのに。心配して、損した。」
「俺は、青子だけだって言ってるだろ?信じてくれよー。」
「どうだか。」

ぷんすかしている青子。

「快斗殿、信用がないでござるな。」
「今いち、軽いのは事実だしね……。」

そこへ。

プルルルルルル……。

桐華のケータイに、着信コールがなった。
それを手に取る桐華。

「あら、初音さんですわ。もしもし?」
『おう、桐華か?ウチや。』
「……なにやらヘリのローター音が聞こえてますが、この近くにまで来ておられるようですわね。」

通話をしながら桐華が窓を見ると、警視庁のヘリが見えた。
キッドの扮装をしていた快斗は、ローター音を聞くなり、ヘリが見えない場所に姿を隠す。

『ほんでな、そこの飛行船を臨時作戦本部として、使わせてもらいたいんやけど、かまへんか?』
「それはかまいませんわ。」

桐華が承諾したその時、

「その代わり、俺達を初音さんとの入れ替わりで、ヘリに乗せてもらえないか?」
『コナン?何でアンタがここに?ベル・ツリー1世号に乗ってたんやなかったんか?』
「それなんだが……。」

桐華からケータイを受け取ったコナンは、初音にその経緯を簡単に説明する。

『そら災難やったなあ。けど、渉や美和子はともかく、ヘリのパイロットはアンタの事は知らへんし、小学生を乗せるには、ちと……。』
「俺一人じゃなくて、工藤新一と江戸川コナンの二人だよ。」
『えっ……。』

一瞬考え込む初音だが。

『よっしゃ、それならかまへんで。』

とケータイを切った。

「工藤新一はオメーじゃねーか……。」

呆れる快斗だが、

「いや、いるだろ、俺の目の前に。」
「へ?」
「……あ、なるほど、その手があったか。」
「さすがでござるな、コナン殿。」
「はあ、みんな何言ってんだ?」
「簡単な事ですよ。君の特技を使えば良いだけの事です。」
「つー事は、俺に工藤新一に化けて、あそこに戻れって事か?」
「今回のミッションの主役は君なんですから、当然でしょう。」
「……まあ、しゃあねーな。それ以外にあそこに戻る手段は無さそうだし。」
「快斗……。」
「心配すんなって、必ずミッションを成功させてくっからよ!ついでに、中森警部も守ってやっからな!!」
「……うん!」

快斗の励ましに頷く青子。

「それじゃ行くか、黒羽。」
「ああ。」

一同は、気嚢エリア上部のハッチへと向かった。



  ☆☆☆



「じゃあ。行って来ます。」

工藤新一に変装したキッドと、コナンが、ハッチへと続くはしごへと向かった。
青子が駆け寄る。

「快斗っ!」
「青子。心配すんな、無事ミッションを終えて、戻って来っからよ!」
「うん……。」

新一の姿に扮した快斗が、青子を抱き寄せ、その唇に軽くキスをした。

「うわあ。ラブラブ……。」
「中身が快斗殿と分かっていても、新一殿が浮気しているように見えて、ドキドキするでござるな。」
「バーロ。俺は浮気はしない。」
「あはは、コナン君、わかってるって!アンタに浮気出来る甲斐性ある訳ないじゃない!」

半目になってぼそっと言ったコナンの背中を、舞がバンバンと叩いた。

「あ、ちょっとお待ちを。宜しければ、こちらをお連れ下さい。」

桐華は、見るからに怪しげな鏡をコナンに手渡した。

「桐華さん、これは?」
「百鬼夜行桐華組の雲外鏡ですわ。これをベル・ツリー1世号に送り込んで、内部の実況中継をさせて欲しいのです。」
「なるほど、中の様子が分かれば、それなりに作戦を立てやすいからな。」

コナンは桐華から、雲外鏡を受け取った。

「じゃあ、行こうぜ、黒羽!」
「おう!」

コナンと快斗は、はしごを昇り、ハッチから出て行った。



  ☆☆☆



コナンとニセ新一(キッド)を乗せた、警視庁のヘリが、エアーウッド1世号から離れて行った。

「ひ、久し振りね、工藤君。」
「どうもー。」

高木警部補と佐藤警部は、状況を知っているが、事情を知らないパイロットの手前、キッドに対して「工藤新一」として接していた。
しかし、基本、隠し事や芝居が下手な二人は、頬が心なしか、ピクピクとなっていた。

そこへ、念話で。

(驚かせて、済みません。)
(黒羽君。まあ、良いけどね。まさか、一介の高校生である黒羽快斗君を乗せる訳にもいかないし。)
(そうだなあ。似たような顔なのに、工藤新一は顔パス、不公平だよなー。)
(しゃあねえだろ、俺は一応、高校生探偵としての実績を積んでんだからよ。)

そういう会話を交わす。

「さて。ベル・ツリー1世号に近付くわよ。」
「見つかったら、撃たれる可能性が高い。気をつけて。」
「了解。って、小学生が言っちゃダメじゃない。」
「あ、ごめんなさ〜い。」
「そろそろ、ホバリングしてくれませんか?」

ニセ新一の言葉に、パイロットはベル・ツリー1世号の上で、ホバリングをする。
そして、ニセ新一がヘリのドアを開け。
コナンと二人、その場から飛び降りて行った。

すぐ後に、ハンググライダーの翼が広がる。

「おわあああっ!」

ヘリのパイロットが思わず叫んだ。

「さては!今の工藤君は、怪盗キッドの変装だったのね!」
「えっ!?僕達は、キッドに利用されてしまったって事ですか!?」

佐藤警部と高木警部補が、白々しく叫び、ヘリのドアを閉めた。

「服部警視長と、今後の事を相談しなきゃ!エアーウッド1世号に、戻ってちょうだい!」
「りょ、了解です!」

その時。


ダダダダダダダダダ……


ヘリは、テロリストからの銃撃を受けた。

「急いで、離脱して!」
「は、はい!」

ヘリは大急ぎで離脱すると、再び、エアーウッド1世号へと向かって行った。

(頼んだわよ、コナン君、黒羽君!)

佐藤警部が、念話でメッセージを送った。



コナンとキッドは、ベル・ツリー1世号の上部に取り付いたが。



「うわあああああっ!か、風にあおられるうううう!」

コナンを抱えたキッドは、そのまま吹き飛ばされそうになっていた。
その時、コナンが持っていた雲外鏡が、コナンから離れて空中を漂い、二人の方を向いた。

「翼!翼を畳め、早くしろ!」
「オメーが邪魔で、畳めねえんだよ!」


その頃、エアーウッド1世号では。
雲外鏡がコナン達の場面を実況中継した画像が、スカイデッキ正面の大型ディスプレイに映し出されていた。

「きゃああっ!快斗っ!」
「うわ!やばいでござる!」
「さすがに、風の強さは半端じゃないですね!」
「白馬君、何を悠長に冷静に分析してんのよ!」
「まあ、待ちいや。アイツらなら、何とかするやろ。」

ディスプレイ前は、大騒ぎになっていた。


『俺がやる!スイッチはどこだ!?』
『っておい!あ……ひゃははっ、くすぐった……ど、どこ触ってんだよ!?』

コナンがキッドの腹部をまさぐり、キッドが、顔を赤くして叫ぶ。


「もしも〜し。」
「この危急の時に、あの二人、何をやってるでござるか?」
「青子のライバルって、実はコナン君だったの!?」
「……僕のデータによると、彼は女好きノーマルの筈ですが。」

エアーウッド1世号のディスプレイ前は、別の意味で大騒ぎになっていた。


コナンがどうにか、キッドのハンググライダーを閉じるのに成功し。
二人はからくも、吹き飛ばされるのを免れた。
それを見て、エアーウッド1世号で見守っていた面々は、ほうっと大きく安堵の息をついた。

そして、二人は上部ハッチから、船内に侵入した。


そこへ。

「初音さん、コナン君と黒羽君はどうなりました!?」
「再潜入出来たの!?」

百鬼夜行桐華組の伊吹童子に案内されて、高木警部補と佐藤警部が警視庁のヘリからやって来た。

「大丈夫や。上手くいったで。」
「それは良かったわ。」

美和子や渉も、雲外鏡の実況を映し出す大型ディスプレイに目を向ける。



「あ、そうそう。名探偵、忘れてたけどな。蘭ちゃんの事、注意しといたほうが良いぜ?」
「……どういう事だ?」
「んな怖い顔すんなって。ただ、俺は見ちまっただけなんだから。」
「だから!何をだ!?」
「……最初に発症した藤岡さん。蘭ちゃんの両腕を、掴んでたんだよ。」
「何っ!?」
「まあ、殺人バクテリアは、接触感染じゃないから、大丈夫だとは思うんだが……。」
「……!!」


コナンとキッドの会話も、雲外鏡で実況中継されていて。


「な……蘭ちゃん!?」
「だ、大丈夫よ、だって、接触感染じゃないって、快斗も言ってるんだし。」
「それに、蘭殿には、パンドラフォースディフェンスという絶対防御もあるでござるしな。」
「それは、わからへんで。」
「えっ!?初音さん!?」
「パンドラも、感染に対してまで防御が働くんかどうか……それは、未知数やしな。」
「そ、そんな!」
「まあ、今の段階では、飛沫を浴びた訳やあらへんようやから、大丈夫と信じるしかあらへんのやけど。」
「もし、蘭ちゃんが発症して、万一の事があったりしたら……コナン君、どうなってしまうかしら?」
「アホ。今の段階で、縁起でもない事、言いなや。」


一同は、何となく暗い面持ちで、祈りを込めてディスプレイを見詰めた。


「もし。アイツが感染したりしたら、俺は……俺だけでも、アイツと同じ場所にいるよ。」
「はあ?おい、コナン。そんな事、彼女が望むと思うのかよ?」

コナンの言葉に、キッドが呆れたように返した。

「治療法が存在しない。だったら……俺に出来る事は、傍にいる事しか、ねえだろ?」
「だからあ!」
「1人で逝かせは、しない。」

コナンの真っ直ぐな瞳に、キッドは絶句する。

「なんてな!これは、もしもの時の話だよ。」

コナンは、笑顔でキッドを見た。



「ううう……愛ですわね……。」

涙ぐむ桐華。
エアーウッド1世号の一同は、コナンの漏らした本音を雲外鏡で見て、溜息をついていた。

「いつも冷静なコナン殿とは思えぬ発言でござるな。」
「いつも冷静に見えるとしたら、風吹さんはまだまだ、彼の事を分かってないと思うな。」
「それは、僕も何となく分かります。彼は、結構熱血ですしね。僕より服部君に近いものがあると思いますよ。」
「……コナンは、無駄な死を選ぶヤツやあらへんけど。蘭蘭の為には、無駄と思える行動だってする。そういうヤツや。」


一同、妙にしんみりしていた。
その時、

「あっ、テロリストが!!」

武琉が思わず叫ぶ。

しかし、コナンは難なく撃破する。

「おお、やるじゃん。」

が、すぐに2人目、3人目のテロリストが現れた。

「さて、どうしますか、コナン君。」
「万が一には、雲外鏡経由でドラグファイヤーを……!」

札を用意する舞。
他の面々は、コナンとテロリストのバトルに息を呑む。

しかし、コナンは次々とテロリストを撃破して行く。

『オー、さすがだな。』
『黙って見てねえで、オメーも手伝え!』
『今回のミッションでの俺の役割は、『天空の貴婦人』がパンドラか否かを確かめる事。テロリストの撃退は、名探偵の役目だろ?』
『はあ?探偵ってのは推理するのが役目で、戦闘要員じゃねえ!』
『ま、オメーが本当に危なくなったら、助けてやるよ。俺の手を借りなくて良いよう、精々頑張るんだな。』
『……ニャロ。』
『ほれ、油断してると次が来るぞ。』


テロリストは、当然、コナンだけでなくキッドも狙って来るのだが。
キッドは器用に、避けるだけに留めていた。


「快斗ったら、何て酷い事を!」
「まあまあ、本当にコナン君1人では無理となったら、彼も手助けするでしょうし。」
「でも……!」
「いやー、それにしても、本当に息がつまるでござるなあ。ワクワクして来るでござるよ。」
「風吹さん、映画鑑賞じゃないんですから……。」
「そういう白馬君だって、いつも他人事みたいに論評してるくせに。」
「おっと。次はスカイデッキに向かうようですね。」
(逃げたな。)

探に対し、心の中で突っ込む一同。


『おわあっ!!』

コナンがテロリストを、『天空の貴婦人』のディスプレイ前の穴に落とした。


「次郎吉おじ様、あんな罠を仕掛けてたのですか。」
「けど、快斗があれくらいでひっかかるかなあ。」
「いやいや、コナン殿は、快斗殿に罠の事を教えてないようでござるからな。いくら快斗殿でも、前知識なしだと案外引っ掛かったかもしれぬでござるよ。」
「……まあ、確かに。彼も、味方メンバーがいるという油断で、最近、情報収集を怠ってしまう事がありますから。」
「黒羽君って、バトルシーンでは慣れ合わないような事を言ってるクセに、こういう部分ではちゃっかりしているのね。」

別の方向性で感心する一同。
更に。


『ぎゃああああああ!!』

別のテロリストは、電撃を受けて倒れた。

『ウゲッ。あんな罠まであったのかよ。って事は、俺があの宝石を奪おうとしていたら、今頃は……。』

キッドの言葉に、ディスプレイを見ていた面々は、

「やっぱり情報収集を怠っていたのか。」

と、少し呆れていた。


その時、

『死ねえっ!!』

リーダーがマシンガンを発射した。
それを必死で避けるコナンとキッド。


「きゃあ、快斗!!」

思わず口を押さえる青子。
しかし。


コナンはボール射出ベルトからサッカーボールを取り出し、

『いっけえええええええっっっ!!』

キック力増強シューズで力の限り蹴りこんだ。
そして、

『ぐはああっっっ!!』

ボールがリーダーの顔面を直撃し、リーダーはそのまま倒れこんだ。


「やったあああ!!」
「よっしゃああああ!!」
「さすがでござる!!」
「お見事ですわ!!」
「凄いです!!」
「いやあ、本当によく頑張りましたね、コナン君。」

実況を見ていたエアーウッド1世号の一同は、一様に安堵の表情を浮かべて喜び合った。

「なかなかやるじゃない、黒羽君の手助けなく全てカタをつけるなんて。」
「本当ですね。」
「まあ、何はともあれ、これで一安心やな。」

ほっと一息を付く警視庁組。


Bデッキで皆を見張っていた残りのテロリストメンバーは、隙を突いた中森警部と、(テロリストの仕込んだ睡眠薬からようやく目覚めた)小五郎によって、やっつけられ。
そしてテロリスト達は、中森警部達警察官の手で、全員拘束された。

『本官達は、二課のメンバーですが、宜しいのでありますか、中森警部?』
『一課のメンバーが来る訳には行かないんだから、ワシらが頑張るしかないだろう。』
『はっ!』

これらの場面も、雲外鏡から中継され。
エアーウッド1世号の面々は、全員、安堵の溜息をついた。

「まあ、私達もなるべく早く行って、中森警部からテロリスト共を引き渡してもらいましょう。」
「そうですね。今回、二課のメンバーには、管轄外の事で本当に頑張って貰いました。」

高木警部補と佐藤警部は、そのような会話を交わしていた。




そして。


コナンは、喫煙ルームへと急いでいた。


「蘭姉ちゃん!」
(蘭!)

喫煙ルームには、蘭の他に水川ディレクターも隔離されていた為、コナンは、実際の声と念話とで、同時に呼び掛ける。

「こ、コナン君!?」
(新一!来ちゃダメ〜!)

蘭は、コナンの姿を見た時、一瞬駆け寄ろうとしたが、すぐに後退って口を手で覆った。

「大丈夫だよ、蘭姉ちゃん。だって、蘭姉ちゃん、感染なんかしてないもん!」
「えっ?」
「実は、あいつらは、テロリストと見せかけた強盗犯グループで。殺人バクテリアの恐怖で、関西を無人にした所で、奈良の仏像を盗もうとしてただけで。最初から、盗み出したふりをして、バクテリアなんか持ってなかったんだよ!」
「で、でも、だって発疹が……!」
「それは、漆のかぶれさ。」
「えっ!?」
「この喫煙ルームは、漆が吹きつけられていて。ここに入った人達は、それにかぶれただけだよ。蘭姉ちゃんは、ここで漆に触れた藤岡さんに、腕を掴まれたでしょ?だから……。」
「そ、そうだったの?じゃあ、私……みんなに、感染させる心配は、ないのね!?今迄感染したと思われてた人達も、誰も、死んだりなんかしないのよね!?良かったあ……。」
「うん!(蘭……オメーってヤツは……こんな時でも、自分の事より、みんなの心配かよ……。まあ、オメーらしいけどな。)」

安心した蘭が、ようやく笑顔を見せて、コナンの方に近寄って来ると。

「死にたくない!!」

と震えていた水川ディレクターも、一転、

「はあ、助かった!」

と、小躍りしていた。


実況を見ていた面々も、

「ははは。ただの漆でござったか……。」
「漆ってかぶれるの?じゃあ、漆器なんか使えないじゃない!」
「何を言ってるんですか、舞さん。漆器ではかぶれませんよ。かぶれるのはあくまで、漆の樹液です。」
「漆の樹液?」
「舞さん。さすがに、そこから説明する気力は、僕にはないですよ……。」
「まあ、かぶれなら、パンドラフォースディフェンスが働かんでも、無理あらへんなあ。」
「奈良の方は、服部君が上手くやってくれたようです。」

探が、メールを受信して、言った。

「強盗団は奈良県警の鹿角警部の手で、全員捕縛され、仏像は皆、無事です。なるほど、セキュリティが甘いお寺……興福寺が狙われたんですね。」
「ええっ!?あそこは確か、阿修羅像とか、すっごく有名な仏像が沢山ある所よね!?」
「あ、阿修羅像なら、僕も知っています。値段が付けられない程のお宝ですよね……。」

等と、一同は話をしていた。


コナンは、蘭と並んで歩きながら、蘭にだけ聞こえる(しかし雲外鏡には通じている)小声で、言った。


「もし。オメーが本当に感染していたとしても。俺は、俺だけは、オメーの傍にいる積りだったからな……。」
「えっ!?こ、コナン君!?」(新一!何て事言うのよ!?だって……!)

蘭が、周りを憚って、念話でコナンに答える。

「それは、俺の決意だから。オメーにも、何も言わせない。」

コナンが静かな決意を秘めた眼差しで、蘭をふり仰いだ。
蘭の目からこらえていた涙が零れ落ちる。

「……バカ……。」
「うん。オメーに関しては、ぜってー利口にはなれないんだよ、俺は。」


この会話を雲外鏡で見ていた一同は。

「愛ですわね……。ああ、ワタクシも、殿下からあのようなお言葉を……。」

涙ぐみながら、夢見る乙女になっている桐華。

「ははは。言ってくれるわねえ、コナン君。蘭ちゃんと恋人同士になってから、結構ストレートに言うようになったわよねえ。」
「けど、普段はもう少しツンデレのようでござる。やはりここは、危急の時だったからではござらぬか?」
「何となく、青子にもわかる気がするなあ……。」
「普段はツンデレなのは、青子さんと黒羽君も一緒だものね。」
「さ、佐藤警部?そ、そんなんじゃなくて!」
「ははは……美和子さんって、変な所で鋭いですね。」
「あら、渉君。何か言ったかしら?」
「い、いえ、何でも!」
「こういう時にきちんと言えるんは、さすがや思うで。普段からああやったら、逆にウザいやろうし。」
「えー!?そうかなあ。私だったら、王子様から毎日でも……。」
「拙者も、主殿からなら四六時中でも……。」
(舞さんが相手なら、僕、毎日でもずっとでも、囁いてあげたいけど……。)

などと、取りとめのない話が続いていたが。

探は、話に加わらず、モニターを見ながら、少し難しい顔をして考え込んでいた。



  ☆☆☆



一方、奈良の平次達は。


「こいつら、アホやな。」
「俺らがたった3人で立ち向かうと、本気で思うとったんかい……。」

平次達は、一網打尽にされた強盗団を、見送っていた。

「さ、和葉、聡の坊主。帰るで。」
「聡君、家まで送ったるからな。」
「ボク、役に立ちました?」
「ああ。そらもう。ピンポイントで強盗団をやっつけられたんは、坊主のお陰や。」
「良かった……だったら、将来、和葉お姉さんを、ボクのお嫁さんに……。」
「アホ。それとこれとは、話が別や!」

平次が聡の頭をゴツンと叩く。

「平次!子供相手になんちゅう事を!」
「和葉お姉さん。やっぱりボク、子供なんですね……。」
「さ、聡君……。」
「でも、負けませんよ!10年後を楽しみにしてて下さい!」
「ああ、分かった分かった、10年後やな。」
「平次、あんまりアホ言うと、アタシ、ホンマに、聡君のお嫁さんになってまうで。」
「何やて!?そらあかん!」
「ふうん。何でや、平次。何であかんのん?」
「聡の坊主。言うとくが、この女はもうキズもの……。」

平次が聡の方に顔を寄せて言いかけ、和葉は真っ赤になって平次の頭にゲンコツを入れ、ヘルメットをかぶり、聡を前に抱える。
平次も、恨めしげな目で和葉を見やった後、ヘルメットをかぶってバイクにまたがった。

平次と和葉は、聡を家まで送り届け、その後、再び大阪に戻った。



  ☆☆☆



一方。
蘭と連れだって、喫煙ルームを出たコナンは、

(待てよ……。一番最初に、あいつに発疹なんかの症状が、出たんだよな?そして、蘭はあいつから腕を掴まれて……。)

突然、ある事に気付いた。

「蘭!オメーは、みんなの所に!」
「えっ?新一は!?」
「俺は……気になる事があっから!」

コナンは、雲外鏡を伴い、駈け出して行った。

「新一?」

コナンの事も気がかりだが、まずは、皆を安心させなければと、蘭は一旦、皆が待つデッキへと向かった。






To be countinued…….





 第2部「Over Drive」に続く。