<真園篇>
「あ、あの、夜遅くにご迷惑をおかけします」
園子はすっかり緊張していた。
真の実家である瓦屋旅館。
以前、蘭とコナンと3人で泊まったことはあるし、今日の昼間も蘭や和葉と一緒に御飯を食べに来たばかりだが、真と付き合っている相手として、こうしてやって来るのは始めてである。
しかも夜中近くに突然の訪問。
園子は、真の両親に呆れられたり、嫌われたりしたらどうしようと、気が気でなかった。
しかし、真の両親は笑顔で園子を迎え、お茶を淹れてくれた。
真は先に部屋の方に行って、布団を敷いたりしているらしい。
「園子さん、こんなおんぼろ旅館に、ようおいで下さいました。今日は色々と大変だったらしいですね。今夜はゆっくり寛いで下さいね」
真の母親が、心からの温かい笑顔でそう言った。
「あいつは、俺に似て唐変木でな。その上、空手空手で大学生にもなるのに女の影もないし、どっかおかしいんじゃねーかと心配してたところだ」
真の父親が苦笑しながら言った。
「ええ、本当にねえ。それがいきなりこんな可愛らしいお嬢さんを連れてくるなんて。我が息子ながら、やるときはやるわね、と安心したわ。園子さん、真は気立てだけは保障しますけど、本当に不器用で鈍いところもあって、きっと女心も判っていない子なんですが、どうぞ真のこと、宜しくお願いします」
園子は、真の母親に頭を下げられ、慌てて自分も頭を下げる。
「わたしこそ、至らない女ですけれど、こんなわたしで良ければ、今後とも宜しくお願いします」
園子はふと、まるで見合いみたいだと思い、ますます緊張して顔が赤くなった。
☆☆☆
その後奥の部屋に通され、園子は固まる。
座敷に敷かれた2つの寝床――。
園子は今の今まで、ただ瓦屋旅館に泊まるだけと思っていたため、座敷の光景を見て、頭が真っ白になった。
「園子さん」
背後から真に声を掛けられ、園子は飛び上がる。
「お風呂、準備できてますから、どうぞ」
思考力が殆どなくなっている園子は案内されるまま、風呂場まで行く。
案内されたのは貸し切り用の家族露天風呂で、今は園子1人の貸し切りになる。
園子は、時間をかけて丁寧に体を隅々まで洗うと、ゆっくりと湯船に体を沈めた。
ようやく少しずつ思考力が戻ってくる。
動悸が速いのは、お湯にのぼせている所為ではない。
耳年増な園子だが、本当はかなりウブなのである。男性とのつき合い遍歴は真だけで、それも今までに数えられるほどの軽いキスしかしていない、清いお付き合いだった。
真はストイックで、今迄迫ってくるなんて事はなかった。
今回の旅行も、2人きりでもなかったから、何も考えていなかったし、覚悟も出来ていない。
いつかはと考えた事は無かった訳じゃない。
でもいきなり、しかも真の実家でなんて・・・今夜これからの事を考えると、園子は体が震えてくるのを抑えられなかった。
☆☆☆
園子は、お風呂から上がったあと、用意されていた浴衣を羽織り、寝床がのべられている座敷に向かった。
真が先に畳に座って待っていた。
園子が真の前に座ると、いきなり真が抱きしめてきた。
真の、抱きしめる力の強さに、荒い息に、園子は怯えて体を強張らせる。
「ま、真さん、お願い、待って」
ふいに真は園子の体を離した。
辛そうに目を伏せて言う。
「園子さん、申し訳ありません。さっきの毛利さんの言葉に、ひょっとしたら女のかたも、そういった事を望んでおられるのではないかと、勘違いしてしまいまして・・・」
「真さん?」
「・・・あなたを怖がらせるつもりはなかったのです。あなたを愛しいと思い、大切にしたいと思っているのに、どうしようもなくあなたを欲しいと思っている自分もいるのです。こんな私を、軽蔑なさいますか?」
「・・・・・・」
「園子さんは安心してこの部屋でお休み下さい。私がこの部屋の入り口のところで、一晩中ずっと番をしていますから」
そういって立ち上がろうとした真に、園子はぶつかるように抱きついた。
そして真の胸を拳でぽかぽかと叩く。
「何よ何よ、何でいつもそうなのっ?1人で勝手に考えて納得しないでよっ!わたしが真さんを軽蔑するはずないじゃないっ!嫌だなんて、言ってないじゃないっ!」
「そ、園子さん?」
「わたしは、嬉しかったんだから。真さんが、私を求めているって判って、嬉しかったんだから!」
真は、おずおずと園子を抱きしめる。
「・・・でも、怖がってたのではありませんか?」
「馬鹿っ!怖いに決まってるでしょっ!初めてなんだから!」
少し体を離し、真の顔を見上げて園子は微笑む。
「怖いけど、大丈夫」
「園子さん・・・」
「真さん以外には、誰にもあげられないんだから・・・」
真は園子の顎に手を掛けて持ち上げると、そっと園子の唇に自分のそれを重ねた。
寝床にそっと園子の体を横たえる。
優しい瞳で園子を見詰めて囁く。
「園子さん、愛しています。生涯かけて、あなたをお守りしますから・・・」
園子は、潤んだ瞳で真を見詰めて答えた。
「真さん・・・わたしも・・・愛してるわ・・・ずっとずっとあなただけよ」
真は強く園子を抱きしめると、再び口付けた。
今までにない、長く深い口付け――。
そして――。
それから先は、2人だけの秘密・・・。
次の日の朝。
当然の事ながら、6人の内で誰一人として、「10時にロビーに集合」の約束を守れたものはいなかった。
Fin.
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おまけが、結構長くなってしまいました。
真園篇・・・京極さんと園子の話は、本当は「夏の陽射し」とは別に書きたかったのですが、京極さんがここで突っ走ってしまったため、今回で一旦真園のお話も終わりになります。
なんか京極さんが別人になってしまったような気も(汗)私の中で、京極真という人がまだ今いち掴み切れてないんですね。(それなのに書くな馬鹿者)それ以上に困ったのが、京極さんの両親。
何せ原作に出てないものだから、イメージしきれない(笑)
いつかちゃんと独立して真園のお話も書きたいです。
ただ、ネタがうかぶかどうか・・・。
新蘭篇・・・蘭ちゃんが何だか変な事を色々言ってますが、あれには訳があって・・・、旅行から帰った後の続きが実はあるんですよ。
蘭ちゃんを不安に陥れた何かが、この次のお話のメインになる筈で、いずれお届けする事になると思います。
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