BLACK



By 茶会幽亮様



第13話 THE DUEL__(終盤編)



午前8時30分・・・。

南側のフロア・・・。
新一は果敢に攻め込んでいった。愛する蘭を助けるために・・・。しかしビフィーターはそれを嘲笑うかのように新一に殴り、蹴りを繰り返した。
新一の体はズタボロになっていき、そのうちに膝をついてしまった。
ビフィーター「へっ。頭脳は一級品だが体が青二才とは・・・全く貴様には呆れて物が言えないぜ。」
新一「・・・クソッ、体が・・・重い・・・。」
新一は膝を上げようとしたが全く言うことを聞いてくれない。
ビフィーター「だから言っただろう?『抵抗しなければ苦しまずに済む』って。てめぇはどうせ死ぬ運命にあったんだよ、その女とともにな・・・。」
新一「そんなこと・・・あるもんか。」
ビフィーター「へっ、説得力がなさ過ぎるってーの。」
ビフィーターは銃を新一に向けた。
ビフィーター「こいつで終わりにしてやるぜ。」
新一は覚悟を決めて目を閉じた。
ビフィーター「やれやれ、ようやく諦めたか。」
新一「(すまない、蘭・・・。)」
ビフィーターは笑みを浮かべ・・・、銃の引き金を引いた!!

少しして新一は目を開けた。銃声は確かに聞こえた。しかし、どこも痛くはないし、何かを掠めた跡もなかった。
新一はふと目の前を見ると・・・そこには・・・。
新一「志保!?」
そこには栗色のショートヘアのの女性が肩を押さえてうずくまっていた。
彼女は右肩を撃たれ、そこが赤く染まっていた。
ビフィーター「おいおい、誰かと思えば裏切り者のシェリーじゃねーか。」
ビフィーターは不敵な笑みを浮かべ、銃を志保へ向けた。
志保「・・・。」
志保は右肩を押さえながら銃を向けてくるビフィーターを睨んだ。
ビフィーター「フン、そんな目をしたって俺は怯みはしねぇーよ。」
そこに新一がよろよろと歩き、志保とビフィーターの間に入った。
志保「工藤君!?」
新一は後ろに振り返り、「俺はお前に弾除け役を頼んだわけじゃねーんだぞ。」と一言言った。
志保「何言ってるの!?あなたは死んではいけないのよ!?」
新一「だからって、お前が代わりに死んでくれって頼んではいねーんだぞ!!自分の命をもっと大切に出来ねぇーのか!?」

バーン!!!

一発の銃声が辺りのざわつきを沈めた。
かなり苛立てている表情を見せるビフィーターが、腹いせに撃ったのだ。
ビフィーター「ごちゃごちゃうるせーんだよ、てめぇら。・・・俺を放っておいた罰だ。こいつで2人ともあの世に逝かせてやるよ。」
ビフィーターはスナイパーライフル・・・いやバズーカにも見える撃鉄を取り出した。
ビフィーター「こいつの名は『デビルスコーピオン』だ。弾一発がロケットランチャーと同じ威力を持つ。つまり・・・。」
ビフィーターはそう言うとデビルスコーピオンを別の方向へ構えた。

ズドーン!!!

新一と志保は恐怖を覚えた。デビルスコーピオンから放たれた弾はは10メートル先の壁を破壊して、なんとその5メートル先の壁までいとも簡単に粉砕した。
ビフィーター「おまけに弾の速さは従来の銃の2倍。人間に当たれば余裕で5人は貫ける。」
ビフィーターはまたあの不敵な笑みを浮かべ、再び新一達の方にデビルスコーピオンを向けた。
ビフィーター「まずてめぇらから血祭りにしてやるぜ。」
新一「ちっ・・・。」
新一達に成す術がなかった。そしてデビルスコーピオンの引き金が引かれようとしていた。とその時!!!

???「ハァッ!!」
ビフィーター「!!?」
何者かがいきなりビフィーターに蹴りかかってきた。ビフィーターは間一髪それを逃れることができた。
ビフィーターは自分に向かってきた人間に叫んだ。
ビフィーター「なんだ、テメェは!!?」
蹴りかけた人間は顔だけが影となっており、誰かは良く分からなかった。すると...
???「誰だって失礼ね・・・」
新一はこの声に聞き覚えがあった。だが、この声がそうだとしたらそこにいるはずだが・・・いない...。
新一「ま、まさか・・・。」
新一の顔が一気に引きつり始めた。
蘭「さっきの仕返し、ここで晴らさせてもらうわよ!!!」
あれだけ衰弱していたはずの蘭がビフィーターの前で声を張り上げて、構えていた。
ビフィーター「おいおい、マジかよ・・・。」
その場にいた蘭以外全員が何が起こっているのか理解に苦しんでいた。
志保「蘭さん!?確か衰弱しきっていたはずじゃ...。」
とちょうどいいタイミングで新一の携帯が鳴り出した。
新一「はい...ああ、紅子さん。」
電話の相手は紅子だった。ただかなり焦っている様子だ。
紅子「今、そっちに蘭さんはいますか!?」
新一「え、ええ。一体どうしたんですか??」
紅子「実は...。」
紅子は焦りを落ち着かせるために一息を入れて、話し始めた。


それは、さかのぼること1時間半前・・・
和葉、青子、園子と紅子は工藤邸で新一達が帰ってくるのを静かに待っていた。
和葉「蘭ちゃん、ホンマに大丈夫やろか・・・。」
和葉がため息とともに口にした。
園子「絶対に帰ってくる。だって、新一君や他の皆がついてるんだもの。」
青子「和葉ちゃんの気持ちはわかるけど・・・ここはじっと待っていようよ、ね?」
和葉「そうやね。・・・(ああ、アカン。私何を考えとるんや・・・。)」

すると、突然玄関からドアが開く音がした。すぐに子供3人組と阿笠博士がやってきた。
和葉「博士、一体どうしたんや?一体。」
??「どうしたはこっちのセリフだぞ!!!」
3人組の内の、横に長い少年が叫んだ。
??「蘭お姉さんは誘拐されちゃったの!?」
??「僕達に何か出来ることはないですか!??」
続いて女の子と背の高いスラッとした少年も叫んだ。
阿笠「これこれ元太君、歩美君、光彦君。無理なことを言うんでない。」
博士は3人をなだめようとしているが・・・全然、いやむしろ逆効果になっていた。
元太「何言ってるんだ!!俺達は蘭姉ちゃんを助けたいんだよ!!」
光彦「そうです!!僕達はどんな危険だって乗り越えられてきたんですよ!?」
歩美「蘭お姉さんにはたくさん助けてもらったから、今度は私達が蘭お姉さんを助けたいの!!蘭お姉さんが今どうなっているかと思うと、私・・・」
歩は泣き出してしまった。それを見て博士や他の2人が慰めていた。

少しすると、急に紅子が立ち上がって3人の方へ近づき、膝に手を当ててしゃがんで声をかけた。
紅子「あなた達、例えどんなに危険があっても蘭さんを助けたいのね??」
3人は同時に首を縦に振った。
紅子「うん、分かった。じゃあ少し待ってて。」
そう言うと、紅子は2階へ上がっていった。

5分ぐらい経っただろうか、2階から紅子が降りてきた。手にはドリンク瓶が3本、そしてそれを1本ずつ彼らに手渡した。
紅子「これはね、透明人間になれる薬よ。でも、急いで作ったから効き目が10分しか持たないわ。」
青子「紅子ちゃん、それって...。」
慌てて青子が引きとめた。しかし、紅子は言った。
紅子「大丈夫。この子達には不思議な、でもとても心強い力が宿ってる。無事に蘭さんを連れて帰ってくるわ。」
紅子は3人の方を振り向いた。
歩美「お姉さん、良いの??」
紅子「ええ、あなた達を信じてるわ。」
園子「その代わり、蘭にもしものことがあったら・・・ただじゃおかないからね。」
3人はそろって首を縦に振った。
光彦「もちろん。蘭さんを無事に連れて帰って見せますよ。」
元太「よーし。少年探偵団、出動だーーー!!!」
歩美、光彦「オーー!!!」
かけ声を上げた少年探偵団たちは、勢い良く外へ飛び出していった。

30分後・・・
少年探偵団達3人は、新一達が決闘を繰り広げている志田工場跡に着いた。
元太「ここか・・・。蘭姉ちゃんがいるところは。」
光彦「彼女のためにも早く救出しに行きましょう、元太君、歩ちゃん。」
元太「おう!!」
歩美「うん!!」
3人は工場へと入っていった。


10分ほど蘭がいる場所を捜し、南のフロアにいることを確認すると、壁に隠れた。
光彦「いいですか、みなさん。薬は10分しか持ちませんから慎重に、でもできるだけ早く助けましょう。」
歩美「うん、分かった。」
元太「それじゃあ行くぜ!!」
元太がいきなり突っ走りそうになった所を光彦が咄嗟に止めた。
元太「なんだよ!?光彦。お前、蘭姉ちゃんを助けたくねぇのかよ?!」
光彦「元太君、じゃあなんでこの薬をもらったんですか??」
光彦はズボンのポケットから小瓶を取り出した。
元太「あっ、いっけね。赤毛の姉ちゃんからもらってたんだっけ。」
思わず元太は頭を軽く叩いた。
歩美「もう、元太君たら・・・。」
歩美はため息をついた。
3人は紅子からもらった透明人間薬を口にした。
すると・・・なんと、3人の足がだんだんと消えていくではないか!!
元太「うわっ!?俺の足が!!」
そして、ついには頭も消えた。だが、飲んだ3人には回りの景色はもちろん、他の透明になった人も見えている。これも紅子の魔術の実力だろう。
歩美「早く行きましょう!!」
元太・光彦「おう!!」
そして3人は、ビフィーターに気付かれることなく、蘭の救出に無事成功。蘭はそのまま米花総合病院に運ばれる・・・・・・はずだったのだが。


新一「・・・なるほど。で、今こうして蘭がいるわけか。」
新一は蘭をちらっと見た。蘭はというと、圧倒的にとはいえないがビフィーターを攻め負かしていた。
紅子「そう、でも気をつけて。あの薬は一時的に体力を増大させるんだけど、その後の負担は半端じゃないわ。」
新一「どうなるんだ?」
紅子「・・・失神するわ。それも、薬を含んでから30分後に。」
新一は思わず耳を疑った。
新一「し、失神だって!?・・・それで、いつ飲んだんだ?!」
紅子「えっと、8時20分だったわ。」
新一はすかさず腕時計を見た。今は8時49分。この時計が狂っていなければ、あと30秒で蘭は失神して倒れる。
20秒前・・・さすがに蘭も少しずつ動きが鈍くなっていたが、気絶しないうちにこちらがわにこさせようとする新一はタイミングを計れずにいた。
新一「(やばい・・・。早くしないと・・・。)」
新一の焦りも空しく、タイムリミットは刻々と近づいてゆく。
10秒前・・・とその時、蘭がビフィーターに蹴りを入れた後に膝をついてしまった。咄嗟に新一は蘭の元へ駆け寄った。そして、蘭を抱き上げてそこからずらかろうとしたのだが・・・
蘭「し、新...い...ち。」
新一「蘭、大丈夫だ。これから病院に・・・。」
とその時、新一の頬に何かが後ろから掠めた。それと同時に鈍い金属音が聞こえた。・・・銃声である。
ビフィーター「おいおい、あれだけ攻めといて逃げるってわけか??しょうもない奴だな
、全く。」
ビフィーターの挑発に新一は思わず反応しそうになったが、我慢をしてただ黙って走った。だが、敵は容赦しなかった。
ビフィーター「感情を表に出さなかったのは誉めてやるよ。だが、これはどうかな??」
ビフィーターはまた銃を撃った。今度は・・・なんと、新一の下腹部に直撃した!!
新一「うぐっ!!」
激しい痛みに必死でこらえる新一。しかし、蘭は離さないが膝がついてしまい、とても歩ける状態ではなかった。
志保「工藤君!!」
すぐに志保が駆け寄った。ビフィーターはその光景を無気味に笑いながら眺めていた。
そして・・・蘭は失神した。
ビフィーター「言っただろう??俺を見た奴は全員死ぬんだってな。」
新一「く、くそぅ。」
すると、志保が新一の前に立ち、再び銃を構えた。だが、ビフィーターはその行動を高々と笑った。
ビフィーター「お前、使ったことがあるのか??半端な技術で扱えるもんじゃねんだよ!!」
ビフィーターの銃から弾が2発飛び出した。
志保は避けずにそのまま盾になった。弾は両肩に当たった。
新一「し、志保!?」
志保は痛みで膝を落とした。
志保「だ、大丈夫...よ、これくらい。」
新一「これくらいって・・・。」
と、ビフィーターはまた特別大きな撃鉄を取り出した。デビルスコーピオンだ。
ビフィーター「お話はそれまでだ。後は天国でごゆっくり・・・。」
そして、新一達が撃たれようとした次の瞬間!!!
一発の強い銃声の後、デビルスコーピオンの先が粉々になった。
ビフィーター「なっ!?誰だ!?」
新一は確信した。世界中の何処にいたって拳銃の先を狙撃できる奴は一人だけだ、と。
??「待たせたな、新一。」
新一達から見て右側の方からジ・・・ョニーと平次が現れた。
新一「へっ、遅すぎる・・・っての。」
すぐさま平次は傷を負った新一達に駆け寄った。ジョニーは新一達の前に立ち、愛器のマグナムを構えていた。
平次「工藤、お前大丈夫か!!?」
新一「んなわけ・・・ねー・・だろ。」
だんだんと新一の息が上がってきた。もう新一さえも気絶するのは時間の問題だ。
ジョニー「こりゃ早くずらかった方が良さそうだな...。」
ビフィーター「ちっ、ハエが増えただけか...。さっさと始末...。」
??「ビフィーター!!!」
渋みのある怒鳴り声がフロア中に響き渡った。
ビフィーターが声がした方に振り向くと・・・そこには快斗とスコットがいた。
ビフィーター「おい、どうした?スプリッツァー。さっさと隣の奴を殺せよ。」
スコット「私はもうスプリッツァーではない、スコット.クロスフォードだ!!!」
ジョニー「えっ!?」
ジョニーは思わず、スコットの方に振り向いた。そして、あの噂は本当だったんだと確信した。
ビフィーター「・・・おもしれぇ。全員ぶっ殺して...。」
とその時!!!突然、ビフィーターの頭のすぐ後ろで何かが空を切った。
ビフィーター「!!?」
すかさず、ビフィーターは振り向いた。
すると・・・そこには探と真がいた。
探「死ぬかもしれないのは・・・あなたの方ですよ。」
探がそう言うと、快斗・スコット・探は武器を取り出し、真は身構えた。
だが、ビフィーターは怯えるどころか笑みを浮かべていた。
ビフィーター「おもしれぇじゃねぇか。やれるもんならやってみな。」
すると・・・ジョニーが肩に背負っていたランチャーをビフィーターに向けた。
平次「お、おい・・・ジョニーはん??」
そして・・・10センチの巨大な銃弾が発射された。辺りには物凄い重厚な銃声が響き、窓ガラスがきしんでいた。
ランチャー弾はビフィーターの腹部に命中。そのまま大きな爆発音と炎とともに、ビフィーターは吹き飛んだ。
ジョニーは無言で立ち上がった。他の7人はその光景に唖然としていた。
ロケットランチャーというのは、本来戦車などを破壊するための撃鉄であり・・・生身の人間が当たったら先ほどのようになる。
ジョニー「・・・引き上げるぞ。」
ジョニーはランチャーを肩に背負い、その場を後にした。
平次「・・・なんちゅう奴だ。銃の先端に命中させたり、生身の人間にランチャーを食らわせるとは・・・。」
平次はこれまでのジョニーの行動に驚きを隠せなかった。
探「・・・とにかく今は3人を紅子さんへ。」
快斗「ああ、あいつなら何とかしてくれるかもな。」
真が新一を、平次が蘭を、快斗は志保をおぶり、その場を後にした。


10分後・・・
南側のフロアには炎が未だに物々と燃えていた。
ところが・・・なんと、砕け散ったはずのビフィーターの体の一部がまるで水銀のようにゆらゆらと地面を這い、一ヶ所に集まってゆくではないか!!!そして、その集まった塊が人間のシルエットを映し出し・・・・・・すっと一人の人間が完成した。・・・紛れもなくビフィーターだった。
ビフィーター「・・・へっへっへ。ジョニー、なかなかやってくれるじゃねえか。」
ビフィーターは出口に向かって歩き始めた。


第14話に続く




第12話「THE DUEL__(後半編)」に戻る。  第14話「虚空の終末」に続く。