チョコレ−トホリック



By clear様



(1)



甘いチョコレートは苦手

でも

甘い恋心が止まらない

甘い恋心がやめられない

甘い 甘い 

Sweet time …









風の冷たい放課後。
夕焼けの色が段々と濃くなるような時刻。


「図書室で調べ物があるから。」

と、無理に用事を作ったことを悟られないように
さりげなく蘭の部活を終える時間を待っていた。
警察からの呼び出しに追われる多忙な毎日の中で出来た、大切な時間。
俺はそんな時間を少しでも長く蘭と一緒に過ごしたかった。

「待ってなくていいから、家でゆっくりしていて。あとで帰りに寄るから。ね?」

と、いつも蘭は言う。
疲れているだろうからと、気を使う蘭。
けれど、今まで新一としてそばにいられなかった分、そばにいてやりたいと思う。
いや、本当は俺が蘭のそばにいたい。ただそれだけの理由。
それに蘭の笑顔が俺にとっての最強の滋養強壮剤になるのは、自分自身が良く知っている。

下校する生徒達のまばらな影が
グラウンドに黒く長く映って揺れ始めると

「そろそろだな。」

そう踏んで、図書室を出る。
夕刻の静かな校舎は、夕陽の光に影がさして淋しげな気がして少し前の…俺が居なかった時の蘭に似ていると、そう思った。

蘭を泣かせたくない、いつも笑顔でいて欲しい。
だから、蘭には俺がずっと最高の光をあててやる。

と、蘭の元へ帰って来た時、俺はそう決めた。

あの笑顔を絶やさないように、守ってやると−−−



下駄箱の前に来ると、蘭が靴を履いていた。

「おう。」

両手をポケットに突っ込みながら、何気なく声をかけると

「あれ?新一、まだいたの?」

振り返りざまに目を瞬きさせながら、蘭はこう言った。

「何だよ、まだいちゃ悪ぃかよ?」
「ううん、そうじゃないけど。何調べてたの?」
「難しい事だから、“蘭ちゃん”にはわかんねぇよ。」
「何よ、“蘭ちゃん”って。ひとを子ども扱いしちゃってさ。」
「いいから、帰るぞ!」
「え?」
「部活終わったんだろ?」
「うん。」
「ほら、ぐずぐずしてねぇで。」

俺はさっさと蘭の胴着を横取りしてひょいと右肩に掛けた。
構わずどんどん歩くと、蘭が慌ててついてくるのがわかる。

「あ、待ってよ、新一!」

俺の横に追い付いた時、すかさず蘭の右手をとり、
自分の手と一緒に自分の制服のポケットにねじ込んだ。


本当は、まわりのカップル達のように堂々と手を繋ぎたかった。

まだ慣れないこの行為に恥ずかしさが先に立ってしまい、こんな形になるなんて。
あー、情けなっ!!多分、俺の顔は赤くなっているだろうなあ。
そう思うとまたカッと血が上ってくる。

「…あったかい。」

そんな言葉に我にかえった。

「だ、だろ?」
「うん。」

照れながら微笑む蘭の頬も、少し赤く思えるのは気のせいだろうか?
言葉もなく、でも、手をポケットの中で繋いだまましばらく歩いて−−−
どの位経っただろう?蘭が俺に尋ねた。

「ねえ、明日何か用事ある?」
「明日?別に。ねぇけど?」
「それなら、明日付き合って欲しい所があるんだけどいい?」
「ああ、かまわねぇよ。今度はどこ行きてぇんだ??」
「内緒。」
「何だよ、言えよ。」
「明日になってからのお楽しみだってば。たまにはそういうのもいいでしょ?」
「しょーがねぇな。」

明日は学校も休み。何の用事も入れていない。
蘭と過ごしたくてわざと空けていたから。

蘭の誘いにOKはしたものの、
どこへ連れて行かれるのか気になって仕方がない。

いつもの蘭なら
「あのカフェでお茶したい」だの「あそこのタルト、美味しいって評判なんだ!」だの「駅前の雑貨屋さんに付き合って」だの、必ず行きたい場所を告げていたからだ。
もし俺が突然の呼び出しを食らっても、行き場所をあらかじめ告げておけば
行動しやすくなるだろうと蘭は蘭なりに考えている事はわかっていた。

どこへ行く気だ?

今夜は眠れそうにない。



to be countinued…….





 (2)に続く。