FLIERS LOVE



by.中村亮輔様



〈4〉



午後2時 東都国際空港 第3滑走路。

そこを日本で最新のブローイング787が離陸し、ロンドンに飛び立っていった。


シートベルト着用ランプを消した後服部は
「昨日あまり寝てへんさかい、一眠りしてくるわ。」
と言って操縦席を立った。
「分かった。間違ってもファーストクラスで寝るなよ。」
俺が冗談半分でそう言うと服部は
「分かっとるわい!」
と言い残して仮眠室に行ってしまった。


オートパイロットが操縦している間は暇なので俺はスチュワーデスにコーヒーのルームサービスを頼んだ。
『はい。』
「あ、葉槻さん?ちょっとコーヒー持ってきてくれない?」
電話に出たのは越水葉槻。
本堂瑛祐の彼女だ。
彼女はこの会社で一二を争うほど料理がうまく、多くのパイロットは彼女のコーヒーを愛飲している。
彼女の彼氏である本堂瑛祐は白馬達と同じく管制官だ。
指示は正確だが、よく階段や廊下でこけたり、頭を打ったりしていつも怪我している。
しかもよく女性と間違えられていて、こっちが気の毒になることも屡々ある。
まあ、葉槻さん云わく
「そんなおっちょこちょいなところが大好きなんですよ。」
とのこと。

『分かりました。少し待ってくださいね。あ、そうそう。今日は新人がいるから、顔合わせも兼ねて運ばせますね。』
「新人…?」
『はい。とっても可愛い娘(こ)ですよ。多分工藤キャプテンも一目惚れしますよ。楽しみにして待っててくださいね♪』
「あ、ちょっと!葉槻さん!」
『ツーツーツー………』
「…………」
俺の呼び掛けむなしく、電話は一方的に切られてしまい、聞こえてくるのは通話切れを表す機械音だけだった。


それから数分後にドアが叩かれた。
だから俺はドアを開けてスチュワーデスをコックピットの中に入れた。
俺はコーヒーを受け取ろうと彼女を見た瞬間、俺の脳に電撃が走った。
彼女は俺がずっと探し続けた「ラン」だった。
「ラン」も俺が誰か気付いたのか、驚いたような表情をしていた。


「ラン…」
「シンイチ…」
俺と「ラン」の声が重なった。


俺は尋ねた。
「ラン……だよな…?」
「うん。久しぶりね。新一…。」
「ああ。」
「まさか新一がパイロットになっていたなんて夢にも思ってなかったよ。」
「まあな。あの頃の俺の夢は警察官だったからな…」
「あの頃はよく二人で泥だらけになるまで遊んでお母さんから怒られたよね。」
「互いの名字も知らなかったのにな。」
「そうだったね。じゃあ改めて…私は毛利蘭、25歳です。NALでスチュワーデスをしています。宜しくお願いします。」
「蘭の名字は毛利か…」
「うん。じゃあ…」
「なあ…もしかして毛利元就の子孫だったりして?」
「そうだったら嬉しいけどな〜私、自他共に認める歴女だから……って何話そらしてるのよ!私もしたんだから新一も早く自己紹介してよ!」
「分かったよ。俺は工藤新一。25歳。NALで機長をしてるよ。何でか知らねーけど俺は『大空のエースストライカー』って呼ばれているよ。確かに俺はサッカーは得意だけどそれと機長の仕事に何の関係あるんだか…」
「じゃあやっぱり葉槻さんから『大空のエースストライカーって呼ばれているこの会社で一番人気のパイロット』って新一の事だったんだね。新一サッカー凄く上手だったからあだ名聞いてもしかしたらって思ってたけど…」
そう言う蘭の表情が暗くなっていたのに気がついた俺は蘭に尋ねた。


「どうした?蘭?暗い顔して…」
「いや、何でもない。」
「何でもないことないだろ。言いたいことがあるならはっきりと言ってくれ。」
「じゃあ訊くけど…新一って彼女や婚約者とかいるの?」
「は?」
「葉槻さんが新一に『好きな人とかいるんですか?』って訊いた時…新一、葉槻さんに『ええ、いますよ。』って答えたって聞いたから…」
「ああ。確かにいるよ。」
「そっか…久しぶりに新一に会えるから私の気持ち伝えようと思ってたけど…好きな人…いるんだね…」
「目の前にな。」
「目の前…?」
「そう。俺の目の前にいる毛利蘭っていう女の子が俺の好きな人の正体。」
「えっ…」
「蘭…お前が……好きだ。あの頃からずっと…そして今もなお、この気持ちを変わっていない。いや、あの頃よりもさらに強くなっている。だから…俺と…付き合ってくれないか?」
「新一…」
「……嫌か?蘭…」
「ううん。とっても嬉しいよ。新一もわたしのことを想っていてくれたなんて…」


二人は瞬きひとつせずに見つめ合っていたが、新一がゆっくりと顔を近づけると、蘭は目を閉じた。
そのまま二人の距離は肉体的にも精神的にも0pになった。

口付けを解いた新一は蘭を服部の席に座らせ、暫く話し込んでいた。
「ねえ、新一…新一って食事とかどうしてるの?」
「たまに自分で作るけど…殆どコンビニの弁当とかファミレスとかで済ましてる。」
「新一…ちゃんと食べないと駄目でしょ。パイロットなんだから。」
「けどよ…」
「じゃあ…私が新一の家に住み込んで料理作ってあげるね。」
その時新一は飲んでいたブラックコーヒーを吹いた。
「新一!大丈夫?気管に入った?」
「ゴホゴホ…ゴホゴホ…大丈夫……」
「どうしたの?一体?」
「いや、蘭が俺の家に住み込むって言ったから…」
「駄目…なの…?」
「いや、そうじゃない。寧ろ逆だ。でも……我慢が効かなくなりそうだから。」
「我慢?」
「ああ。蘭を襲っちまいそうで…」
「………いいよ。」
「えっ?」
「だから…いいよ…」
「蘭、お前…自分の言ってることの意味が分かってるのか?」
「勿論分かってるよ。分かった上で言ってるの。だから…新一の家に住まわせて?」
「…………分かった。蘭が良いなら好きにしていい。」
「有難う。」
二人は時間を忘れて話続けた。


二人が仲良く話し込んでいるコックピットの外では…一人の男が立ち尽くしていた。
「どないしたん?平次?」
「コックピットの中を見たら分かるわ。」
「ん〜」
中には機長の新一と新人スチュワーデスの蘭が仲良く話し込んでいた。
コックピットの温度は数度外より高く感じる程だった。
「工藤君と蘭ちゃん、随分熱々やな。」
「蘭ちゃん言うんかあの娘…」
「せや。あの娘、最近入ったばかりの新人や。」
「ほぉー。」


「そろそろロンドンに着く時間だな。蘭、そろそろ着陸準備に取りかかる。だから持ち場に戻れ。日本に戻ったら、事務室の休憩所で待っていてくれ。」
「うん。事務室の休憩所で待ってればいいんだね。」
「ああ。」
「じゃあ私は戻るね。」
蘭は新一の唇に触れるだけの軽いキスを落とした。
しかし想いが通じあった二人の行為は直ぐに深くなった。


「うわー(//////)蘭ちゃんと工藤君のキス……深いんやな…」
「…………(////////)」
和葉は顔を赤くしながらも二人のラブラブっぷりを実況した。
平次は何も言わず明後日の方向を向いていた。


「じゃあまた。休憩所で会おうね。」
「んじゃあ、またな。あ、そうそう。服部がいたら呼んで来てくれないか。」
「うん。」


「……………服部がいたら呼んで来てくれないか。」
「げっ!」
「どないしたん?平次?」
「いや、ここに居るのがばれたら工藤に後でどないなことされるか分からへんからな。」
服部はそれだけ言うと急いでその場を去った。
和葉も平次の後に続きその場を去った。

「和葉ちゃん!」
「蘭ちゃん。」
「あれ?横にいるのは?」
「あんたが蘭ちゃんやな。」
「あなたは…」
「俺は服部平次。工藤と同期のパイロットや。」
「あ、あなたが和葉ちゃんの彼氏の服部君ね。」
「(///////)」
「ら、蘭ちゃん…(///////)」
「服部君、和葉ちゃん。そろそろ着陸だから戻ろう。服部君、新一が呼んでたよ。」
「お、おう。今行く。」
「ほんならまた会おうな、平次。」


「遅いぞ服部。何してた。」
「すまんすまん。さっきまでずっと寝とったわ。」
「一回寝るとなかなか起きねーからな。おめぇーは。」
「まあいいや。さってと、そろそろヒースロー空港だ。」
「せやせや。気は抜けんで。」
「分かってるよ。俺を誰だと思ってんだ?」
「愚問やったな。」


二人は空港のライトが見えると同時に口を閉じた。
そしてゆっくりと飛行機を着陸させた。


そして二人は現地で数時間休憩をとり、そのまま蜻蛉返りで日本に帰っていった。


〈5〉に続く


(作者の言葉)
お待たせしました。
漸くこの話のヒロインを登場させました。
今までヒーローのみ出演でヒロインが出ないという奇妙な構成になっていました。
その事が嫌な人には今まですいませんでした。

さて、今年も残り後僅かになりました。
皆さんはどんな過ごし方を考えていらっしゃるんでしょうか?

では一足早いですが………
A HAPPY NEW YEAR!!

〈3〉に戻る。  〈5〉に続く。