FLIERS LOVE



by.中村亮輔様



〈3〉



事務室の中に入ると、そこにはもう先客がいた。

彼ら6人は俺達に気付いたらしく挨拶してきた。
「お、工藤!」
「服部君も。」
「「和葉ちゃん!こんにちは。」」
「こんにちは。工藤君、服部君。」
「こんにちは。遠山さん。」


彼ら6人も俺や服部・和葉ちゃんと同期で入社した仲間だ。


一番最初に話しかけてきた俺そっくりの男は黒羽快斗。
管制官だ。
容姿や声色、身長までそっくりなので、よく一卵性の双生児(簡単に言うと双子)と間違えられる。


またこいつも服部と同じく幼馴染みの女の子がいる。
名前は中森青子。
スチュワーデスだ。
この二人、端から見ればカップルだ。
だが二人ともまだ自分達は幼馴染みだと言い張っている。

服部のことを君付けして呼んだのは、京極真。
彼も黒羽同様、管制官だ。
彼は誰に対しても、敬称を付ける。
もともとは伊豆の瓦屋旅館の一人息子だったが、大学時代に上京してきた。
彼の特技は空手で、黒帯の腕前だそうだ。


そして彼にも彼女がいる。
名前は鈴木園子。
こいつも青子ちゃん同様、スチュワーデスだ。
俺と同じ小学校だった。
こいつは鈴木財閥の御令嬢だが、その事を微塵も感じさせないさばさばした性格をしている。
財閥の御令嬢が航空会社で働いているのは、父親の鈴木史郎氏の提案だそうだ。
史郎氏云わく、「社会の厳しいを知りなさい。」とのこと。


最後に話しかけてきたのは、白馬探。
彼も管制官だ。彼はもともと日本生まれだが、留学で海外生活が長かったらしく、どこか日本人離れした感じがする。


日本人離れした男は彼女も日本人離れした感じを与えた。
名前は小泉紅子。
彼女もスチュワーデスだ。
彼女が白馬と出会ったのは、黒羽と青子ちゃんも通った江古田高校だ。
黒羽云わく、「絶対零度の剃刀と魔女のカップル」だそうだ。
絶対零度の剃刀はともかく、魔女ってどういう意味なのか俺にはわからない。


「よお、お揃いのようだな。」
「新一君っていつも素っ気ないよね。何で?」
「ほっとけ!」
「あ、まさか…この中で一人だけ彼女がいないから?」
「えっ!工藤君って彼女いないの?意外やわ〜」
「うるせー!余計なお世話だ!」
「工藤はもてるけど、女一人つくらへんからな〜。」
「そうそう。新一君は家がお金持ちだから女の子にも贅沢なのかな?」
「おい、園子。」
「あっ、それあるかも。」
「和葉ちゃんも失礼だな…」
「なんや、違うんか?『大空のエースストライカー』こと、工藤新一君?」
「服部……おめぇー、いい加減にしろよな。」
「まぁ、いいじゃないですか。贅沢性を治さないと困るのは工藤君なんですから。」
「そうですわね。探さん。」
その瞬間俺は漸くこの二人が『絶対零度の剃刀と魔女のカップル』と呼ばれるわけが分かった気がした。


「なぁなぁ、平次。工藤君黙りこんでしもうたよ。」
「白馬と小泉の姉ちゃんの言葉がショックやったんやろ。」
「おーい、工藤!おーい。」
「工藤君!工藤君!もしもーし。」
「駄目ですね。どうします?園子さん?」
「そうねー…うーん……そうだ。これはどう?」

ゴニョゴニョ…ゴニョゴニョ…

「面白そうやね。」
「せやな。」
「でしょでしょ♪じゃあ黒羽君。よろしく。」
「ああ。いくぜ。此方航空指令室。624便、応答せよ。繰り返す。此方…」


白馬と小泉さんの一言で一気に氷点下−273℃まで温度が下がった思考回路に
『此方航空指令室。624便、応答せよ。繰り返す。此方…』
その一言で俺の思考回路は沸点まで達した。
「やべぇ〜」
俺は急いで操縦環を握ろうとしたが、その手は空振った。
そこで俺は漸く覚醒した。
目の前には8人が尻餅をついていた。
「どうしたんだ?オメーら?」
「「「「「「「「いや、何も………」」」」」」」」
「何か怪しいんだが………まっ、いいや。おい、早く立て。邪魔になるだろ。」
「「「「「「「「はい。」」」」」」」」
そう言って8人は各々で立ち上がった。


それから10分後…俺は服部と事務室の隅の休憩所に行った。
残りのメンバーは全員持ち場に行ったしまったからだ。
「何か飲もうぜ。ここ自販機あるし。」
「じゃあ、オレは…コーヒー、ブラックやで。」
「わぁーてるよ。言われなくても。」
「流石工藤やな。」
「誉めても何もやんねーぞ。」
「なんや…ケチケチすんなや。な?」
「喧しい。」

何か言ってる服部を無視してオレは自販機の前に立った。
沢山のドリンクの中にフルーツジュースがあった。
それを見て俺はまた過去の出来事を思いだしかけたが、服部に見つかると茶化されるので止めた。


ブラックコーヒーを飲みながら俺はさっき8人全員が尻餅をついていたことを追及したが、ちっとも口を割らず時間だけが無駄に過ぎていった。
なので俺も諦め、話を変えた。


「なぁ、服部…」
「ん、なんや?」
「和葉ちゃんとはどこまでいってんだ?」
「ブッ…ゲホゲホ、ゴホゴホ…なんや工藤、いきなり…」
「いや、単に気になって。」
「ノーコメントや。」
「ふーん。意外と奥手なのか?」
「喧しいわい!!」
「オメーがさっき、俺を茶化すからだ。」
「はいはい…どうも堪忍な。」
「心がこもってないぜ。」
「何か飲むか?あ、俺が奢るさかい。機嫌直し、な?。」
「分かった分かった。」
服部が行った後、暇だったのでスマホを取り出した。
しかし、服部が案外早く帰ってきたのでまたしまった。
「なんや工藤、自分もうスマホ使いよんか?」
「ああ。結構便利だからな。」
「ほー。」
「どうした?欲しくなったのか!」
「ちゃうわ!」
「じゃあ……和葉ちゃんへのクリスマスプレゼントとして贈ろうとか?」
俺がそう言うと服部は赤く(赤黒く?)なり、そっぽを向いて黙りこんだ。
「そろそろ時間だ、行こうぜ。服部。」
「ちょい待ち、これ飲んで行くさかい。」
俺は飲み終えた空き缶を放り投げた。
空き缶はピンポイントでゴミ箱に入った。
しかし服部は急いでいたせいで、空き缶を捨て忘れてしまった。


捨て忘れに気付いた服部は急いで捨てに戻った。
しかし空き缶はもう机の上には無く、気になった服部がゴミ箱を覗くと、空き缶が2つ入っていた。
『一つは工藤が捨てたものやけど、俺…捨てた覚えあらへんねんけど…。』
「おーい!服部〜!早く来い!」
「おう。今行く。」
『ま、ええか…。』
服部は不思議に思ったが、時間が迫っていたので気に止めなかった。


俺と服部はアルコール検査をスルーし、制服のネクタイを締め直し、帽子を被り、飛行機へと向かった。
目の前には、ブローイング787が止まっていた。


俺はまだこの時点では知る由もなかった。
この最新の飛行機の中で起こることなど微塵も…そして休憩所の空き缶が何を意味していたのかを………。


〈4〉に続く。


(作者の言葉)
FLIERS LOVEの第3話です。どうでしたか?最後の伏線の意味、勿論分かりますよね?
次回は……があります。あ、ハイジャックや墜落はしませんので安心してください。←(笑)


〈2〉に戻る。  〈4〉に続く。