名探偵コナン AND・NOWシリーズ


第一話 チェンジ!


「なんか退屈なんだけど…、面白い話ねーか?新一?」

そう話すのは父の仇を取った事で一時的にキッドを休止している黒羽快斗…。
彼は最近、暇になると工藤邸に入り浸っていた。

「快斗…オメー、最近そればっかだぜ…。」
「だって、暇なんだもん…。それとも、退屈凌ぎに君が遊び相手になってくれるんですか?名探偵?」
「あのな…。(何でこのくそ熱いのに、キッドの相手しなきゃいけねーんだ。)」

そう言って呆れるのはこの家の主にして高校生探偵の工藤新一…。
彼は、はっきり言って不機嫌だった。

理由はすこぶる簡単、目暮からの呼び出し(事件の要請)も無い上、恋人の蘭も買い物で留守だったからだ。
そんな新一の様子に気付いている快斗は、ますますからかうような口調になり、

「ああ、新ちゃんてば何時のまにこんなひねくれた子供になったの?ちょっと前まで、あんなにかわいい坊やだったのに…。」(by有希子)

新一はその言葉に激怒し、快斗に掴みかかった。


「てめぇ…、母さんの声色と口調だけは止めろ!」
「ぎ、ギブギブ!まって!俺が悪かった!」
「たく…、ただでさえあちぃんだから、これ以上俺をいらつかせんじゃねーよ。」

「ったく短気な名探偵だぜ。」

快斗は軽く咳き込みながら呟く。
それを冷たい視線で見つめながら新一はこう答えた。

「オメーが俺をいらつかせてんだろーが。」

今は夏休み。
二人は熱さと、恋人(二人は幼馴染と言って聞かない)に会えないと言う思いで、いらついていた。

そんな二人を救う携帯の着信音が、鳴り響いた。

「名探偵…、オメーにだぜ…。」

いち早く気付いた快斗が呟く。
新一はそんな快斗を無視して、携帯の液晶画面を見て微笑んだ。


「蘭からだ…、何だろ?」

そう呟きながら、書斎に消える新一…。
既に彼から炎の様に噴出していたどす黒いオーラは消えていた。
その様子を見ていた快斗は、

(さっきまで、あれだけ漲らせていたどす黒いオーラが消えて無くなってやがる…。蘭ちゃんはその存在だけで、新一を救ってるんだな…。)

などと考えていた。


書斎から帰ってきた新一は今だリビングのソファーでくつろいでいる快斗を見て、一言

「そんなに暇なら、どっか遊びに行ったら良いじゃねーのか?」
明らかにさっきとは違う雰囲気になった新一を見た快斗は、
「素直に、恋人との時間が欲しいから出てけと言ったら良いでしょ?名探偵?」
「グッ!!」
「相変わらず、蘭ちゃんが絡むと判りやすいねー名探偵は…。」

そう言いながら、立ちあがり髪型を整え始める快斗。
それを見た新一は、

「オメー…、何やってるんだ?」
「うん?このまま帰るのも面白くねーから…、ちょっと悪戯。」

そう言いながら、髪型を新一そっくりにし、仕種を真似し出した。
それを見た新一は、

「俺の振りして如何する気だ?」
「何だ?判んねーの?決まってるだろ?蘭ちゃん限定“ホンモノはどっちだ?”をやるんだよ。」

熱さ厳しい米花町界隈にも関わらず、ここだけツンドラ気候のような寒い風が吹き荒れていた…。

「な…、何考えてるんだ…テメー…。(寒すぎるネーミングだな全く…。)」

心底呆れた顔になる新一…。

「良いじゃん…別に暇なんだし…。まさか、蘭ちゃんが見分けられ無いと思ってるの?」

不敵な顔で、そう言う快斗。
それに対して新一はある逆襲を思いつく。
ムッとした顔で突然髪型をボサボサにし、快斗そっくりになる新一。
それを見た快斗は、


「何やってるんだ…?新一?」
「はぁ?見て判んねーか?オメーに対抗して、青子ちゃん限定“ホンモノはどっちだ?”をやるんだよ。」
「は?!」

実際の時間は数秒だった…。
だが快斗にとって、数年分ぐらいの時間に感じられる沈黙が支配する…。

「何か今、青子の名前を聴いた気がするんだけど?」
「気がするんじゃなくて、本当に言ったからな…。」
「何で今、青子が唐突に出てくるんだ?」
「それは、今から青子ちゃんがここに来るからだよ。」
「へ?!」

実際には、さっきと同じぐらいの…。
だが快斗には、数百年分ぐらいの時間に感じられる沈黙が再び訪れる…。

「何で、青子がここに来れるんだ?アイツは、ここの事知らない筈だぜ?」
「みたいだな…。さっき蘭から電話があってな…青子ちゃん、カンカンだったそうだぜ。最近、オメーが自分には内緒で何処かへ行っているって。それで、オメーが毎日の様にここに来てるって蘭から聞いてな。今から、こっちに行くからオメーを引きとめてくれと頼まれたんだよ。」
「なに?!そんなバカな?!だったら何でさっき…!!!!」

快斗は其処まで言って気付く…。
新一の真意に…。
思わずしてやられたと言った顔になる快斗…。

「やっと気付いた様だな…。そうさ、オメーを引きとめる為にさっきわざと、“どっか遊びに行けば?”と言ったんだ。下手に引きとめれば感の良いオメーの事だ、気付くからな。」

それを聴いた快斗は、慌てて逃げようとするが…

「観念するんだな…快斗。オメーはもう逃げられない。」
「ふん!俺を誰だと思っているんだ?天下の怪盗キッド様だぜ!」
「無駄だな。オメーはもう終わっている…。」
「何を寝ぼけた事を…。このキッド様が名探偵の一人や二人…その気になれば、容易く逃げられるんですよ。」
「まだ、判らねーか?このくそ熱いのに、なにが悲しくて俺が、オメーと鬼ごっこしなきゃなんねーだ?」
「では、勝手に逃げさせていただきますよ?名探偵?」

「いいさ…勝手にすれば。だけど後で、青子ちゃんに嫌われても俺のせいにすんなよ?」
「語るに落ちましたね、名探偵…。青子の名前を聴けば私の動きが封じれると?」
「まだ、判らねーようだな…。オメーが逃げた後、俺が青子ちゃんに殴られるんだ…。何しろ今、俺は快斗の格好してるからな。」
「貴様…!!!!」

「やっと理解した様だな…そうさ、オメーと鬼ごっこするのは青子ちゃんさ…。俺は快斗に眠らされて快斗の格好をさせられている。と、言えば青子ちゃんは多分激怒するだろうな…。」
「て、てめぇ…きたねーぞ!」
「天下の怪盗キッドにそう言われるとは、探偵冥利に尽きるぜ。」
「ぐぐぐぐ…。(くそー…この野郎なんて事を、思いつきやがる!いずれにしてもこのままでは不味い…。)」

冷や汗をダラダラと流している快斗に対して余裕たっぷりの新一…。
さっきとはまるで逆だ…。
快斗はIQ400と言われた頭脳を文字通りフル回転させて現状の打開索を考えてみる…。
だが、青子相手にそんな名案が浮かぶわけもなく、ただ悪戯に時間だけが過ぎ去った…



  ☆☆☆


数分後…


「こぉらぁ!!バ快斗!何時も何時も工藤君と蘭ちゃんの邪魔ばっかりして!聴いてるのぉ?!」

快斗は聞きなれた青子の怒りの声に、今まで散々考えてきた青子対策が真っ白になってしまった。
そして、青子は蘭が止めるのも聴かず勝手に玄関の扉を開けようとしていた。

(もう駄目だ!俺、青子に殺される!)

これから起こり得る事に思わず天を仰ぎ目をつぶってしまう快斗…。
だが、人間追い詰められるとその潜在能力がフルに発揮されると言うだけあって、不意に名案が快斗の頭に浮かんだ。
それは…。

「お、おう。青子ちゃん…いらっしゃい!蘭も…大変だったんだぜ?このくそ熱いのに怪盗キッドの相手をするのは…。だけど、ようやく隙をついて眠らす事に成功したんだ…リビングに寝てるぜ快斗の奴。」

そう…彼は自分が新一の姿をしていると言う事を逆手に取る事にしたのだ。
「ほぇ?!く、工藤君?!?!」
「新一…?何で?」
「あん?如何した?俺、ついさっきまでキッドと死闘を演じてたからな…。青子ちゃんの声で今起きたとこなんだよ。」

今だ、キョトンとした顔になる二人を見つめながら、快斗は新一のフリをしながら続ける。

「じゃあ行こうか…蘭?」
「へ?!」
「あんだよ…このくそ熱いのに俺はキッドの相手をさせられたんだぜ?デート一回、もちろん蘭のおごりで…当然だろ?」


そうわざと大きな声で喋る快斗…もちろんリビングで寝たふりをしている新一に聞こえる様に言ったのだ。
そうなると、新一は今自分がどんな格好をしているのかさえ忘れ、玄関に飛び出してきた。(もちろん快斗の格好のまま。)

「て、てめぇ!!!!快斗ぉ!!!蘭と何をするってぇ!!!!」
「あん?快斗、てめぇ起きたのか?別に良いだろ?俺が蘭と何しようと?」
「快斗はてめぇだろ!!蘭から離れろ!!!!!」
「往生際が悪いな…怪盗キッドも、世界中の女性を魅了する程の怪盗なら、大人しくするんだな。」
「往生際が悪いのはオメーだろ!!!蘭!青子ちゃん!騙されるな!アイツが快斗だ!!!」
「そんな格好をしているオメーが何バカな事言ってるんだ?青子ちゃん、こんな往生際の悪い奴こってりと絞ってやってくれねーか。俺は蘭とデートしてくるから。」

そう言いながら、蘭を抱きしめようとする快斗…。
だが…。

「いい加減にした方が良いよ…快斗君?青子ちゃんもうカンカンなんだからね?」
「へっ?何言って…」


バキィ!!!


「ぶふぅうわぁぁ!!!」

そう言って吹き飛んだのは、新一の格好をした快斗…。
快斗は青子のコークスクリューパンチをまともに食らっていた。
快斗の格好をした新一と蘭はその光景を呆然と見ていた…。
青子は拳を震わせながら続ける…。

「往生際が悪いのはアンタだよ!バ快斗ぉ!!工藤君に快斗の格好させて、自分は工藤君の格好して逃げるなんてっ!!青子と蘭ちゃんが見分けられないとでも思ったのッ?!」



「なあ、蘭。オメーどうやって俺と快斗を見分けたんだ?青子ちゃんも?」

新一は自分と快斗がそれぞれ入れ替わっていたのに何で見分けられたのか不思議に思っていた。
快斗もまた同じ疑問をもったらしく、青子に同じ質問をした。

「なんとなく。ホントなんとなくんだよ?快斗君、自信もって良いよ私と青子ちゃん以外、絶対見分けられないと言って良いよ。」
「なんとなくって…他にねーのか?蘭?」
「バ快斗!!どんなに上手く変装しても、青子の目は誤魔化されないからねっ!!前にも言ったでしょ、キッドの変装しても青子には判るって!」
「マ、マジ…?」


青子の言葉に目が点になる快斗…。
青子はそんな快斗の首根っこを掴むと…。

「じゃあ、行こうか?快斗?」
「へ?ど、何所に?」
「青子の家。工藤君に頼まれたからねっ…快斗をこってりと絞ってくれって。工藤君これから蘭ちゃんとデートするから邪魔しちゃ悪いでしょ?」
「あ、あれは…。」
「工藤君が言ったんだよね?」

満面の笑み(快斗にとっては悪魔の笑みとも言う)で見つめられた快斗は、何の抵抗も出来ずズルズルと引きずられて行った…。
それを見送った蘭は、今だあっけに取られる新一をみて、

「でも、新一も何で快斗君の格好をしているの?」
「ま、まあ気にすんな。さ、デートしようぜ蘭。」
「えっ?!何で?!」
「青子ちゃんが、そう証言してるだろ?もちろんオメーの驕りだよな?」
「ずるいっ!!」
「あんだよ…、俺とのデートが嫌なのか?」
「べ、別にそう言うわけじゃあ…。」
「なら、決まりだな。」
「ち、ちょっと新一!何時まで快斗君の格好してるのよ?いい加減に戻しなさいよ!」
「あ?そうだな…、別に良いだろ?たまには…新鮮で良いじゃねーか。」

「ち、ちょっと…。」

今だ何か言いたげな蘭を連れ、新一は快斗の格好のまま蘭とのデートを楽しむ為に出掛けていった…



第二話に続く。





プロローグに戻る。  第二話「宮野姉妹の墓(前編)」に続く。