Office love 番外編・鉛色の空が晴れる時



by新風ゆりあ様



(4・最終話)プロポーズ、そして公表



瑛祐が会社でため息をつき、身震いしていたころ、園子と別れた蘭と和葉は工藤邸に戻った。

やがて夕方になり、新一が平次と共に工藤邸に帰って来た。

「あっ、平次!迎えに来てくれたんや!」
和葉が嬉しそうな顔をした。

「おう!迎えに来たったで!ほな、工藤に毛利の姉ちゃん、また明日な!」
平次はそう言って、和葉と共に工藤邸を去って行った。

平次たちが立ち去った後、新一が口を開いた。
「蘭、朝の話のことなんだけど。あの時は服部と和葉さんが来たせいで、邪魔されたみたいになったけど。オレと結婚してほしい」

(新一・・・!)
蘭は感極まり、涙を流した。

「・・・はい!」
蘭が大きく頷いた。

「蘭・・・!受け入れてくれるのか?オレのプロポーズを。本当に?」
新一が目を丸くした後、尋ねた。

「私、ずっと、ずっと思ってたの。新一の特別になりたい。新一の家族になりたい。新一の奥さんになりたいって。でも新一は藤峰財閥の後継者だから、一介のОLとの結婚を考えるほどバカじゃないって諦めていたの。でも、でも和葉ちゃんが教えてくれたの。新一が内田産業の社長令嬢との縁談を断ったって。新一は政略結婚はしないっていう条件で藤峰の会社に入ったって。でも内田さんは新一に政略結婚じゃなく、一人の女性として見てくれないかって迫ったって。新一はそれを訊いても頷こうとはしなかったって。付き合ってる女性がいるから、その女性以外に考えられないからってきっぱりはっきりすっぱり断ったって。私、藤峰財閥の後継者である新一が、一介のОLとの結婚を考えるバカだなんて思ってもみなかった!」
蘭が嬉しそうな顔で答えた。

「蘭、本当にいいのか?オレと結婚したらオメーはもう一介のОLじゃなくなる。社長夫人になるんだ!それでもいいのか?」
新一が尋ねた。

「そ、それは・・・!・・・あんまり自信ないけど、私、頑張ってみる」
蘭が言葉に詰まった後、答えた。

「そうか。でも世間の奴らの風当たりを受けると思うぞ。玉の輿だとか、シンデレラみたいだとか、財産狙いだとか。オメーはそんな風当たりに耐えられるのか?」
新一が一息ついた後、尋ねた。

「和葉ちゃんが言ってた。そういうことを。和葉ちゃんはそう言われることを覚悟してるって。それを訊いた時、思ったの。私も和葉ちゃんみたいに強くなりたいって。身体だけじゃなく、心も強くなりたいって。新一と一緒に居られるのなら、私、どんなことにも耐えてみせる」
蘭が答えた。

「蘭・・・!」
新一が見る見るうちに嬉しそうな顔になり、蘭を抱きしめた。

そして優しく口付けた。

しばらく蘭の唇の感触を堪能した新一は、蘭の唇を開放した。

「オレ、明日、会社に行ったら社員全員に言うよ。オレの結婚相手は蘭だと」
新一が嬉しそうな顔をした。

「新一・・・!」
蘭も嬉しそうな顔をした。




新一が蘭にプロポーズしていたころ、住んでいるマンションに戻った平次は和葉に話しかけた。
「和葉、明日オレは会社に行くんやけど、その時に社員全員に和葉のことを紹介しよ思うてる。そやから一緒に会社に行くで!」

「えっ!?そ、そうなん?なんや恥ずかしいなぁ」
和葉が驚いた後、照れた。

「何恥ずかしがってるんや!恥ずかしい言うタマか?ちゃうやろが!」
平次が呆れた。

「も〜!平次のアホ!」
和葉が剥れた。

「工藤の奴、今頃毛利の姉ちゃんにプロポーズしてるやろな」
平次が感慨深げな顔をした。

「平次、うちな、蘭ちゃんに教えてあげたんや。蘭ちゃんは工藤さんが内田産業の社長令嬢と結婚するんやって思い込んどったようやったから。工藤さんが内田産業の社長令嬢との縁談を断ったっていう話を。そしたら蘭ちゃん、今度は工藤さんは同棲してるカノジョに対して、責任を感じる必要はないって言うてたいうんを、本堂常務の息子さんから訊いた言うて。そやからうち思うたんよ。本堂常務の息子さんは蘭ちゃんを狙ってるんやないかと。蘭ちゃんに好意を持ってるんやないかと。蘭ちゃんを好いとるんやないかと。そやからうち、蘭ちゃんに本堂常務の息子さんを呼び出してもろて問い詰めたんよ。そしたら案の定そうやった!」
和葉が感慨深げな顔をした後、エキサイトした。

「ほ〜っ。そういえば本堂は昼休み、外に出とったな。本堂は毛利の姉ちゃんに呼び出されてたんか。本堂は毛利の姉ちゃんを好いとったんか。そらオレも気ぃつかんかった。で?本堂は毛利の姉ちゃんを諦めたんか?」
平次が目を丸くした後、尋ねた。

「超激甘でラヴラヴな救出シーンを目の前で見せつけられたから諦めたって言うてた」
和葉が答えた。

「工藤が毛利の姉ちゃんを助けたいう話は、オレも工藤から訊かされたわ。ホンマにあいつは!蹴もくってやりたいくらい、恋愛に関しては奥手なやっちゃ」
平次がため息をついた。

「それをいうなら蘭ちゃんもや!ホンマに焦れったかったで!そやからうち後押ししたんや!」
和葉がエキサイトした。

「ほ〜っ。そらええことしたなぁ。ほんなら今頃あの二人は気持ちが通じおうてるに違いないな」
平次が感心した後、にやついた。

「うちもそう思うで!そやからうちまで嬉しゅうなるわ!」
和葉が熟れしそうな顔をした。

「せやな!和葉にしてはええことした思うで!」
平次がからかった。

「平次、アンタ、ケンカ売っとん?」
和葉がジト目で平次を睨んだ。

「売ってへんて!和葉の合気道の技、食いとうないわい!さ、もう寝るで!」
平次がベッドに横になった。

そして早くも寝ついたのか、スースーという寝息が訊こえだした。

「ったく!一人さっさと寝てしもうて!うちも寝よや!」
和葉もベッドに横になった。

そして眠った。




次の日の朝。

「平次!お早うさん!朝やで!はよ支度せんとアカンで!」
先に目が覚めた和葉が、平次を叩き起こした。

「へいへい。そないに喚かんでもちゃんとするわい!」
平次がぶつぶつと文句を言いながら、支度をした。

支度が終わり、平次と和葉は会社に向かった。




二人が会社に着くと新一がいて、すぐに駆け寄って来た。

「和葉さん、お早う!昨日は蘭と一緒にいてくれてありがとう!」
新一が挨拶した後、礼を言った。

「そ、そんな!うちはお礼言われるようなことしてへんて!うちはただ蘭ちゃんと仲良うなりたかっただけや!」
和葉が照れた。

「おい、工藤!毛利の姉ちゃんにプロポーズしたんか?」
平次がやや不機嫌そうな顔で、二人の間に割って入り、新一に尋ねた。

「あぁ、したよ。蘭はプロポーズを受け入れてくれた」
新一が嬉しそうな顔で答えた。

「ほ〜っ。そうなんかい。そやけど工藤と毛利の姉ちゃんが結婚したら、あの姉ちゃんは一介のOLでなくなるんやで。社長婦人になるんやで。そらあの姉ちゃんに昇格の話は出てたけど。その点についてはあの姉ちゃん、構へん言うてるんか?」
平次が感心した後、尋ねた。

「あんまり自信ないけど頑張ってみるって言ってた」
新一が答えた。

「成る程な。そやけど世間の風当たりは強い思うで。玉の輿やとか、シンデレラみたいやとか、財産狙いやとか。その点についてはどうなんや?」
平次が納得した後、尋ねた。

「それも覚悟してるって言ってた」
新一が答えた。

「成る程な。その点に関しても毛利の姉ちゃんは覚悟したっちゅうわけか。中々に芯の強い姉ちゃんやな。工藤が惚れただけあるな。で?社員たちの前で毛利の姉ちゃんとのことを公表する積もりなんか?」
平次が納得した後、感心し、尋ねた。

「あぁ。服部も和葉さんとのこと、公表する積もりなんだろ?」
新一が答えた後、尋ね返した。

「あぁ」
平次が答えた。

「じゃ、行くか」
新一が二人に声をかけた。

「おう!」
平次が答えた。

そして新一と平次は社員たちを集めた。

「社員全員集まれだなんて、一体全体何事なんだろな?」

「もしかして社長の縁談のことじゃないかしら?ほら、内田産業の社長令嬢との」
社員たちの間から、色んな憶測が飛び交った。

「こら!自分ら!何変な憶測してるんや!」
平次が一喝した。

「服部、その先はオレが自分で言うから!」
新一がたしなめた。

「へいへい。ほな引っ込むわ」
平次がいともあっさりと引き下がった。

「あー、コホン!社内でオレが内田産業の社長令嬢と結婚するのではないかという噂が立っているようだが、それは大きな誤りだ!オレの結婚相手は内田産業の社長令嬢じゃない!まったく別の女性だ!」
社内に新一の声が響き渡った。

その途端、社員たちがざわついた。
「社長の結婚相手は内田産業の社長令嬢じゃないって!?」

「じゃ、一体全体どこの誰なの?社長の結婚相手は!」

「一体全体どこの誰が鉄の男である社長のハートを射止めたっていうの?」

「あー、コホン!今はまだ当人同士の口約束だが、オレはいずれ彼女のご両親に挨拶に行こうと思ってるし、オレの両親にも彼女を引き合わせようと思ってる!」
社内に新一の声が響き渡った。

「挨拶に行こうと思ってるだって!?」

「こりゃ本格的だな」
「すごーい!社長があんなにも熱い人だったなんてー!」
社員たちがまたざわついた。

「あー、コホン!オレの結婚相手は、そこにいる毛利蘭だ!」
新一が蘭を指差した。

その途端、社員たちが一斉に、盛大に驚いた。
「えええっ!?」

「えっ!?ちょっと蘭!一体全体何がどうなってるの?」
女性社員たちが詰め寄った。

「ご、ごめん!今まで黙ってて!」
蘭が謝った。

「みんな、蘭を責めないでくれ!オレがしばらくは内緒にしようと言ったんだ!蘭は悪くない!悪いのはオレなんだ!責めるのなら、オレを責めてくれ!」
新一が蘭を庇った。

「まさか毛利が社長と付き合ってたとはなぁ」

「ほーんと!びっくりだわー」
社員たちがざわついた。

「あー、ゴホン!今度はオレの番や!ここに居てるんは、オレの幼馴染兼婚約者の遠山和葉や!」
社内に平次の声が響き渡った。

「へーっ。あの人が」社員たちの視線が和葉に集中した。

「遠山和葉や!来週から入社することになってるんで、宜しゅう頼みます!」
和葉が名乗った。




新一が社員たちに真実を話してから数日後、新一は蘭の実家を訪れた。

「初めまして!工藤新一と言います!お嬢さんと結婚させて下さい!」
新一が蘭の両親である小五郎と英理に頭を下げた。

小五郎と英理は、新一が藤峰財閥の後継者と知り、とまだった。

「蘭、苦労すんじゃねぇのか?」
小五郎が気遣った。

「新一とずっと一緒に居られるのなら、苦労してもいい!」
蘭がきっぱりと答えた。

「蘭、あまり思い詰めないようにしなさい。それでなくてもあなたは思い詰めるタイプなんだから」
英理が気遣った。

「うん。思い詰めるのよくないって思ったから、思い詰めないようにする」
蘭が答えた。

新一と蘭の想いの深さを知った小五郎と英理は、最終的に二人の結婚を認めた。

小五郎と英理の許可を得た新一は、その足で自分の両親である優作と有希子に、蘭を引き合わせた。

「父さん、母さん。オレはこの女性と結婚するから」
新一が自分の決意を、優作と有希子に伝えた。

「初めまして!毛利蘭と言います!」
蘭が挨拶した。

優作と有希子は、手放しで喜んだ。

「ほう。若い頃の有希子に負けず劣らずの美人だな」
優作が目を細めた。

「や〜ん?こ〜んな美人で可愛い女性が義理の娘になるなんて〜?嬉しいわ〜?」
有希子が嬉しそうな顔をした。

こうして双方の両親から結婚を認められた新一と蘭は結婚式を挙げた。

「蘭、幸せにならなきゃ駄目よ!」
結婚式に招待された園子が嬉し涙を流した。

そんな園子に、色黒の青年が声をかけた。
「あ、あの!私は京極真といいます!あなたは?」

真は新一の友人であった。

(うわっ!イケメン!)
園子は真に心を奪われた。

「わ、私は鈴木園子よ」
園子が名乗った。

「あ、あの!鈴木さんは、その、カレシとかいるのですか?もしいないのであれば、私とお付き合いして貰えないでしょうか?」
真が尋ねた後、頼み込んだ。

どうやら、真も園子に心を奪われたようだ。

「カレシなんていないわ!だからあなたとお付き合いするわ!」
園子が顔を赤らめながら答えた。

「京極と鈴木さん、うまくいくといいな」
新一が目を細めた。

その後、すったもんだはあったが、真と園子は双方の両親の了解を得て、結婚した。

そして婚約していた平次と和葉も結婚式を挙げた。

そして三組のカップルは末長く幸せに暮らした。




終わり