Office love 番外編・鉛色の空が晴れる時



by新風ゆりあ様



(3)追求と後悔



園子と和葉の剣幕に押され、蘭は携帯を取り出し、瑛裕を呼び出した。

「ごめんね、瑛裕君。お昼休み中なのに」
蘭が謝った。

「気にしないで下さい。毛利さんこそ大丈夫ですか?朝、社長が毛利さんから会社を休むという連絡があったと言ってたから、会社の社員たちはここ連日のハードワークの疲れが出たんだと解釈してますよ」
瑛裕が微笑んだ後、尋ね、気遣った。

「じゃ、私が男性警備員に襲われかけたことは表沙汰になってないの?」
蘭が尋ねた。

「はい。なってません。だから安心して下さい。僕も言う積もりありませんから。言ったら毛利さんが傷つくから」
瑛裕が答えた。

「そう言えば社長から訊いたんだけど、瑛裕君もあの場にいたって。その・・・、社長が私を助けてくれたの?」
蘭が尋ねた。

「はい。そうです。あの時の社長はそれはもう顔面蒼白で、凄まじかったです。毛利さんを襲おうとしていた男性警備員に飛び掛かって、急所を蹴りあげて、馬乗りになって、首を思いっきり閉めあげて。あの時、毛利さんが夢うつつで『助けて』って言わなければ、社長は間違いなく殺人犯になってしまっていたでしょうね」
瑛裕が答えた。

その時、物陰に隠れて話を訊いていた園子と和葉が飛び出して来た。

「ちょっと、蘭!それを訊くよりも先にそやつに訊かなきゃならないことがあるでしょーが!」
園子が捲し立てた。

「そやそや!本堂さん!あんた、蘭ちゃんのこと、好きなんとちゃう?」
和葉が詰め寄った。

「な、何ですか!?あなたたちは!」
瑛裕が驚いた。

「私は鈴木園子!蘭の親友よ!」

「うちは遠山和葉!平次の幼馴染兼婚約者や!」
園子と和葉が名乗った。

「えっ!?平次ってもしかして服部副社長のことじゃ?」
瑛裕が驚いた後、尋ねた。

「もしかせんでもそうや!それより本堂さん!あんた、蘭ちゃんのこと、好きなんやろ?そうなんやろ?」
和葉が答えた後、詰め寄った。

「ななな何でそれを!あっ!しまった!言う積もりじゃなかったのに!」
瑛裕が慌てた後、口をつぐんだ。

「やっぱりそうだったのね!」
園子が瑛裕を睨んだ。

「あの・・・、何でわかったんですか?あなたたちとは今日初めて会ったばかりなのに。会社の社員たちには全くもって誰にも気づかれなかったのに」
瑛裕が尋ねた。

「あんた、さっき言ったじゃない!蘭が男性警備員に襲われかけたことを言う積もりはないって。言ったら蘭が傷つくからって。それを訊いてピンと来たのよ!」
園子が捲し立てながら答えた。

「それと本堂さん、あんた、蘭ちゃんに言うたらしいな!工藤さんが同棲してるカノジョに対して、責任を感じる必要はないって言うてるのを訊いたって。そん話、あんた、ホンマに全部の話を訊いたん?自分に都合がええとこだけ訊いて、それを自分にええように解釈して、ほんで蘭ちゃんに言うたんやないん?」
和葉が詰め寄った。

「そ、それは・・・!・・・はい。全部を訊いたわけじゃないです。訊いたのは途中までで。すみません!」
瑛裕が言葉に詰まった後、答え、謝った。

「でも都合がいいところだけ訊いたというわけではありません!それは取り消して下さい!」
瑛裕が和葉を睨んだ。

「いくら言い訳したって、言ったってことには違わないじゃない!」
園子が声を荒げた。

「ぐっ!」
瑛裕が言葉に詰まった。

「本堂さん!蘭ちゃんは工藤さんのカノジョなんや!工藤さんは蘭ちゃんにプロポーズする積もりみたいなんや!そやから蘭ちゃんのことはもう諦めてもらえへんやろか?」
和葉が捲し立てながら頼み込んだ。

「わかってますよ!そのくらいのことは!昨日、社長が毛利さんを助けた時点でもう諦めましたよ!」
瑛裕が喚いた。

「ホントにぃ〜?」
園子がジト目で瑛裕を睨んだ。

「ホントですよ!信じて下さい!だって社長は僕の目の前で毛利さんの唇に優しく自分の唇を重ねて、『蘭。助けに来たよ。もう大丈夫だ』って、すっごく優しい声で囁いて。あんな激甘でラヴラヴな救出シーンを目の前で見せつけられたら、まの当たりにしたら、僕じゃなくても諦めますよ!引き下がりますよ!二人の間に割って入ろうなんて、そんなヨコシマなことを考える人が、企む人がいたら、お目にかかりたいくらいですよ!」
瑛裕がまた喚いた。

「だってさ。蘭、良かったじゃん。蘭はちゃんと愛されてるよ、社長さんに。蘭のことだからウジウジと、グダグダと悩んでたんじゃないの?『あぁ、私はホントに愛されてるのかしら?』って」
園子が蘭に向かって微笑んだ後、尋ねた。

(うっ!園子ってば鋭い!)
蘭は心の中で舌を巻いた。

そして真っ赤になった。
(瑛裕君が私に好意を抱いてたなんて。私の意識がなかった時にそんなことがあったなんて。私、自惚れてもいいの?)

「それはまたえらい情熱的やなぁ。工藤さんって蘭ちゃんには中々自分の本心をさらけ出さへんから歯がゆいわって平次が文句言うてたけど。工藤さんは言葉で言うより行動で示す人なんかも知れへんなぁ」
和葉がにやついた。




園子と和葉が瑛祐に詰め寄って尋問していたころ、新一は会社で平次と話をしていた。

「まさか男性警備員が蘭を襲うとは。あの警備員は前社長のコネで入社した奴だったが、前社長との繋がりがあるわけでもないようだったから、別にいいだろうと侮ったのがいけなかった。蘭が警備員に襲われかけた時、オレは死ぬほど後悔した。なんでもっと早くにあの警備員を切らなかったのかと」
新一がため息をついた。

「工藤ばかりが悪いんやない。オレかてたかが警備員と侮っとった。それに関してはオレも同罪や。そないに自分ばかり責めるなや。それに今頃和葉があの姉ちゃんを諭してるやろし。和葉はあの姉ちゃんの話を訊いた時から、あの姉ちゃんと仲良うなりたい言うてたからな。オレが心底惚れ込んだ工藤のカノジョなら、自分とも仲良うなれるんちゃうか思うって言うてたからな」
平次が諭した。

「内田さんがオレに一人の女性として見てはくれないかと言った時、オレは彼女の勇気に感動した。だからこそ恋人がいるということをはっきり告げる気になったんだ。彼女に比べたらオレは臆病者だった。蘭に振られることが怖くて、ぶつかる勇気がなかった。けどリスクを怖がって動けないのなら、手に入れることなどできるはずねーよな」
新一がまたため息をついた。

「確かに工藤の言うとおり、告白するっちゅうんはえらい勇気使うもんや。そやけどな、勇気っちゅうもんはそういう時にこそ使うもんや。男から言う時も、女から言う時も」
平次が諭した。

「蘭が襲われかけて、オレの心臓は止まりそうだった。あんなに心臓に悪かったことはなかった。オレはもうこれ以上耐えられない。またいつどこで同じことがないとも限らねーし。オレは蘭に結婚してくれって頼む積もりでいる」
新一が顔を赤らめた。

「ほーっ。やっと決心したんかい。なんで朝になった時、あの姉ちゃんにそう言わなんだんや?」
平次が感心した後、尋ねた。

「オレは!言おうとしたんだ!蘭に結婚してくれって!それを邪魔したのは、服部、オメーだ!」
新一が喚きながら答えた。

「そ、そうやったんかい。それはスマンことをした。堪忍したってくれや、工藤」
平次が申し訳なさそうな顔で謝った。

「本当は赦さねーって言いたいところだけど、和葉さんに免じて赦してやるよ。和葉さん、蘭に付き添ってくれてるしな」
新一が微笑んだ。

「あぁ、毛利の姉ちゃんが今にも泣きだしそうな顔してたから、和葉も気になったんやろな」
平次も微笑んだ。

「なぁ、服部。蘭はオレのプロポーズを受け入れてくれると思うか?」
新一が尋ねた。

「オレはあの姉ちゃんやないんやから、それはオレにもわからへん。あの姉ちゃん次第やろな」
平次が答えた。

そんな話をしているうちに昼休みが終わり、蘭に呼び出されていた瑛祐が会社に戻って来た。

「本堂、外に出てたのか?」
新一が尋ねた。

「は、はい!勝手をしてしまい、申し訳ありませんでした!」
瑛祐が頷いた後、素直に謝った。

「いや、責めてるわけじゃねーから。そんなに気にすんな」
新一が諭した。

「は、はい!では僕は仕事に戻りますので、これで失礼します!」
そう言って、瑛祐はその場を立ち去った。

新一たちから離れた後、瑛祐はため息をついた。

「は〜っ。あれ以上あの場にいたら、昼休みどこに行ってたかとか問いただされてたでしょうね。問いただされる前に誤魔化せてよかったです。もし毛利さんと一緒に居たと知られたら、社長からどんな目に遭わされていたことやら。昨日の男性警備員みたいに殺されかけたかも知れません。う〜。ブルブルッ。まぁ、もしバレたとしても鈴木さんや遠山さんも一緒だったし、二人っきりっていうんじゃないからお咎めはないかも知れませんけどね」
昨日の新一の凄まじさを思い出し、瑛祐は身震いした。



最終話に続く