出発(たびだち)の夜・番外編



By 新風ゆりあ様



(1)暴走



「もう!新ちゃんったら!一体いつになったら可愛い孫を見せてくれるのよ!?」
昨夜、久々に実家に泊まりに来た一人息子の新一に向かって、私は文句を言った。

私は工藤有希子。

歳は・・・。

ん、もう!

女性に歳なんて言わせるもんじゃないわよ!

とりあえず(?)アラフォーとは言っておくけど。

一人息子の新一は、21歳の会社員。

アメリカでスキップして大学を卒業したため、社会人になって3年になる。

新一には産まれてこのかた、カノジョという存在が出来たことはない。

つまり、年齢イコールカノジョいない歴って訳。

母親の私から見ても、新一はイケメンなのに!

女性は寄って来てはいるみたいなのに!

アメリカでスキップして、18歳で大学を卒業しているから、頭はいいのに!

女嫌いという訳じゃなさそうなのに!

こうなったらもう新一には無断でお見合い話を進めるしかなさそうね!

そう決意した私は、次の日の朝、隣の家に向かい、玄関のチャイムを押した。

ピンポーン。

するとしばらくしてけだるそうなアルトの女性の声が返って来た。
「どなたですか?」

その声はこの家に住む宮野志保ちゃんの声だった。

この家は阿笠博士っていう人の家で、志保ちゃんは博士の遠縁の娘さんで、大学に入学する直前、事故で家族をいっぺんに亡くされて(その時、志保ちゃんは志保ちゃんの高校時代の一年後輩の世良真純ちゃんの家に泊まっていて、難を逃れた)。

身近な近親者がいなかったため(しかも志保ちゃんのお母さんはイギリス人だったため)、博士が志保ちゃんを引き取ったの。

志保ちゃんは一人暮らしをするつもりだったみたいなんだけど、博士が女性の一人暮らしは物騒だからって止めたの。

あ、志保ちゃんの歳は、新一より三つ上の24歳で、普通に日本の大学を卒業していて、医大付きの薬局の薬剤師なの。

クールで頭が良くて、若い頃の私に負けないくらい美人なのに、カレシがいないの!

新一が一人暮らしをしているため、新一とはほとんど面識がないんだけど。

新一より三つ年上だけど、それくらいは許容範囲内よ!

「志保ちゃん!私よ!工藤有希子よ!」
私は名乗った。

すると玄関のドアが開いて、志保ちゃんが私を家の中に招き入れてくれた。
「有希子さん?何か用があるのかしら?玄関で立ち話もなんだから入って。」

「じゃ、お言葉に甘えてお邪魔させていただくわ。」
私は家の中に入り、リビングに向かい、ソファーに座った。

するとすぐに志保ちゃんが紅茶を持ってやって来た。

「どうぞ。」
志保ちゃんが紅茶をリビングのテーブルの上に置いた。

「有り難う。いただくわね。」
私は紅茶を飲んだ。

「あ〜!美味し〜い!志保ちゃんの淹れる紅茶はサイコーね!さすがお母さんがイギリス人だけあるわね!」
私は志保ちゃんをほめた。

「有希子さん、おだてても紅茶しか出ないわよ。」
志保ちゃんがやり返した。

「あ〜ん。わかっちゃった〜?今日、私がここに来たのは、志保ちゃんに頼みたいことがあるのよ!」
私は話を切り出すことにした。

「頼みたいこと?」
志保ちゃんが首を傾げた。

「私の息子の新一とお見合いして欲しいの!」
私は本題をぶつけた。

「・・・・・・・・・。」
志保ちゃんがしばらく考え込んだ。

そして数分後、口を開いた。
「わかったわ。お見合いするわ。」

「本当に?有り難う、志保ちゃん!あ、日時と場所は決まったらまた言いに来るから!じゃ、これで失礼するわね。」
そう言って、私はソファーから立ち上がり、阿笠邸を後にした。

次の日、私は米花センタービルの展望レストランへ行った。

するとすぐに支配人の寺井黄之介さんが飛んできた。

「これはこれは工藤様!ようこそ当レストランへ!おや?お一人ですか?ご主人様は?」
寺井さんが尋ねて来た。

「優作は来てないわ。私だけよ。今日は寺井さんに頼みたいことがあって来たの!」
私は答えた。

あ、『優作』っていうのは、私の最愛の旦那様で、新一の父親の名前よb

「頼みたいこと?」
寺井さんが首を傾げた。

「例の席を予約したいの!」
私は答えた。

あ、『例の席』っていうのは、22年前、私が優作からプロポーズされた席のことよ。

「あぁ、あのお席ですか。今からだと空くのは1ヶ月ほど待っていただかないと・・・。」
寺井さんが気の毒そうな顔をした。

「1ヶ月!?う〜ん。しょうがないわね〜。じゃ、1ヶ月後の○月×日△時に押さえられる?」
私は顔をしかめた後、ため息をつき、頼み込んだ。

「○月×日△時ですか?少々お待ち下さい。予約を確認いたしますので。」
寺井さんがポケットからスケジュール表を出し、確認を始めた。

私は寺井さんが確認し終わるのを待った。

やがて確認し終えたのか、寺井さんが私の方を見た。

「大丈夫です。空いております。」
寺井さんが微笑んだ。

「そう。よかった。じゃ、今言った日時をスケジュール表に書き込んでおいて。」
私は胸を撫で下ろした後、頼み込んだ。

「かしこまりました。」
寺井さんがスケジュール表に予約を書き込んだ。

「じゃ、私はこれで失礼するわね。」
そう言って、私はレストランを立ち去った。

次の日。

私は隣の家に向かい、玄関のチャイムを押した。

ピンポーン。

するとしばらくして、志保ちゃんの声が返って来た。
「どなたですか?」

「志保ちゃん!私よ!工藤有希子よ!」
私は名乗った。

すると玄関のドアが開いて、志保ちゃんが私を家の中に招き入れてくれた。
「あら、有希子さん。玄関で立ち話もなんだから入って。」

「じゃ、お言葉に甘えてお邪魔させていただくわね。」
私は家の中に入り、リビングに向かい、ソファーに座った。

するとすぐに志保ちゃんが紅茶を持ってやって来た。

「どうぞ。」
志保ちゃんが紅茶をリビングのテーブルの上に置いた。

「有り難う。いただくわね。」
私は紅茶を飲んだ。

「あ〜!美味し〜い!志保ちゃんの淹れる紅茶は、いつ飲んでもサイコーね!」
私は志保ちゃんをほめた。

「有希子さん、この前来た時も似たようなこと言ったわよね。」
志保ちゃんがやり返した。

「あ〜ん。バレちゃった?実は例のお見合いの件なんだけど、日時と場所を決めて来たから伝えに来たの!」
私は話を切り出すことにした。

「あら、そうなの。じゃ、その日時と場所を教えてもらえるかしら?」
志保ちゃんが尋ねて来た。

「日時は○月×日△時。場所は米花センタービルの展望レストランよ!」
私は答えた。

すると志保ちゃんがポケットからスケジュール表を出し、日時と場所を記入した。
「○月×日△時、米花センタービルの展望レストラン、と。」

「志保ちゃんはその日、予定はないの?」
私は尋ねた。

「えぇ。何の予定もないわ。」
志保ちゃんが答えた。

「そう。よかった。じゃ、私、帰るから。」
そう言って、私はソファーから立ち上がり、阿笠邸を後にした。

家に帰った私は考え込んだ。
(さて、後は新ちゃんに言わなきゃいけないんだけど。お見合いさせられるって知ったら逃げ出されるかも知れないし。当日まで黙っておきましょうか。)

そしてお見合い当日の日になり、私は新ちゃんのスマホに電話した。
「もしもーし。新ちゃ―ん?私よbわ・た・しb」

「何の用だよ、母さん。」
電話の向こうから、不機嫌そうな新一の声が訊こえた。

「今日、何か予定ある?」
私は尋ねた。

「いや、別にねーけど。」
電話の向こうの新一が答えた。

「そう。よかった。じゃ、今から米花センタービルの展望レストランに来て!」
私は胸を撫で下ろした後、頼み込んだ。

「おい、何企んでんだ?」
電話の向こうの新一が不機嫌そうな声を出した。

ん、もう!

早くも勘づかれちゃった!

「あ〜ん。わかっちゃった〜?お見合いよ、お・み・あ・いb」
私は答えた。

「は?見合いだ?冗談じゃねー!オレには好きな人がいるんだ!」
電話の向こうの新一がやり返して来た。

好きな人?

新ちゃんに?

今の今まで女性の陰も形もなかったのに?

「あら、そうなの?本当にいるの?いるって言い張るのなら、その『好きな人』とやらと一緒に米花センタービルの展望レストランに来なさい!でないと私もお見合い相手も納得しないから!じゃ、切るわね。」
そう言って、私は電話を切り、米花センタービルの展望レストランに向かった。

レストランに着いた私は、新ちゃん達が来るのを待った。

そして数十分後、新ちゃんが女性を伴ってレストランにやって来た。

私は遠目から、新ちゃんが連れて来た女性を見た。

腰まで届くほどの長くて艶やかな黒髪の、大きくて丸くて黒い瞳の、桜色の頬と唇の、26歳くらいの美しくて可愛らしい女性。

うっそー!

今の今まで信じてなかったけど、ホントのホントにいたのね!

え?

一目見ただけで何でわかったのかって?

それは新ちゃんの目を見てわかったの!

新ちゃんがカノジョを見つめている目が、ものすご〜く優しくて熱〜い目をしていたから!

新ちゃんが女性に対してあんな目をするなんて、今の今までなかったわ!

私は二人に駆け寄った。
「新ちゃん!」

「あ、母さん。母さんがあまりにも五月蝿く言うから連れて来たぞ。オレの好きな人を。」
新一が不機嫌そうな顔になった。

「は、初めまして!毛利蘭です!」
女性が名乗った。

「初めまして。新一の母の有希子よ。宜しくね。」
私も名乗った。

「で、母さん。オレの見合い相手はどこの誰なんだ?」
新一が尋ねて来た。

「実家の隣の家に住んでいる宮野志保ちゃんよ。」
私は答えた。

「あっそ。で?宮野はもう来ているのか?」
新一がため息をついたあと、尋ねて来た。

「それがまだなのよ。おかしいわね。もう時間なのに。携帯に電話してみようかしら。」
私は答えた後、携帯を取りだそうとした。

その時。

「有希子さーん!」
女性の声がした。

私は声がした方を見た。

そして驚いた。
「えっ!?真純ちゃん!?」

そう。

やって来たのは志保ちゃんじゃなく、志保ちゃんの高校時代の1年後輩の世良真純ちゃんだったの!

「えっ!?何で真純ちゃんがここに?」
私は尋ねた。

「あぁ、それなんだけど、志保先輩に代役を頼まれちゃって。でもお邪魔みたいだな。ボクも有希子さんも。」
真純ちゃんが私に答えた後、新一と毛利さんに目をやった。

真純ちゃんはれっきとした女性で今は会社員なんだけど、ボーイッシュなところがあって、自分のことをボクと言ったり、服装も男性が着るような服を着ているの。

「あら〜。真純ちゃんにもわかっちゃったのね〜。じゃ、私達は退散しましょうか。」
そう言って、私は真純ちゃんと共にその場を立ち去った。

帰りの道すがら、私は真純ちゃんに尋ねた。
「ねぇ、真純ちゃん。志保ちゃんはどうして来なかったの?」

「志保先輩には好きな人がいるんだ。その人が志保先輩のところに来て引き止めたんだ。『お見合いなんてしないで、僕と付き合って下さい』って。」
真純ちゃんが答えた。

「えっ!?そ、そうだったの!?や、やだっ!私、知らなかったから!志保ちゃん、そんなこと言ってくれなかったし!言ってくれたらよかったのに!」
私はむくれた。

「志保先輩はその人のことを諦めるためにお見合い話を受けたって言ってたよ。」
真純ちゃんが答えた。

「あら〜。そうだったの〜。」
私はにやついた。

「そういうこと。じゃ、ボクはこれで。」
そう言って、真純ちゃんは去っていった。

家に帰った私は、優作にことの顛末を話した。

「ほおお。新一に好きな女性が出来たとはな。ではそう遠くないうちにその女性を実家に連れて来るだろうな。」
優作がにやついた。

「私もそう思うわ。」
私は答えた。

そしてそれから一週間後、新一が毛利さんを連れて、実家にやって来た。
「父さん、母さん。オレ、この人と結婚するつもりだから。」

「は、初めまして!毛利蘭です!」
毛利さんが名乗った。

「初めまして。新一の父の優作です。」
優作も名乗った。

「オレ、来週、蘭の両親に挨拶に行こうと思っているから。」
新一が照れ臭そうな顔をした。

そしてその言葉通り、新一は次の週に毛利さんのご両親のところに挨拶に行った。

毛利さんのご両親はとても驚いていたみたいだけど、毛利さんが26歳という年齢になっていることもあって、新一との結婚を承諾してくれたの。

そして2ヶ月後、新一と毛利さんはめでたく結婚し、夫婦になった。




二話目に続く