パパは小学一年生(また会う日まで編)



By トモ様



(11)



「本当にありがとうございました」

夕貴は目暮に頭を下げた。
目暮の口添えが無かったら、おそらく学校側も簡単には新一の留年免除を認めなかっただろう。

「いやいや、とんでもない。工藤君にはこの前もウチの佐藤と高木がお世話になったそうだからね・・・じゃあ有希子さん、これで失礼します」

目暮は照れながら、車で去っていった。

「夕貴さん、どないしたんですか?」

夕貴を見つけたコナンと和菜がやってきた。

「あら、和菜ちゃんに兄さん来てたの。実は目暮警部に頼んで学校側に兄さんの留年免除の件を口添えしてもらっていたのよ」
「それで留年免除してもらえたのか?」

コナンが身を乗り出す。

「ええ、私と目暮警部が必死に頼み込んだんだから感謝してよね・・・お礼は小遣いアップで良いわよ」
「本当かよ!」

コナンは留年を逃れられたのでホッとした。

「そのかわり兄さんは、明日から一日も学校を休まない事が条件だからちゃんと学校に行くのよ」
「え?だって俺はまだコナンなんだぜ?」

困惑した様子のコナンに夕貴は苦笑した。

「あら?志保さんに聞いてなかったの?私達の時代の志保さんが、この時代の志保さんに解毒剤の完成品の成分が書いてあるメモを送ってくれたらしいわよ。今ごろ解毒剤が完成してるんじゃ・・・」

コナンは夕貴の話を最後まで聞かずに阿笠邸に走って行った。









(12)



「灰原!!」

哀がリビングで紅茶を飲んでいた時、コナンが阿笠邸に飛び込んで来た。

「やっと帰って来たわね」

哀は息を切らしているコナンをジト目で見た。

「解毒剤が完成したんだろ?早く飲ませてくれ!!」
「・・・その前に学校へ行ってみんなにお別れしないと」
「なんでだよ!!」

哀は焦っているコナンを見てため息をついた。

「江戸川コナンと灰原哀がこのまま黙って消えたら小嶋君、円谷君、吉田さんはどう思うか考えなさいよ・・・蘭さんに味あわせた悲しみをあの三人にもさせる気?」

哀に言われてコナンはハッとした。

「そうだな・・・わりー灰原。よし!学校に行ってあいつらに、お別れを言いに行かなきゃな」



  ☆☆☆



帝丹小学校の1ーBでは帰りのHRの筈なのに担任の小林先生が職員室に行ったまま戻って来ていなかった。

「小林先生、遅いですね?」
「どうしたんだろう?」
「きっと俺達に黙ってウナ重を食べているんだぜ」

元太達が雑談していると小林先生がコナンと哀を連れて入ってきた。

「みんな遅れちゃってごめんなさいね。実はみんなに悲しいお知らせがあります・・・江戸川君が御両親の居るロサンゼルスへ、灰原さんが親戚の居るロンドンへ転校する事になったので今日でみんなとお別れする事になりました」

小林先生の言葉でクラス中に衝撃が走った・・・特に探偵団のメンバーのショックは大きい様だ。









(13)



その夜、阿笠邸でコナンと哀のお別れパーティーが行われていた。

「だいたいコナンも灰原も水臭いんだよ」
「抜け駆けはコナン君の得意技でしたけど、こんなのあんまりですよ!」
「もうコナン君にも哀ちゃんにも会えないの?」

探偵団のメンバーはコナンと哀に詰め寄っていた・・・歩美に至っては泣きそうになっている。

「悪かったよ・・・なんせ俺も灰原も急な話しだったから言う暇がなかったんだよ」
「ごめんなさい吉田さん・・・また会える日が来るから」

コナンも哀も三人に謝っていた。
その時、優一が後ろから現れて歩美の肩に手を置いた。

「これからは俺がコイツらに替わって探偵団のメンバーになってやるよ」

言った優一も言われた歩美も顔が赤くなっている。
歩美は優一の優しさに淡い恋心が芽生え始めていたが、この事が歩美を自分の父親に憧れさせる原因になったとは優一は気づいていない。

(勝手な約束をすんじゃねー!!)
(何、小学生相手に赤くなってんねや!!)

照れている優一をコナンと和菜が睨んでいた。



  ☆☆☆



パーティーも終わり未来から来た三人が帰る時がやってきた。

「じゃあ、親父と母さん、丈夫な俺を生んでくれよな」

優一にからかわれてコナンと蘭は赤くなっていた。
和菜がコナンに、夕貴が蘭に近づき耳打ちする。

「アタシ頑張って優一を振り向かせるから見といてや」
「ああ・・・頑張れよ」

コナンは和菜に微笑んだ。

「義姉さん、今日は眠れないと思うけど明日ちゃんと兄さんを学校に連れていってよ」
「え?」

蘭は夕貴の言った意味がよく分からなかった。

「じゃあ、また会う日まで」

三人は車に乗り込むと未来に帰っていった。









(14)



未来からの来訪者も去り、静けさの戻った阿笠邸のリビングでコナン、蘭、哀、博士は一息ついていた。
目の前のコーヒーを飲み干すとコナンは哀の方を向いた。

「そろそろ解毒剤をだして・・・あれ?」

コナンは急にクラクラした感覚に陥っていた。
隣を見ると蘭も同じ状況に陥っている様だ。

「灰原・・・テメー・・・コーヒーに・・・何を入れやがった?」
「・・・未来の私から送られて来たのは、解毒剤の成分のデータだけじゃなかったの・・・あなたと蘭さんには、これを飲んでもらったわ」

哀はカプセルを取り出して二人に見せた。

「何だ・・・それは?」
「忘れ薬よ・・・あなた達には未来からの来訪者の記憶を無くしてもらうわ」
「な・・・ん・・・だ・・・と」

コナンと蘭は深い眠りに落ちていった。




「本当にこれで良かったんじゃろうか?」

博士は眠った二人を見てためらい気味に呟いた。

「自分達の子供の未来なんて知りすぎて良い事なんてないから、これで良いのよ・・・さあ博士、早く工藤君の服を着替えさせて」









エピローグ



「工藤君、蘭さん、起きなさい」

コナンと蘭は哀に起こされて次第に意識が覚醒しだした。
コナンが目を覚まして最初に視界に入ったのは宮野志保の姿だった。

「はっ灰原!!オメー何で元の姿に戻っているんだ!!」

コナンはビックリして飛び起きた。

「何言ってんのよ・・・私達、解毒剤の完成品を飲んだんじゃない」

志保は忘れたのかと言いたげな顔だ。

「しっ新一!!元に戻れたの!!」

横を見ると蘭が驚いていた。
新一は自分の体を確認するとコナンではなく工藤新一の姿に戻っている。

「もう二度と江戸川コナンや灰原哀に戻る事はないわ」

新一はいきなり元に戻れた事に驚いていたが次第に喜びの表情に変わっていった。

「蘭!!俺の家に行くぞ!!」

新一は蘭を抱き上げた。

「え?え?」

状況が理解できてない蘭に構わず新一は蘭を抱えたまま、工藤邸に走り去ってしまった。


志保は新一が今まで溜まっていた欲望を蘭にぶつける事は容易に想像できた。

「・・・ケダモノね」

そんな新一の様子を見た志保は一言呟いて、おそらく今晩は新一に寝かせてもらえないだろう蘭に同情していた。




ー完ー




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