目明し小五郎・幕末編



Byトモ様



(前編)



時は慶応3年の11月15日、そろそろ寒くなってきた京の街を3人の男が歩いていた。

「ヘーっくしょん!!くそー!そろそろ夜道も寒くなってきやがったなぁ」

1人は毛利小五郎、江戸から京に出てきて探偵事務所を開いている。

「まったく・・・こんな時間まで飲み歩いて!この事をおばさん知ったら、また大目玉だぜ」

ほろ酔い気分の小五郎に文句を言っている男は工藤新一、彼も江戸生まれだが小五郎の1人娘のおランを嫁にもらい小五郎に付いて京まででてきていた。

「そやで、俺等まで英理さんに怒られてしまうやないか」

新一と一緒に文句を言っている男は服部平次、大阪生まれの彼は京に出てきた新一と知り合い、仲良くなった挙句に小五郎の事務所のメンバーに加わった。

「せやけど将軍様が政権を朝廷に返して一月経つのに相変わらず京は物騒やのー」

3人が河原町を通りかかった時に事件は起こった。


前から女が走ってきて、小五郎にぶつかった。
女はそのまま走っていってしまった。

「いてて・・・なんだ、あの女は?」

しりもちをついた小五郎が文句を言って立ち上がると新一は小五郎の横に何かが落ちているのに気づいた。

「何だこれ・・・かんざしか?あの女が落としていった物か?」

新一はかんざしを拾い上げた。

「工藤、おランにええ土産ができたやないか」

平次が新一をからかう。

「うっせーよ!服部。オメーは最近どうなんだよ?」
「なっ何がや?」
「オメーが近所の和葉ちゃんに目をつけてるのは知ってるんだぜ」

今度は新一がニヤっと笑い平次をからかった。
平次が真っ赤になって反論しようとした時、今度は数人の男が3人の横を走り去っていった。

「なんか騒がしいなぁ」
「おじさん!あそこから出てきたんじゃない?」

新一が指差した方を見ると近江屋の扉が開いたままになっていた。

「あそこは確か近江屋・・・おい!様子を見に行くぞ!」

3人は近江屋に入っていった。



  ☆☆☆



近江屋に入ると階段の所に人が倒れていた。

「おい!大丈夫か?」

小五郎が男を抱き上げると男は何ヶ所も斬られた後があり重症のようだった。

「・・・う・・・上に」

男が声を振り絞って何かを言おうとしていた。

「服部!2階だ!」

新一と平次は2階に急いで上がった。
2階のふすまを開けると部屋は血まみれで横に男が倒れていた。
男は額を斬られており既に死んでいるようだった。

「おい!工藤、屋根にも人が倒れてんぞ!」

窓の外には血まみれの男が倒れていた。

「おい!しっかりせぇ!!」

平次が男に近づくと男はまだ生きているようだった。

「・・・拙者は・・・中岡慎太郎と申す・・・目の前・・・の・・・土佐藩邸に行き・・・人を・・・呼んできてくれ」
「うわ!こりゃ凄い惨状だな」

小五郎が部屋に入ってきて驚いていた。

「おっちゃん!土佐藩邸に行って人を呼んできてくれ。中岡慎太郎が斬られたって言えば、すぐ来る筈や」

小五郎は土佐藩邸に向った。



  ☆☆☆



「御開門!!御開門!!」

小五郎が藩邸の扉を叩くと門番が出てきた。

「何事だ!!」
「今、この前の近江屋で中岡慎太郎という御人が斬られた」
「何!!」

門番は藩邸の中に向って叫んだ。

「おい!大変だ!!隊長が斬られたぞ!!」



  ☆☆☆



近江屋の周りは土佐藩の人間や野次馬でごったがえしていた。
小五郎達の所に1人の侍がやってきた。

「お前達が第一発見者だな!拙者は土佐藩の乾退助と申す。良いか、この事は他言無用だぞ!」
「はぁ・・・それで斬られたのは誰ですか?」
「・・・土佐藩士・坂本竜馬、中岡慎太郎の両名だ」

(坂本竜馬だと!!)

新一は思いがけない人物にビックリしていた。



  ☆☆☆



「えー!坂本竜馬を知らない!!」

新一の妻、おランは小五郎が竜馬を知らないと聞き驚いていた。

「なんだ?そんなに有名人なのか?」
「この人は世間の事には疎いのよ」

小五郎の横で彼の妻の英理が呆れていた。

「で?誰なんだそいつは?」
「土佐藩士、坂本竜馬や・・・噂では薩摩藩と長州藩に同盟を結ばせたり、幕府が政権を朝廷に返還させた影の仕掛人ってゆわれとる有名人や」
「京中その話しで持ちきりや。アタシが聞いた話しだと新撰組に斬られたって話しやで」

小五郎の事務所に遊びにきていた和葉が口を挟む。

「確かに現場には新撰組の原田左ノ助の下駄と刀の鞘が残されていたから土佐藩では彼が下手人だと睨んでいるが・・・」
「逆にそれが怪しいんやな」

新一の疑問に平次も同意する。

「なんだぁ、オメー達何を疑ってるかと思えば・・・現場に証拠が残ってんだ、下手人は原田に間違いねえよ」

小五郎は原田の犯行と信じきっている。

「そうかしら?」

英理が否定しようとする。

「俺もおばさんの意見に賛成です。今の政治状況を考えたら彼は幕府方にも倒幕派にも命を狙われてもおかしくない」
「俺は土佐藩家老の後藤象次郎やと思う。竜馬の考えた大政奉還案の手柄を1人占めしようとして竜馬の暗殺を考えたんや」
「私は薩摩藩だと思うわ。武力討伐を考えていた薩摩藩が竜馬の大政奉還にしてやられたと思い彼を暗殺したのよ」
「まぁ他にも、いろは丸事件で竜馬に大金を獲られた紀州藩、おっちゃんのゆう通り幕府方の犯行と、竜馬の暗殺を企てる勢力はごっついおるっちゅう事や」

新一は英理や平次の説の他に思い当たる事があった。

(まずは、このかんざしの持ち主を探さないとな・・・)

新一は手元のかんざしを見つめていた。



続く……。



 後編に続く。