ニンギョヒメ〜届かぬ想いを胸に〜



by white‐bear様



第二章 ようやく始まったlove story



ガチャッ。

「博士・・・。」

阿笠邸のリビングに阿笠博士が静かに入ってきた。

「ごめんなさいね。博士。席をはずしてもらって。」
「いや。そんなことは別にいいんじゃが・・・。新一君は」
「彼女のところへ行ったわ。1秒でもはやく彼女に会いたいんですって。まあ、当然のことかしらね。」

博士の言葉をさえぎって哀が言った。最後の方は消えてしまいそうな声で。

「哀君の・・・話も聞かずにか?」
「・・・ええ。でも、別にいいのよ、博士。」
「しかし、哀君は今日」
「だからいいのよ。」

少し怒りっぽく言ってしまった。
すると後ろから・・・

「ぜんっぜんよくないぜ。」

博士と哀が振り向くとそこには黒羽快斗の姿があった。

「あいつ、本当に鈍感で何にも分かってねーんだな。ったく。」
「黒羽君?いったいどうして?」
「ん?ああ。そろそろ解毒剤ができるころじゃねーかと思ってさ。来てみたら新一が地下室から出てくるところが見えたんでしばらく様子を見させてもらおうと思ったんだけど、新一がすぐに出ていっちゃったから、こうして姿を思ったよりはやくあらわすことになたってわけさ。」

淡々と快斗は理由を述べた。
快斗とはコナンも哀も組織倒す際に知り合い、今ではすっかり友達(?)だ。
組織を倒した後もちょくちょく博士の家に遊びにくる。
というよりコナンで遊ぶために。

「それにしても、あいつ、哀ちゃんが2ヶ月間ろくに寝もしないで一生懸命解毒剤作ってたっていうのに、お礼も言わずに飛び出してくなんて非常識すぎるぜっ!!」

快斗は憤慨しながら言う。
それに対して哀がふっと笑った。

「あら、黒羽君は優しいのね。でも、私、自分のために作ったのよ?あなたが考えているようなお人よしじゃないわ。」

哀のその言葉を聞くと、快斗は一瞬哀しそうな瞳を哀に向けた。
泣きそうなくらいに切なげな瞳を。

「無理、しなくていいよ、哀ちゃん。」
「え?」
「本当は・・・解毒剤作るのつらかったんだろ?俺や博士の前くらい、涙、我慢しなくていいよ。」
「!」

優しくはなしかけてくれる快斗。
哀は俯いた。
それでも必死に涙を我慢しようと。
でも、流れてしまった。

真珠のような涙が・・・。


初夏の日差しがまぶしい午後の阿笠邸には声も立てずに静かに涙を流す少女と、少女の頭を優しくなでる青少年とそんな2人を見守る老人の姿があった。



  ☆☆☆



そのころ新一は毛利探偵事務所に向かって走っていた。

コナンの姿だと10分以上かかる道のりも新一の姿では
5分もあればついてしまう。
そんなささいなことにいちいち感動を覚えてしまう。


毛利探偵事務所前。

はあっ。はあっ。はあっ。

あまりに急いで走ったので呼吸も荒くなってしまう。
そして、大きく深呼吸をすると、携帯電話を取り出した。
数コールで愛しい人が電話に出る。

「もしもし?」
「よう。蘭。俺、新一。」
「新一?随分とひさしぶりじゃない?」

最後のほうはドスのきいた声だ。
かなり怒っている。
新一は一瞬びくっとしながらも、やっと変声機なしの自分の声でできる電話をうれしく思いながら続けた。

「ごめんな。今まで待たせて。でも、もう事件解決させたから」
「じゃっ、じゃあ帰ってこれるの?」
「ああ。っていうかもう帰ってきてるぜ。窓の外見てみろよ。」

数秒たって、探偵事務所の窓が開く。
蘭の瞳は一瞬、びっくりしたように大きく開かれ、そしてだんだんこれ以上にないくらい優しい瞳に変わっていく。

大きなひまわりみたいな笑顔。
コナンが1年かかってもどうしても手にいれることができなかったものだ。

そして、

「新一〜!!いつまでそこにいるつもり?暑いでしょ?はやくあがってきなさいよ〜。」
「おう。」

新一はそう言って階段を上っていった。
一段一段しっかりと踏みしめて。


手を伸ばさなくても開けることのできるドアのノブを回すと、ひゅんっと風が通り過ぎた。
びっくりして横を見てみると、それは蘭のしなやかな足だった。

「ふ〜ん。今回は逃げなかったようね。」
「あのな・・・ちゃんと事件は解決したって言っただろ?」
「そう言って・・・またどっか行っちゃうと思った・・・」
「ごめん。」

新一がかくんっと頭を下げた。
そんな新一の姿を不謹慎にもかわいいと思ってしまった蘭はにこっと笑って新一に声をかける。

「いいよ。新一。こうしてちゃんと帰ってくれたしね。」

少しの間をおいて

「おかえりなさい。」
「ただいま、蘭。」

そこまで言ってようやく探偵事務所の中の様子に気がついた。

「あれ?おじさんはいないのか?」
「ああ、お父さんなら今日は仕事で出かけてるわよ。」
「へえ・・・。」

(おっちゃん、コナンがいなくて困ってんじゃね〜かな?)

内心そう思いつつ、ラッキーと思う。

「蘭、今からトロピカルランド行かね〜か?」
「トロピカルランド?」
「ああ。蘭とトロピカルランド行って、別れてからさ、俺たちの時間はとまっちまっただろ。まあ、文化祭とかで少しは会えたけどな。だから、もう一度トロピカルランドから始めなおさないか?」
「そうだね。行こうっ!!」

蘭は元気よく返事した。
  


to be countinued…….



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