ニンギョヒメ〜届かぬ想いを胸に〜
by white‐bear様
第三章 大切な友達
「ありがとう、黒羽くん。もう・・・大丈夫よ。」
少しして、哀が顔をあげて言った。
もう涙は流れていない。
「哀ちゃん・・・でも、まだ・・・」
そこまで言って快斗は言葉を切った。
続けることができなかった。
哀が表情を和らげる。
「本当に大丈夫よ。私、まだやることがあるから少し出かけてくるわね。夕飯までには戻るわ。」
そう言って、近くにおいてあった鞄をもって哀は阿笠邸をあとにした。
「哀ちゃんは、弱いくせに強いね、博士。」
「・・・そうじゃな。」
快斗は今まで静かに見守っていた博士に呟いた。
「涙を我慢するのに慣れすぎている・・・。組織ではいつも我慢して、影で一人で泣いていたんだな。お姉さんが亡くなったときも・・・。」
☆☆☆
哀は阿笠邸を出てから、米花駅前に来ていた。
そして、公衆電話から一人の友人に電話をかける。
「はい、吉田でございます。」
「わたし、歩美ちゃんと同じクラスの灰原と言いますが、歩美ちゃんはおみえでしょうか?」
「ああ。灰原さんね。ちょっと待ってね。今、かわ」
「哀ちゃんっ!!」
母親が全部言う前に歩美が受話器を奪って出た。
「ちょっと、歩美ちゃん。」
「哀ちゃんっ!!一体何があったの?」
母親がとがめるのを無視して歩美は続けた。
「吉田さん。そんなに慌てなくてもいいのよ。」
「だって、哀ちゃんが電話してくれたの初めてなんだもん。何か一大事があったのかと思っちゃって。」
そう言ってえへへと笑う。
でも、事件じゃないみたいだね、と。
哀はついつい嬉しくなってしまう。
自分の身を心配して、慌てて電話に出てくれる友達。
自分にとって初めてできた友達だ。
「それで、どうしたの?」
「今から、私と遊ばない?」
「・・・・・・。」
歩美は何も言わない。
「嫌だったかしら・・・。」
「あ!違うの。嬉しすぎて声もでなかったの!」
「え?」
「だって、哀ちゃんから誘ってくれるのも初めてだよ!!
哀ちゃん、いつも一人で本とか読んでばっかりだったから、歩美が無理に誘ってるのかなあってちょっと心配だったんだ。だからすっごく嬉しいな。」
自分の態度がこんな小さな女の子を傷つけていたのかと思うと胸が痛む。
こんなにも自分のことを思っていてくれたなんて・・・。
「ごめんなさい、吉田さん。でも、私にとって吉田さんは
大切な大切な・・・友達よ。」
勇気をだして「友達」という言葉を言う。
「ありがとう、哀ちゃんっ!!あ、どこであそぶ?元太君や光彦君も誘うよね?」
「ええ。遊ぶ所は、吉田さんにお任せるわ。」
「うん。じゃあ、米花公園で遊ぼっ!!元太くんたちには歩美が連絡するから。じゃあ、後でね〜」
「ええ、また後で・・・。」
ガチャッと電話を切った。
☆☆☆
米花公園ではとても楽しく過ごした。
サッカーをやったり、鬼ごっこ、、缶けり、かくれんぼ、いろんな遊びをした。
そうしているうちにお日様も傾いてきて、公園が夕日に染まる。
公園には歩美たちの楽しそうな声がひびいている。
まだまだ、遊んでいたい。この子達と一緒にいたい。けれど・・・。
哀は意を決して歩美たちに声をかけた。
「吉田さん、小嶋くん、円谷君、大事な話があるから聞いてくれる?」
3人は振り返った。
どこか哀しそうな瞳をしている。
まるでこれから起こることを知っているように・・・。
「私、今日イギリスにいくことになったの。」
to be countinued…….
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