君に会いたい



byドミ



(1)機械的な日常だって、貴いものだと知っている



「おはよう」
「おはよう」
「おっす」

いつもと変わりない、朝。
帝丹高校の、登校時間。

「蘭、おっはよー」
「おはよう、園子」
「今日の英語の予習、して来た?」
「うん。園子は?」
「一応、やって来たんだけどさあ。自信なくって。わたし、今日は当てられそうなんだよねえ」

わたしの名は、毛利蘭。
明るい色のボブをした、幼い頃からの親友・鈴木園子と、登校途中に出会い。
そして、他愛のない会話をしながら、げた箱で靴を上履きに履き替え、2年B組の教室へと向かって行く。

教室の中には、既に数人のクラスメートがいた。

「おはよう、蘭、園子」
「おはよう」
「おっす。今日も金魚のフンの2人か」
「もう、中道君、失礼ね!」
「途中で会っただけよ」

今日の1時限目は、英語。
園子が、ノートを広げてうーんと唸っている。

「今日は、当たりそうなのよねえ」
「園子。課題で、分からなかった所があるの?」
「うん、これ。辞書引いてもサッパリでさー」
「ああ、それは、慣用句だから・・・ほら、辞書もこっちのページの方に載ってる」
「あ!ホントだ!蘭、ありがとう!助かったわ!」
「どういたしまして」
「蘭は国語と英語が得意だもんね!」
「数学は苦手だけどね」
「それは、わたしも同じ」

わたしは一応、真面目に勉強しているから、どの教科もまずまずの成績を維持しているけど、理数系は苦手。
園子から、数学の宿題で分からない所を教えてって言われても、きっと無理。

わたしの視線は、無意識の内に、暫く主のいない机の上に向く。

『ここは、この公式を使えば良いんだよ』
『あ、そっか』
『で、こっちはな・・・』

膨大な知識を持ち、論理的思考にもすぐれ、音楽以外は苦手な科目なんてなかった、あいつ。
今日の英語の宿題だって、辞書なんか持って来てなくても、きっと簡単に解いてしまうだろう。


園子がちらりとわたしを見て、でも何も言わなかった。
ちょっと前までは、突っ込みを入れて来たのに、何も言わなかった。


1時限目の本鈴が鳴り、英語の先生が教室に入り、週番が号令をかけた。
わたし達は型通りに立ち上がって礼をして着席する。


園子は、本人の予想通りに当てられ。
わたしが教えたものとは別の問題だったけれど、何とか無事答えられたようだ。


いつもの日常。
機械的に繰り返される、帝丹高校の朝の風景。


ううん。
違う。違うの。
当たり前の毎日のように見えて、足りないものが、あるの。


『蘭、工藤君、おはよう』
『ヒューヒュー、また夫婦揃って登校かよ!』
『妬けるねえ』
『バーロ!んなんじゃねえよ』


ほんの少し前まで、当たり前に繰り返されていた、朝の風景は。
いつも、アイツと共にあった。


わたしが朝、アイツの家に迎えに行って。
2人揃って登校し、皆から、挨拶まじりにからかわれる。

それが、「当たり前」の日常だった。

でも、アイツは数か月前から、厄介な事件とやらに関わり、学校も休学している。
時々、電話やメールはあるし、たまに姿を見せてくれる事もある。
だけど、いつもの風景の中に、彼はいない。

最初の頃は「まだ蘭の旦那、帰って来ないの?」と訊いていた園子も、アイツの不在が長引く中で、何も言わなくなってしまった。



機械的に繰り返される日常が、どんなに大切で貴重なものだったのか。
アイツがいなくなってから、わたしは嫌という程、思い知らされている。



To be continued…….




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お題提供「as far as I know(わたしのしるかぎりでは)」




 (2)「見せたいものが、たくさん溜まっているんだよ」に続く。