探偵戦隊ディテクティブ・アイズ



Byドミ



第1章



(1)迫り来る魔の手



それは、高校生探偵・工藤新一が、幼馴染で同級生の毛利蘭と、トロピカルランドでデートをしていた時の事であった。(注・傍から見たらデートだが、この二人は「ただ一緒に遊びに行くだけ」と言い張っていた。ついでに言うならば、この二人、傍から見ればどう見てもラブラブだったが、お互いに「只の幼馴染」と言って譲らない不思議な間柄である)
遊園地の上空に、突然黒い円盤型の物体が現れたかと思うと、それは何と新一と蘭の方に向かって来たのだった。

「な、何だ何だ!?」
「UFOか!?」
「今時UFOは古いんじゃ!?」

UFO(未確認飛行物体)に古いも新しいもないと思われるが、とにかくその場に居合わせた人達は、円盤を指差してざわめいていた。
何人かは、持ち合わせたビデオやカメラで撮影をしている。
しかし、追われている新一と蘭はそれどころではなかった。
新一は蘭を庇って走り続けるが、円盤は二人をおちょくるかの様に、わざととしか思えない動きでジグザグに飛んだりして追って来る。
新一は足の速さと身軽さには自信があったものの、空飛ぶ円盤相手に敵う筈も無い。
それでも何とか「氷と霧のラビリンス」にたどり着き、新一が蘭を中に避難させようとしたその時、円盤から白い煙のようなものが吹き出して新一を包んだ。

「うっ・・・し、しまった、催眠ガスか!?オメーだけでも、逃げろ・・・蘭・・・!」

新一が霞む意識の中で蘭に呼びかける。しかし、新一の意に反して、蘭は入りかけていた建物の入り口から引き返し、新一の方に駆け寄って来ていた。

「し、新一っ・・・!」

そして二人の意識は暗転した。


   ☆☆☆


「気が付いたかね?」

新一と蘭が意識を取り戻したのは、円形の奇妙な室内の床の上であった。
新一は隣に居た蘭の姿を確認し、無事なのを確かめると、ホッと息を吐いて抱き締めた。

「蘭。良かった・・・」
「し、新一・・・」

蘭は新一の腕の中で真っ赤になっている。
二人の世界に入り込もうとしていた新一と蘭を、先程声を掛けて来た人物の咳払いが、現実へと引き戻した。

「ウォッホン!」
「あ、あんたは・・・!?」
「今、地球に『Black Organization』の魔の手が迫っている。ワシらは密かに戦いの準備を整えていた。しかし、奴らと戦うには、優秀な戦士が必要じゃ!手荒な方法ですまんかったが、選りすぐられた君たち六人を、ここに招待したのじゃ」
「・・・こんなとこで一体何やってんだよ・・・阿笠博士・・・」

新一が蘭を背後に庇いながらも、脱力して呟いた。
新一たちの前に居た、そして攫ったらしい人物は、新一の隣人で幼い頃から良く知っている阿笠博士であったのだった。
と、突然。

「こ、これはどういうこっちゃ〜〜〜っ!!」

新一たちの後ろで叫び声がした。

「へへへ平次、ここ、どこやねん!?」
「知りたいのは俺の方や!」
「快斗、快斗、ねえねえ、空飛ぶ円盤の中ってこういう風になっているんだね」
「・・・お子ちゃま青子。もうちょっと危機感持てよ・・・」

新一と蘭の他に、同じ年頃の少年二人、少女二人がこの場に居合わせていたのであった。
良く見ると、一人は新一に良く似た少年で、もう一人は蘭に良く似た少女だった。

そして、色黒な少年とポニーテールのキュートな少女が居る。
こちらの二人は言葉が大阪弁である。


「諸君!先程も言ったが、この地球には『Black Organization』の魔の手が迫っている。諸君は選ばれた勇士たちなのじゃ!地球を守って戦う使命を担っているのじゃ!!」
「おい、爺さん!御託はいいから、早く俺と青子を元の場所に返せ!」
「じ、爺さんじゃと!?ワシはまだ五十二歳じゃ!!」
「・・・その割にはえらい老けて見えるやないか」
「それは作者が・・・ゴホン!ほっといてくれ!!」
「おい、阿笠博士。悪ふざけはいい加減にしてくれねーか!?いくら友達の博士だからって、せっかく蘭と二人でトロピカルランドに行った時間を邪魔されて、冗談では済まされねーぜ」
「そうよ博士、私、空手都大会に優勝したら新一のおごりでトロピカルランドに連れてって貰うって約束、ずっと楽しみにしてたのに・・・」
「俺はそんなええとこ邪魔されたんやあらへんけどな、いきなり麻酔ガスで眠らされて攫われるっちゅうのは、どう考えても納得でけへんで」
「ええとこやないって、そらそうやろなあ。平次、待ち合わせの時間をすっかり忘れて三時間も遅れて来てあたしから怒鳴られてたんやからな」
「あ、アホ!こないなとこでそないな事バラさんでもええやんか!」
「あ〜〜〜っ!俺、せっかく青子が買ってくれたアイスを食べるとこだったのに、落としちまったぜ!爺さん、どうしてくれるんだよ!?」
「青子のアイスもなくなっちゃった・・・お爺さん、弁償してね」
「だだだだから、ワシは爺さんではないと言っておろうが!!」


彼らの話は果てしなく脱線を繰り返し、いつまでも収拾が付きそうになかった。
やがて彼らは地球の正義と平和を守る「探偵戦隊ディテクティブ・アイズ」になる筈なのだが・・・はて?


   ☆☆☆


「実は、この宇宙には、我々地球人類とは違う生命体が居るだろう事は昔から予想されとった」

取り敢えずこのままでは収拾が付かない為、不承不承六人が承知して阿笠博士が訳を説明し始めた。
しかしすぐに茶々が入る。

「ま、理論上は確かにそうだな」
「せやな。地球に生命体が発達したのやから、他所の星でそれが起こり得る言うんは、理屈としては正しいで」
「オホン。そこでだ、古来、我々が所属しているWMOでは、密かに宇宙への監視を続けて来たのじゃ」
「なんだ、そのWMOってのは?」
「多分、Wise‐men Organizationあたりの略称じゃねーか?」
「ほほお、成る程、賢人組織って訳か。この爺さん、自分で『賢人』と評価するあたり、意外と・・・」
「失礼な事を言うな!ワシは誘われたんじゃ!誘ったのは君らのお父上達・・・ウォッホン!」
「何?博士!もしやこの件には父さん達が絡んでいるのか!?」
「あんのくそ親父!今度会ったら耳の穴ん中に手ぇ突っ込んで、奥歯ガタガタ言わせたる!」
「ところで今更だが、おめー誰だ?」
「工藤、お前と並び称される『西の高校生探偵』服部平次や!せや、いつか工藤が俺とホンマに並び賞される男か、勝負したろ思うとったんや、丁度ええ機会かも知れへんな」
「ええい!自己紹介は後にして、説明を聞かんか!」

やはり話がすぐに脱線してしまい、騒ぎはなかなか収まりそうになかった。


「奴らは、地球外生命体じゃ」

ようやく博士の説明が再開される。

「ほほお。所謂、宇宙人って奴か?」
「そうじゃ。いつ頃からか判らんが、奴らは地球を狙っておった。そして今、地球制服を企み、密かに魔の手を伸ばし始めている」
「嘘くさ〜」
「わざわざ他の星系からそれだけの手間隙とコストをかけて地球を征服したところで、何のメリットがあんだよ?」
「せや、光速を超えるんは理論上不可能いう事になっとんのやろ?時間もめっちゃかかるで」
「奴らが何を考えて地球などを狙っているのか、奴らが何らかの方法で光速を越えられるのか、それともそれだけの時間をかけているのか、それはわからん。ただワシらに判っているのは、とにかく奴らが地球を狙っているという事だけじゃよ」
「・・・で、博士。この円盤、開発にはかなりの費用がかかっている筈だ。技術も・・・博士一人の力では無理だろ?WMOってそんなに金持ちの組織なのか?」
「WMOは、直接にはどこの政治団体にも属していない独立した組織なのじゃが、国連や大国からの寄付や技術援助も受けて成り立っている。今回結成される『探偵戦隊ディテクティブ・アイズ』は、何を隠そう、『国立』機関じゃよ」
「って事は、国家公務員か!?」
「公僕かよ、だっせ〜〜〜!」
「親父の配下の警察官になるんも我慢でけへんけど、別の国家公務員いうんも敵わんなあ」
「それに何だよ、『探偵戦隊』だって?俺、そんなもんには縁がねえぞ!」
「快斗は只のマジックオタクだもんね〜」
「ななな!?アホ子、失礼な事言うな!マジックは芸術だ!!」
「・・・今回メンバーとして選りすぐられた君達の中に、東の高校生探偵・工藤新一と、西の高校生探偵・服部平次が居るんじゃ。ネーミングは新一くんのお父さんじゃよ」
「マジかよ・・・作家のくせに、センスのない・・・」
「ねえ、阿笠博士。私達女の子まで、何でここに集められているの?」
「君達は、戦隊に欠くべからざる大切な存在じゃ!どの戦隊でも、必ずチームの中に女の子が入っておる!」
「せやけど、それはテレビや漫画の話や。何でアタシらが・・・」
「蘭くんは儚げに見えてその実大の男が束になって掛かって来ても渡り合える空手の達人。そして遠山和葉くんも虫も殺さぬ顔をしていながら合気道の達人。優作君と服部大阪府警本部長には、是非とも蘭くんと遠山和葉くんを戦隊に入れてくれと、くれぐれも念を押されたんじゃよ。でないと新一くんと平次くんの力が充分に発揮されないからとな」
「そ、そそそ・・・蘭はた、ただの・・・幼馴染で・・・!」
「かかか、和葉が何の関係があんねん!たたたただのうるそうてしょうもない女やのに・・・!」
「平次、悪かったな、うるそうてしょうもない女で?」
「ところで・・・そこの四人はわかるにしても、何で俺と青子がこのメンバーに加えられたんだ?」
「うんそうよね、快斗はただのマジックオタクだし、青子は武道の心得なんかないし」
「・・・いや、既に君らの事は調査済みじゃよ。黒羽快斗くん、君はただの平凡な高校生の振りをしておるが、その実、新一くんに勝るとも劣らぬ身の軽さを持ち、スポーツ万能!何故かスケートだけは不得手らしいがの。そして一見平凡な少女に見える、警視庁捜査二課中森警部の一人娘・中森青子くん、君もなかなかの使い手のようじゃ。何しろ、黒羽くんを叩きのめせる唯一の人間なのじゃからの」
「調査って・・・」
「これでスキャンすると、その人間の身体的・精神的特徴その他がたちどころに判る様になっておるのじゃよ。黒羽くんと中森さんの二人は、気を失っている間に全て調べさせてもらったのじゃ」

 阿笠博士が指差す先には、医療用のCT‐スキャンと見た目が殆ど同じような器械があった。

「調べさせて貰ったって・・・プライバシーの侵害もいいとこじゃねえか!選りすぐられた人間を攫ったってさっき言ってたのは嘘なのか!?せっかくトロピカルランドで青子と休日を過ごしてたのに、ふいにしやがって!俺達は適当に攫われたのかよ!?」
「そ、それは・・・」

快斗の抗議の声に、阿笠博士は言葉を詰まらせ目をそらした。
平次がポンと手を打ってあっけらかんと言う。

「わかったで!確かさっき工藤がそこの毛利の姉ちゃんとトロピカルランドでデートしてた言いよったなあ。阿笠の爺さん、あんた、黒羽達を工藤達とまちごうて攫ったんやろ!」

博士は何も答えず、目が明後日の方を向いていた。どうやら図星らしい。快斗は怒りで身を震わせる。

「おい!間違いで攫われたんなら、もう用はねえだろ!?俺は帰らせて貰うからな」
「・・・どうしても帰るのかの?」
「当たり前だろ!ホラ、青子、行くぞ」
「でも快斗、今空の上だよ?どうやって帰るの?」
「そりゃあ・・・」

次の瞬間、快斗は阿笠博士の言葉を聞いて凍りついた。

「君は白い翼を持っとるからの、空の上から帰る事も可能かも知れんのお。しかしこの探偵戦隊の存在を知られたからには、ただ帰す訳にもいかん。大阪府警本部長殿に報告をしなければの」
「おい、爺さん・・・!あんた何を知ってるんだ?」
「爺さんじゃないと言っておろうが!先ほどのスキャンで君の職業も調べさせてもらっただけじゃよ」
「きったね〜!」
「ねえ快斗、白い翼とか職業とか、何の話なの?」
「あ、あ、あ、青子。ななな何でもねえっ!」
「おい、阿笠博士。わりぃけどよ、俺はパス!そういった『正義の味方』チームになんか入る気はないんでね、他を当たってくれ」
「せやなあ、俺もそんなん興味あらへんで、親父が何言うたか知らへんけど、帰らせてもらうで」

そう新一と平次が言って立ち上がると、思い掛けない所から非難の声が上がった。

「新一!博士の言う事が本当なら、ここで知らん振りして帰るなんてあんまりだよ!世界中の人々の未来が新一の肩にかかってんだよ!」
「蘭!?」
「平次!あんたホンマに推理ドアホウやな。謎解きがなかったら、興味あらへんの?平次のちっぽけな知的好奇心の方が、人類の平和よりも大事なんやな!」
「か、和葉!」

「もう良いよ!新一がやらないって言うんなら!私じゃ大した力にならないかも知れないけど、博士、私に出来る事があったら協力するから」
「せやな、あたしも何が出来るかわからへんけど、協力するで」

新一と平次は、蘭と和葉の言葉に完敗し、白旗を揚げた。

「博士、悪かったよ。確かに、知らん振りは出来ねえな」
「せやな・・・人類が滅びてもうたら、推理どころやあらへんな」
「おお、四人とも、良く決意してくれた。ありがとう」

「ねえ快斗。青子も、この話聞いて知らん振りなんて出来ないよ。快斗も一緒に頑張ろうよ」
「わかったよ、青子がそう言うんなら。俺も及ばずながら力になるぜ、爺さん」
「だだだから、ワシは爺さんではないと・・・!」


「で、俺達六人でその『探偵戦隊ディテクティブ・アイズ』とやらを結成する事は、これで決まったんだな」

新一が深い溜息を吐いて言った。

男三人それぞれに頭を抱え溜息を吐いてうずくまる。
しかし、対照的に女の子三人は楽しそうだった。

「正義の味方かあ、実は私、女の子達の戦隊って小さい頃から憧れだったんだ。戦隊チームって女の子一人だけの事が多いでしょ、何かお飾りみたいで嫌だったのよね」
「蘭ちゃんもなん?あたしも、不甲斐ない男子達より女の子達で正義の味方チーム作るの憧れとったんや」
「あ〜、青子も青子も!『Black Organization』なんか、青子達が一発で捕まえてやるんだからね!」

「初対面のくせに、女ってどうしてすぐに群れられるんだ?」
「せやなあ、信じられへんほど息が合うとるで」
「女心だけは永遠の謎だな・・・」

男三人がそれぞれに相槌を打つ。
この三人も初対面のくせに妙に息が合っていた。



探偵戦隊ディテクティブアイズ第1章(2)に続く





 に続く。