The Romance of Everlasting 〜異聞・白鳥の王子〜



byドミ(原案協力・東海帝皇)



(最終章)大団円



蘭王女を庇うように地に伏せていた新一王子が、目覚めた時。
あれほどに強い風が吹いていたというのに、木の葉一枚、花びら一つ、損ねられる事なく、人々も怪我ひとつありませんでした。


「蘭・・・大丈夫か?」
「はい・・・新一様・・・」
「ホラ、また」
「あ!し、新一・・・」

赤くなって、少し小声で夫を呼ぶ蘭王女の姿が、可愛くて。
新一王子は、ギュッと妻を抱き締めました。


人々が、次々に意識を取り戻して起き上がり。
夢から覚めたような顔をしておりました。


「シャロン!」

有希子王妃は、新一王子と蘭王女、他の皆が無事なのを確認すると。
魔女ベルモットが居た場所で倒れていた女性に駆け寄りました。


「有希子・・・」

有希子王妃に抱き起こされた女性は、魔女ベルモットにそっくりでしたが、ずっと年老いた中年女性の姿をしておりました。

新一王子と蘭王女、そして主だった者達も、そこに集まります。


「シャロン。ベルモットは、消えたわ」
「ええ。だけど私は、最強最悪の災厄を、この世に呼び込んでしまった・・・この罪は、どうやっても贖えるものではないわ・・・」
「シャロン・・・」
「私は、力が欲しかった。その為に、強力な魔物を呼び出そうとした。自分の力を過信していたわ。虚無の獄につながれた、古のあの魔物を、呼び出してしまうなんて・・・」


シャロンは、力なく項垂れていました。


「シャロン。でも、新ちゃんと蘭ちゃんとが運命の出会いを果たして、古の妖精王達すら手こずったあの魔物を滅する事が出来たのも、シャロンがベルモットを呼び出したから、でしょ?」
「でも、それは、結果論。私の罪が軽くなる訳じゃない・・・」

「あ?あなたは、どこかで会った事が・・・」

蘭王女は、シャロンの姿を見て、首を傾げていました。

「ええ。私があのベルモットを呼び出す少し前の事だけれど。まだ幼いあなたから・・・、あなた達二人から、助けられた事があったのよ」

シャロンが、新一と蘭の二人を指差して言ったので、新一も蘭も、目を丸くしました。

「待てよ。オレが小さい頃、母さん達に連れられて、遠い所に行った記憶があるんだが。船と馬車を乗り継いで行ったあそこは、もしかして、毛利王国だったのか?」
「あら、新ちゃん、よく覚えていたわねえ。そう、優作は王位を継いでいたから留守番だったけど、幼いあなたを連れて、毛利王国に表敬訪問した事があったのよ。シャロン、あなたもその時、毛利王国に?」
「私は、力を求めて、世界中を回っていた。ベルモットの存在を知って呼び出してしまったのは、今はもうない、黒羽王国を訪れた時だった。その直前に、毛利王国で、私は・・・森の中で、足元にある崖に気付かず、落ちそうになった所を、まだ小さかったこの子達が、必死に手を掴んで、助けてくれたのよ」

新一と蘭にとっては、本当におぼろな記憶でした。
新一王子は、お付きの者達を引き連れて、森の冒険を行い。
蘭王女は、森に住まう妖精乙女達の所を、訪れていて。
二人とも、本当に偶然、その場所に居合わせたのでした。
二人同時に駆け寄って、同時にシャロンを助けて。幼いけれど、二人いたから、何とかシャロンを支える事が、出来たのです。

「あの時から、あなた達二人は、私にとって、侵すべからざる存在で。けれど、ベルモットにとってあなた達二人は、シルバーブレットとなり得る、抹殺したい存在で。
ベルモットに押し潰されそうになりながらも、ずっと意識のあった私は、ベルモットが私の大切な人達を抹殺しようとするのを、ただ見るしかないのが、苦しくて仕方がなかった。
今回も、あなた達二人に、助けられたわね。ありがとう」
「シャロンさん。本当に感謝の気持ちがあるのなら。生きて下さい」
「分かったわ。エンジェル、あなたがそう言うのなら。私は、生きて罪を償う事にするわ」

シャロンは、微笑みながら、そう言いました。
新一が、蘭の手を取って、目を見詰め、静かに言いました。

「蘭と初めて会ったのは、夢の中じゃなかったんだな。あの時、シャロンさんを一緒に助けた女の子の事、ずっと心の奥底に、引っかかっていた」
「わたしも。新一に夢の中であった時、どこか懐かしくて、初めて会ったような気がしなかったのは、それでだったのね」

二人とも、シャロンが崖の上に這い上がってすぐ、それぞれのお付きの者に呼ばれて、お互いの名を知る事すら、なかったのです。
そして幼い新一が、小五郎王に謁見した時は、まだ幼かった蘭は、その場に居ませんでした。

お互いの記憶にすら残っていなかった、幼い日の出会い。
2人は、その時から、強く惹かれ合っていたのでした。



「おお!あれは!」

蘭王女を火あぶりの刑にする為に積み重ねられた薪を指さして、人々がざわめきました。
歩美が持つ妖精の腕輪の力で、生木になってしまった薪が、見る見る内に芽を吹き、弦を伸ばし、葉が茂り、そして。

白いバラの花を咲かせ始めたのでした。

そして、貼り付け台のてっぺんに、一輪だけ、真紅のバラが咲きました。
新一王子が、赤いバラの花を取って、蘭王女の胸にそれを飾りました。


「うわあ・・・」
「これは一体・・・」

人々がどよめきます。

丘の上一面の植物が、一斉に、花を開いたのですから。


「古の魔族を滅ぼした、新一王子と蘭王女を、全ての植物達が祝福しているのよ」

妖精族の記憶を受け継ぐ青子が、そう言いました。
その時、今度は突然、大きな音が聞こえました。それは、鳥達の羽ばたきの音でした。

「うわあ、今度は何だ!?」

空を覆い尽くすように、鳥達が隊列を作って、飛び交って行きます。
そして、国中の教会の鐘が、一斉に鳴り響き始めました。


「鳥達も、教会の鐘も。古の魔物を打ち砕いた、新一王子と蘭王子妃を、祝福している・・・」


その神秘に、人々は皆、酔いしれました。


新一王子と蘭王女は、寄り添い合い。
人々は微笑んで、若い夫婦を見詰めておりました。



と、そこへ。



「こらこらこら、貴様〜〜〜〜!我が娘に、何をする〜〜〜〜〜〜!!」


血相を変えて騎馬で駆けて来た男がありました。


「え!?お、お父様!?」
「へっ!?蘭の父上か?」
「あら、小五郎君」

蘭・新一・有希子が、それぞれに呟きました。



「ききき、貴様!その手を放せ!蘭はこの、毛利王国国王の娘!貴様などの下賤な者が気安く触れて良い女ではない!」

怒りに身を震わせながら、小五郎王が叫びます。(騎馬の男は、勿論、小五郎王でした)

「下賎だなんて失礼な。新ちゃんは、工藤王国の跡取り王子なのに」

有希子の言葉も、おそらく有希子の姿も、小五郎には全く目にも耳にも入っていない様子です。


「お、お父様、止めて!」

蘭の制止の声も聞き入れず。

「うわあああっ!!」

新一王子は、小五郎王に見事、投げ飛ばされてしまいました。

「新一ぃ!」

蘭王女は、慌てて新一王子のところへ駆け寄ります。

「蘭、そんな男、ほったらかしておけ!」

新一王子を投げ飛ばした後、小五郎王が荒い息をつきながら、そう怒鳴りますと。
小五郎王の肩に、ポンと手を置く者がありました。


「父上・・・」

小五郎王の肩に手を置いたのは、長子の参悟王太子でした。

「さ、参悟!オメー、居たのなら、蘭が男から触られるのを阻止しろよ!」
「あー、父上も一国の王ではありますが、この国ではあくまでよそ者。父上が今手をかけたのは、この工藤王国のナンバー2、新一王太子であらせられます」
「な、何!?」
「ちぇー、やっぱ父上は、蘭姉ちゃんばっかりなんだな」
「そうですよ、贔屓ですよ!そんな事ばかりやってたら、ボク達、ぐれちゃいますからね!」

半目で小五郎王を見上げてブーブー言うのは、末の双子、元太王子と光彦王子です。


「い、いや、決してそういう事ではないぞ!ただ、蘭があの男・・・いや、この国の王子に・・・ひっつかれていたから・・・」
「蘭は、自分から進んでひっついていたし、それに、蘭以外の息子娘が全く目に入ってなかったのは、間違いないですよね、父上?」

いつも温厚な参悟王太子が、珍しく額に青筋を立てて、怒っていました。

「父上、我々は魔女ベルモットに白鳥にされたりして、そりゃあもう、苦労したんですがね」
「あ・・・う・・・俺は牢に入れられていて・・・オメー達にも苦労かけたなあ・・・」
「ボク達の呪いを解いてくれたのは、蘭ですよ。それこそ一心不乱に、呪いを解くためのイラクサの帷子を編み続けてくれたのです。その間、一言も口を利いてはならないという、それは厳しい条件を乗り越えてね」
「え・・・あ・・・その・・・」
「その蘭を支えたのが、この国の王太子、新一王子ですよ。身分を隠していたからどこの馬の骨か分からない娘を、正式にお妃にして、愛しんでくれた彼に、感謝こそすれ、投げ飛ばすとは・・・」
「そ、それは・・・何!?お妃だと!?」
「ベルモットを滅ぼしたのも、新一王子と、蘭の力です」
「お、お妃!?新一王子、貴様・・・あ、あなたは、蘭に手出ししたのか!?」


王子達に次々と責められて、分が悪かった筈の小五郎王でしたが、蘭が妃になったと聞いて、またぞろエキサイトしていました。


少し離れた場所では。
ようやく追いついた英理王妃が、有希子王妃の傍で溜息をついていました。

「もう、どうしよう・・・恥ずかしいから、他人の振りをしてようかしら」
「英理・・・まあ、他は男の子ばかりで、女の子1人なのだから、特別可愛いんでしょうよ」
「有希子・・・ごめんなさいね。あの人がおいたをしてしまって」
「良いのよ、新ちゃんは、これ位でどうこうならないように、ちゃんと鍛えてるんだから。新ちゃんが黙って投げられたのは、蘭ちゃんのお父上だって分かったからなのよ」
「ホントにごめんね・・・」


「お父さん!よくも新一を!覚悟は出来てんでしょうね!?」

新一が受け身を取って無事だと見極めた蘭は、小五郎王に向かって、構えを取ります。
それを見て、その場に居た多くの者が青くなりました。

「ま、待て待て蘭!」

新一王子が慌てて蘭を背後から押さえました。

「止めないで、新一!」
「だから、待てって!腹の子に障る!」

蘭は、ピタッと動きを止めました。
小五郎王は、ムンクの叫びのような表情をして固まり、英理が妙にのんびりと言いました。

「あら、蘭、子供が出来たの?」
「う、うん・・・」
「そう。おめでた続きね」
「えっ!?」
「智明、あなた、もうすぐパパになるわよ」

智明王子は、英理王妃の言葉に、喜びで頬を染めました。

「母上、では、ヒカルは・・・」
「元気に過ごしているわ。この分だと、出産に間に合うように帰ってあげられるようね」
「はい!」

智明王子は、笑顔で大きく頷きました。


「ほおう。我ら兄弟のトップバッターを切って、お前が父親か」
「参悟兄貴。とりあえず俺達は、国元に帰ったらお妃探しだな。特に兄貴は、後継ぎなんだから、早くチョンガーを脱出しないと、不味い事になるんじゃねーか?」
「ああ、重悟、そうだな・・・まあ、最悪の場合は、兄弟誰かの子を養子にするという手もあるが」
「兄上、どうして我らには、女に縁がない設定だったりしちゃうんですかねえ?」
「ミサヲ、それは単に、原作で奥方の設定がされてない所為だと思うぞ・・・」


毛利兄弟の上の王子達は、不毛な会話を繰り広げていました。


「初めまして、小五郎陛下、英理陛下。私は工藤王国の王太子、新一です。色々と事情があり、身元も分からないままに蘭を娶る事になって、申し訳ありません。
ですが、蘭はもう既に、神の御前で誓いを立てた、工藤王国王太子妃です。お許し願えませんか?」
「ふん。許すも許さんもねえだろうが。ここまで勝手に事を進めておいてよ」

新一王子の言葉に、小五郎王は、不承不承といった体で答えました。

「そうねえ。ただ、蘭の花嫁姿を見られなかったのは、残念だったわねえ。ね、あなた?」

英理王妃が、夫に言葉をかけました。

「そうだわ!ねえねえ、新ちゃん、蘭ちゃん、小五郎君と英理の為に、もう1回結婚式をするってのはどう!?」

有希子王妃が、ポンと手を打って言いました。


「け、けど、蘭は今・・・」
「勿論、蘭ちゃんの体に負担をかけるような事は、しないわよ。どうかしら?」

「と言うか。今、この時、この場所が、二人の結婚式に相応しいと思うが、どうですかね?」

そう言ったのは、目暮大司教でした。

「大司教様?」
「全ての花が開き、鳥達がお祝いの隊列を作り、鐘の音が鳴り、二人を祝っている。これこそ、お二人の真の結婚式に相応しい舞台でしょう」
「ですが、新一王子の父君であらせられる優作王が、この場所に居らっしゃいませんが」

すると、まるでその声が聞こえたかのように。


「国王陛下が、お戻りになったぞお〜」
「遠征軍の帰還だ〜」

新たなどよめきが起こりました。
そして、丘の上に、忽然と。国王一行が現れました。


「いや、本来だったら、何日もかかる筈の道のりなのに。急に、目の前に新たな道が開けたかと思うと、この場所に導かれたのだよ」

優作王が、出迎えた有希子王妃を抱き締めながら、首を傾げて言いました。
これも、古の魔が滅ぼされた事による、奇跡のひとつなのでしょうか?


「優作殿」
「おお。小五郎殿、久しぶりですなあ」
「この度は、色々と世話をかけたようで」
「何の。あなた達だけの為、と言う訳ではないし」
「娘を・・・蘭を、どうか頼みます」
「ああ、まあ、どちらかと言えば、新一君の方が世話をかけるかも知れませんがね。とうとう、親戚になりましたなあ。こちらこそ、末永く宜しく、はっはっは」


そして、その場所ですぐに、新一王子と蘭王子の、改めての結婚の儀式が行われました。
磔用の木が、薔薇の垣根のようになってしまったのを、祭壇代わりに。
それぞれの家族と、工藤王国の人々に見守られて。

目暮大司教の立ち合いで、再び、2人は永遠の愛を誓い合いました。


国中の花が咲き乱れ、国中の教会の鐘が鳴り響き、国中の鳥達が隊列を作って空を飛び。
魔を打ち破った若い2人の、改めての婚姻の儀式を、祝っておりました。




 ◇     ◇     ◇     ◇     ◇




「バ快斗〜〜〜っ!!」
「アホ子、何を〜〜〜〜っ!!」

かつての妖精王女青子は、今日もモップを振り回して、夫である魔法使いキッドを追い回し。
キッドは、ひょいひょいと軽い動きで、それを交わしておりました。

「とほほほほ。ぼっちゃま、もとい、殿下・・・一体、いつになったら、まともに黒羽王国再建に真剣に取り組んで下さるのか・・・」

キッドこと、黒羽快斗のお付きの者である寺井は、大いに嘆いておりました。
未来の国王陛下と、王妃陛下となられる筈のお2人は、いつも痴話喧嘩が絶える事がありません。
寺井の心労は、いや増すばかりです。


妖精王国の銀三王は、苦り切っておりました。
妖精王国の門は、2人の為に常に開かれていると、重々しく宣言した筈なのに。

「お父さん、聞いてよ、快斗ったら酷いのよ!」
「・・・青子、今度は何だね?また、『ほうきょうぶら』とやらを、快斗君に消し炭にされたのか?」

快斗と青子が、2人揃って元気な姿を見せてくれる事は殆どなく、派手な夫婦喧嘩の揚句、青子が怒って「里帰り」するという、傍迷惑な状況が多かったのです。

「だって、だって〜!」
「・・・青子。お前は、黒羽王国再建のあかつきには、王妃となって。やがて、国母となる筈なのだぞ。少しは、落ち着きを身につけられんのか?」

銀三王の苦悩は、深くなるばかりでした。

妖精族達は、敬愛すべき王の一人娘と、黒羽快斗の夫婦を、優しく見守っています。

魔によって不毛の地にされた黒羽王国の跡地は、妖精族の力添えで、草木が芽吹き、生き物達も繁殖し、かつての豊かな大地を取り戻しつつありました。
散り散りになった王国の人々も、少しずつ戻って来ています。

やがて、妖精達の陰からの助けを得ながら、黒羽王国は再建されるのですが。
それはまた、後の物語。


   ☆☆☆


「ボクを、養子に、ですか?」

探王子が、目を丸くします。
工藤王国内の半独立国・白馬公国の白馬大公から、毛利兄弟の1人である探王子を、是非、後継ぎとして養子に迎えたいという申し出があったのでした。

お互いに、悪い話ではありません。
何しろ、毛利兄弟は数が多く、それぞれの身の振り方に、国王夫妻は頭を痛めていたのですから。

「白馬大公は、特に、お前の事が気に入ったのだそうだ。亡くなった奥方に、面影が似ているとかで」
「そうですか。ボクでお役に立てるのなら、喜んで」

そして探王子は、一旦帰った故郷から、再び工藤王国へと旅立って行きました。
やがて彼は、麗しい魔法師団長・小泉紅子を妃に迎え、白馬公国を治める大公になりました。


   ☆☆☆


沢木王国では、公平王が殺した前王の王女が、毛利王国で育てられていた事が、臣下や国民達の知るところとなり。
由美王女は、正式に、沢木王国の女王として迎えられる事になりました。

そして、毛利兄弟の1人である任三郎王子が、由美女王のサポートとして、つき従う事になりました。
沢木王国へと向かう船の中で、海を見詰めながら、由美王女改め由美女王は、傍らの任三郎王子に声をかけました。

「いいの?あなたは、美和子の事が好きだったのでしょ?」
「ですが、美和子さんは、ワタル王子と正式に結婚する事が決まりましたし。失恋の痛手を癒す為にも、毛利王国からも工藤王国からも、離れた方が良いと思いまして、姉上のお手伝いを」
「仕方ないわね。私が慰めてあげても、良いわよ」
「いや、それはちょっと・・・遠慮しておきます」
「どういう意味よ!」

何やかや言いながら、2人、仲は悪くなさそうです。

やがて、沢木王国の再建に力を尽くした任三郎王子は、由美女王の夫君として迎え入れられる事になるのです。


   ☆☆☆


同じく、国王を失った風戸王国ですが。
国を統べるべき、正当な後継者が、居りませんでした。
そこで。

「ぼ、僕が、風戸王国の王にですか?」
「毛利兄弟は、数が多いから、是非王子の1人を彼らの王として寄越して欲しいと、依頼があったのだ」

白羽の矢が立ったのは、ワタル王子です。
風戸王国は、新しい王を迎えるにあたり、名を「高木王国」と改められ。
そこには、優しいワタル国王と、美しくりりしい美和子王妃が、国民の歓呼の声の中で、迎えられました。


   ☆☆☆


智明王子は、工藤王国で得た知識やノウハウを元に、毛利王国に念願の施薬院を作りました。
その傍らには、優しく献身的な妻ヒカルと、可愛い子供達がいて、智明王子の仕事を手伝いました。

毛利王国では、この施薬院が後々まで続き、大勢の人を、怪我や病から救ったという事です。


   ☆☆☆


真王子は、鈴木園子の婿として迎えられ、やがて、鈴木カンパニーを継ぐ立場となりました。
カンパニーを切り盛りするのは、園子ですが、真は妻を良く支えました。
鈴木カンパニーは、工藤王国・毛利王国をはじめとする諸国王の信頼を得、大きく栄え、各国の架け橋となったという事です。


   ☆☆☆


元太王子は、工藤王国に留まりました。
後に、歩美を妻とし、2人力を合わせて、フサエ王女の興したキャンベルガーデンを継ぐ事になりました。

光彦王子も、工藤王国に留まり。
薬草菜園管理などの、薬を作る為に必要な作業を、手伝いました。
そして、後に薬師長である志保と結ばれ、2人力を合わせて、工藤王国の施薬院を益々栄えさせました。


   ☆☆☆


木下王国は、骨肉の争いで先代王の息子達は自滅してしまいましたが、平和が戻った後、ビリー王子が国に戻り、再建しました。
そして、キャンベルガーデンをずっと支援し続けました。

キャンベルガーデンは、統治者であるフサエ王女の夫君として、阿笠博士が迎えられました。
残念ながら、年齢的に子供が望める状況ではなかった為、元太王子と歩美とを、後継ぎとして迎え入れました。


   ☆☆☆


毛利王国では、参悟王太子が後継ぎとなり、次男の重悟王子が、その補佐役としての役目を良く果たしました。
ミサヲ王子は、スコーピオン帝国の跡地に出来た国のひとつ、山村公国の大公として迎えられました。

全ての王子達の身の振り方が決まり、国王夫妻は、心の底からホッとしました。


工藤王国では、目暮大司教も、千葉司教も、隠密部隊のブラック・秀一・ジョディも、それぞれに。
役目を全うし、まずまず充実した幸せな生涯を送ったようです。


ベルモットに乗っ取られかけて、世界を危機に陥れたシャロンは、自分自身の罪滅ぼしの為に、様々な所で、陰からのサポートを行って、残りの生涯を過ごしました。


   ☆☆☆


「平次〜〜〜〜っ!!」

工藤王国内半独立国の服部公国では、朝から、公子妃の叫び声が、響き渡っておりました。

「はあ・・・またや・・・」

胃を押えて溜息をつくのは、家宰の大滝です。
平次公子は、家庭を持つ身となった今も、すぐに飛び出して行ってしまうのでした。

「新一王子様が、お后様を娶った途端に、城から離れへんようになったんとは、対照的や・・・」

平次公子は、今日も、王宮の王太子部屋に入り浸っているに違いありません。

「和葉様、堪忍やで。公子殿下があないに育ってしもうたんは、教育係である俺の責任や」

大滝は、涙ながらに和葉妃に言いました。
和葉妃は、苦笑しました。

「大滝はんの所為やあらへん。平次が新一王子ラブラブなんは、今に始まった事やあらへんし。せやけど、今日は嬉しい知らせがある言うんに・・・」


その頃、平次公子が何をしていたかと申しますと。

「なあなあ工藤、子宝に効き目のある方法、知らんか?」

新一王子の部屋で、切羽詰まった様子で、王子に迫っておりました。

「はああ?服部、突然、何を?」
「和葉が、蘭姉ちゃんの事、羨ましそうにしとる。どうやら、子供が欲しい思うとるらしいんや」
「あのなあ。そんなん、授かりもんだろ?大体、オレんとこだって、父さんと母さんが結婚して子供が出来るまで、どれだけかかったと思う?んな方法分かってたら、最初から試してるぜ」
「・・・せやなあ・・・」
「志保だったら、多少の知識はあるだろうから、聞いてみたらどうだ?ま、彼女にだって、分からねえ事も多いだろうと思うけどよ」
「せ、せやな。工藤、おおきに」

平次公子は、薬師長の志保の所に飛んで行きました。
志保は、平次に色々と、「子供を授かる為に良いとされる食べ物」を、持たせました。

けれど、本当はそれは皆、「身籠っている女性の体に良いとされている食べ物」だったのです。
志保は平次公子の悩みがすでに解決している事を知っていましたが、自分の口からそれを告げる訳には行きませんでしたから。

平次公子が、嬉しい知らせを知るのは、もうすぐです。




 ◇     ◇     ◇     ◇     ◇




我らが、新一王子と蘭王女は。

いつまでも、仲睦まじく、子供達にも恵まれ。
後に、賢く優しい王と王妃となって、工藤王国を良く治めたという事です。



それもこれも。

今は昔の、物語。





The Romance of Everlasting 〜異聞・白鳥の王子〜<完>




++++++++++++++++++++++++++++


<後書き>

足かけ4年に及ぶ長期連載となった、このお話。ようやく、ようやく、完結しました。

大筋自体は、最初から決まっていたのですが、細かい詰めとか、多忙とか、色々な事でつまずき。
途中、連載間隔がかなり間遠になり、続きをお待ち下さった方々には、本当に申し訳なく思っています。

その間、名探偵コナン原作でも、色々と進展がありました。
会長と私の関係も、変化しました(笑)。


元々は、アンデルセン童話のヒロイン・エリサ姫が、「兄達の呪いを解く為に口が利けない状態で、強引に王様の妃にされた」設定に萌え、新蘭変換をしようと思い立ったのが始まりでした。
子供のころには気付かなかったのですが、昔話や童話って、かなりその・・・エロいんですよね、設定が。
兄達の呪いを解く為、声が出せない。けれど、お妃となったからには、夜の生活がある。
実はその「声を出せない夜の生活」という設定に妙に萌え、最初は、裏仕様の短編新蘭パラレルで、考えていました。

けれど、遠距離恋愛中(当時)の会長と、色々話している内に、映画も含めてのコナンまじ快キャラ総出演話に膨れ上がり、思いがけない長期に渡る長編と化しました。

ようやくピリオドをつける事が出来て、心の底からホッとしています。


連載開始当初から、あるいは途中からでも、読んで下さった方全てに、心より感謝を申し上げます。
ありがとうございました。


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